【野原HD】BIM設計-生産-施工支援プラットフォーム「BuildApp」を提供開始
野原ホールディングス株式会社は、建設DXを推進するBIM設計-生産-施工支援プラットフォーム「BuildApp(ビルドアップ)」(β版)を2022年1月から開始した。
対象工種は、内装と建具工事からスタートし、2022年7月の「BuildApp」正式版のサービス提供に向けて、実証実験等を進めつつ、「生産性の低さ、低利益構造、建材廃棄、脱炭素化」という建設産業の課題解決を目指す。
これまで同社は建材商社として大きな存在感を示してきたが、今回は建設DXへの本格参入で、新たなステージに入ったと言える。
同社グループの野原産業株式会社が強い内装工事業界は、数量積算、工程進捗、施工力、材料発注に多くの課題を抱えているが、BIMデータの活用により、解決を図る動きが今後高まりそうだ。
一方、ゼネコンもBIMを推進しつつも、内装・建具工事業界への取組みが遅れているのが実情で、この工種に対してもBIMが進展することが期待される。
そこで今回、野原ホールディングス株式会社の山﨑芳治グループCDO、建設DX推進統括部統括部長兼野原産業株式会社取締役、野原産業株式会社の湯浅潔史開発本部戦略企画室室長がそれぞれ、「BuildApp」のサービス提供の概要、内装工事業界の課題等についてそれぞれ語った。
建材商社を再定義し、建設業界をアップデートする
――御社は建材商社のイメージが強かったのですが、今回、建設DXに本格参入された経緯は。
山﨑氏 まず当社について簡単にお話させていただきますと、創業は約420年前で、ホールディングス体制となったのは2017年になります。傘下会社である野原産業では、内装資材の販売のほか、現在は新型コロナウイルス感染症への日本政府による水際対策で入国に制限が出ていますが、ベトナムで技能実習生を目指す若者に対して入国前に内装施工技術や現場での安全を教育する事業も展開しています。ほか、住宅業界向けに資材を販売している野原住環境株式会社、建具や内装の工事を行う野原産業エンジニアリング株式会社、鉄筋の販売・加工・工事を行うノハラスチール株式会社などがあります。
建設業界は何十年もそのやり方を変えずにここまで来てしまい、根本的な問題解決への取り組みも先送りにしてきました。私たち建材関連商社もしかりです。そこで建設業の課題解決に向けて私達自身が変化を遂げ、新しいビジネスモデルへと転換するために建材商社を再定義しなければならない時に来たと考えております。
建設業界の課題は若手の担い手不足、低生産性や低利益率など明確です。国も課題に対してここ4~5年にわたり、本腰を入れて4週8閉所対策、社会保険未加入対策、建設キャリアアップシステム(CCUS)、i-Construction、ICTの前面活用を展開し、動き出しています。
我々としても建設業界の利便性と効率性を革新的に高めていく突破口として、建設業のデジタル化を一層進めることに着目しました。BIMを徹底的に活用し、設計初期の段階から作業を前倒しで進める「フロントローディング」を自ら仕掛けていく、「BuildApp」(β版)のサービス提供を開始しました。
設計積算、施工管理など5つのプロセスを一気通貫
――「BuildApp」はどのようなサービスになるのでしょうか。
山﨑氏 先ほど申し上げた各課題については、「建設プロセスの断絶」が要因にあると着眼しました。BIMで設計しているゼネコンも増えましたが、ゼネコンとサブコンの間で情報が断絶しているため、施工図を作成する際、BIMデータが活用されることなく、一から作図する事例などは最たるものです。
そこで、「BuildApp」は、設計・積算、生産、流通、施工管理と、維持管理の5つのプロセスごとに次工程との連携が容易となるサービスを整備しました。BIMを起点としたデータが、設計から維持管理までの建設プロセス全体と関係者をつなぐことで、設計・施工の手間・手戻りの減少、これまで手動だった作業の自動化、その結果としての建設プロセス全体の生産性向上とコスト削減を目指しています。とりわけゼネコンの場合、積算・見積・業者選定・精算関連業務の約50%の削減を見込んでいます。また現場の廃材削減やCO2削減などにも大きく貢献していくことになります。
「BuildApp」サービスマップ
――対応する工種は。
山﨑氏 まず、内装工事と建具工事から開始します。これは、ゼネコンは躯体、設備、外装等の各工事では、自前で行う考えが強いですが、当社が強みを持つ領域である内装と建具工事業界は、ゼネコン視点では会社が細かく、広く存在するため、デジタル化に着手しづらい業界であるためです。今後、鉄筋等と工種をさらに広げていく予定です。
BuildApp サービス紹介 / YouTube(BuildApp(ビルドアップ))
――いまお話に上がった内装・建具工事業界には、どのようなムダが存在するのでしょうか。
山﨑氏 ゼネコンとしては見積もりや調書作成に時間が掛かり、その上多くが概算計算なので明確なコスト把握が難しく後工程で多くの調整手間を引き起こします。現場の廃材も多く出ているため、産廃費用・環境負荷も膨大であるため、何とか解決したい部分ではあります。
一方、内装工事店としては調書を記入しても手間ばかりが掛かって受注できないケースも多く、また膨大な図面が紙で回ってくるので、印刷しなければならないといった課題もあります。
BIM化が後回しになっている内装・建具工事から対応
ですが、ゼネコンではBIM積算をするにも詳細なBIMデータの作成が大変ですし、内装工事店はそもそもBIMデータを扱える人間がいないこともあります。さらに、建具メーカー・建具工場では、BIMデータが製作機械に繋がっていません。
ですから現状、内装・建具工事業界にBIMをいきなり導入しても課題の解決には繋がらないわけです。だからこそ、当社は建材商社として色々なプレイヤーの間に入って、プロセスの断絶を解決するためのハブとなり、「BuildApp」というサービスを展開することに至りました。
課題が山積する内装・建具工事業界の現実
――もう少し内装・建具工事業界の課題を深堀りしていただけますか?
