nat株式会社が提供するAI測量アプリ「Scanat」

nat株式会社が提供するAI測量アプリ「Scanat」

住宅建築業界にも3Dモデリングの波。iPhone/iPadで手軽にAI測量が可能に

2019年に設立したnat株式会社(本社:東京都港区、代表取締役:劉 栄駿)は、iPhoneやiPadに搭載されている「LiDAR(ライダー)センサー」を活用することで、mm単位での計測や面積計算、3Dモデルを作成できるAI測量アプリ「Scanat(スキャナット)」をリリース。iOSデバイスのカメラを用いて部屋内を撮影するだけで3Dモデル化できることから、従来、多くの人材・時間リソースを割いていた現地調査から図面作成、見積り作成までの前段階の業務の生産性向上が期待されている。

土木やビル・マンションなどの大規模現場においては、3Dモデル化の取組みが進展しているが、住宅・リフォーム工事などの単価の低い現場においても簡易に3Dモデルを導入できるようになった意義は大きい。

今後、住宅業界にも3Dモデリングは浸透するか。nat株式会社 マーケティング部 部長の若狭 僚介さんに、「Scanat」の概要や住宅業界への3Dモデリング導入の課題について話を聞いた。

アナログ作業が残る現地調査

nat株式会社 マーケティング部 部長の若狭 僚介さん

――設立の経緯を教えてください。

若狭さん 弊社は2019年に設立した会社なのですが、この2019年というのはLiDAR(ライダー)センサーが世に流行り始めたタイミングです。LiDARは「Light Detection and Ranging」の略で、対象の物体にレーザー光を照射し、その物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測することで、物体までの距離や方向を測定できる技術を指します。

当時、弊社のメンバーが実際にLiDARセンサーを購入し、どういった業界で活用できるのかを模索している中で、建設現場での現地調査に課題があるということをお伺いしたことをきっかけに、建設業界向けのLiDARセンサーを用いた製品開発を開始しました。

――具体的には、どのような課題が挙がったのでしょうか。

若狭さん リフォーム・リノベーション工事に限らず、建築・住宅内装工事全般に言えることかと思いますが、今、工務店さんはなかなか人材確保が難しい中で、現地調査には最低2人の人員が必要になりますし、作業自体もメジャーを使ったアナログ作業です。また、写真の撮り忘れ、拾い落としなどもどうしても人的ミスも発生してしまうこともあります。とくに、2024年から建設業界への残業規制が始まりますし、現地調査などの前段階に掛かる労務を見直す必要が出てきている時期だと認識しています。

現調から見積りまでのプロセス(資料中の数値は、計測する対象・空間によって異なる)

iOSデバイスを使って即計測、即図面化

――こうした課題に対して、「Scanat」はどのように活用できるのでしょうか。

若狭さん 最近ですと、住宅分野の建設テックでは”施工管理アプリ”の認知が広まってきていると思いますが、弊社のScanatは現地調査から図面作成、見積り作成という営業面の効率化に特化したプロダクトになります。

お客様への提案プロセスは、現地調査をし、図面に起こし、そこから見積もりを作成するという流れになるかと思いますが、3~4LDKのお客様ですと、2人で現地へ行き、半日掛けて写真撮ったり寸法を拾ったりと、現地調査だけでかなりの手間が掛かります。そこからさらにCADオペにの方に頼んで図面を作成するわけで、こうした手間を解決し、提案に費やす時間の確保や顧客満足度の向上のためリリースしたものが、Scanatになります。

LiDARセンサーが標準搭載されているiPhone(12Pro、13Pro)やiPad(iPadPro)で部屋内を歩きながら動画撮影していただくことで、点群データを収集することが可能です。この点群データから当社の技術によって低品質の点群データを除去し、メッシュデータに変換します。このメッシュデータに点群データの収集と同時に撮影された写真データをAIで貼り付けることで、非常に簡便に3Dモデルを作成することができるのがScanatです。さらに、この3Dモデルを平面図化できる図面作成機能も搭載しているため、これにより先述した現地調査から図面作成のフローはかなり効率化することが可能です。

Scanatでの処理のフロー

誤差は1%以下、10秒で3Dモデル化

――アプリで計測すると、精度に問題はないのでしょうか?

若狭さん mm単位での精度の高い計測ができることがScanatの大きな特長でもあります。東京都産業技術センターで行った精度検証では、5000.6mmに対して19.6mmの誤差、つまり1%以下の精度が実証されました。

3Dモデルを作成できるアプリは他にもいくつかあるのですが、mm単位での計測や面積計算ができるのが弊社のScanatのみとなりますし、3Dモデルの作成自体もScanatであれば、WI-FI環境が無くともおよそ10秒で可能です。

点群データに写真を貼り付け、3Dモデリング化

操作自体も簡単で、ご利用企業様の中には60代の方が撮影されている工務店さんもいらっしゃいますし、アルバイトの方でも問題なくご利用いただけます。

Scanatで実際に計測する様子。アプリ上で動画を撮影するだけで計測が完了する。

――とくに土木現場では3Dモデルが進んでいますが、規模の小さな建築現場でもこうした取り組みが進むことには意義がありますね。

若狭さん ええ。住宅建築分野で3Dモデリングが進んでこなかった背景として、利用単価が高額で、住宅建築の現場では採算が合わないことがあります。建築工事でも、大規模修繕工事などではトータルコストで見れば問題ないのですが、Scanatを利用いただいている中小工務店、とくにリフォーム工事などでは最低20万円という価格帯でお仕事をされています。ですので、こうした工務店さんにとっては、ツール料金だけで毎月10数万円となると、それだけで導入が難しくなります。

Scanatは、月額1万円以下と安価でご利用いただける価格設定としております。また、iPadを持っていらっしゃらない工務店さんもいらっしゃるのでデバイスのレンタルも行っています。

――提案量が増え、受注量も増えるなら、経営面でのメリットも大きそうですね。

若狭さん そうですね。そのほかにも、営業さんも3Dモデルに書き込みながらお客様と会話ができるので、お客様のニーズをその場で反映し、提案することができるので、新しいツールを駆使していることで使っていない企業との差別化をアピールできるというお声もいただいています。

――今後は、どのような展開をされていく予定でしょうか?

若狭さん 精度をさらに高めていくということはもちろんですが、今後はtoCにもプロダクトを開放する予定です。お客様ご自身でご自宅を撮影いただいて、工務店さんとともに設計していけるような形を目指しています。

また、施工後には新しい家具などを設置されたいニーズもあるかと思いますので、ECのような形で家具の販売までを取り扱うことができればと考えています。

いずれにせよ、まずは実際に使っていただいて、実感していただければとありがたいですね。

まったく新しい現調ツール「Scanat」

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