技術者不足の地域でも、施工性と施工品質を発現。再劣化させない工法に定評

近年、橋梁の補修個所が土砂化して再劣化するケースが各地で報告されるなか日本橋梁メンテナンス協会が扱う再劣化対策工法が支持を集めている。

協会では会長の阿部忠日本大学名誉教授とともに近年、劣化した床版や土砂化した床版を「再劣化させない」「材料を工夫することで、技術者不足の地域においても、施工性と施工品質を発現できる」再現性の高い工法の開発に取り組んできた。

阿部名誉教授は現場に近い研究に注力してきたことで知られ、床版の再劣化問題にも10年以上前から、劣化メカニズムと有効な補強方法を研究、協会員らと取り組むなかで、成果である技術や工法を実装してきた。早くから、RC床版の再劣化が起こっている主因は、ジョイント部の段差による車両荷重の衝撃力の増大や、補修の際に床版患部のすべてを取り除き切れていないことだと突き止め、これらを改善したMMジョイントDS工法や、EQM工法、EQM-J工法、EQM-J-G工法などを提案している。

各工法とも技術者が不足しがちな地方の現場でも高い施工品質が発現できるよう、材料を高度化した一方で、施工は簡便にできるように工夫をしていることも特徴だ。

日本橋梁メンテナンス協会の阿部忠会長(日本大学名誉教授)に工法のポイントや手順、事例(後段にケーススタディ)などを聞いた。

――ジョイント工法などが、再劣化の抑制につながっていると、現場からの支持が聞こえます

日本橋梁メンテナンス協会の阿部忠会長(日本大学名誉教授)

阿部会長 協会では現在11の工法・技術を扱っています。用途で大別すると、埋設型ジョイントで支持を得る「①荷重分布型ジョイント(NETIS登録番号 QS-200045-A)」、「②MMジョイントDS」、ジョイント遊間部の止水「③SMジョイント(QS-180049-A)」、床版の土砂化・再劣化対策で定評のある「④EQM工法」、ジョイントと前後の床版劣化部を同時に対策する「⑤EQM-J工法(QS-180019-A)」、「⑥EQM-J-G工法」、ボックスカルバートの補強「⑦EQM-Q-K工法(QS-150039-A)」――などです。

――いくつか教えてください。まずEQM工法とはどのような工法でしょうか? 協会の基幹工法である埋設ジョイントのMMジョイントDSをはじめ、さまざまな工法でも使われていますが。

阿部会長 EQM工法は、RC床版の補修補強工法で、床版の土砂化・再劣化に悩んできた現場から、施工後の経過が良いと定評をいただいている工法です。再劣化を繰り返すRC床版の耐久改善と再劣化を食い止める工法として開発しました。EQM工法と銘打つ由来にもなったNEXCO東日本の現場をはじめ、国交省や自治体でも実績が増えています。EQMとは、EはEasy、QはQuality、MはMaintenanceの略です。

再劣化は母体が脆弱になっているものをそのままに、補修や補強をした場合に起こる現象と考えています。ひび割れやポットホールなど舗装に異常が見られる場合は大抵、床版上面コンクリートが深さ50mmほど土砂化している場合が多いです。土砂化した範囲のセメント成分は舗装面や、貫通ひび割れを通して床版下面に石灰分として滲出します。石灰分の滲出が著しい床版コンクリートは圧縮強度が低下します。

こうした再劣化の連鎖を防ぐために、EQM工法では、脆弱コンクリートつまり劣化の患部を除去しきることと、なおかつ母体の耐力を上げる技術として、微細なひび割れまで浸透補修する浸透性接着剤を吹き付けて浸み込ませ母体を一体化させること、これらの手間を加えることが再劣化の抑止に大きく寄与しているのです。

主な手順は、患部を完全に除去後、補修時のブレーカーによるハツリ作業に伴い不可避的に入る微細なひび割れまでも浸透性接着剤KSプライマーでふさいだのちに、既設床版と補修材の界面の付着力を高めるKSボンドを塗布し、補修材のリフレモルセットを打ち込んで、舗装を敷設するものです。

ジョイント周辺部はジョイントと舗装との段差ができやすい個所で、段差を車両が走行した際に床版が受ける衝撃範囲と床版の劣化範囲に正の相関がみられることに早くから着目し、段差の発生を抑止することが床版の劣化抑制につながる研究成果を得ています。(後段のケーススタディ)

