「昔からこの方法でやってきた」専門工事職の既成概念を打ち破る、マンション施工の改善案

専門工事職は「既成概念」に凝り固まっている?

都市再開発や新興住宅地のマンションは人気が高く、私が建てたマンションもすぐに完売、というのが常識でした。そして、繰り返しの作業が多いマンションの建設工事では、施工の効率化、ユニット化、低コスト化について、各ゼネコンがしのぎをけずっている状況です。

しかし、専門工事職と呼ばれる各業者ごとの作業は、果たして効率の良いものになっているのかと言うと、必ずしもそうとは言い切れない現状があります。

その一因として考えられるのが、専門工事職の多くの当事者たちは「昔からこの方法でやってきた」とか「大変だけどほかに方法がない」など、既成概念に凝り固まった意識が強く、そこからの脱却や改善といった意欲が薄いからではないかと考えられます

そこで今回、マンションのバルコニー施工に関する、私の改善案を紹介します。


マンション建設のムダな作業とは?

マンション建設では、上の写真のように、スラブや梁の型枠施工後に、バルコニーや廊下のPC版をセットします。

サポート2列の上に、端太角(バタ角)をセットし釘止め、その上にPC版をセット。暫定の場所に降ろしたら、隣のPC版との目地、外面の出入りを合わせて、内側の梁筋などとの位置を12mm鉄筋で固定、という手順です。

しかし、この調整がなかなか上手くいかず、時間ロスが発生します。目地を合わせようとして、すでにセットしてあるPC版からレバーブロックで引っ張ると、先行したPC版まで動いてしまい、何度も調整する羽目になります。

マンションの施工方法を改善するアイディア

そこで私は、専用の金物を製作するという対策を考えました。

  1. バルコニーPC版の形状を生かし、まずはフルPC部分(どぶから外部立ち上がり部分)を利用して、内外を挟み込み、締め付けることによって、先行して取り付けたPC版と外の面を合わせる。
  2. 目地は、置くだけで目地が確保できるもの(アングルに目地分のプレートを溶接したもの)を作り、転用しやすいように取っ手をつける。

下図は2つの案をイメージして描いたスケッチです。

【スケッチ】マンションのバルコニーの施工方法を改善するためのアイディア

バルコニーPC版の取付け時間を削減

早速、金物を製作して、使ってみました。

バルコニーPC版を暫定の位置に置き、目地部分を利用して金物で挟み込み、インパクトレンチで締めこむ。なかなかいい感じです。

自作の金物でバルコニー施工に使ってみる

外部になるプレートは、落下を防止するためPC版天端に引っかかるように設計してあります。

あとで仕上がっている部分を利用するため、錆が付着することを防止する目的で、接触部分は、白ゴムを貼り付けました。

自作の金物でバルコニーの施工方法を改善

そして、試作品の効果が確認できたため、1フロアー分の数量を製作。

その結果、取り付け時間を約3分の1まで削減することに成功しました。

■バルコニーPC版の取付け時間

金物使用前・・・1枚あたり平均 20分

金物使用後・・・1枚あたり平均  7分

バルコニーPC版の取付けは、微調整が面倒な作業で時間がかかりますが、施工方法を工夫すれば、施工効率が上がることを証明できました。

生産性向上の可能性はたくさんある

この事例は昔の話ですが、毎日の作業や、大変だと思っている作業、時間がかかっても仕方ないなどと思っている普段の作業にも、改善の可能性はたくさん潜んでいるかもしれない、という考え方が建設現場では大事ではないかと思います。

どなたにも、問題解決のための発想力がそなわっているはずです。ご参考ください。

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大手ゼネコンの鳶仕事に38年間従事し、大規模工事の職長会会長を数多く経験。清水建設社長表彰 ・建設大臣顕彰受賞。現役の職人でありながら、職長会向けセミナーの開催、現場改善・技術発明などのアドバイスを精力的に行っている。若手に仕事の面白さを伝えることが生きがい。
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