非住宅木造建築が最近、増加の傾向を見せている。具体例では木造と鉄骨などのハイブリッド構造による高層建築が注目を集めている。「改正木材利用促進法」が施行されたことにより、一部の高い意識を持つ地方自治体では、木材調達や設計・施工も自分の地域で行う、いわゆる「地域循環経済」の視点による地域行政に本腰を入れるところも増えてきた。2017年5月には「地域の人が使う施設を、地域の人と材と工夫で建てる」の趣旨のもと、「一般社団法人木造施設協議会」が設立。「工務店の仕事を増やすこと」をテーマに活動を続け、今年で5年目を迎えた。
「これから新築戸建住宅は減少傾向が続くことが余儀なくされる一方、非住宅木造建築に活路を見い出せる」と、同協議会代表理事の相羽 健太郎氏(相羽建設株式会社代表取締役)は指摘する。公民連携セミナーを積極的に実施するなど、活動の幅も拡大している。
これからの工務店業界はどこに着目すべきか、非住宅木造建築に取り組む上での課題は何か。相羽代表理事に話を聞いた。
「地域の人が使う施設を、地域の人と材と工夫で建てる」
――(一社)木造施設協議会はどのような組織でしょうか。
相羽 健太郎氏(以下、相羽代表) 木造施設協議会は2017年5月に、「地域の人が使う施設を、地域の人と材と工夫で建てる」という趣旨のもと設立しました。もともとは屋根で集めた太陽熱を床下に送るOMソーラーを扱う「OMソーラー協会」(現・OMソーラー株式会社)内で、会員企業が手掛けた非住宅木造建築にOMソーラーを搭載する事例があったことから、今後は非住宅木造建築が増加すると考え、約10社の会員工務店の有志が集まったことが設立のきっかけですが、OMソーラー協会の会員以外の工務店からもお声掛けをいただくことも多かったため、今のようなかたちで組織化することになりました。
会員は地域工務店が8割で、残り2割は規模の大きな地域ゼネコンや一般建築部門を保有する建設会社から構成されます。また、設計事務所にも約110社に登録いただいています。非住宅木造建築は、戸建住宅と異なり、工務店単体での設計・施工は厳しい面もあるので、この点は木造施設協議会の大きな特長だと考えています。もともと「OM研究所」や「OMソーラー協会」の設立に、東京藝術大学名誉教授(当時)で建築家の奥村昭雄氏が深く関わっており、かねてより工務店が設計事務所と連携することが文化として根付いていたこともあって、多くの設計事務所に登録いただいています。登録されている設計事務所は、意匠系が7~8割、ほか環境設計、設備設計、構造設計などです。
小資本でも連携すれば新たなビジネスに挑戦できる
――協議会ではどのような活動をされているんですか?
相羽代表 最近では、非住宅木造建築関連の組織体の設立が目立ちますが、その多くは技術系です。一方で、私たち木造施設協議会は「工務店の仕事を増やす」という営業面をテーマに掲げています。これから戸建住宅の仕事の減少が予測される中で、非住宅木造建築にも営業領域を拡大することで仕事を確保することが活動の目的となります。
ですから、協議会の活動内容も会員同士での営業の実践報告にはじまり、展示会や銀行主催のビジネスマッチングへの出展など、仕事をつくる上でのシナジー効果を創出することを目指しています。最近では、大手ゼネコンなどの大資本の会社が資本を集約し事業範囲を拡大していますが、我々のような工務店に同様のことはできませんから、地域で小資本が連携してできることを増やしていくことが望ましいかたちだと考えています。
そのためには、アライアンス(企業・組織の連携)が重要になります。たとえば、自社で非住宅木造建築の構造設計や設備設計を抱えることは地域工務店ではほとんど不可能ですが、我々の協議会には設計事務所が登録しているため、工務店から設計業務に関する声がけも容易です。小資本会社も連携すれば、多様な事業に参入できることが協議会の強みと言えます。さらに会員同士でノウハウを共有すれば、それを各社が参考にし取り入れることにより、ビジネスの拡大も見込めます。
非住宅木造建築のターゲットは500m2規模
――協議会での活動を通して、非住宅木造建築も増えていくと肌で感じていると思います。