そこで協会の埋設型ジョイントの工法にも、EQM工法技術(KSプライマー、KSボンド、リフレモルセット)を取り入れることで、ジョイント周辺の床版劣化対策としています(EQM-J工法)。ジョイント交換の不陸修正が40mm以上の場合(埋設ジョイント・MMジョイントDS型を設置する場合は50mmが目安)は、これにグリッドメタル筋(鋼板をレーザーで格子状に加工した引張補強筋)を配置し、鉄筋量の不足を補うのがEQM-J-G工法です(後段のケーススタディで紹介)。

――MMジョイントDSとは?

阿部会長 協会の基幹工法である埋設ジョイント・MMジョイントDSは、伸縮装置の段差が床版に与える悪影響を抑制することを基本的な考え方としており、協会幹事社の山王が特殊合材であるDS合材の開発にも注力して、弾性体の合材に化学繊維を入れて耐流動性を増すことに成功しました。高耐久でシンプルな埋設型ジョイントとして開発しており、特殊バインダーとDS骨材の主材料に加え、プライマー、バックロッド、ギャッププレート、ピンで構成、構造がシンプルなため施工時間が短くなります。

MMジョイントDSの構造

耐震性にも優れた埋設ジョイントに仕上げ、熊本県内の事例では、走行性などの特徴(わだち掘れの抑制)に加え、熊本地震の際には舗装とMMジョイントDSとの打ち継ぎ目にひび割れが発生したものの母体が弾性体であることからほとんど地震による被害が見られず耐震性に優れたジョイントでもあります。(後段のケーススタディで現場紹介)

RC床版の損傷や抜け落ち個所は、伸縮装置を通過した付近や出口付近に見られます。橋梁点検では路面の凹凸は20mmの段差を基準にしていますが、土木研究所の研究では段差20mmを大型ダンプトラックが通過したのちの荷重変動は軸重量の2.7倍ほどで、作用範囲は8m付近まで及び、元の軸重量に減衰されるまでには15mほどの走行が必要としています。

私自身も、ジョイントの段差によって発生する荷重変動による輪荷重走行振動疲労実験を実施して、基準荷重に対して±20%の荷重を許容した場合は、一定な荷重で走行した場合の寿命の36%に減少する結果が得られています。

そこで再劣化の防止と長寿命化を考えるなら、この段差を抑制しなければいけないということで、MMジョイントDSを開発したのです。性能については施工技術総合研究所で疲労試験を実施し、耐疲労性を評価しています。

MMジョイントDSとRC床版コンクリートの差つまり不陸修正が要らない場合、40mm以上の場合、40mm以下の場合で対応を変えています。橋梁をより長寿命化しようと40mm以上の場合は、MMジョイントDSの下と周辺にEQM工法を取り入れて床版健全化への対応をしたのがEQM-J工法、30mm以上の場合にさらにこのEQM-J工法の下に鉄筋を配置する代わりにグリッドメタル筋を配置して施工することで耐荷力を上げたのがEGM-J-G工法(後段のケーススタディで現場紹介)です。

――荷重分布型伸縮装置とは?

阿部会長 荷重分布型伸縮装置は従来の荷重支持型や突き合わせ型伸縮装置の底面に、輪荷重を既設RC床版に等分布荷重として作用させるために、鋼板厚9mm、幅220mm程度の荷重分布鋼板を設けた伸縮装置です。この荷重分布鋼板の端部に伸縮ゴムを取り付けする高さ90mmの鋼板を90度に溶接し、この鋼板の裏側には補剛材を溶接し、大型車両の荷重を受けた時の座屈防止にしています。また、幅220mmの荷重分布鋼板に縦筋を2本溶接し、その縦筋と直角方向、荷重分布鋼板と平行にジベル筋が鋼板に溶接された構造です。この縦筋は伸縮装置軸方向に20cm間隔で溶接され、同一個所にジベル筋が溶接されています。よって、伸縮ゴムを取り付けする鋼板は荷重支持型鋼板の上の溶接とジベル筋、補剛材とでしっかり溶接された構造です。荷重分布鋼板の底面にはズレ防止のために200mm間隔でφ5mm程度鉄筋が配置されています。また、荷重分布型鋼板の4角にはRC床版コンクリートと固定するアンカーボルト穴、中間部にも数カ所のアンカー筋を打ち込む孔を設けています。

