三井ホームコンポーネント株式会社とSMB建材株式会社の両社は、新・木造ハイブリッド工法「M-HR 工法」を開発した。同工法は、SMB 建材の木質二方向ラーメン構造「サミット HR 工法」と三井ホームコンポーネントが得意とする「ツーバイフォー工法」を組み合わせた新ハイブリッド工法。1階部は「サミットHR工法」を用いて大空間が得られ、飲食店などの店舗や駐車場を構成し、2~3階は貸事務所や共同住宅というような階ごとの用途別利用に対応しやすい「ツーバイフォー工法」とすることで用途に適した空間を構成でき、コストバランスがとれた建築提案が可能となるため、さまざまなロードサイド店舗や都心型店舗への導入が見込まれる。
両社は「新・木造ハイブリッド工法」という新カテゴリーを創出し、非住宅建築物の木造化・木質化を促進、更なる CO2 排出量削減や脱炭素社会の実現に貢献することを目指す。
今後、店舗建築などで「M-HR工法」でどのような提案を行っていくかの期待がかかるところだ。今回、三井ホームコンポーネント開発営業本部長補佐(施設系統括)兼営業推進部長の葛西卓氏と同本部施設開発部施設設計グループチーフマネジャーの伊藤博之氏に話を聞いた。
新・木造ハイブリッド工法「M-HR工法」とは?
三井ホームコンポーネント開発営業本部長補佐(施設系統括)兼営業推進部長の葛西卓氏
――新・木造ハイブリッド工法「M-HR工法」をSMB建材と共同で開発された背景からお願いします。
葛西卓氏 ロードサイドの建築物には、1階に駐車場や大規模な空間を使用した3階建ての木造建築物は多くなく、RC造やS造がほとんどです。当社ではスタンダードなツーバイフォー工法を得意としていますが、前述した建物を既存の技術で建築すると、どうしても制約がある間取りとなってしまいます。たとえば1階を駐車場とする際には、二方向開口が求められるケースが多いですが、ツーバイフォー工法は壁工法のため現実的には難しい。ですから、顧客から1階をRC造のような大空間とし、2階を自由な空間設計とするような木造建築のオーダーがあっても断念せざるを得なかったのです。
こうした課題を、SMB建材が開発された木質2方向開口を可能とする「サミットHR工法」とツーバイフォー工法を組み合わせることで、実現を目指しました。
新・木造ハイブリッド工法「M-HR工法」の概要図
――そもそもSMB建材の「サミットHR工法」とはどのような工法なのでしょうか。
伊藤博之氏 SMB建材が展開する木質2方向ラーメン工法です。構造用の集成材かLVL(単板積層材)を柱と梁に用いて、接合部に異形鉄筋を挿入し、現場でエポキシ樹脂を充填・硬化することで剛接合に近い強固な接合部を持つラーメン工法を実現しています。
接合部について詳しく説明すると、木質部材に開けた穴に異形鉄筋(鋼棒)を挿入し、樹脂接着剤を充填することで部材同士を接合する方法「GIR(グルード・イン・ロッド)」を採用し、エポキシ樹脂を注入して接合するため、強固である特長があります。接合がスマートに納まりますし、接合金物も表に出ませんから、仕上げ材との取り合いに優れ、接合部の結露対策にも効果があります。
三井ホームコンポーネント開発営業本部施設開発部施設設計グループチーフマネジャーの伊藤博之氏
また、ラーメン構造ですから斜めや円形など平面計画がしやすいことや、耐震壁を配置する必要がないため自由な間取りに対応でき、変更もしやすいことが特長です。屋根形状もフラット・勾配・方形・円形・ドームなど、様々な型に対応できます。
全国各地に1000棟近い中大規模木構造建築の実績を持ち、大きな物件ですと4階建てのものや延床面積6,000m2程度の建物にも導入しています。これまで校舎、体育館、庁舎など公共施設や商業施設、工場、倉庫などの民間施設にも適用されています。
葛西卓氏 ただし、「サミットHR工法」単体で施工すると、間取りの自由度は高い反面、どうしてもコストが大きくなってしまいます。そこで、1階には大空間を構成する「サミットHR工法」を、2~3階にはツーバイフォー工法を適用することで、間取りの自由度も高めながら、コストを抑えることが可能としたのが、今回開発した「M-HR工法」になります。
ピロティ構造でも耐震性に強み
――施工方法でなにか困難な面はありますか。
伊藤博之氏 ラーメン工法やツーバイフォー工法で各々実績を積んでいますから、施工自体に難しい面はありません。ただし、技術的には下部のラーメン工法と上部のツーバイフォー工法を連結するにあたって、GIR接合を応用した接合方法を検討しました。
1階と2階の接合部(ツーバイフォー最下階である2階柱脚)には高い引き抜き耐力が要求されるため、そこでホールダウンボルトをGIR接合する新たな手法を開発しました。「サミットHR工法」の接合に干渉せず、ホールダウンボルトもスマートに納めることが可能になり、この技術は特許も取得しています。