湯浅氏 まず第一に、ゼネコンが提出した数量調書と実際の数量が大幅に異なる場合が多い点です。本来であれば、数量が異なることが分かった段階で再積算・見積もりが必要なのですが、多忙な現場ではそこに手が付けられずそのまま施工が進んでいき、現場が終盤に差し掛かった段階で工事店から「実際はこれだけの数量だったので、追加の費用をお願いします」とゼネコンに要請することがあります。
ですが、ゼネコンは「そんな話は聞いていない」と断り、追加費用をもらえないケースも多い。そうなると工事店としては材料商社に値引き交渉をすることになります。これでは健全なビジネスとは言えません。図面の変更とともに数量も変更しますから、数量積算も自動化できるようにすべきで、実現すれば工事店も実際に施工した分の費用を確保することができます。
――工程にも課題がありそうですね。
湯浅氏 工程表どおりに現場が進まないことは多々あります。とくに、工事店からは前工程の遅れや図面との差異発生はよくあると伺っています。例えば、3月から現場が開始し、材料も同じ時期に投入すると聞いていても、5月にずれ込むこともあります。工事店はゼネコンの施工図や承認図をもとに施工するのですが、その図面完了が遅れてしまうためです。
ゼネコンとしても多くの工種の図面を作成しなければならない中で、躯体や設備等の前工程の図面作成を優先します。ですから、後工程の内装工事の図面は遅れてしまう。しかし、工期完了時期は決まっているので、内装工事は極めて短い工期で完了させなければならないのです。
ですが、この工程の課題も施工図・承認図の半自動作成により解決できると考えています。
内装・建具工事業界に存在する様々なムダ
――今、建設職人の高齢化により、施工力が低下している話も多いですが。
湯浅氏 いまお話したとおり、内装工事は工期が圧縮されているため、本来1日に10人で対応できた工事が20人いなければ完了しない状況にあります。とはいえ、建設職人の絶対数は限られていますから、人を増やして対応することは簡単なことではありません。
今後、人口全体が減少しているため、建設職人の数は減りこそすれ、増えることを期待することは難しい。また、内装工事業界はイノベーティブな業界ではありません。石膏ボードの施工方法は30年前と変わっていませんから。その一方で、耐震天井という新たに施工の難しい部材も増えており、昔と比べて内装工事の施工の難しさは上がっていると感じます。
――技能の伝承が難しいという声も聞きますね。
湯浅氏 建設職人は技能を囲い込んでしまう傾向にあります。優秀な建設職人であっても属人的なスキルとなり、若い世代に伝承されなければ施工力が一気に低下してしまいます。これまでであれば、材料商社の営業担当者の紹介や工事店同士の建設職人の応援などで乗り切っていましたが、これから建設職人の絶対数が減少していけば、こうした体制も維持しづらくなっていきます。
であるならば、より少ない工数で作業が完結する仕組みを構築しなければ、施工の効率化は実現できません。そのためにも、現場でやる作業をなるべく減らし、プレカット・プレハブ等の工場でやる作業を増やしていかなければなりません。
これまでは積算数量があいまいだと、ぎりぎりまで寸法が決まらなかったのですが、BIMであれば寸法も容易に算出できますし、測定方法もレーザースキャンや360度カメラでより現実に近いところで拾える未来がすぐそばに来ています。これらの技術を組み合わせることにより、現場の廃材も減らせますし、たとえ建設職人が減少したとしても生産性を落とすことのないような世界を「BuildApp」を通して実現できればと考えています。
施工の課題や解決方法について
――「BuildApp」の展開が進んでいけば、ゼネコンや内装工事業界の悩みのかなりの部分を解決できるようになりますね。
湯浅氏 前述したすべての課題での解決提案として、現行策のマンパワーではなく、「BuildApp」で支援していきたいですね。
サブコンもデジタル化対応は必須
――「BuildApp」に対して、建設会社からはどのような反響がありましたか?
山﨑氏 スーパーゼネコンでも内装や建具工事までのBIM化については手が回っていない状態にあるようで、実際いくつかアプローチがきました。ゼネコンは全般的に関心度は高く、詳細説明の要請も多く、立て込んでいる状態ですが、少しずつ実現場での実証実験が始まっています。
一方で、当社が内装工事店様を中心に組織している野原装栄会の会員企業の役員の方々に「BuildApp」のお話をさせていただいた際には、「ぜひ取り組んでいかなければいけない」という反応と「私たちには別世界の話」という反応で二分化されました。
当然のことですが、今までのやり方を変えることに抵抗がある方もいらっしゃいます。ですが、これからゼネコンは、本格的にサブコンにBIM対応を求めていきます。そして、いち早くデジタルを取り入れたサブコンに仕事を指名していくのではと考えております。
そうすると「別世界の話」と捉えてきた工事店も本格的にBIMを取り入れようとしますが、ファーストペンギンの工事店とでは大きな差が生まれてくると思います。ですので、BIMについてはこれから大きな潮目が来るでしょう。
我々はこうした課題を抱えている各プレイヤーのハブとなり建設業界を支援していきます。BIMを起点としたデータでプロセスを繋ぐのはもちろんですが、上記のゼネコン、サブコン、建材メーカー等様々なプレイヤーを繋ぐハブ機能を担い、新しい形のリアルネットワークを形成することが商社としてのこれからの価値だと考えております。