土木学会インフラ体力診断小委員会(家田仁委員長)はこのほど、「日本のインフラ体力診断」の第3弾として、公園緑地、水インフラ(利水)、新幹線の3分野の分析を発表した。
同小委員会の中でWGを設置し、3分野を検討。WGの主査を公園緑地は竹内智子千葉大学准教授、水インフラは二瓶泰雄東京理科大学教授、新幹線は金山洋一富山大学教授が担当した。記者発表では空港や街路などのWGも設置していることも明らかにし、報告書の第4弾も近く発表する。「インフラ体力診断小委員会」では、「日本のインフラ体力を分析・診断し、国民に示す」議論を重ね、2021年には、第1弾として主要な公共インフラである高速道路、治水施設、国際コンテナ港湾を対象とした『インフラ体力診断書Vol.1』を、さらに、2022年には、第2弾として下水道、地域公共交通、都市鉄道を対象とした『インフラ体力診断書Vol.2』を公表した。今回の公園緑地については、コロナ禍において身近な重要なインフラ空間として再評価された分野であることから、我が国の同分野における政策、制度への反映を期待しているという。
「インフラはほぼ概成し、あとはメンテナンスにとどめればいいという考えの方もいますが、多くのこうした議論については客観的な根拠を、しかも世界との比較を冷静にしていないことがあります。私どもとしては正確なエビデンスを示しながら、この分野のインフラについてはかなりの水準に到達しているけれど、別の分野でのインフラは世界的に見てまだまだ,、あるいは量的には充実していても質的に充実させる必要があるということを考えています。そこで意思決定者の方々である政治家や行政に適切にインフラの状況を理解していただき、それをいろんな手段を通じて、政策に反映されるよう公表しています」(家田委員長)
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世界と比較し大都市の公園緑地は量的に不十分
公園緑地を他のインフラと連携し、相乗効果を高める施策を提案
まず、公園緑地から見てみよう。公園緑地は、個人と社会のWell-being(肉体的・精神的・社会的に満たされた幸福な状態を示す概念)の向上、地域の社会的課題や環境問題解決に少なからず貢献することが世界共通の認識となりつつあり、欧米各都市は、緑を都市戦略の重要な柱に位置づけている。
都市公園などの面積は、2020年度末時点で約11万か所・約13万haに達し、全国的に見れば住民一人当たり約10m2を達成しているものの、この目標を達成していない都府県も数多くある。また、都市計画決定された都市公園の供用率は約70%。建設省(現・国土交通省)は1994年に「緑の政策大綱」を策定し、「長期的には住民一人当たりの都市公園等面積を20m2とする」との目標を掲げている。
そこで、都市公園のさらなる整備に向けた取組みが必要と提言、既存の都市公園の再整備などによる魅力向上や老朽化対策を限られた財源で効果的に行うとともに、都市公園がまち全体の居心地のよさに貢献するため、多様な主体とのパートナーシップによる、都市公園を核とした人中心のまちづくりを展開していくべきと提言した。
課題としては、公園の整備・緑化の推進・緑地の保全の目標を設定にある。また、世界の主要都市と比較すると、大都市の公園緑地は量的に不十分で、その配置や規模も偏在していることが分かった。維持管理も十分とは言えず、最低限の量とさらなる質の向上が必要とまとめている。一方、公園緑地は歴史・文化を生み、地域を育み、伝統的な文化や造園技術、ライフスタイルや価値観も日本の強みであると強調している。
そこで公園緑地は、市民生活に必要不可欠であり、「多機能な」・「関わる」・「育てる」インフラであるため、長期的な視野を持って人間活動を公園緑地のマネジメントに組込む必要と提案している。
インフラ体力診断の結果を踏まえて、公園緑地を育む体力を向上させるため、体質改善に向けて4つのアドバイスを提示。
- 官民連携の地域マネジメントへ:計画~管理運営まで地域ごとに実施、官民の人材を育成し、市民力を活かしていく。
- 他のインフラ事業と連携へ:道路・河川・港湾・下水道・再開発事業などと連携して公園緑地を整備・マネジメントし、相乗効果を高める。
- 整備後のマネジメントを重視、長期的に複数財源で:小規模でも継続的に管理運営に人・金を投じ、税金だけに頼らない財源も確保していく。
- 新技術・DX の活用・エビデンスに基づく政策立案へ。
最終的に、公園緑地は、人々の心豊かで幸せな生活に欠かせないインフラであり、国の政策として、量の拡大も質の向上ももっと力を入れていくべきとまとめている。
「全国民にとってコロナの経験を経て、公園緑地は極めてベーシックなインフラと理解されています。Well-beingにとって重要なものであることが痛感され、再評価・再認識することが今回のメッセージの上で非常に大切な点です。そこで量や質をチェックしてみると、決して充足していないこともわかってきました。一方で、Park-PFI(公募設置管理制度)など新しい手法を活用し、よりスピーディーにクオリティーが高い公園を充実させる努力もしています。これは国民的に支援をしていかなければならない問題です」(家田委員長)
