【ケーススタディ】ゴムジョイントの劣化部だけ安く早く更新
――どのような施工でしたか?
阿部会長 直線形状のゴムジョイント、歯型形状のゴムジョイントの劣化したゴム部の更新です。形状は異なりますが、同じ手順でできます。
――施工手順を直線形状のゴムジョイントからお願いします。
阿部会長 まず旧止水材(弾性ゴム)の撤去です(写真①)。バール、電動ピック、カッターなどで劣化したゴム材を撤去します。接着面は特にゴミ、埃、油分などを含めて丁寧に除去します。
撤去後は、施工部分の清掃をします(写真②)。接着面の下地が荒れている場合は、研磨ブラシなどを使って下地調整を行います。海浜地区など施工個所に塩分がある場合は、接着面の水洗いを十分に行います。
次にバックアップ材を設置します(写真③)。プライマーを塗布後暫く放置し、乾燥を確認してからバックアップ材を設置します。SMシール材充填の仕上げ高を考慮した位置に順次設置しまう。隙間が生じる場合は変成シリコン系シーリング材を使用して隙間を防ぎます。
そしてSMシール材の混合と充填をします(写真④)。SMシール主剤と硬化剤を混合攪拌し、その後添加剤を加え十分に攪拌します。容器を傾けても材料が流れないことを確認してから充填を行い、ヘラ・コテなどで平滑に仕上げ、SMシール材の充填を完了します(写真⑤)。施工時期と桁伸縮の関係を考慮して、仕上げ高さに注意します。特に冬季施工の場合は路面高さより低く仕上げます。
表面保護の石粉を散布し、完成です(写真⑥)。SMシール材を充填し仕上げの後、一定時間を経たら表面保護のため石粉または石灰を散布します。施工時の気温により変動しますが、施工後1時間~3時間が交通開放の目安です。
――歯型形状のゴムジョイントでは。
阿部会長 手順は一緒です。写真のように①遊間部の損傷修繕を実施するとともに老朽化したゴムジョイントを撤去します。このとき、伸縮装置の内側のゴム材および不純物を完全に撤去します。また防水層がある場合はこれも撤去します。
次に②遊間部にバックアップ材を挿入し、③遊間部側面にプライマーを塗布します。同時にSMシール材の混合し、遊間部に充填します。
④充填終了を養生して終了します。
また地覆部も同様に施工できます(写真)。
【ケーススタディ】土砂化・再劣化の床版にEQMを施工
――まず、橋梁の状態から教えてください。
阿部会長 この橋梁は福島県内の積雪寒冷地に架かる4径間単純RCT橋で、橋長は58m、幅員7.5mです。建設は1964年で、維持管理のなかで調整モルタルの土砂化により、数回にわたって維持修繕が行われてきました(写真①)。融雪剤散布による塩害と、凍害の複合劣化により、再劣化が進んでいる状態です。
補強工事を提案されたのは協会会員である小野工業所であり、工事も実施されております。当初計画ではアスファルト舗装の打ち換えと防水層の設置が計画されていました。
そこで工事前調査に進んだところ、床版コンクリートの脆弱層が広範囲にわたっていることやハツリ作業に伴って発生する微細なひび割れや既存のひび割れの補修が必要となること、打ち継ぎコンクリートと界面の付着性の確保が必要なことおよび「東北地方整備局設計施工マニュアル」に接着剤の必要性が記載されていることなどからEQM工法の提案がなされ、工法開発にあたった私もこの現場に関わることになりました。
――工事の手順を
阿部会長 私のこれまでの研究と、現場での実橋への実装の経過から、脆弱層のコンクリートを完全に除去することが再劣化を阻止して長寿命化につながることはわかっていましたので、脆弱した調整コンクリート部を撤去して元の状態に戻す検討からはじめました。
コンクリートの浮きを放置すると雨水の浸透により劣化の進展速度が速まるとの知見を得ていますので、この現場では全面ハツリ作業が終了したのちに、テストハンマーで叩き、浮きの個所や脆弱個所を診断、赤外線サーモグラフィーでも確認し、患部の除去を徹底しました。
RC床版コンクリート上面の脆弱した調整コンクリートの深度は平均8cm、最大11cmに及んでいました。この劣化した調整コンクリート部の脆弱層をブレーカーで除去したのち、テストハンマーによる打音法で診断、異音の発生個所、つまり、剥離や浮きの脆弱個所をマーキングすると、車両が伸縮継手を通過した最初のスパン14.6m範囲に浮きが見られました(写真③)。合わせて、赤外線サーモグラフィー法で診断すると、橋面の黒い個所がアスファルト損傷の著しい個所で(写真④)、叩きでマーキングした個所と一致しています。
そこで、ブレーカーやチッパーなどで脆弱個所を全面撤去し(写真⑤)、再度、叩き点検と赤外線サーモグラフィー法で診断(写真⑧)、黄色で異常個所が全面改善されていることを確認しました(写真⑧)。
一般的にはテストハンマーによる叩きで浮きの個所を確認していますが、今回のこの工程で、赤外線カメラの特性を生かし、維持修繕工事に活用すれば、劣化の個所が適切に診断でき、患部を除去しきることができることが確認されました。
コンクリート表面から鉄筋が露出している場合は錆を除去し、防錆処理を施し、その後に補強鉄筋を配置します。先述の通り、この橋梁床版では脆弱コンクリート層が平均8cmほどあったので、ひび割れ防止補強鉄筋D13を25cm間隔で主筋方向に配置しました(写真⑧)。ここまでの準備を整えてから、ようやく浸透性接着剤を前面に塗布します。
18時頃から浸透性KSプライマー(硬化時間は8時間)の塗布作業に入りました。一般的には0.5kg/m2を塗布するのですが、脆弱層が広範囲なため0.9kg/m2塗布し、20分ほど浸透時間を確保しました(写真⑪)。
そして19時頃からKSボンドを0.9kg/m2で全面(幅3.75m×長さ15m)に塗布しました(写真⑫)。KSボンドの硬化時間は常温で120分程度、外気温はほぼ20℃程度ありましたから、塗布と同時に移動プラント車で早強コンクリートの練り混ぜ作業をはじめました(写真⑬)。移動プラント車の超速硬コンクリート製造プラントを搭載したスーパーコンクリートモービル車の容量が3m3であることから2台用意しました。コンクリートは3時間で圧縮強度24N/mm2を発現できる超速硬セメントを用いたジェットコンクリートとしました。一般的な増厚補強は60mm程度であり、30分程度で終了しますが、今回は平均80mm(最大110mm)程度を補修するため、60分程度かけました。
コンクリートを打ち込み(写真⑭)、表面仕上げ(写真⑮)をしたのち、橋面防水工を施し(写真⑯)、アスファルト舗装を舗設して終了しました。
――EQM-G-K工法とは?
