日本建築仕上学会 女性ネットワークの会(熊野康子主査)は、「第8回講演会」を開催。近年企業での取組みが加速化する「デジタル化・DX」をテーマに、あらゆる人々の生活をより良いものに変革していくためには、具体的にどう取り組んでいけば良いのか、さらには参加者全員で建築分野での労働環境改善や女性活躍との関係性などを検討した。
講演会では、講演会WGリーダーの奥田章子副主査ならびに林樹里委員の総合司会のもと、建設分野のDXの実務を担当する株式会社大林組の浦田明美担当部長がデジタル化やDXに関する解説とその実情や展望を語り、第7回講演会に引き続きビック情報株式会社顧問の山松節男氏が建設DXでの「X」人材や女性活躍について提言した。さらに(一財)建設業基金建設キャリアアップシステム事業本部普及促進部部長の川浪信吾部長が、建設キャリアアップシステム(CCUS)を活用した建設DXの推進について講演した。
最後に「ダイバーシティにつながるデジタル化・DX」をテーマに、パネルディスカッションを開催。デジタル化・DX に関するアンケート結果報告やデジタル化・DXの事例を紹介した。
今後、女性活躍に欠かせない視点がこの「デジタル化・DX」であり、建設業界はどのように変革していくか。「第8回講演会」をもとにリポートする。
「DX本部」の設置でデジタル戦略に本腰の大林組
熊野康子主査(フジタ)の挨拶後、大林組DX本部iPDセンター担当部長の浦田明美氏が「大林グループが目指すDX ~事業基盤強化と変革の実践における生産DX と展望~」をテーマに講演を行った。
大林組では、2022年2月にデジタル戦略に基づく施策を各本部・事業部やグループ会社に展開し、効率的にデジタル変革を推進していくため、「DX本部」を設置、経営戦略に即したデジタル戦略の立案から推進・監理までを担うDX戦略を強化している。
大林グループの考えるDX戦略とは、デジタルの投資による変革の実践にある。最大の特徴は「生産DX」と「全社的DX」を分ける考え方にある。これはグループの根幹をなす「つくること」、すなわち生産部門の変革を最重要と位置付けることを明確にしており、バックオフィスを担う「全社的DX」が支える構造としている。
「生産DX」はBIM(ビルディング インフォメーション モデリング)と企業活動をプロセスとして分析・理解し、そして構築し最適化する活動であるBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の両輪で実現していく。
一方、「全社的DX」は、社内データの統合、システムのスリム化、自動化・省人化およびデジタル人材の育成を4つの柱としている。すべてのDXの安全な運営を担保するために、情報セキュリティの強化が重要であり、あらゆるDXの基礎の部分といえる。
BIMは「生産DX」の必須条件
中期経営計画2022の基本戦略は、2つのステージで構成する。まず1つは、建設事業の基盤の強化だが、その要はBPRによる業務プロセスの変革と生産基盤のBIM化にある。BIMはDXの源である情報構築の基幹技術であり、「生産DX」の必須条件といえる。基盤の強化なくしては、事業の変革は起こせないという考え方だ。この基盤強化を図りつつ、さらなるビジネスチャンスを創出していくなど企業レベルでの変革を実践していくことが2つめのステージだ。
大林グループのデジタル戦略の説明図 / 大林組提供
BPRとは今ある姿を肯定せず、今の痛みを分析することが出発点となる。変化を恐れず柔軟な発想で業務を再構築し、時間をかけてでもアナログ起点の業務フローからデジタルフローつまりBIMによる3D生産体制に切り替え、情報の基盤を強化していくことが近未来でのDX実現への近道と考える。
「生産DX」と「BIM」の戦略
現在での建設工事の業務プロセスの変化も大きい。従前のアナログ基盤では、プロジェクト情報の伝達は、社内および社外関係者も含めて紙媒体が主体であった。こうした情報の一部がCADやPDFと電子化されても、情報相互の関係性はなく整合性が担保されにくい状態であった。
現在の建物情報は川上から川下へBIMデータで伝達し、設計、制作と施工につながる状況となりつつある。業務効率化や品質管理への貢献など個々の目的や部門単位のプロセスのデジタル化により、「デジタライゼーション」を実現している。
とはいえ個々の業務プロセスはデジタル化されているものの、業務システムやデータは、部門や個別の目的に対応していることから、孤立した状況であった。そこで企業活動のプロセスを分析し、プロジェクト関係者が部門によらず、全社レベルで同じデータを使える環境の整備に取り組んでいる。。企画段階から建設、竣工、アフターサービスまでの業務情報を相互に関連付け、一元的に管理するシステムを目指す。同システムとBIMプロジェクトのデータを融合することで、これまで紙や人を介してきて行ってきた業務の多くはシステム上で行うことができるようになり、全社の共通基盤として人、部門、業務やプロセスが連結していく。