荷重分布型伸縮装置の構造

設置には流動性モルタルフィルコンの充填用にφ30mmの孔が200mm間隔で設けてあります。4角をアンカーボルトで締め付けて固定し、中間部はアンカー筋を打ち込み固定します。従来の伸縮ゴムを取り付けする鋼板は水平方向に鉄筋が溶接され、この水平方向の鉄筋にアンカー筋を200mm間隔で打ち込むので、伸縮装置の長さが2,000mm程度の場合、アンカー筋は約40カ所になります。一方、荷重分布型伸縮装置は設置においては6カ所から8カ所をアンカーで打ち込む工法なので、アンカー打ち込みによる既設RC床版の新たな損傷が軽減されます。施工時間もアンカー筋を打ち込む工法と比較して大幅に短縮できます。(後段のケーススタディで現場紹介)

――SMジョイント(ゴム劣化取替工法)とは?

阿部会長 昨年に国交省の橋梁伸縮装置止水部の補修に関する技術にも選定され、また実績も伸びているSMジョイントは「安価で高性能。施工も簡単。圧倒的なコストパフォーマンス」を追求し、突合せジョイントなどの伸縮ゴム部分を撤去後、新たに伸縮性に優れた高粘弾性の樹脂材(SMシール材)などを充填する、安価に短時間で止水性能を付与する補修工法です。

主剤、硬化剤、添加剤を混合するとすぐに柔軟性がある弾性ゴムに変化するため、ハンドミキサーがあれば施工ができ、大型機械は不要、工事中の騒音・振動、産業廃棄物の排出も少ないです。養生は1時間ほどで、防水効果もあります。

アスファルト、コールタールを含みませんし、ほぼすべての化学物質に耐性があります。

橋梁伸縮装置の遊間部は、防水材の劣化により、橋面に滞水した雨水や融雪剤の散布に伴う融解水が漏水し、橋梁部材の老朽化を促進させるため、これを防ぐ工法として山王が開発し、協会が施工しています。

ジョイント本体はそのままに、劣化あるいは損傷した伸縮ゴム(1次止水材)を除去し、高粘弾性の樹脂(SMシール)を遊間部や地覆部の隙間に充填します。設計伸縮量が60mm以下の橋梁伸縮装置ゴム部分に適用できます。ノンサグ性(垂れない性質)も持つので、地覆などの垂直部分にも施工が可能です。

性能に関しては、道路建設業協会道路試験所に樹脂材(SMシール)とコンクリート面の引張接着強度や、混合物の加圧透水力の検証を委託し、目標値をクリアしています。協会内で実施した実物大供試体水張試験でも、高い防水性能を確認しています。(後段にケーススタディで現場紹介)


【ケーススタディ】埋設ジョイント交換+床版耐力向上

――橋梁の状態から教えてください

阿部会長 施工した橋は兵庫県内のRC橋で橋長は15mです。

施工した橋梁

――どのような補強でしたか?

阿部会長 補修工事の一環として、主桁の補強工事と合わせて、伸縮装置の取替工事をしました。

RC床版コンクリート上面に暑さ140mm程度のアスファルト舗装があるので(図1)、MMジョイントDSの設置は、コンクリートの不陸修正に協会が推奨するEQM工法とグリッドメタルを採用して、再劣化と段差の防止ならびに床版耐力向上となるEQM-J-G工法として施工しました。

図1:設置寸法の概略

――手順は。

阿部会長 この橋のEQM-J-G工法による不陸修正の施工は写真4、MMジョイントDSの設置は写真5の通りです。

写真-4:グリッドメタル筋を配置した不陸修正(EQM-J-G工法)

 

写真-5:MMジョイントDS設置(EQM-J工法)

まずアスファルト舗装厚140mm、幅430mmをRC床版上面までコンクリートカッターで切断し、ブレーカーでハツリ作業を終えると、RC床版のコンクリート面に損傷が見られました(写真-4-(1))。ブレーカー作業に伴い不可避的に発生する微細なひび割れの補修で浸透性接着剤KSプライマーを塗布し(写真-4-(2))、グリッドメタル筋を配置(写真-4-(3))して、界面の接着性を高めるKSボンドを塗布(写真-4-(4))、超速硬コンクリートで不陸修正をしました(写真-4-(5))。

