髙松建設株式会社の髙松孝年代表取締役社長

髙松建設株式会社の髙松孝年代表取締役社長

【髙松建設】「古来の技術と新たな発想を融合する」世界最古の企業”金剛組”再生でベスト・プロデュース賞を受賞

髙松建設株式会社と神社仏閣建築を行う株式会社金剛組は、一般社団法人日本生活文化推進協議会(JLCA)が主催する「2022年度第9回ベスト・プロデュース賞」を受賞。その再生手法が今一度脚光を浴びている。

髙松建設は2005年に経営悪化により倒産の危機にあった金剛組を支援、世界最古の企業を存続させた。一方、金剛組は匠・技で国宝や重要文化財建造物の修復・復元に携わり、日本文化の維持に貢献していることが評価され、今回の表彰につながった。

金剛組の再生について、「新しいソフトの発想と古来の技術を融合することが大切」と語る髙松建設株式会社の髙松孝年代表取締役社長に再生の秘話を聞いた。

髙松孝育社長(当時)「金剛組を潰したら大阪の恥や」

――金剛組は西暦578年、聖徳太子が四天王寺建立のために百済から招いた工匠によって創業した世界最古の企業で知られています。以降、1400年以上の間、四天王寺や全国の社寺を護りながら技術を発達・伝承させ、現在に至るわけですが、2005年に経営危機に陥った際、同じ大阪の髙松建設が救済した背景には、どのような事情があったのでしょうか。

髙松 孝年氏(以下、髙松社長) 髙松建設としては、金剛組とは元々関わりがありませんでしたが、金融機関の仲介のもと、髙松建設のグループ会社として再建することになりました。当時の髙松孝育社長が「金剛組を潰したら大阪の恥や」と役員会で話したことが逸話として残っていますが、買収によるシナジー効果よりも、歴史ある金剛組を潰してはならない、後世に宮大工の技を残したいという思いだったと思います。

また、髙松建設は「堅実経営」をモットーに、創業以来100年以上黒字経営を続けてきたことで、バブル崩壊後もキャッシュに余裕があったことも、大手ゼネコンではなく当社に白羽の矢が立った理由だと思います。

――そもそもなぜ、金剛組は経営危機に陥ったのでしょうか。

髙松社長 不慣れな一般建築に参入し、採算の取れない赤字工事を受注し続けていたことが大きな理由です。当時の金剛組は拡大路線を走り、コンクリート建築も手掛けていたのですが、ゼネコンとの価格競争の中で、不採算工事を多く請けていったことで業績が悪化していました。

――当時、どのような再建手法を施したのでしょう。

髙松社長 一つは、いま申し上げたとおり、ポートフォリオを組みなおし、不採算工事を請けないようにすること。本業回帰し、一般建築の受注を中止して得意とする神社仏閣・歴史文化の建築に特化しつつ、併せてコスト管理を徹底していきました。

また、一般に企業再建にはリストラを伴いますが、人材が流出すると失うものは極めて大きい。金剛組の宮大工は社員ではないのですが、ほとんど仕事がないときにも、「金剛組についていく」と言ってくださった宮大工がたくさんおられました。こうした方々に感謝しつつ、人を守っていくことが技の継承にも繋がっていくと考えています。

とはいえ、利益率が健全化しても、神社仏閣建築は縮小傾向にあるマーケットで、二極化も進んでいます。大型の神社仏閣では大手ゼネコンが受注し、競合するケースも多いですし、有名な社寺は昔からのお抱えの宮大工もいるため、難しい業界だと感じています。

金剛組施工の満行寺本堂新築工事

独自性を尊重した再生手法でグループにシナジー

――当時は、金剛組以外にもM&Aを積極果敢に展開されましたね。

髙松社長 最近でこそ、建設業界内でもTOB(株式公開買付)による買収も行われていますが、当時の髙松建設によるM&Aは、金剛組と同様にほとんど”救済”の側面が大きい。その中でも、最大のM&Aは青木建設でした。最大で4800億円の売上高を誇った青木建設でしたが、2001年に東京地裁に民事再生法適用の申請を行い、事実上倒産した際に株式を引き受けました。

前年の2000年にはコマツの関連会社である小松建設工業(のちにあすなろ建設に改称)をM&Aしており、2004年には両社を合併させ、青木あすなろ建設として再生することになります。

グループ会社の本社機能になる髙松コンストラクショングループ 東京本社ビル(施工は青木あすなろ建設・髙松建設JV)

