YKK AP株式会社(東京都千代田区)はこのほど、都内で「記者懇談会」を開催した。その席上、魚津彰代表取締役社長は、「昨年までは副社長海外担当でその担当範囲で会社の業績に貢献してきた。社長就任後はすべての領域で、精通しなければならない。様々な課題が生じた際、会長からも助言を頂くほか、各役員と相談するなど全員で会社を運営している」と集団運営のあり方について述べた。
また、「最近では次期リーダーと車座で集会を開き、なるべく若手・中堅の意見を聞くようにつとめている。そこで学んだことは2つある。働きやすい環境をつくるには早急に取り組まなければならないことだ。2番目には毎年の投資計画では、新商品を発売する際の投資は受け入れられるが施設の保全や老朽対策について予算がないといわれて若手の意見が通らない。そこで予算編成については私も積極的に入り、やらなければならないことは計画外でも実施する必要があると考える」と若手・中堅との意見登用や働きやすい環境整備のための現状を解説した。その後、魚津社長は方針説明に移った。その内容をリポートする。
2023年度の売上高は5449億円を推定
プレスの質問に積極的に答える魚津社長(左から2番目)
2023年度の業績見通しでは、国内の売上高は2022年度実績に続いて5000億円を超え、5449億円(計画比99%・前年比107%)と推定。海外売上高も計画比103%・前年比104%に達する見込みだ。営業利益は国内が前年比で83億円増加、海外の8億円などと合わせると98億円増の276億円を見込む。
YKK AP / 出典:YKK AP 記者懇談会資料
魚津社長はこの好調な業績を受けて、「この2年間で二度にわたる住宅の価格改定を行い、その効果がこの4月から出てきた。さらに3省(国土交通省・経済産業省・環境省)の補助金事業が後押しとなり、この数字が出た。これまで堀社長(現会長)時代に進めてきた持続的成長により、増収増益も単年でいえば達成する見込みだ」と胸を張る。
高単価商品の売上が好調
次にそれぞれのトピックスの解説に移った。国内事業を詳細に見ると、住宅事業の売上高は前年比114%と好調、うち新築は同105%で、特に高断熱化、高付加価値化という高単価商品の売上が伸長し、樹脂窓の売上高は同123%、アルミ樹脂複合窓は同111%と大きく伸びる。
増改築では、補助事業に対応した断熱リフォーム商品の販売強化を進めたところ、売上高は同136%の達成が見込まれ、特に樹脂内窓の「プラマードU」が同256%、外窓の「マドリモ」が同173%と大幅に伸長。今後のリフォーム事業の動向に注目が集まる結果となった。
政府は2023年11月に、「断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業(先進的窓リノベ2024事業)」を閣議決定した。予算は1350億円と増額となり、魚津社長も補助金に対して期待を寄せる。
エクステリア事業は同101%で着地と想定。新築戸建ての需要動向に左右されるウォールエクステリアは苦しい状況が続く。
増改築分野も136%と好調 / 出典:YKK AP 記者懇談会資料
「コロナ禍以降、お施主様の住まい方が変化してきた。住宅でもクローズ化し、高さのあるフェンスを付けて、外からの視線を遮りながら、昼や夜の風景を楽しむ傾向がある」(魚津社長)と分析。カーポートは同106%、門扉・フェンスは同102%と推定した。
ビル事業は首都圏や改装提案を強化する。新築は、床面積が約92%で推移していく中で、同102%を見込み、改装は築30年以上のマンション改修と長寿命化改修などの好調により同108%の達成を見込む。
樹脂窓の生産ラインを増強で1.4倍に向上
方針説明を行う魚津社長
国内の生産強化では滑川製造所に約21億円を投資し、樹脂窓の「APW430」の生産ラインを増強。「ハウスメーカーなどでは断熱等級6、7の仕様が増加している。この増強により、全国向けの生産能力が前年度比約1.4倍にアップした」(魚津社長)
「APW430」に代表されるように、トリプルガラスの引き合いは今後増加すると思われる。問題になるのが窓自体の重量化だ。そこで施工性での開発のアプローチは重要な視点といえる。
「商品の軽量化や施工性の向上という2点の観点がある。出回っている商品の中には真空ガラスがあり、トリプルガラスと同等な性能を持つ。アルミと鉄を比較すると当然アルミが軽い。こうした軽い建材を組合わせ、断熱性能を確保することを同時に考える点が技術のテーマである。施工性は運搬方法、組立工法を含めていかに省施工するかも検討中である」(水上修一取締役副社長開発・技術担当)
納期の遅れが出た内窓の「プラマードU」は、全国で生産設備を増設し、生産能力を前年度比では約3倍アップした。さらに約20億円の投資により、2024年2月には栃木工場、九州製造所、同年3月には兵庫工場の生産ラインを増設する予定で、前年度比約4.1倍の生産能力向上を見込む。ビル首都圏製造供給強化では、2023年7月に操業開始した埼玉工場新建屋(投資額約58億円)で、2024年度の首都圏に対する生産能力を前年度比で約1.3倍に引き上げる考えだ。