具体的には、プロジェクトのBIMモデルからは、構造部材、壁、建具など建物の部品情報が抽出でき、部品情報からデータベースを構築し、共通基盤となるシステムを介して、各部門業務に渡る仕組みとなっている。BIMモデルから抽出したデータは、明細情報として一元管理でき、事業戦略の判断材料にもなる。「生産DX」においては、BIMの有するインフォメーションが全社業務につながることで新たな価値が創出されている。
2024年度末までに3D生産体制の完全移行へ
大林グループとしては2024年度末までに3D生産体制の完全移行を目指す。今後増加を続けるBIM/CIMのデータ類は、データ資産として保存・蓄積する予定だ。
BIM/CIMの発展を通して、建設DXの将来像について最後にまとめた。BIMはプロジェクトごとの単体利用から、今や集合体として建設企業の生産基盤データに変貌しつつある。さらに将来は建物データを標準化し、統合されスマートシティや国が推奨する「ソサエティー5.0」という情報化社会の基盤データとして欠かせない存在感を示すことになる。デジタルによる社会レベルの変革へと拡張していく将来が見え始めている。
変化していくことは容易ではないが、大林組ではデジタルとIoTがあらゆる場面での原動力となりつつあることは間違いないようだ。5年連続で幸福度ランキング世界1位のフィンランドは、仕事にもプライベートにも貪欲で、幸福感に「ゆとり」をあげる人が多いという。「ゆとり」の意味では、建設業界は対極にあるかもしれないが、起こりつつある変革は企業を強靭化するとともに、世代も性別も関係なく、ワークライフバランスの実現や心地よい働き方、ダイバーシティを後押しすることを期待する。
変化を起こせるのは特別な技術者ではなく組織を構成する我々自身であり、今はまさに動き出す時であるとし、最後に大林組DX本部のキャッチコピーである「現在(いま)とあるべき未来をDXでつなぐ」を紹介して講演を終えた。
DXや常識にとらわれない人材が必要
ビック情報 顧問の山松節男氏は、「DX 時代に生きる私たち(建設業のDX) ~例えば、「X」人材・女性活躍~」をテーマに講演。とくに変革・創出を加速する「X」人材の内容に注目が集まった。
今、デジタルの時代が到来しているがゆえに、BIMやDX人材がもてはやされているが、これは一面的に過ぎないと断じた。DX人材としては次の4要素をあげている。
- DX業務
- 課題設定
- 解決策を考える
- 解決策を実行する能力
これに加えて常識にとらわれない柔軟な思考力を持つ人材が必要と強調した。これから、「急増する仕事、置き換わりつつある仕事」と両極になることが想定される。実際にAI・ロボットによる雇用の自動化により、「労働市場の両極化」が進行しており、今後も求められるのは、「主体的、リーダーシップ、柔軟性」などのヒューマンスキル、テクニカルスキル、コンセプチュアルスキル(概念化スキル)と整理した。
そこで真に求められるのは、政治・行政・社会・ビジネス・生活・文化に変革を起こせる「X」人材であり、「自ら学び自ら変化し続けられることで、変革を起こす」力や「ダイバーシティ& インクルージョン(“個”の力を引き出す)」力が求められることを強調した。
求められる「X」人材とはなにか / ビック情報株式会社の山松節男氏講演資料より
行政、企業のデジタル化の遅れは深刻で、理由は企業の競争力停滞が一因とはいえ、日本企業の組織の在り方、日本人特有の文化・風土・国民性によるところも大きい。今後「変革」や「創出」に向けての新たな取組みが期待される。
最後に、「時代を超越して求められる力」を磨くことを意識して欲しいと呼び掛け、女性ネットワークの会へ行動エンジンとして発信・行動(バタフライ効果)を従前に増して行ってほしいと熱いメッセージを寄せて終えた。
CCUSは建設DXと高い親和性
(一財)建設業振興基金 建設キャリアアップシステム事業本部 普及促進部長の川浪信吾氏が登壇した。
CCUSの登録状況は、今や技能者は104万人、事業者は20万社を超え、現場利用は増加傾向にある。あらためてCCUSの全体像を解説すると、技能者の資格、社保加入状況、現場就業履歴などを業界横断的に登録・蓄積し、若い世代にキャリアパスと処遇の見通しを示し、技能と経験に応じ給与を引き上げ、将来にわたって建設業の担い手を確保し、さらには建設産業全体の価格交渉力を向上につなげることにある。労務単価の引上げや社会保険加入の徹底というこれまでの処遇改善の取組みをさらに加速させるのが目的だ。
「建設キャリアアップシステム」の基本的な仕組み / 建設業振興基金の川浪信吾部長の講演資料より