3時間養生後にMMジョイントDSの設置に入ります。不陸修正をしたのち(写真-5-(1))、遊間部にバックアップ材を設置し、バインダーを塗布します。プレートを設置してバインダーを塗布し(写真-5-(2))、1層目の特殊合材を打ち込んでバインダーを塗布(写真-5-(3))、2層目の特殊合材を打ち込み転圧(写真-5-(4))、細骨材を散布して転圧し(写真-5-(5))終了ののち、表面温度が50℃以下になると交通を解放しました。

――不陸修正が要らない場合はどうなりますか?

阿部会長 コンクリート面を切削してはつったのち、MMジョイントDSを図2に示す手順で施工します。

施工フローに基づき、バックアップ材を設置後、バインダーを塗布、ギャッププレートを設置します。

次に、1層目のバインダーを塗布し、30mm厚で特殊合材を打設、同時にバインダーを塗布、特殊合材を打設し、2層目を打ち込みます。最後にローラーで転圧し、表層バインダーを塗布、専用の骨材を散布して、仕上げに転圧後、完成となります。

図2:施工フロー

――不陸修正が50mm以下の場合はどうなりますか?

阿部会長 旧ジョイントをブレーカーでハツリ撤去した後、ブレーカーにより発生した微細なひび割れの補修法として浸透性接着剤のKSプライマーを塗布し、界面の接着性を高める付着用KSボンドを塗布、リフレモルセットSFで不陸修正します(写真-5-(1))。

この手順は床版の再劣化を防ぐ目的で開発したEQM工法と同じです。MMジョイントDSの不陸修正にEQMを活用したもので、EQM-J工法と称しています。EQM工法を導入することで2工程がプラスされ、工事費も従来工法より高くはなりますが、長寿命化が図られます。

この不陸修正ののち、MMジョイントDSの施工に入ります。バインダーを塗布してプレートを設置し(写真-5-(2))、1層目の特殊合材を打ち込んでバインダーを塗布(写真-5-(3))、2層目の特殊合材を打ち込んで転圧(写真-5-(4))、細骨材を散布して転圧仕上げ(写真-5-(5))をして完了です。

EQM-J工法としたことで、効果が目に見えた分かりやすい事例を紹介します。2017年に、熊本県の国道266号線、八王寺跨線橋でMMジョイントDSの設置工事が行われました。交通量は1日3万7,000台超と多い橋梁ですので、これまでも損傷が早い場所で、ここに初めて埋設ジョイントのMMジョイントDSを施工することになりました。

施工において、既設ジョイントを撤去すると、不陸修正が剥離し、界面が、土砂化していました。まず、これを標準的な工法で不陸修正を施し、MMジョイントDSを設置しました。その結果、数カ月でMMジョイントDSにわだち掘れが発生しました。MMジョイントDSは、そもそもわだち掘れや段差ができないよう耐性を高めた埋設ジョイントです。そこで、8月に原因究明のためにジョイントを撤去したところ、床版の割れの影響で不陸修正コンクリートにすべて割れと剥離が確認されました。

これがわだち掘れの原因であると思われましたので、そこで、新たにEQM材料を用いたMMジョイントDSを設置するEQM-J工法を実施した結果、MMジョイントDS表面にわだち掘れやひび割れの発生が見られず、健全性を維持しています。本来のMMジョイントDSの性能ならびに機能が発揮されているのです。

ジョイント交換の際に留意して頂きたいことは、ジョイント交換する橋梁床版はジョイント付近の床版に損傷が見られる場合は併せて部分補修を施す必要があるということです。これを放置するとRC床版そのものが抜け落ちへと進展してしまいます。また、取り付け道路側の段差も全て補修することで、床版、ジョイントの寿命がさらに向上するものと考えられます。

【ケーススタディ】荷重分布型ジョイント

――どのような施工でしたか?

