希望通りの職種に就くのは難しい
今この記事を読んでる人の中には、現場に直接関わっている人もいれば、設計業務に携わってる人、構造図面や施工図面を描いてる人、安全業務に就いてる人、あるいは建築の事務的な仕事に就いてる人など、様々な職種の人がいるだろう。
中には、自分の希望とは異なる部署に配属され、腐りそうになっている人もいるかも知れない。また、学校を卒業したばっかりで、全く希望とは違う部署に回され、落ち込んでいる人もいるかも知れない。
だが、考えてみてほしい。自分が希望し、自分が向いていると思っている職種は、本当に自分に向いていることなのだろうか?
自分が希望する職種や部署に配属されて、一度やってみて、『思ったほど面白くないな!』『あまり向いていないようだ!』と思えた人は恵まれているが、多くの人はなかなか希望通りの職種に就くことさえ叶わない。
建築の学校を卒業し、「自分は設計の仕事をするんだ!」と思ってゼネコンや設計事務所に就職しても、いざ入社すると現場に配属され、安全の書類整理をやらされたり、設計事務所でカタログ整理や図面管理をやらされることも少なくない。
希望通りの会社組織の一員になれたとしても、やらされる仕事は自分の思い描いていた世界とは随分違うな…と、仕事をしている人の多くが感じていることではないだろうか。
専門分野はなんとなくで選択していることが多い
特に新卒の場合は、その人の希望より組織内の人の補充が優先で、学校で何を学んできたか?とかはほとんど考慮されないように思う。そもそも、学校で教わったことは実践で役に立つことはないので、どこの部署に回しても皆同じスタートラインに立てると会社は解釈しているのではないだろうか。
これに関しては、私もそう感じている。決して嫌味や意地悪でそう言ってるのではなく、将来自分の家を継ぐとかのよほど確固たる理由で職種を選んでいない限り、学校で選んだ専門分野は、その時の大して根拠のない素人に近い稚拙な知識で判断し、選択した結果に過ぎないからだ。
自分自身のことを振り返っても、専門分野を決める際、私だけでなくほとんどの人間が、それほど確固たる信念を持って設計や施工、設備とわかれていった訳ではないように思う。今は違うかもしれないが、私が学校に通っていた時代は、学校側から専門分野の選択に関し、何一つ詳しい説明を受けた記憶がない。
だが、なんとなくで選択した専門分野が卒業まで続き、就職先を探す際の指標になったりすることに後々気づく。今思えば、それほど大事な選択を、サイコロを転がす程度の軽い気持ちで決めてしまっていいのだろうか?と疑問に感じる。
専門分野を選ぶ際、私はまず設計の仕事をやってみたい!くらいの思いで設計を選択したが、施工や電気機械、設備に比べて、設計が自分には向いているなどの意識や認識は全くなかった。
専門分野を急に選択させるのではなく、学生が自分の進む道を決めるための話を聞けるような講座が学校にあればいいのに!と常々思っている。とは言いつつ、そんな話ができる先生がいるのかどうかも疑問だ。
人生の選択肢を増やしてあげるべき
学校は、専門分野を学生に一方的に選択させるのではなく、まずは全分野に触れさせたうえで、学生自身が興味のあることや就きたい仕事など、自分の進む道を決めるための選択肢を増やしてあげるべきだと思う。
例えば、建築も職種が細分化され、今の世の中にどんな職業があり、それが世間でどう評価され、その業界が先々どうなるのか(具体的な見通しではなく先生個人の意見で十分)など、そんな話を学生が聞ける場があれば、学生の意識もだいぶ変わるのではないだろうか。
それは講義というより単なる世間話の延長で十分で、それがきっかけで仕事としてどれが自分に合っているのかなど考えるようになれば、それで十分だと思う。それ以上を学校側に要求するのは無理なので、それより先は学生一人一人が何を考えて、どう動き、どう勉強するかにその後の人生がかかっている。
一般的に「先生」と呼ばれてる人たちは、理窟だけで、実際の建築現場をあまりに知らなすぎる。それは当人たちが一番良く分かってることだろう。最新の現場の工法や新たな道工具の話をできる人はほとんどいない。
それは運営する学校側にも大きな責任があり、学生に最新の情報を提供し、社会に出た時に本当に役立つ知識を伝えよう!とする教育者としての意識が低いように思う。
実際の現場に同行し、鉄筋がどう組み立てられていくのか?コンクリートがどう打設されて行くのか?など、理屈で色々説明するよりも現場で見てもらったほうが、机の上でする授業よりも学生に与えるインパクトは数十倍大きいハズだ。
建築の勉強をし、おぼろげながら将来はこんな仕事に就こう!と思ってる学生に、教室の中だけではなく、実際に社会に出て現場に行くとこんな感じですよ!と、建築物が実際に出来上がっていく過程を見せ、そこから何かを感じ取ってもらうべきだ。
その感想を教室に戻って話し合い、そこから派生した質問や疑問を現場の管理者や職人に聞けるチャンスがあれば、より肌で感じて頭で考えられる充実した時間を過ごせるはずだ。
人生はいくも選択肢があって、ましてや今建築を学んでいるからと言って、建築の仕事が自分にふさわしいかどうかは誰にも分からない。理窟で上手く説明できなくても、何となくで選んだ道が、その選択が、正しかったということも往々にしてある。
全て本人次第ではあるが、これから建築の仕事をしていこう!と少しでも考えている若者に対して、その道の先を歩いている業界の先輩たちは手を差し伸べることを忘れないでほしい。