「測量士が殲滅される!」元・トータルステーション設置最速王がうなされる夢

「測量士は全員殲滅!」元・トータルステーション設置最速王がうなされる悪夢とは?

トータルステーション設置最速王争奪戦のプロローグ

土木技術者なら、測量や施工管理において、セオドライトやトータルステーションは必須のアイテムだと思います。俗称をトラ(トランシットの略)と呼びますが、要するに、水平角度と鉛直角度を測定できる経緯儀のことです。このへんの説明は、みなさんには「釈迦に説法」でしょうから省略しましょう。

私が土木施工管理技士になった頃に使用していたトランシットは、「バーニア」でどんなに頑張っても精度を±10にするのが関の山でした。それから時が経ち、拡大鏡付のマイクロメーターが接眼部に装備され、精度±5と誤差がかなり減ったのは約30年前だったでしょうか。その機器を私は「セオドライト」と呼んでいました(呼び名は地域や時代によって異なるかもしれません)。

その後、レーザーの反射を利用して二点間の距離を測定可能にした光波測距儀とセオドライトを組み合わせた測量機器が登場しました。これがトータルステーションです。

全デジタル化され、その本体にマイクロコンピュータを搭載してWindowsで制御したり、スマートデバイスで本体を制御したりできるようになりました。レーザー反射するためのプリズム型ミラーの自動追尾、ブロードバンドに接続して使用する計算データや計測結果の集計を事務所のPCに配信するに至り、様々な意味でも現場のトータルステーションと言える頼りになる存在になりました。


トータルステーション設置最速王争奪戦の話

昔、まだノンプリズム型トータルステーションが珍しかった時代のことです。

全国安全週間が終わった後の慰安会で、良い具合に酔いも回ってきた頃、誰がどこから持ち込んだのか、ノンプリズム型トータルステーションの周囲に人だかりができていきました。みんなで自動追尾やミラーなしの測定がどの程度の性能なのか、面白半分で試しているわけです。

そうこうするうちに、酔いも手伝って、誰が発案するともなく「トータルステーション設置最速王争奪戦」が開催される運びとなりました。もちろん、勝負ごとをするからには、何かを賭けたくなるのが心情というもので、どうしたことか、勝者が飯をおごることになりました。普通逆だと思うのですがね。

で、名だたるトータルステーションづかいの猛者たちが集う中、私もその新型機器に大変興味があったので参加することにしました。

初心者は下げ振りでおよその求心をして、三脚の調整と水平微調整のねじや求心の微調整を行います。これでは少なくとも2~3分は必要なので、とても最速王にはなれません。

酔っぱらいたちは三者三様、私に向かって最速設置法の指南を始めましたが、どの方法も再微調整の無駄が多く、今ひとつ御名答がないというのが、正直な気持ちでした。


トータルステーション設置「最速王」の称号は今

ルールは、三脚を測点鋲付近に少しでも降ろした瞬間にスタートで、それまでどんな調整をしても構いません。この「トータルステーション設置最速王争奪戦」ではアスファルトの上という好条件でしたが、私は最速で17秒というダントツの優勝記録を叩き出しました。

設置する場所が水平に近い舗装道路などの条件が良い場所では、できるだけ置いた時点でほぼ設置完了になるように立てることを心懸けていれば、普段の設置時間も相当短縮できるようになります。

先ず求心鏡の確認に2秒でほぼ予想通りの位置、円形水準器はもうすでにほぼ水準が取れていて、つまり三脚の調整はもう済んでいるのでゼロ秒、2本の直形水準器を同時に見ながら水平微調整ねじは3本同時で5秒、最速を確信したので余裕で求心微調整に10秒使って設置完了です。まだ2~3秒は時間短縮可能でした。

しかし、最近のトータルステーションはレーザーで求心までやってくれて自動整準する優れ物が登場して、昔のわれわれ測量技術者の仕事がまた一つどこかへ持って行かれました。

新人育成で先ず教える外業の基礎は、レベルブックの記帳法とトランシット等の素早い整準法と勝手に思っていましたが、誰もが電子手帳入りのスマートホンを持ち歩き、30秒程で自動整準するトータルステーションが現れたのでは、研修方法も変えざるを得ない時期が訪れています。生き残るために使える物は使えばいいが、訓練を重ねる選択肢まで奪われたという感慨深いものがあります。

将来はわれわれ測量技術者の天敵と思われる人工衛星によるGPSや地上型3Dレーザースキャナーの発展により、測距儀すら必要なくなるような人員削減の波がすぐに来るのかもしれません。いや、もう来ています。

次はAI制御、完全自律型のターミネーターのようなドローンによる測量も構想されていて、測量士たちが上空から全員殲滅される夢を見ることもあります。プレデター的な恐怖を感じて目を覚まします。

これも時代の流れでしょう。

思い出話よりも忘却こそが、より良い前進を生むのかもしれません。

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