土木に興味を持ったきっかけ、国交省を選んだ理由とは
国土交通省大臣官房の技術調査課で働く山﨑晴香さんに取材する機会を得た。山﨑さんは技術系総合職、いわゆるキャリア官僚だ。
これまでの取材経験から、キャリア官僚とその他の公務員系職員との違いは、「能力と言うより、志だ」と考えてきたところだが、今回の取材を通じて、その考えはさらに強いものになった。
名実ともに熱気あふれる職場で語られた山﨑さんの熱い思いを、ここに記す。
田舎暮らしで痛感した土木の大切さ
――土木に興味を持ったきっかけはどのようなものでしたか?
山﨑さん 私は熊本県のとある町で生まれ育ちました。結構な田舎だったので(笑)、自動車がないと生活できないようなところで、私の祖父をはじめ、地域の方々が、高齢になっても自家用車を運転しているのを見て育ちました。もちろん自分自身が不便なのもありますが、祖父の運転もだんだん危なくなっていくのを見て、そんな暮らしをどうにかしたいと思ったのが、まちづくりや土木に興味を持ったきっかけでした。
そんなことを考えて、大阪大学の地球総合工学科という、土木を学べる学科に進みました。
――研究室はなんでしたか?
山﨑さん 大学で学ぶ中で、地域公共交通に興味を持ったので、交通地域計画学領域という研究室に入りました。今後の社会ニーズに対応する交通システムのプランニングや、地域の活力および安全を高めるための都市や交通のデザインといったテーマを扱う研究室でした。
私が研究していたのは、コミュニティバスなどの地域公共交通内でうまれる人々の交流に関するものでした。関西のオールドニュータウンと呼ばれるような地域をフィールドとして、アンケート調査やヒアリングを行ったりしていました。土木に興味を持ったきっかけをそのまま研究していたという感じです。
やっぱり国なのかなあ
――就活はどんな感じでしたか?
山﨑さん 就活に際しては、「人々が安心して暮らせるまちづくり」に関わる仕事がしたいと思っていました。研究を通じて、大学の先生や地域の方々、土木とは全然違う分野の方など、いろいろな方とお話をする中で、「人々が安心して暮らせるまちづくり」をするには、できるだけいろいろな人と関われる仕事がいいなと考えていました。そんな思いを大学の先生などと話しているうちに、「やっぱ国なのかなあ」という考えが強まっていった気がします。
――地元の役所は考えなかったのですか?
山﨑さん 地元も一応受けようとは思ったんですけど、「一点じゃなくて、広い視野を持って働きたい」ということで、見送りました。国土交通省の職員の方から「制度づくりができるのは国だ」みたいなお話を聞いたのも、影響しました。地元の役所だと、制度づくりはできないので。
――民間は考えていなかったのですか?
山﨑さん 民間も考えてはいました。建設コンサルタントとシンクタンクを受けました。
全国転勤って楽しそう
――転勤は大丈夫でしたか?
山﨑さん 大丈夫でした。むしろ、一つの地域でしか働けないより、全国転勤楽しそうじゃん??と思っていました(笑)。私の実家は球磨郡の山あいの盆地にあって、公共交通機関もほぼないので、基本的にその中でしか生活できなくて。いろいろな地域を見てみたいというのも「全国転勤楽しそうじゃん?」という考えに至った一因かもしれません。
――そこからだと、熊本市内に行くのも一苦労ですよね。
山﨑さん そうなんです。そのおかげで、大学生になるまで、映画館で映画を観たことがなかったんです(笑)。大学で大阪に出て、カルチャーショックを受けました(笑)。
なので、田舎の暮らしも好きですが、都会の暮らしも捨てがたいので、どっちも行ける仕事が良いという考えでいました。
――大学の同級生は地元志向が強かったのではないですか?
山﨑さん 地元志向というより、できるだけ転勤はしたくないという人が多かった気がします。私みたいに「全国転勤楽しそう」と言っている人は少なかったですね。
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試験問題は院試の延長みたいな感じ
――公務員対策はどんな感じでしたか?
山﨑さん 試験を受けたのは大学院2年生の4月だったんですけど、試験の勉強を始めたのは、その年の2月か3月くらいからでした。試験問題は院試の延長みたいな感じだったので、民間の就活をしながら、試験対策もできたので、楽勝とは言いませんが、それほど大変ではありませんでした。民間の就活は、結果的に公務員の面接対策の役に立ちました。民間を受けているうちに、自分の仕事に対する考えが整理できました。
――インターンはどこに行ったのですか?
山﨑さん 大学院1年生のときに、大学から、近畿地方整備局のインターンの案内が来ていたので、近畿地方整備局の浪速国道事務所に行きました。大阪湾岸道路の西伸部や淀川左岸線延伸部の工事予定箇所を視察させてもらったのですが、まだなんにもなくて(笑)。でも、「こんな大きい規模の工事がこんな都会でできるんだ!?」と感動したのを覚えています。
面接で趣味について語って、ドン引きされる
――官庁訪問はどんな感じでしたか?