その後も、海洋土木のみらい建設工業や法面工事・耐火工事の東興ジオテックなどを傘下に抱えていくことになりましたが、建設業は裾野が極めて広く大きな会社が倒産すると、取引先も含めて社会的影響も莫大となる為、M&Aによって再生したほうが建設業界にとっても、日本経済にとってもよいと考えていますし、結果的にはそれぞれの事業領域で専門性を発揮しながら、互いに独自性を尊重しつつ、グループ内で大きなシナジーを生み出しています。

今、建設業界は転換期に差し掛かっています。こういう時代こそ、髙松グループは足元固めが重要と考え、強い経営基盤に基づき、高収益体質としていかなければなりません。そのためにも、まずは髙松建設がグループのエンジン役となり、グループ各社に模範を示し、リーダーとしての役割を果たしていかなければならないとも考えています。

聖徳太子と金剛組の歴史的つながり

――話は戻りますが、昨年には(一社)日本生活文化推進協議会(JLCA)が主催する「2022年度 第9回ベスト・プロデュース賞」を受賞しました。どのような経緯から受賞に至ったのでしょうか。

髙松社長 2021年は、聖徳太子1400年御聖忌という節目の年でした。聖徳太子は仏法を深く学び、朝廷では推古天皇を補佐する摂政をつとめ、冠位十二階や十七条憲法などの法制度を整え、日本の国づくりに邁進された方です。日本には聖徳太子を敬う「太子信仰」が発展し、全国津々浦々に「太子像」が祀られています。

一方で、聖徳太子は差し金(曲尺)を日本に広めたことなどから「大工の神様」としても祀られています。金剛組も、聖徳太子から四天王寺建立の命を受けて百済から日本へと渡って来た3人の工匠の一人である金剛重光を初代として創建されました。

毎年1月11日に金剛組は、四天王寺様の金堂で大工職の仕事始めの儀式「ちょんな始め式」(大阪市無形文化財)を執り行います。そこでは金剛組の大工により儀式を行いますが、いまお話したような歴史から、日本最初の官寺である四天王寺様の金堂で、ちょんな始め式を執り行えることは本当に光栄なことです。

こういった歴史的背景が、先ほど申し上げた、「金剛組を潰したら大阪の恥や」という言葉につながるわけですが、聖徳太子と関係性の深い金剛組の技能とそれを救済した当社の実績を高く評価していただき、表彰につながりました。

金剛組による埼玉県新座市 満行寺本堂新築工事

古い技術と新たな発想を融合し、再生に全力

――これから金剛組の経営はどのように進めていかれるのでしょうか。

髙松社長 社寺建築の難しい点は、融資が付かないことです。世代交代が進む中、昔のように「浄財」を集めて建築費用を賄う手法は難しくなっていくと思われます。ですから、金剛組では現在クラウドファンディングなどを活用した、新たなスキームにも取り組んでいます。すでに、クラウドファンディングサービス会社のREADYFOR社と提携しておりますが、金剛組と取引のある全国の神社仏閣にクラウドファンディングを活用することで、資金調達手段の多様化を図り、これまで経済的課題で難しかった建物の修繕や復元のお手伝いをしていくことが期待できます。そこで金剛組の施工は生きてくると思います。

また、社寺運営のお役立ちを深化させ、金剛組と髙松グループのノウハウを融合させた境内地等の活用や、宗教法人様のソリューション型企業グループを構築していきたいと考えています。

――金剛組の再建は大きなロマンですね。

髙松社長 社寺の改修・文化財修復をするときには、小屋裏に施工した者の名前を墨書した棟札を発見することがよくあります。また木組みの見えない箇所に先人の宮大工たちの名前が墨書されていることもあります。手掛けた宮大工たちは、自分の名前を木組みにこっそり墨書することで、自らの仕事を誇るんです。後世に修繕を手掛けた宮大工たちは、その名前から「お前たちにこの仕事ができるのか」という声が聞こえてくると話す人もいますが、施工が終わった後には200年前の宮大工に勝ったと誇りに思うそうです。ですから、金剛組の仕事は経済合理性だけでなく、大きなロマンに溢れた仕事です。

このロマンを守るためにも、当社は金剛組の自立運営を助けつつも、ソフト面での発想を金剛組に注入し続けていくことで、新しいビジネスと古来の技術を融合させながら、後世に日本の建設技術を残していきます。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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