ピロティ構造でも耐震性に強み
――施工方法でなにか困難な面はありますか。
伊藤博之氏 ラーメン工法やツーバイフォー工法で各々実績を積んでいますから、施工自体に難しい面はありません。ただし、技術的には下部のラーメン工法と上部のツーバイフォー工法を連結するにあたって、GIR接合を応用した接合方法を検討しました。
1階と2階の接合部(ツーバイフォー最下階である2階柱脚)には高い引き抜き耐力が要求されるため、そこでホールダウンボルトをGIR接合する新たな手法を開発しました。「サミットHR工法」の接合に干渉せず、ホールダウンボルトもスマートに納めることが可能になり、この技術は特許も取得しています。
「サミットHR工法」の上にツーバイフォー工法を単に連結するのではなく、GIR 接合されたボルトとホールダウン金物を緊結する独自技術こそが「M-HR工法」のカギとなる点です。

GIR接合されたボルトとホールダウン金物を緊結する独自技術
――阪神淡路大震災の際には、ピロティ構造の耐震性の低さを指摘されましたが。
伊藤博之氏 たしかに、阪神淡路大震災では上層階で連続する耐震壁が1階でなくなっているピロティ構造のマンションが1階部分で崩壊した例が多くありました。構造の話になりますが、木質の工法を切り替えて、1階は壁のない大空間で、2~3階は小さな部材を組み合わせた壁式工法とし、両者の構成は異なりますが、両工法の水平剛性は近い値となるので立面的な組み合わせの上では有利な性質です。
葛西卓氏 顧客から木造に対するピロティ構造の潜在的な要望は多く、顕在化するためにも木造での耐震性能をアピールすることが必要と考え、木造住宅倒壊解析ソフトウェア「ウォールスタット」により、解析を実施したところ、RC混構造建築物と同等の耐震性を持つことを確認しています。これは熊本地震の震度7での解析ですがそれでも耐えうることも確認しています。
――耐火性については。
伊藤博之氏 燃えしろ設計が適用できるのが「サミットHR工法」のメリットで、準耐火の範囲であればラーメン工法の木質フレームを見せて仕上げることができます。施主・設計者・施工者の木を見せたいという思いに応えつつコストバランスを図れる工法として、「M-HR工法」は最も適合性が高いと自負しています。
日常生活の建物こそ木造化すべし
――「M-HR工法」での実例は。
葛西卓氏 現時点で「M-HR工法」での実用化はまだありませんが、ロードサイド店舗ではさまざまな木造化の実例があります。しかし、まだロードサイド店舗では平屋の木造が多い。これから非住宅の木造木質化の波は、ファミリーレストランなどへの店舗建築にも押し寄せると予想しているので、今後、複層店舗を受注していくためにも「M-HR工法」を本格的に提案していく考えです。

木造店舗の建築事例
――国も改正木材利用促進法を施行し、民間工事にも本格的に木材利用を展開していく意向ですね。
葛西卓氏 私見ですが、国が非住宅の木造化を更に増加させたいと考えるのであれば、身近な建築物の木造化をアピールするべきです。ターゲットとすべきは倉庫です。現在、倉庫全体の木造化は2021年度の実績では18%にとどまっており、この数字は過去3年間大きく変動していません。これには具体的な事例紹介が少なく、発注者・設計者が「倉庫は鉄骨造」という固定概念が強く、木造化のイメージがわきにくいことも普及が広まらない要因の一つだと考えています。
たとえば大量の商品や資材の収容するテント倉庫がありますが、大雪が降ると潰れやすい欠点がありました。そこで当社では、高強度ブレース壁(5倍相当)を採用し高い耐震性、耐久性を実現する基本ユニット20m×15mの「スマート倉庫®」を開発し、木造化出来ることを証明致しました。その結果、木造での大スパン化を実現し、鉄骨よりも減価償却の早い木造倉庫を多数手がけることに成功致しました。今では1,000m2の大スパン倉庫だけではなく、倉庫を応用した「店舗施設等の木造化」も全国に展開しております。
私は、日常生活に係る建物こそ木造化していくことが重要であると思います。大スパンの倉庫等非住宅も木造化できることが発注者や設計者に正確に伝われば、他の非住宅建築の木造化にも普及していくと考えます。

倉庫の木造化にも先駆けて展開
――こうした非住宅建築の木造化はいつ頃から開始されましたか?
葛西卓氏 弊社は2013年4月に施設開発部を設置し、非住宅の木造化に取り組んで参りました。今年で10年目を迎えています。先ほど「倉庫の木造化」の話をしましたが、設立当初は倉庫を木造化での提案をしたのは弊社だけでしたので、木造での競合はありませんでした。また、当時はゼネコンや設計者とアライアンスを組もうとしても、「ウチは木造はやりません」と断られるケースが多く、現在のようにビルを木造建設する流れに動くことは想像していませんでした。これからさらに10年後は想像もつかない木造化が進展していくと思います。

事務所での木造化も展開
いま振り返れば、業界内でも先進的な取組みだったと思いますが、他者に先がけて着手したことで業界の中で知名度も向上し、優先的に仕事も受注できたと思います。今後の市況を考えると、常に技術でも市場でも先行していくべきですから、今後も新しい工法や商圏を常に模索していければと思います。
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