集合写真

「現場を見る目」を養うならアナログも大事

働き方改革への対応迫る、建設現場のリアルとは

国土交通省関東地方整備局利根川上流河川事務所発注のR4利根川右岸栗橋北堤防強化工事を請け負う小川工業株式会社(本社:埼玉県行田市)の現場を取材する機会を得た。

この現場は、いわゆるインフラDX、働き方改革(週休2日や長時間労働の是正など)に積極的に取り組んでいる現場で、女性技術者も2名いる。

インフラDXはともかく、働き方改革への対応は、待ったなしの状況になりつつある。実際の現場はどうなっているのか。リアルなところを聞いてきた。

新井 将明さん 小川工業株式会社 R4利根川右岸栗橋北堤防強化工事 現場代理人

関根 綾香さん 小川工業株式会社 R4利根川右岸栗橋北堤防強化工事

小林 智さん 小川工業株式会社 管理本部DX事務局

地域のみなさんのためにやるしかない(笑)

現場の状況(2023年6月下旬時点)。現場近くには、道路を挟んで住宅などが密集している。

――堤防強化工事ということですが、こちらはどのような現場ですか?

新井さん 盛土工事がメインの現場ですが、道路工事などいろいろな工種がある現場です。

――こちらの現場の工期はどうなっていますか?

新井さん 2023年4月から2024年3月末までの予定です。

――工事規模の割には工期がタイトな印象ですが、どうですか?

新井さん 地域のみなさんのためにやるしかないです(笑)。工期については発注者とも協議をしています。この現場はこれまで、若手を中心に7名の社員で回してきましたが、7月から1名増やしています。

――進捗はどうですか?

新井さん 土工に関しては、乗り込みが少し遅れましたが、予定通りの進捗になっています。

コミュニケーション上手な女性社員がいるので、助かってる

――現場近くに神社がありますね。

関根さん 震度計や騒音計を設置して、ご迷惑がかからないように注意しながら、作業を行っているところです。たまに参拝したりしながら、神主さんやご家族とも良好なコミュニケーションをとるよう努めています。

新井さん 関根は、過去に数回近隣で受注した工事に携わってきているので、地域住民の方々とすっかり顔見知りになっています。地域の方とのコミュニケーション担当として活躍してもらっています。

関根が優しい雰囲気でしっかりコミュニケーションをとってくれているので、私はだいぶ助かっています(笑)。

ICT施工はコマツに一元発注なので、トラブルが少ない

稼働中のICTバックホウ

――いわゆるICT施工として取り組んでいることはありますか?

関根さん ICT施工としては、河川土工の盛土と法面整形の部分で取り組むことになっています。法面整形はまだですが、盛土はすでにICTブルドーザーを使って施工を進めているところです。起工測量ではドローンを使用しました。

――ICT施工は自前でやっているのですか?

関根さん 会社としてレーザースキャナなどは自己保有しているのですが、この現場のICT施工については、外注でやっています。

新井さん 当社では、2、3年前からICT施工の内製化に動いています。レーザスキャナのほか、ICTバックホウも保有しているのですが、まだ限られた台数しかありません。先に使用している現場があると、他の現場では使えないので、外注、リースする必要があるのが現状です。当工事ではICTバックホウ1台のほか、ICTブルドーザー2台をリースしています。

――ICT施工システムの使い勝手はどうですか?

新井さん 外注先が一元的に管理しているシステムなので、いろいろな会社のものを組み合わせてやるのに比べて、トラブルが少ないです。なにかトラブルがあっても、サービス対応が素早いです。

関根さん オペレーターさんからは、以前から慣れ親しんでいる機械なので、「使いやすい」という声が上がっています。

――コスト的にはどんな感じですか?

新井さん 当然、測量費やICT施工機については相見積もりをとって、チェックした上でやっていますが、天候不順や手待ちにより、予定よりもリース期間が延びてしまうことがありますね。3Dに関わる測量費やデータ作成費に関しては、見積りを設計に反映できているので問題はありません。

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アナログにはアナログの良さがある

――過去にICT施工の経験はお持ちなのですか?

新井さん 2014年からほぼ毎年度ICT施工に携わっています。

――けっこう初期の段階から携わってきたんですね。

新井さん そうですね。河川土工や道路土工の盛土や掘削を主に、地盤改良機のガイダンスやGNSSを利用したICT施工にも携わってきました。

――ICT施工のメリットについてどう感じていますか?

新井さん まず、安全面に関しては、飛躍的に向上したと感じています。あとは省人化にも効果があります。たとえば、従来施工だと、重機で作業するとき、丁張り設置や出来形、品質管理のため、現場担当者や手元作業員が常駐していましたが、ICT施工では、基本的にオペレーターさんだけで事足りてしまいます。

ただ、自然相手の土木工事では、急な出水や湧水などにより、施工途中での仮設計画等に変更が生じたりすることがあります。ICT施工では、最初に設計データを作成し、これを重機に取り入れ施工するので、急な変更対応には時間を要してしまうことが多いです。あらかじめ完成形を見据えた上で、現地との細かい取り合いや、施工段階を考慮した計画ができれば、非常に有用であると感じています。

あとは、アナログにはアナログの良さがあると思っています。たとえば、丁張りには丁張りの良さがあるということです。図面を見ながら現場で計算したり、いつどこに設置するべきなのかとか、設置したものが設計と整合しているのかといった、考える能力や段取りの重要性、施工前後で確認を行うという「現場を見る目」というものが養われるからです。今の若い社員たちは、デジタル機器を用いた測量ばかりやってきているので、そういう目もちゃんと養われていってほしいと感じています。

安全に関する書類は削減すべきではない

現場に設置された看板

――いわゆる働き方改革への対応はいかがですか?

小林さん 弊社では、2022年7月にDX事務局を立ち上げており、現場も含めた会社全体としての働き方改革に向け、いろいろなことに取り組んでいるところです。私自身、9年間ほど現場で働いたことがあるのですが、その経験を踏まえつつ、会社としてなにをすれば現場の支援ができるのか、日々考えているところです。すでに実施している取り組みとしては、建設ディレクターの導入、分業体制の構築、クラウド環境整備などがあります。

新井さん この工事は週休2日制適用工事で発注されており、もちろん現場では週2日以上の休暇がとれています。また、本社のサポートもあって、現場での書類づくりは以前に比べれば削減できてきました。ただ、安全に関する書類に関しては、なかなか削減できないのが現状ですし、削減すべきではないと思っています。この部分をどう効率化していくかについては、会社と相談しながら模索中です。

とは言え、来年度からいわゆる残業規制が地域建設業にも適用されるので、これに先駆け当社では、今年度から規制に合わせた働き方を現場で試行しているところです。社員を1人増やしてもらったのも、そのためでもあります。

――「月8休」に向けた取り組みはありますか?

小林さん 今の時点では、週休2日に向け、現場でどれだけの時間働いているかのデータをもとに、理想の分業体制を模索しているところです。その上で、残業を何時間減らせば良いか、会社としての目標値を設定することにしています。

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