阿部会長 熊本県内の橋で試験施工をしました。

施工の様子

――施工手順は。

阿部会長 まず、旧伸縮装置を撤去し(写真1(1))、伸縮装置が設置できる寸法(装置の高さ+10mm)のはつり作業をします。今回、橋梁のアスファルト舗装厚が100mm程度でしたので、コンクリートのはつり作業は10mm~20mm程度でした。

写真-1:荷重分布型伸縮装置の施工手順

次に、装置を固定するアンカーボルト(4カ所)の位置と中間部のアンカー筋の位置にドリルで孔を開け、仮設置します(写真1(2))。

さらに、はつり作業によりコンクリートに微細なひび割れが発生することから、ひび割れ補修として浸透性KSプライマーを塗布します(写真1(3))。これにより、0.05mm以上のひび割れに浸透し、コンクリート表面は強固になります。

その後、流動性モルタルフィルコンSとの付着力を高めるためにKSプライマーの上にKSボンドを塗布します(協会の不陸修正工法)(写真1(4))。併せて伸縮装置の荷重分布鋼板の下面にもKSボンドを塗布します。

再度、伸縮装置を設置してアンカーボルト、アンカー筋で固定します(写真1(5))。アンカー筋を打ち込む際に発生するひび割れには浸透性KSプライマーが浸透し、コンクリート表面が強固になります。

設置後、直ちに流動性モルタルフィルコンSを注入孔より順次充填し、バイブレータ振動により広範囲に充填します。荷重分布型伸縮装置には200mm間隔で注入孔が設けられています(写真1(6))。また、10mmの隙間に自然注入で直径300mm以上に充填されることも確認されています。

充填終了後は、鉄筋を配置し(写真1(7))、再度KSボンドを塗布します(写真1(8))。同時に超速硬コンクリートの練混ぜ準備をします。今回の工事ではジェットモービル車を使いました。コンクリート打設・表面仕上げ後、伸縮装置に止水対策を行い、表面仕上げして完成しました。

今回の工事では試験施工および講習会も兼ねているため、幅員8mを、3日で実施しました。初日は片側車線4mを入口側、2日目は出口側を行い、3日は反対車線の入口、出口側8mを実施し、延長16mを終了しました。


【ケーススタディ】ゴムジョイントの劣化部だけ安く早く更新

――どのような施工でしたか?

阿部会長 直線形状のゴムジョイント、歯型形状のゴムジョイントの劣化したゴム部の更新です。形状は異なりますが、同じ手順でできます。

――施工手順を直線形状のゴムジョイントからお願いします。

阿部会長 まず旧止水材(弾性ゴム)の撤去です(写真①)。バール、電動ピック、カッターなどで劣化したゴム材を撤去します。接着面は特にゴミ、埃、油分などを含めて丁寧に除去します。

撤去後は、施工部分の清掃をします(写真②)。接着面の下地が荒れている場合は、研磨ブラシなどを使って下地調整を行います。海浜地区など施工個所に塩分がある場合は、接着面の水洗いを十分に行います。

次にバックアップ材を設置します(写真③)。プライマーを塗布後暫く放置し、乾燥を確認してからバックアップ材を設置します。SMシール材充填の仕上げ高を考慮した位置に順次設置しまう。隙間が生じる場合は変成シリコン系シーリング材を使用して隙間を防ぎます。

そしてSMシール材の混合と充填をします(写真④)。SMシール主剤と硬化剤を混合攪拌し、その後添加剤を加え十分に攪拌します。容器を傾けても材料が流れないことを確認してから充填を行い、ヘラ・コテなどで平滑に仕上げ、SMシール材の充填を完了します(写真⑤)。施工時期と桁伸縮の関係を考慮して、仕上げ高さに注意します。特に冬季施工の場合は路面高さより低く仕上げます。

表面保護の石粉を散布し、完成です(写真⑥)。SMシール材を充填し仕上げの後、一定時間を経たら表面保護のため石粉または石灰を散布します。施工時の気温により変動しますが、施工後1時間~3時間が交通開放の目安です。

――歯型形状のゴムジョイントでは。

阿部会長 手順は一緒です。写真のように①遊間部の損傷修繕を実施するとともに老朽化したゴムジョイントを撤去します。このとき、伸縮装置の内側のゴム材および不純物を完全に撤去します。また防水層がある場合はこれも撤去します。