「サミットHR工法」の上にツーバイフォー工法を単に連結するのではなく、GIR 接合されたボルトとホールダウン金物を緊結する独自技術こそが「M-HR工法」のカギとなる点です。
GIR接合されたボルトとホールダウン金物を緊結する独自技術
――阪神淡路大震災の際には、ピロティ構造の耐震性の低さを指摘されましたが。
伊藤博之氏 たしかに、阪神淡路大震災では上層階で連続する耐震壁が1階でなくなっているピロティ構造のマンションが1階部分で崩壊した例が多くありました。構造の話になりますが、木質の工法を切り替えて、1階は壁のない大空間で、2~3階は小さな部材を組み合わせた壁式工法とし、両者の構成は異なりますが、両工法の水平剛性は近い値となるので立面的な組み合わせの上では有利な性質です。
葛西卓氏 顧客から木造に対するピロティ構造の潜在的な要望は多く、顕在化するためにも木造での耐震性能をアピールすることが必要と考え、木造住宅倒壊解析ソフトウェア「ウォールスタット」により、解析を実施したところ、RC混構造建築物と同等の耐震性を持つことを確認しています。これは熊本地震の震度7での解析ですがそれでも耐えうることも確認しています。
――耐火性については。
伊藤博之氏 燃えしろ設計が適用できるのが「サミットHR工法」のメリットで、準耐火の範囲であればラーメン工法の木質フレームを見せて仕上げることができます。施主・設計者・施工者の木を見せたいという思いに応えつつコストバランスを図れる工法として、「M-HR工法」は最も適合性が高いと自負しています。
日常生活の建物こそ木造化すべし
――「M-HR工法」での実例は。
葛西卓氏 現時点で「M-HR工法」での実用化はまだありませんが、ロードサイド店舗ではさまざまな木造化の実例があります。しかし、まだロードサイド店舗では平屋の木造が多い。これから非住宅の木造木質化の波は、ファミリーレストランなどへの店舗建築にも押し寄せると予想しているので、今後、複層店舗を受注していくためにも「M-HR工法」を本格的に提案していく考えです。
木造店舗の建築事例
――国も改正木材利用促進法を施行し、民間工事にも本格的に木材利用を展開していく意向ですね。
葛西卓氏 私見ですが、国が非住宅の木造化を更に増加させたいと考えるのであれば、身近な建築物の木造化をアピールするべきです。ターゲットとすべきは倉庫です。現在、倉庫全体の木造化は2021年度の実績では18%にとどまっており、この数字は過去3年間大きく変動していません。これには具体的な事例紹介が少なく、発注者・設計者が「倉庫は鉄骨造」という固定概念が強く、木造化のイメージがわきにくいことも普及が広まらない要因の一つだと考えています。
たとえば大量の商品や資材の収容するテント倉庫がありますが、大雪が降ると潰れやすい欠点がありました。そこで当社では、高強度ブレース壁(5倍相当)を採用し高い耐震性、耐久性を実現する基本ユニット20m×15mの「スマート倉庫®」を開発し、木造化出来ることを証明致しました。その結果、木造での大スパン化を実現し、鉄骨よりも減価償却の早い木造倉庫を多数手がけることに成功致しました。今では1,000m2の大スパン倉庫だけではなく、倉庫を応用した「店舗施設等の木造化」も全国に展開しております。
私は、日常生活に係る建物こそ木造化していくことが重要であると思います。大スパンの倉庫等非住宅も木造化できることが発注者や設計者に正確に伝われば、他の非住宅建築の木造化にも普及していくと考えます。
倉庫の木造化にも先駆けて展開
――こうした非住宅建築の木造化はいつ頃から開始されましたか?
葛西卓氏 弊社は2013年4月に施設開発部を設置し、非住宅の木造化に取り組んで参りました。今年で10年目を迎えています。先ほど「倉庫の木造化」の話をしましたが、設立当初は倉庫を木造化での提案をしたのは弊社だけでしたので、木造での競合はありませんでした。また、当時はゼネコンや設計者とアライアンスを組もうとしても、「ウチは木造はやりません」と断られるケースが多く、現在のようにビルを木造建設する流れに動くことは想像していませんでした。これからさらに10年後は想像もつかない木造化が進展していくと思います。
事務所での木造化も展開
いま振り返れば、業界内でも先進的な取組みだったと思いますが、他者に先がけて着手したことで業界の中で知名度も向上し、優先的に仕事も受注できたと思います。今後の市況を考えると、常に技術でも市場でも先行していくべきですから、今後も新しい工法や商圏を常に模索していければと思います。