東京都・青梅市の「ゼロカーボン賃貸住宅」の第1号物件

東京都・青梅市の「ゼロカーボン賃貸住宅」の第1号物件

普及のカギは「EMS」にあり。東京都・青梅市に「ゼロカーボン賃貸集合住宅」の第1号物件が完成【大東建託】

大東建託株式会社は、東京都・青梅市内でLCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)の基準を満たし、エネルギーマネジメントシステム(EMS)を備えた「ゼロカーボン賃貸住宅」の第1号物件を完成した。現在、同社が推進中の「ニューライズLCCM全国普及プロジェクト」が国土交通省の2023年度「サステナブル建築物等先導事業」に採択されるなど、LCCM住宅の普及に追い風が吹いている。

LCCMとは、建物の建築時、使用時、解体時のCO2排出量の削減と、太陽光発電の創エネルギーによるCO2排出量の削減効果で建物のライフサイクルでCO2の収支をマイナスにする住宅を指す。2022年10月には初のLCCM規格化商品「ニューライズLCCM」の販売を開始するなど、個人にも社会にもメリットの大きい次世代の賃貸住宅の普及に着々と動く。

大東建託はなぜ他社に先駆けてLCCM賃貸集合住宅の商品化を可能にしたのか。今後の普及のカギはどこにあるのか。また、LCCMについてどのようなグランドデザインを描いているのだろうか。今回、「日本でLCCM賃貸集合住宅を普及させる意義とは?」と題したプレスセミナーを開催し、同社技術開発部の大久保孝洋次長がLCCMの取組みや、達成するための工夫や今後の動向について語った。

6つの複合的な取組みでLCCM賃貸集合住宅を実現

プレスセミナーで講師をつとめた大久保氏

国内の脱炭素化の推進の動きは、菅義偉総理(当時)が2020年10月の臨時国会で、『我が国は、2050 年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことをここに宣言いたします』との所信表明演説からスタート。その後、国は「地球温暖化対策計画」「エネルギー基本計画」などを改定した。

「第6次エネルギー基本計画」では、2030年度以降に新築する住宅・建築物では、ZEH・ZEB基準相当の省エネ性能確保を目指すことを明記している。一方、建築物における省エネ性能の基準および規制を定めた「建築物省エネ法」は近年改定を続けているが、ポイントは2025年以降、すべての建物に省エネ基準適合が義務化する点にある。

こうした背景を受け、注目を集めているのが住宅環境性能の最終目標ともいえる「LCCM住宅」だ。大東建託では3年間の技術開発と研究期間を経て、集合住宅でLCCM水準を満たしたLCCM賃貸集合住宅第1号棟を2021年6月に埼玉県・草加市で完成した。

とはいえ、完成までは容易ではなかった。県立広島大学環境科学科の小林謙介准教授と連携し、共同研究を実施。「運用時エネルギー消費量削減(約1%)」「エアコンの耐用年数を10年から15年に」「太陽光発電システムの効率のアップ」「太陽光発電システムの増設」「製材等のバイオマス乾燥」「エアコン効率向上」の6点を個別に取組むだけではいずれも未達になることが分かった。しかし一方で、この6点を複合的に実施することで実現できることも明らかになった。

LCCM賃貸集合住宅達成可能性の検討

大久保氏は「中でも、太陽光発電システムの増設(84枚から120枚へ)が最も効果が高く、太陽光をより多く搭載することが達成のポイントだった。埼玉県・草加市に建設された初のLCCM賃貸集合住宅では、屋根をはみ伸ばして、2列ほど太陽光を増やして達成した経緯がある」と解説する。

埼玉県・草加市に建設された初の「LCCM賃貸集合住宅」

このほか、建築時に木材を乾燥するにあたり、重油ではなくバイオマス燃料を用いて乾燥を行った構造材を使用。また、CO2排出量が少なくリサイクル率の高い資材を選定するほか、高耐久資材の開発により、修繕サイクルの長期化を図った。使用時では断熱仕様を強化、天井・床・外壁の仕様を向上することで、熱の損失を防ぎエネルギーコスト軽減を図った。

さらに、屋根を片流れ形状とし、太陽光パネルの搭載容量を最大限に増やした。この太陽光パネルで創出した電力を蓄電、自家消費率を向上し、停電・災害時には充電した電力を外部自立型コンセントで利用でき、地域防災にも貢献できる。なお、解体時には産業廃棄物の削減を図り、解体時に排出するリサイクルの促進につとめるなど、仕様にさまざまな工夫を施すことにより、LCCM賃貸集合住宅を実現した。

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「LCCM基準」を満たす賃貸集合住宅を規格化

一見すると、LCCM賃貸集合住宅は従来の賃貸集合住宅と比較して莫大な投資が必要だと思われそうだが、実はそうではない。大東建託は2010年から賃貸住宅業界に先駆けて、「Low-E複層ガラスの標準装備」「多層構造の外壁」などの断熱強化、2015年から「LED照明の標準導入」「高効率給湯機の標準導入」による省エネ強化をしてきた。