山﨑さん 国交本省一本だったので、他の省庁は行きませんでした。ただ、官庁訪問はクール制なので、けっこう間が空くんです。クール中はずっと滞在する人もいるのですが、私は官庁訪問が終わったら、毎回夜行バスで大阪に帰っていました。研究や塾講師のバイトとかがあったので。われながら、けっこうタフだったなと思います(笑)。
――志望動機はなんと答えたのですか?
山﨑さん 就活を始めたときと変わらず、「人々が安心して暮らせるまちづくり」に関わる仕事がしたいと答えていました。そのためには、様々な関係者を巻き込むことが重要で、国全体の制度づくりから現場での実装まで、幅広いフィールドを持つ「国土交通省なら、それが実現できると思う」って感じですね。道路とか河川とかのこだわりはとくになかったです。
――面接はどうでしたか?
山﨑さん 民間就活でそこそこ練習できていたおかげか、そこまで難はなかったかなと思います。ただ、最終面接でサークル活動について聞かれたとき、ハロー!プロジェクト研究会に所属していたので、ハロプロ愛を語ったら、周りにドン引きされました(笑)。「最終面接でハロプロについて話したヤツがいた」ということで、いまだに同期からいじられます(笑)。
――モー娘。が好きだったのですか?
山﨑さん はい。保育園くらいのいわゆる全盛期からわりとずっと好きです(笑)。
――そもそもモー娘。ってまだやってるんですか?
山﨑さん やってます(笑)。
――失礼しました(笑)。研究会として、どのような活動をしていたのですか?
山﨑さん みんなでコンサートやイベントに参加したり、飲み会でハロプロについて語ったり、「ハロプロ愛」を共有するのが主な活動です。変わったところでいうと、つんく♂さんの歌詞について、考察したり、衣装の変遷について議論する「研究会」も開催したりしました。
――変わってますねえ。
山﨑さん (笑)。面接での思い出でいうと、面接カードで好きな本について聞かれたので、そのとき読んでいた「鉄の骨」を書きました。ただ、この本は官製談合を描いた小説だったので、面接官から「そういうのは本当にはないから」とやんわり諭されました(笑)。
新しくものをつくることの難しさを知る
――入省してからどのようなお仕事をしてきましたか?
山﨑さん 最初の配属先は、中部地方整備局の岐阜国道事務所計画課でした。国道21号岐大バイパスの立体化事業の基本設計や土質調査などを担当していました。地元説明会にも参加したのですが、新しい事業をするときに、地元の方と協調しながら進めていくことの難しさを感じました。
2年目は、同じ中部地整の名古屋港湾空港技術調査事務所調査課に行きました。
――港湾に行ったんですね。
山﨑さん 私が採用された一つ上の年度から総合職技術系の土木職は共通採用になったので、配属先も建設系と港湾系を行ったり来たりするようになっています。
名古屋港湾空港技術調査事務所は現場を持っている事務所ではなくて、地整管内で堤防などを整備する際に、基本設計などを担うような事務所です。私は伊勢湾内にある環境モニタリングポストの維持管理や事務所内の予算管理などを担当していました。
3年目からは、本省の技術調査課で技術系の人事や採用、研修業務などを担当しています。
3年目にして、国交省の魅力を伝える立場になる
――初めての本省勤務はどうですか?
山﨑さん 毎日大変ですが、いろいろな人と出会うことができて、いろんなことを吸収できている気がします。それが楽しいです。
――採用担当として、仕事の魅力をどう伝えていますか?
山﨑さん 現場があることの魅力を伝えるよう心がけています。やはり、現場での実装と制度づくりを行ったり来たりできるのが、国土交通省の魅力だと思っているので。そこのおもしろさを伝えるようにしています。
最近の説明会は、対面で実施するものと、オンラインで実施するもの、どちらも大事にしています。それぞれ対面には対面の、オンラインにはオンラインの良さがあるので。
まあ、どうにかなるのかな
――働きやすさについてはどうですか?
山﨑さん 昔に比べれば良くはなっているという話は聞きます。上司から「早く帰りなよ」とよく言われるので、確かに働きやすくはなっているのかなとは思います。
――それほど残業は多くない?
山﨑さん 人事や採用の時期は、けっこうな量の残業がありましたけど(笑)、早目に帰れる時期もあります。波がある感じですね。
――女性の働きやすさについてはどうですか?
山﨑さん どこでどう生活するのかとか、将来的な不安はあります。ただ、周りの女性職員の方々を見ていると、「まあ、どうにかなるのかな」という感じでいます。
――「出たこと勝負」ということですか?
山﨑さん そうなりますね(笑)。ただ、国土交通省にはいろいろな福利厚生関係の制度があるので、「たぶん大丈夫だろう」とは思っています。
――働きがいを感じるのはどういうときですか?
山﨑さん 今は採用のお仕事もさせていただいているので、国交省の魅力を伝えて、就活生の皆さんに「国土交通省に入りたいと思えました」と言ってもらえるときが一番働きがいを感じます。国交省の魅力を伝えるためには、自分自身もたくさん勉強していかなきゃなと思います。