(公社)土木学会(田中茂義会長)の教育企画・人材育成委員会 成熟したシビルエンジニア活性化小委員会(黒田武史委員長)は、2022年版「定年退職後の技術者の雇用に関する実態調査報告」をまとめた。同アンケートの結果は、9月14日に、広島市の広島工業大学五日市キャンパスで開かれる、2023年度全国大会第78回年次学術講演会で発表する。
氷河期世代の中堅技術者の不足が顕著
報告書によると、建設業・コンサルタント業の技術者ともに突出して多いのは、団塊ジュニアの一部とその上の年齢に相当する世代(約50~54歳)で全体の約16%程度を占め、バブル世代(53~57歳程度)が定年を迎える頃には、労働力不足が危惧されることが明らかになった。
一方、40代の技術者層は極端に薄く、特に40~44歳の割合は建設業でわずか6.5%、コンサルタント業で8.1%だった。これは定年後の再雇用者の割合と同程度であり、中堅技術者の不足が顕著だった。この層は、建設事業への投資が最低となった2011年前後に社会人となった世代と一致する。建設事業への投資は1992年にピークを迎えたのち徐々に減少し,2009年から2011年までが最も低迷し、ピーク時の50%にまで減少した。また、この期間は新設工事も最も少ないことから建設需要も低く、業界全体が縮小傾向にあった期間だったため、新卒の求人も極めて少なく、現在の中堅技術者の不足を招いたとしている。
土木技術者年齢構成の変遷と就業者人口の年齢比較。建設業の土木技術者はバブル世代に層が厚いが引退すれば人材不足は必至
定年年齢は65歳への引き上げが増加
政府は2021年に高年齢者雇用安定法を改正。70歳までの就業機会の確保では多様な選択肢を法制度上整え、事業主として継続雇用制度の導入などの措置を制度化する努力義務が設けられた。
2022年は2017年に対し、60歳定年は約70%に減少する傾向で、定年年齢が65歳までに引き上げられつつある。回答企業中23社(19%)が65歳以上と回答し、業種別では特にコンサルタントが多く、1,000人未満の企業でも定年年齢が65歳以上になってきている。
一方、建設業の再雇用率は、2011年時点では約70%で以降、2017年頃まで増加を続け、その後横ばいとなった。コンサルタントでは、2016年まで増加傾向を示し、その後横ばいが続く。なお、2013年以降の「全体」と「建設業」では、再雇用率に開きが出てきているが、これは建設業がコンサルタントとほぼ同様まで再雇用率を高めたのに対し、従業員を多く抱えるその他の業種の企業での再雇用率が低下したためであった。
2017年調査から再雇用期間終業後のさらなる継続雇用に対しても調査を行った。再雇用期間終了後のさらなる継続雇用率は2011年の約50%から2021年には約75%まで増加した。
定年後の再雇用の理由は、2007年度調査ではほぼ100%本人希望だったが、2012年調査以降では会社都合の割合が急増した。2022年調査では義務づけられた期間で雇用を終了する割合も一定数あった。一方、会社が定める一定条件をクリアすれば再雇用終了後もさらに継続雇用する場合や会社都合による、さらなる継続雇用の割合は半数以上であり技術者不足がうかがえた。
シニア技術者が社会から必要とされ、高齢化社会のプラスの面では健康寿命は伸びている傾向にあり、心身ともに元気に活躍しているシニア技術者が年金受給開始まで働きたいというニーズがあると考えられる。2012年調査時には再雇用後の仕事内容は変わらないものの、著しく賃金が減少することからシニア技術者のモチベーションの向上に対する課題が浮き彫りとなった。
シニアの賃金減額は一定の改善も
2022年調査時も再雇用時の処遇は、2012年や2017年と同様の傾向であったものの、賃金減額率に着目すると、2022年では40~50%や50~60%減額の割合が減少、20~30%減額の割合が増加し、賃金の減額に関しては一定の改善が行われた。
さらに、仕事内容・賃金に関する自由記載からは、「ケースバイケース」「定年時の役職による」「個人の力量による」など、個人の能力や力量,役職などで再雇用時の処遇にばらつきがあり、企業側も再雇用時には差別化する傾向にある。
役職・資格では、「管理・監督業務は行わない」「役職をはずれる」など第一線からは外れる傾向にあるものの、建設業の施工管理者は、再雇用終了後も引き続き現場勤務となるケースもあり、施工管理者の担い手不足の意見もよせられた。
シニアに期待するのは「能力・経験」「教育」「有資格」
企業がシニアに期待する役割では、「能力・経験」「教育」「有資格」に対する期待は常に高い。労働力に対する期待は、2012年調査時に急減、2017年調査時では再び増加し、2022年調査では2017 年と同様な傾向を示した。これは2007年頃から2011年頃まで建設業界の低迷で労働力としての期待が減少、その後景気回復とともに労働力に対する需要が増加したと考えられる。また人脈への期待は2007年の24%から2012年では28%に増加、2017年では16%に減少したものの、2022 年では23%に増加した。
2022年は、2017年と同様に期待する役割の順位の調査も行っている。1位に多く挙げられたのは「能力・経験」で、「教育」が続いた。この結果は2017 年と同様の傾向で、現時点でもなおシニア技術者に対する技術の伝承への期待が高いことが分かった。
定年後のモチベーション向上には「給与優遇」
定年退職後の技術者のモチベーション向上施策では、給与優遇の割合が2012年では39%だったのに対して、2017年では66%、2022年では69%となり、年々増加している。実際に賃金減額率の割合も改善し、2017年時よりも徐々にではあるが企業側もシニア技術者に対する評価を改善している観測も示している。そのほか、職位優遇は2012年調査時から増加傾向を示し、2022年では40%となったことからも企業側の改善努力がうかがえる。
最後に、テレワークやリモートワークなど働き方が多様化しており、職位優遇など引き続き定年退職後の技術者のチベーション向上施策を進め、2022年に約50~54 歳の技術者の定年退職時を見据え、技術継承を継続する必要があると提言している。
土木学会ではシニア土木技術者が担うべき役割や期待されている役割を把握するため、2007年、2012年、2017年に企業内の定年退職後の技術者雇用に関する実態調査を行っている。これまでのアンケート調査では、技術伝承や労働力確保に対する危惧、シニア技術者のモチベーション向上の必要性などいくつかの課題が浮き彫りとなった。このほどシニア土木技術者を取り巻く状況が変化していることを踏まえ、2022年に再度シニア土木技術者の雇用に関する実態調査を実施した。土木学会員数の多い企業約200社に郵送にてアンケート調査を実施、120社から回答を得た。