「省エネ機器は当時、他社も導入していましたが、オプション扱いだった。大東建託では『オプションではなかなか普及しない。また、断熱性能を向上しても家賃は容易に上げられない事業性を考えると、オーナーはオプションで搭載しないのではないか』と考え、一連の標準搭載につながった。こうした背景から、初のLCCM賃貸集合住宅でも大幅なコストアップにはならなかった」(大久保氏)

賃貸集合住宅のLCCM達成検証については、(一財)住宅・建築SDGs推進センターが公開している「戸建LCCM住宅適合判定ツール」を使った検証で「適合」を確認。建物のライフサイクル全体を通した環境負荷の定量的な把握(LCA)では、「排出量<抑制量」を確認した。

この草加市の1号棟の完成を機に、翌年の2022年に同センターが「賃貸集合住宅用のCO2算定ツール」をリリース。LCCM賃貸集合住宅の普及課題であったCO2算定の手間が省けるため、量産が可能となった。こうした追い風を受け、大東建託は建築から解体までの建物のライフサイクルのCO2収支をマイナスにする「LCCM基準」を満たす賃貸集合住宅の新商品「NEW RiSE LCCM(ニューライズ エル・シー・シー・エム)」を発売した。LCCM基準を満たす規格型の賃貸集合住宅商品は国内初だ。

「LCCM基準」を満たす賃貸集合住宅の新商品「NEW RiSE LCCM(ニューライズ エル・シー・シー・エム)」を商品規格化

2022年度「サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導プロジェクト2022)」に、2023年度「第1回サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」にそれぞれ採択され、補助金を得ている。補助金を活用し、価格は従来のZEH仕様の商品と同程度となるように設定する一方、オーナーに支払う屋根借り賃料が多いため、収益性はZEHを上回る。

大東建託はこうしたLCCMの積み重ねを経て、「NEW RiSE LCCM」を東京都・青梅市に「ゼロカーボンハウス青梅」として完成した。本物件は、エネルギーマネジメントシステム(EMS)を備えた次世代型であり、CO2排出が実際にゼロの建物であるゼロカーボン賃貸住宅。LCCM賃貸集合住宅でありつつ、太陽光発電設備、蓄電池、断熱強化、おひさまエコキュート、オール電化、電気自動車(EV)の充電器、V2H(EVに蓄電した電気を建物放電する役割を持つ充電器)を用いることにより、再エネ電力を100%とし、創エネ電力の自給自足を目指す。建物に導入したEMSが電力の供給、蓄電、調達を自動制御により管理・調整し、効率的な電力管理を実現する。

また、停電時にもEMS自動制御により、太陽光発電設備とV2Hを稼働させることで各住居に設置した非常用コンセントへ電気供給が可能となる。出力制限はあるが、冷蔵庫や洗濯機などの家電製品を継続的に使用できる。

LCCM住宅の普及のカギは「EMS」にあり

今回のゼロカーボンハウス青梅では「太陽光発電電力で、できるだけオンサイト消費」「蓄電設備とEMSによる最適な電力消費をマネージメント」「それでも不足する電力は、再エネ電力を調達」などの措置により、「ゼロカーボンハウス」を実現した。

開発の背景では、電力代の高騰、菅総理(当時)が2021年に「2035年ガソリン車の新車販売終了」を目指すことを宣言したこと、省エネを促進するにあたり、建物の断熱性強化や冷暖房効率の向上、照明などの機器の効率化を行うとともに、EV蓄電を含めたエネルギー管理が重要との観点から、創った電気を賢く効率的に管理するEMSの導入が大きなポイントにあったという。

創った電気を賢く効率的に管理するエネルギーマネジメントを導入

普及していくための課題は「EMS」にあると大久保氏はいう。「これがないと、様々なものが機能しないが、まだ量産体制には入っていない。今後体制を整備していけば量産は可能だが、そのためには事業性が必要なため、EVのニーズ、LCCM住宅の認知度の向上が必要となる。まずはこの建物でデータを取得し、それを踏まえたうえで第2弾としてのトライアルはありえる」(大久保氏)

また、質疑応答で今後の賃貸集合住宅のありようについて一つの示唆があった。「建物の長寿命化によって脱炭素に寄与していく潮流は世界的な流れと言える。スクラップアンドビルドではなく一つの建物を長く使い続けていく取組みは、当社でも行っていく。ただし、現状は30年の修繕補償と35年の一括借り上げのシステムで、これを見直す段階には来ていない。欧州であれば石造りが主流で長寿命建築が多く、アメリカでも木造が中心でも100年近く使用することが当たり前となっている。日本は湿気も多く、建物に対するダメージも強いが、建物を供給する建設会社としては長寿命化を目指すべきだ」(大久保氏)

大東建託はLCCM賃貸集合住宅を広く普及することで、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していく考えだ。

ゼロカーボンハウス青梅の概要

  • 建設地:東京都青梅市
  • 建物名称:ゼロカーボンハウス青梅
  • 完成日:2023年9月23日
  • 主要構造:木造2×4工法
  • 建物階数:地上2階建て6世帯
  • 延床面積:322.12m2
  • 建築面積:169.77m2
  • 太陽光発電量:3,400kWh
  • 省エネ性能:BEI042
  • クレイ型蓄電池:5kWh×3基
  • EV蓄電容量:40kWh
  • その他:V2H、EMS、EV コンセント、デジタルサイネージ導入
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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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