次に②遊間部にバックアップ材を挿入し、③遊間部側面にプライマーを塗布します。同時にSMシール材の混合し、遊間部に充填します。
④充填終了を養生して終了します。

また地覆部も同様に施工できます(写真)。

【ケーススタディ】土砂化・再劣化の床版にEQMを施工

――まず、橋梁の状態から教えてください。

阿部会長 この橋梁は福島県内の積雪寒冷地に架かる4径間単純RCT橋で、橋長は58m、幅員7.5mです。建設は1964年で、維持管理のなかで調整モルタルの土砂化により、数回にわたって維持修繕が行われてきました(写真①)。融雪剤散布による塩害と、凍害の複合劣化により、再劣化が進んでいる状態です。

補強工事を提案されたのは協会会員である小野工業所であり、工事も実施されております。当初計画ではアスファルト舗装の打ち換えと防水層の設置が計画されていました。

そこで工事前調査に進んだところ、床版コンクリートの脆弱層が広範囲にわたっていることやハツリ作業に伴って発生する微細なひび割れや既存のひび割れの補修が必要となること、打ち継ぎコンクリートと界面の付着性の確保が必要なことおよび「東北地方整備局設計施工マニュアル」に接着剤の必要性が記載されていることなどからEQM工法の提案がなされ、工法開発にあたった私もこの現場に関わることになりました。

――工事の手順を

阿部会長 私のこれまでの研究と、現場での実橋への実装の経過から、脆弱層のコンクリートを完全に除去することが再劣化を阻止して長寿命化につながることはわかっていましたので、脆弱した調整コンクリート部を撤去して元の状態に戻す検討からはじめました。

コンクリートの浮きを放置すると雨水の浸透により劣化の進展速度が速まるとの知見を得ていますので、この現場では全面ハツリ作業が終了したのちに、テストハンマーで叩き、浮きの個所や脆弱個所を診断、赤外線サーモグラフィーでも確認し、患部の除去を徹底しました。

RC床版コンクリート上面の脆弱した調整コンクリートの深度は平均8cm、最大11cmに及んでいました。この劣化した調整コンクリート部の脆弱層をブレーカーで除去したのち、テストハンマーによる打音法で診断、異音の発生個所、つまり、剥離や浮きの脆弱個所をマーキングすると、車両が伸縮継手を通過した最初のスパン14.6m範囲に浮きが見られました(写真③)。合わせて、赤外線サーモグラフィー法で診断すると、橋面の黒い個所がアスファルト損傷の著しい個所で(写真④)、叩きでマーキングした個所と一致しています。

そこで、ブレーカーやチッパーなどで脆弱個所を全面撤去し(写真⑤)、再度、叩き点検と赤外線サーモグラフィー法で診断(写真⑧)、黄色で異常個所が全面改善されていることを確認しました(写真⑧)。

一般的にはテストハンマーによる叩きで浮きの個所を確認していますが、今回のこの工程で、赤外線カメラの特性を生かし、維持修繕工事に活用すれば、劣化の個所が適切に診断でき、患部を除去しきることができることが確認されました。

コンクリート表面から鉄筋が露出している場合は錆を除去し、防錆処理を施し、その後に補強鉄筋を配置します。先述の通り、この橋梁床版では脆弱コンクリート層が平均8cmほどあったので、ひび割れ防止補強鉄筋D13を25cm間隔で主筋方向に配置しました(写真⑧)。ここまでの準備を整えてから、ようやく浸透性接着剤を前面に塗布します。

18時頃から浸透性KSプライマー(硬化時間は8時間)の塗布作業に入りました。一般的には0.5kg/m2を塗布するのですが、脆弱層が広範囲なため0.9kg/m2塗布し、20分ほど浸透時間を確保しました(写真⑪)。

そして19時頃からKSボンドを0.9kg/m2で全面(幅3.75m×長さ15m)に塗布しました(写真⑫)。KSボンドの硬化時間は常温で120分程度、外気温はほぼ20℃程度ありましたから、塗布と同時に移動プラント車で早強コンクリートの練り混ぜ作業をはじめました(写真⑬)。移動プラント車の超速硬コンクリート製造プラントを搭載したスーパーコンクリートモービル車の容量が3m3であることから2台用意しました。コンクリートは3時間で圧縮強度24N/mm2を発現できる超速硬セメントを用いたジェットコンクリートとしました。一般的な増厚補強は60mm程度であり、30分程度で終了しますが、今回は平均80mm(最大110mm)程度を補修するため、60分程度かけました。

コンクリートを打ち込み(写真⑭)、表面仕上げ(写真⑮)をしたのち、橋面防水工を施し(写真⑯)、アスファルト舗装を舗設して終了しました。

――EQM-G-K工法とは?