かつて建設技能者の世界は、匠のワザを閉じた世界で研鑽してきた一方、それを「仕組み」としてオープンなシステム化を怠ってきた。「オレの背中を見ろ!」で技能の伝承が困難な今、デジタル化・可視化(DX化)することにより、短期間でシステマティックな技能の習得を可能にする必要に迫られている。そこでCCUSは他産業に類を見ない業界横断的な技能職の評価プラットフォームであるため、DXと親和性が高いと語った。
デジタル化では「出退勤管理」「施工管理」で有効
第二部のパネルディスカッションでは、「デジタル化・DX に関するアンケート結果の報告」があり、運営委員で、クレアールソシオ代表取締役兼ITコーディネーターの宮原悦子氏が報告した。
回答者の合計は104件で性別は、女性が64.4%、男性が35.6%、多くは総合建設業者に所属している。職場のデジタル化による時間短縮した業務のトップは「出退勤管理」(40.4%)、次に「経費精算」(32.7%)、「施工管理」(13.5%)、「物品の購入」(同)と続く。逆に「デジタル化を導入してもあまり手間が変わらない」という問いでは、トップが「特になし」(35.6%)、次に「出退勤管理」(15.4%)、「人事評価」(14.4%)と続く。熊野主査はこの「特になし」がトップになったことについて、「手間が確実に減少していると言えるのではないでしょうか。またデジタル化による在宅勤務のメリットは40%の方が感じていることは大きい」と語った。
デジタルにはアプリの開発と普及が不可欠
また、「Webミーティングなどを使った在宅勤務をする場合に考えられること」という問いには、トップが「通勤の時間がないので時間を有効利用」(58.7%)、次に「通勤の時間がないので体力的に楽」(41.3%)と前向きな意見もあったが、「運動不足になる」(23.1%)とデメリットの意見もあった。
さらに大林組DX本部生産デジタル部課長である市川和美氏は、家事アプリで共働き家庭が使用しやすいアプリの紹介を行い、それにより、家事が効率化できる体験を語った。
男性への質問では、「育児休暇を取得したことがあるか」という問いには8.6%だった。さらには「業務のデジタル化は女性活躍や男性の育児休暇推進に役立つか」という問いには、89.5%が「役立つ」と考えており、業務デジタル化に期待が高まっている。
デジタル化は女性活躍や男性の育児休暇の推進に役立つ / 日本建築仕上学会女性ネットワークの会 第8回講演会資料
「あなたの会社はDXに取組んでいますか」という問いには、「はい」が58.7%であり、取組み内容については、「全社横断のDX推進グループがあり、各部署の困りごとに対応している」「紙書類の撤廃」「書類業務の電子化」「施工管理のアプリ化の導入」「現場遠隔臨場」「現場での課題解決活用」などがあった。
DX化による女性活躍の事例では、「構築中であるが本社に受注発注チームが発足。在宅業務で女性活躍の場が拡大」「在宅ワークが可能になり、業務時間が調整できる幅が広がり、育児や介護中の女性が継続して勤務できるようになった」「採用活動で女性社員と女性就活生だけのWEB懇親会を開催、現場で多忙であったが短時間現場から参加してもらえて好評であった」「女性役員・管理職への登用」などがあった。
熊野主査は、今回の講演会を総括して、「デジタル化のためには各種のアプリの開発とその有効活用を図ることが大切で、CCUSについてもさまざまな企業の努力や利用者に向けての特典が必要であると感じた」と語った。
閉会挨拶は、日本建築仕上学会副会長でもあり日本大学の教授である永井香織氏が行った。
デジタルと幸福は密接な関係
女性ネットワークの会は、SDGsの目標の1つである「ジェンダー平等を実現しよう」を目指し、「男女がともに輝ける社会」の実現に貢献すべく、「発信・行動」している。建設業界でもデジタルとDX化の波が押し寄せているが、労働生産性向上とともにワークライフバランスの実現に役立てることが重要な観点だといえる。
2022年世界幸福度ランキングでは、フィンランドが5年連続トップだったが、その幸福の源泉は「ゆとり」であり、ジェンダー平等で女性が男性と同等に活躍している。残念ながら日本の幸福度は先進各国の中でもかなり低くランキングでは54位だ。
日本に「ゆとり」を生み出し、幸福度を高めていき、女性活躍社会を実現していくためには、「デジタル化・DX」は欠かせないだろう。
創立10年でさまざまな記念行事を予定
女性ネットワークの会は、今年2023年で創立10周年を迎える。記念行事として3月31日には現場見学会(東京・北区)を、その後も記念行事を予定しており、行事の参加を呼び掛けているところだ。
今後の行事の詳細は女性ネットワークの会のホームページで紹介する。