また、スマートファクトリー(※センサや設備を含めた工場内のあらゆる機器をインターネットに接続するなどの先進的な工場のことを指す)では、海外関係会社である北米テクノロジーズ社が2023年7月にデジタル分野における研究・開発拠点として「xTech Lab(クロステックラボ)」を開設、デジタルツイン、AIカメラ、5G等の技術開発強化を進行中だ。
海外事業の売上高は、北米でコマーシャルが同103%、レジデンシャルが同107%となり、トータルで106%に着地する見込み。納期などのサービス改善施策により西部・中西部・中南部で拡販。レジデンシャルでは、2024年1月に樹脂窓の新工場の開設もあり受注を強化した。
中国では中級市場での拡販や改装事業の強化を受け同110%、台湾では集合住宅市場の拡販や中南部地域の新規チャネル開拓により同115%、インドネシアはノックダウン商品の拡販、新規チャネルの開拓により108%となるなど好調が見込まれる。
グローバルでのカーテンウォール事業強化へ
YKK APは2023年4月にグローバルCW(カーテンウォール)本部を立ち上げている。海外事業での大きな事業戦略では、アジア地域での事業拡大と欧州などの新規エリアへの進出、グローバルでの競争力の強化や製造供給体制の最適化をグラウンドデザインとして描いている。2023年12月にはタイ最大手のCWメーカー「YHSインターナショナル社」(YHSI社)とその製造会社の「サイアムメタル社」(SM社)を子会社化。同社は高い技術力でタイ国内外の大型物件を数多く受注するなどの実績を持つ。
グローバルCW製造拠点では、日本の滑川製造所(生産能力:約10万m2/年)、カナダのレイクショア工場(同:約12万m2/年)、中国の蘇州工場(同:約20万m2/年)、そして今回のタイのYHSI社・SM社(同:約18万m2/年)が第4のグローバルCW製造拠点となり、年間60万m2の生産能力有することになり、アジア地域での事業拡大とグローバルでの競争力の強化を目指す。
グローバルCW事業の全容 / 出典:YKK AP 記者懇談会資料
2024年度の計画としては、10月に富山県黒部市の黒部製造所内に「YKK AP30ビル」と「YKK AP技術館」を開設する。「YKK AP30ビル」は、1990年のYKKアーキテクチュラルプロダクツ設立から30年の節目となる2020年に建設計画をスタート。自然環境と社員の健康に配慮した「杜の中のオフィス」をテーマとする社屋だ。「YKK AP技術館」は、建材事業の創業の土地・建物である1959年竣工のアルミ押出工場を断熱改修リノベーションし、モノづくりと技術への挑戦をたどる展示施設。再生可能エネルギーの導入や工場排熱エネルギーの再利用を行う。
YKK AP R&Dセンター東京を開設
魚津社長は、4月に社長に就任した際に「YKK APビジョン“Evolution2030”」を策定した。その際、「Architectural Productsの進化で、世界のリーディングカンパニーへ」をあるべき姿とした。地球環境への貢献を目指し、太陽光発電の導入を前年比約1.8倍へと持ち上げる。新たな発電設備ではトライアルで黒部越湖製造所に2023年12月から風力発電、黒部製造所に2024年3月から小水力発電を導入し、このトライアルの検証で今後の水平展開を検討すると語る。
YKK APビジョン”Evolution 2030″ / 出典:YKK AP 記者懇談会資料
さらに、富山資源循環モデルに参画し富山大学と連携、アルミリサイクル100%に向けて技術を確立する。新商品では、2024年度に住宅用のトリプルガラスの高性能木製窓やビルも高断熱化を図るため、アルミ樹脂複合窓も発売予定だ。
また、グローバル視点での技術・研究開発を担う「技術研究本部」を2023年3月に新設したが、さらに世界を見据えた新たな商品・技術の開発拠点として、約60名を配置する「YKK AP R&Dセンター東京」を設立した。
魚津社長は、同施設の設置意図を「黒部荻生製造所内にはすでに450名体制でR&Dセンターを設置しているが、その中だけでは入ってこない情報がある。先を見据えては海外含めて新規技術の情報を取得したい場合は、東京にもあったほうがいい。また研究者も東京と黒部の入れ替え制で研究員を配置したい」と語るとともに、水上取締役副社長は「黒部のR&Dセンターは、商品開発が主体でR&Dセンター東京は、新材料や新技術の調査研究が主体になる。そこで生まれたタネの商品化を黒部のR&Dセンターで実施する」とそれぞれの施設のすみわけについて説明した。
また、働きやすい職場環境づくりへの投資としては、2023年度の昇給率を約6.5%に、2024年度初任給を平均約10%アップする見込みだ。
今回の記者懇談会では網羅的な全体戦略について魚津社長を始めとし、各役員が解説した。今、少子高齢化や人口減少が進展していく中で、各企業の戦略で重要な点は、グローバル化が焦点になる。市場を世界に求めざるを得ないのだ。そこで今回、タイ最大手のCWメーカーYHSI社とその製造会社のSM社を子会社化し、アジアの成長を取り込む次の一手といえるだろう。今後のYKK APのグローバル戦略におけるさらなる成長戦略に期待したい。