相羽代表 はい。その中でも、我々がターゲットとしている非住宅木造建築の規模はおよそ500m2の建物となります。二階建てや低層住宅の規模ですね。その理由は、工務店が住宅建築の延長線で施工できるからです。ゼネコンの中には木造を含んだ高層のハイブリッド建築を施工している試みも増えてきていますが、工務店には施工のハードルが高い領域です。また、500m2前後の建築物の使用者は地域の方々が中心となるため、協議会が掲げる「地域の人が使う施設を、地域の人と材と工夫で建てる」という趣旨にも沿います。こうした地域循環経済の構築に向けた考え方は、地方行政の方々にも共感していただいています。
――確かに「公民連携リレーセミナー」を開催するなど、行政との連携にも積極的ですね。
相羽代表 そうですね。ですが、行政によって温度差があることも否めません。日々の業務に忙殺され、そこまで手が回らない地方自治体もあれば、そもそも「木材利用促進」を積極的に掲げていない地方自治体もあります。鉄骨造やRC造は標準積算も整備されており、前例も多く分かりやすいですが、木造はそう簡単ではありませんからね。この点については、「木材利用促進」に熱い思いを持って大胆な舵を切る行政マンがいたり、首長が木造建築に理解が深いと進むケースが多いと感じています。
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非住宅木造建築ができる現場監督が圧倒的に足りない
――そのほかに、木材利用を促進していく上での課題は感じていますか?
相羽代表 現場監督の確保の問題でしょうね。ゼネコンでも非住宅木造になかなか着手できないのは、現場監督や現場所長の確保が困難であることが一番大きいと考えています。特に、先ほど施工ターゲットとして挙げた500~1000m2規模の非住宅木造建築を専門で行っている現場監督はほとんどいません。しかも、非住宅木造建築は戸建住宅と異なり、現場監督の手腕によって利益が大きく左右されます。現状、大工や職人の確保・育成よりも難しいと感じています。
先ほど、行政との連携についてお話しましたが、たとえ国や地方自治体が木造建築の促進を図ったとしても、そもそも現場監督が足りなければ、できる現場は限られるわけです。行政もこの課題についてしっかりと受け止めていただき、手立てや補助金の付与といった支援をお願いしたいと考えています。
――非住宅木造建築を担当できる現場監督が少ない中で、現在はどのような人が現場を管理しているのでしょうか?
相羽代表 当社のケースではありますが、前職でゼネコンの施工監理を担当し、当社で10年来住宅工事を手掛けた現場監督に、双方の知見を活かして非住宅木造の施工監理を担当してもらっています。若い現場監督を手元(サポート)につけながら、後進の育成も同時に進めているところです。
価値観が共有できる事業者とどう出会うか
――人のほかに「地域の材の活用」という観点で難しさを感じることはありますか?
相羽代表 住宅については、7~8割は多摩産材を活用しており、非住宅木造建築については同様に多摩産材を推奨しています。とはいえ、特に非住宅木造建築も事業者や設計者の考え方に大きく左右されます。私たちが無垢の汎用材を使っていただきたくても、大断面を使わざるを得ないなどさまざまなケースがありますから、地域材の使用が難しい場合はケースバイケースで考えています。
当社が施工した物件に、大学セミナーハウス「Dining Hall やまゆり」という文教施設があるのですが、その施設の理事長に「地域の大学は地域材を使わないのはおかしいのでは」と話したところ、理事長からは「それはとても大切な考え方だ」との言葉と賜り、その場で即決していただきました。
自分たちが木造建築を手掛けていく上での大きな納得感を得られたことを覚えています。非住宅木造建築を推進していくには、何よりも価値観が共有できる事業者とどう出会うかがとても大切ではないでしょうか。
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小資本でも〜のくだりですが、執筆者の利益集約への誘導としか思えません。結局大資本は有り余る研究開発費で新工法や新たな切り口を模索しているのに、この記事は小資本が集まって大資本に敵うまでの集合体になった後のビジョンが記されてないので。その他もあまり具体性がありませんね