水インフラの老朽化を懸念
次に、水インフラ。水インフラとは、水の利用を可能とする施設全体を指すものであり、水道施設、農業水利施設、水力発電施設、工業用水道施設、河川管理施設、下水道施設、水資源開発施設等が対象となる。これらの施設のうち、都市用水に着目し、水を貯める、流す、送る、配る、使う、排水する、という一連のプロセスに関わる水インフラを中心に体力診断を行った。
水道や下水道などの都市内の水インフラは、戦後の高度経済成長期以降に急速に整備され、戦後の復興と発展を支える重要な役割を果たしてきた。一方、現在では、更新が必要な時期を迎えた老朽化した施設の割合が急速に増え、今後、地震や激甚化する洪水などの災害に起因する大規模災害の発生も想定した上で、老朽化した施設の戦略的な維持管理・更新や耐震化などを行い、リスクの低減に向けた取組みを継続的に推進する必要がある。
法定耐用年数が40年である水道管路は、高度経済成長期に整備された施設の更新が進まないため、管路の経年化率が上昇し、老朽化が進行している。一方、管路の更新率は年々低下傾向で、管路更新が順調に進んでいるとは言い難く、今後、投資が大幅に増大しない限り、老朽化が加速化することになる。水道施設の耐震化の状況は、2021度末時点で基幹的な水道管のうち耐震性のある管路の割合が41.2%、浄水施設の耐震化率が39.2%、配水池の耐震化率が62.3%となっており、依然として低い状況にある。
次に、高度経済成長期に整備された多くの工業用水道では、耐用年数を超過して使用している割合が上昇し(図13)、施設の老朽化による漏水等に起因する事故が増加傾向となっている(図14)。さらに受水企業の事業縮小や撤退等による需要の減少等により、管路の耐震化適合率は、46.6%にとどまる。
日本の工業用水道管路の経年化率の推移
水企業の操業に影響した工業用水事故発生件数の推移
地震をはじめとする大規模災害や老朽化・劣化に起因する大規模事故などによる水供給リスクについては、明日にも発生する可能性があり、対応を可能な限り急ぐ必要がある。
長期的な視点に立つと、
- 人口減少等による社会状況や土地利用の変化
- 耐用年数を超過した施設が大勢を占め、事故発生のリスクがさらに高まる状況
- 気候変動による影響として、水災害の更なる激甚化・頻発化に加えて、降水量の変動幅の増大、積雪量の減少、融雪の早期化等の要因によって水供給の安全度が損なわれるほか、水源が枯渇するような危機的な渇水の発生が懸念される状況
などの事態にも今から備える必要がある。
「二つ目の水インフラ(利水)はベーシック中のベーシック。気候変動が激しくなる中で、治水については国民的な認識も高まっています。気候変動は雨が多く降るだけではなく、あまり降らなくなることにも配慮する必要があります。そのため利水インフラについても懸念が高まっているのが今のポイントです」(家田委員長)
突出して高い中国とスペインの新幹線整備
新幹線WGの主査は、金山洋一富山大学教授が担当
最後は新幹線だ。まず、整備水準の国際比較を見ると、整備延長では、国際鉄道連合UICの資料によると、2021年現在では日本を含む20か国で高速鉄道が供用し、約5万9000kmの路線が営業中となっている。
うち約4万kmは中国であり、スペイン(約3,600km)、日本(約2,800km)、フランス(約2,700km)、ドイツ(約1,600km)、イタリア(約900km)、韓国(同)などが続く。またトルコ(約1,100km)やサウジアラビア(約400km)などの国々も高速走行可能な新線を擁する。規模の小さな国でも、オーストリア(約300km)やベルギー(約200km)、スイス(同)が国の規模に比して比較的長大な高速鉄道路線を持っている。またフィンランド(約1,100km)やスウェーデン(約860km)のように、在来線を大幅に改良し、高速走行に対応した路線網を広範に持つ国も存在する。このほかに現在約2万kmの高速鉄道路線が建設中であり(うち中国が1万3,000km)、さらに約2万km(うち中国は4,000km)が建設を見据えた具体的な計画として進行中だ。
中国の高速鉄道はまだ多くの計画路線を控えている。
欧州での高速鉄道はスペインの整備網に注目したい
日本の新幹線整備は、これまで着実に進捗しており、現在の整備延長は世界的に見て高い水準にある。日本に次いで高速鉄道整備を行った国々は、一部の国(スペイン、中国)が突出しているものの総じて日本と同様の水準に達してきており、今後は支線などへの展開も見られ、また、これまで高速鉄道がなかった国々を中心に多くの路線が計画されている。
基本計画も含む全国の新幹線鉄道網
「新幹線は多々ある日本のインフラの中でも特異な存在で、高速鉄道を世界ではじめて実現したトップランナーの経験がありました。今でも日本がトップ集団に入っていることに変わりはありませんが、10~20年前であれば、日本の高速鉄道の比較対象国はドイツとフランスの両国で十分でした。しかし、今回の報告では量的には中国が圧倒的に新幹線王国。さらにスペインがネットワークを拡充・充実しています。我々が参考にすべきは、ドイツやフランスだけではなく、むしろ中国やスペインという認識をしなければなりません」(家田委員長)