阿部会長 溝橋(ボックスカルバート)においても、ひび割れの発生、漏水、はく落などの老朽化が進行しています。
土被り1.0m以下のボックスカルバートは道路橋として取り扱われ、その補修補強対策が急務となっています。高速道や鉄道の盛土の下を横断する一般道などによく見られることからも分かるように、全国に数多く存在している構造です。そして、平成6年改定の設計基準である25t対応を考慮する必要もあります。そこで、補修補強需要に対し、技術者や作業者の不足が懸念される地方の現場において、工期短縮が可能で簡便な工事でありながらも高い施工品質を確保できる補強工法として開発しました。
ボックスカルバートの補強においては、建築限界を考慮した場合、補強厚を最小限にし、補強効果を向上する対策が必要です。そこで、カルバート表面を補修した後に補強鉄筋に代わるグリッドメタル筋を配置し、界面の接着性を高めるKSボンドを塗布し、リフレモルセットを吹付け増厚する工法としています。
静荷重試験の結果、EQM-G-K工法で補強したボックスカルバートでは、同一寸法の無補強カルバートに対して1.64倍の補強効果が得られていること、補強界面も接着剤の効果により破壊時まで一体性が確保されていることを確認しています。
「この種の本では異例の売れ行き」日台で上梓
こうした協会が扱う工法は、阿部忠名誉教授が長年にわたり大学で研究ならびに実装してきた成果を取り入れているものが多くあり、2021年に阿部名誉教授が上梓した『道路橋床版の健全性評価と長寿命化対策』(建設図書)に収録されている。同書は道路管理者をはじめ、コンサルタントや施工会社などでハンドブックとして重宝されることを想定して、「実務者目線で」(阿部名誉教授)工法の概要や選定条件、留意点、施工手順などを図解や写真をふんだんに使って視覚的にも分かりやすく編集している。加えて、道路橋の維持管理には欠かせない、健全性の評価や、点検、劣化診断などの知識と要諦も同様に図版や写真を多用して分かりやすく章立てして解説している。発行元の建設図書によると、その分かりやすさから「この種の本としては異例の売れ行きとなっている」。
また、阿部名誉教授と学術的な交流がある台湾でも、分かりやすいと好評を得て翻訳された。交流を重ね、出版にもかかわった財団法人中華顧問工程司の周永暉董事長に聞いた。
――技術交流を重ねてこられました。
周董事長 日本大学名誉教授で、一般社団法人日本橋梁メンテナンス協会代表理事の阿部忠教授は、理論と実践経験を纏めた著書『道路橋床版の健全性評価と長寿命化対策』を2021年9月に出版しました。「健全性評価と新素材を用いた補修・補強対策」は、日本の土木分野の各界から高い注目を集めており、中華コンサルティングエンジニアリング部門では、技術の普及と技術面での阿部教授の認可を受けて、台湾の読者にも共有したいと考えています。
阿部名誉教授は日本大学生産工学部において長年にわたり深い研究と産学連携に取り組み、台湾の学界との交流も頻繁に行っており、長年にわたり中日技術工程検討会の副団長および講演者としての活動を行っています。
同時に、2022年12月には中華民国交通学会2022年年次総会および国際学術論文シンポジウムに招待され、「陸上交通と道路施設の維持管理の重要性」をテーマに講演を行いました。 橋梁の長寿命化には橋梁部材の補修・補強対策が鍵であることに鑑み、財団法人中華顧問工程司では、日本の橋梁の維持管理をPRするため、特別に阿部教授の署名入り専門書を台湾版で出版する契約を結びました。
この本は橋梁床版や伸縮継手などの新しい材料技術や補修対策など、国内に先進的なエンジニアリングを提供するものであり、併せて本書を参考に、国内の道路橋の維持管理や設計監理などの関係者にさらなるインスピレーションを与えることでしょう。橋梁サービスの性能と価値を維持するだけでなく、通行者の安全を確保し、我が国の橋梁維持管理を促進することができるという新たなマイルストーンは、高速道路業界の目標になることと期待しています。
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