阿部会長 溝橋(ボックスカルバート)においても、ひび割れの発生、漏水、はく落などの老朽化が進行しています。

土被り1.0m以下のボックスカルバートは道路橋として取り扱われ、その補修補強対策が急務となっています。高速道や鉄道の盛土の下を横断する一般道などによく見られることからも分かるように、全国に数多く存在している構造です。そして、平成6年改定の設計基準である25t対応を考慮する必要もあります。そこで、補修補強需要に対し、技術者や作業者の不足が懸念される地方の現場において、工期短縮が可能で簡便な工事でありながらも高い施工品質を確保できる補強工法として開発しました。

ボックスカルバートの補強においては、建築限界を考慮した場合、補強厚を最小限にし、補強効果を向上する対策が必要です。そこで、カルバート表面を補修した後に補強鉄筋に代わるグリッドメタル筋を配置し、界面の接着性を高めるKSボンドを塗布し、リフレモルセットを吹付け増厚する工法としています。
静荷重試験の結果、EQM-G-K工法で補強したボックスカルバートでは、同一寸法の無補強カルバートに対して1.64倍の補強効果が得られていること、補強界面も接着剤の効果により破壊時まで一体性が確保されていることを確認しています。

「この種の本では異例の売れ行き」日台で上梓

こうした協会が扱う工法は、阿部忠名誉教授が長年にわたり大学で研究ならびに実装してきた成果を取り入れているものが多くあり、2021年に阿部名誉教授が上梓した『道路橋床版の健全性評価と長寿命化対策』(建設図書)に収録されている。同書は道路管理者をはじめ、コンサルタントや施工会社などでハンドブックとして重宝されることを想定して、「実務者目線で」(阿部名誉教授)工法の概要や選定条件、留意点、施工手順などを図解や写真をふんだんに使って視覚的にも分かりやすく編集している。加えて、道路橋の維持管理には欠かせない、健全性の評価や、点検、劣化診断などの知識と要諦も同様に図版や写真を多用して分かりやすく章立てして解説している。発行元の建設図書によると、その分かりやすさから「この種の本としては異例の売れ行きとなっている」。

また、阿部名誉教授と学術的な交流がある台湾でも、分かりやすいと好評を得て翻訳された。交流を重ね、出版にもかかわった財団法人中華顧問工程司の周永暉董事長に聞いた。

――技術交流を重ねてこられました。

周董事長 日本大学名誉教授で、一般社団法人日本橋梁メンテナンス協会代表理事の阿部忠教授は、理論と実践経験を纏めた著書『道路橋床版の健全性評価と長寿命化対策』を2021年9月に出版しました。「健全性評価と新素材を用いた補修・補強対策」は、日本の土木分野の各界から高い注目を集めており、中華コンサルティングエンジニアリング部門では、技術の普及と技術面での阿部教授の認可を受けて、台湾の読者にも共有したいと考えています。

阿部名誉教授は日本大学生産工学部において長年にわたり深い研究と産学連携に取り組み、台湾の学界との交流も頻繁に行っており、長年にわたり中日技術工程検討会の副団長および講演者としての活動を行っています。

同時に、2022年12月には中華民国交通学会2022年年次総会および国際学術論文シンポジウムに招待され、「陸上交通と道路施設の維持管理の重要性」をテーマに講演を行いました。 橋梁の長寿命化には橋梁部材の補修・補強対策が鍵であることに鑑み、財団法人中華顧問工程司では、日本の橋梁の維持管理をPRするため、特別に阿部教授の署名入り専門書を台湾版で出版する契約を結びました。

この本は橋梁床版や伸縮継手などの新しい材料技術や補修対策など、国内に先進的なエンジニアリングを提供するものであり、併せて本書を参考に、国内の道路橋の維持管理や設計監理などの関係者にさらなるインスピレーションを与えることでしょう。橋梁サービスの性能と価値を維持するだけでなく、通行者の安全を確保し、我が国の橋梁維持管理を促進することができるという新たなマイルストーンは、高速道路業界の目標になることと期待しています。

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