中層建築物向けユニタイズドカーテンウォール「SYSTEMA 81u」を紹介する、YKK APの魚津彰社長

中層建築物向けユニタイズドカーテンウォール「SYSTEMA 81u」を紹介する、YKK APの魚津彰社長

【YKK AP】2030年までにビルの高断熱窓比率50%へ

YKK AP株式会社(東京都千代田区)はこのほど2商品の新発売を発表した。4月30日に防火設備にも対応する中層建築物向けユニタイズドカーテンウォール「SYSTEMA 81u」を発売する。建設現場での安定した製品品質の実現、現場作業の簡略化による省人化、無足場施工による工期短縮、屋外高所作業縮減による安全確保などの課題解決に貢献するユニット工法で展開する。

また、9⽉30⽇に中⾼層建築物に対応するアルミ樹脂複合窓「EXIMA 55」を発売予定と明らかにした。カーボンニュートラル実現に向け、2023年には共同住宅などの断熱等性能等級6・7が創設され、2030年には省エネ基準がZEH⽔準に引き上げられる予定だ。2050年には既存住宅も含むストック平均でZEH⽔準を⽬指す⽅針が⽰されるなど、建築物の⾼断熱化に向けた取組みが進む。これらのニーズに対応するため、⾮⽊造⽤基幹商品「EXIMA」シリーズに、新たに中⾼層建築物にも対応するアルミ樹脂複合窓をラインアップした。

記者会見に出席した同社の魚津彰社長は、「これまで住宅事業で窓の高断熱化を推進してきたが、ビル事業でも窓の高断熱化の舵を取る」と意欲を示し、2030年までにビルの高断熱窓比率50%を目標に掲げる方針を示した。住宅事業での高断熱化は、2023年度では複合と樹脂で76%、2024年度は80%超を目指しているが、これまでビル事業の高断熱化は基準がなく、複合窓、樹脂窓などを含めて2030年に50%と設定した。

中層建築物にユニタイズドカーテンウォール発売

「SYSTEMA 81u」外観イメージ

「SYSTEMA 81u」について、YKK AP執行役員ビル本部ビル商品企画部長の吉田聡氏が解説した。建設業界では2030年に人材の需給ギャップがさらに激しくなり、建設技術者4.5万人、技能労働者17.9万人が不足すると予測されている。「働き方改革関連法」が建設業への適用が2024年4月1日から開始し、時間外労働の上限規制や施工期間の平準化が必要となり、省施工など現場での生産性向上を求められる。そこでYKK APは建設現場の課題解決貢献に向け中層建築物向けユニタイズドカーテンウォール「SYSTEMA 81u」を4月30日から発売する。

カーテンウォール(CW)とは、建物の外部と内部を仕切る、構造耐力を負担しない外壁を指し、外壁の軽量化、外装デザインに自由度が高い点などに特徴がある。カーテンウォールの施工方法は、一般的に2工法がある。一つは「ノックダウン工法」で、現場での組み立てを主体とし、施工に一定工数が必要となる。外部から施工するため、外部足場が必要で、隣地と接する立地環境の建物へ対応するために防火性能を持つ。一方、高層領域に強いユニット工法は、工場ユニットによる安定した製品品質で現場作業を簡略化できる点が特徴で、無足場施工のため外部足場の設置、解体にかかるコストや時間を減少でき、安全も確保される。

無足場工法の採用などで工期は1/3短縮

それではなぜ、中層領域にユニット工法が普及しなかったのか。吉田部長は、理由として「防火」を挙げた。超高層にユニット工法が導入される理由は、敷地が広く防火が必要ない点が大きい。しかし中層領域は建物が隣接するケースが多く、幹線道路に面することが多いため、防火設備が必要になる。今まで防火設備がなかったため、ユニット工法は中層領域での採用が困難であったという。そこで吉田部長は、「SYSTEMA 81u」の強みとして、「防火設備が可能になり、意匠性に優れた点にある」の2点を挙げた。建物の高さの想定では、湾岸部では30階建て、内陸部では40階建てのビルに採用可能だ。

また、「SYSTEMA 81u」ではユニット工法を規格商品化した。工場で加工から組立・ガラス施工までを一貫生産した完成品ユニットを現場に搬入。完成ユニットをクレーンで吊りこんで施工するため、工期はノックダウン工法と比較しカーテンウォール面積約1,000㎡で施工期間を試算したところ約1/3に短縮できるなど、技能者不足に大いに貢献できると商品に自信を持つ。ゼネコンからも工期短縮に効果を持つユニット工法への評価が高く、超高層領域から中層領域へと展開できる商品を開発した点に大きな意義がある。

ユニット工法による施工方法

YKK APの上席執行役員ビル本部長の瀬口裕之氏は、「高層を展開しているゼネコンからは、中層建築も手掛けてくれるとありがたいというお声を頂いている。今回の商品の潜在的なニーズは十分ある。ステークホルダーからは省施工の商品開発のニーズが高く、今後とも進めていきたい」と語る。

吉田氏は、ユニタイズドカーテンウォールの価値求による市場創造、普及・拡大をすることで日本の中層建築物カーテンウォール市場の変革を目指すとし、そのためにユニット工法を中層領域に展開し、防火性能を備えた商品をレギュラー化したと語る。

左から、YKK APの上席執行役員ビル本部長の瀬口裕之氏、上席執行役員ビル本部副本部長の宮﨑省吾氏、執行役員ビル本部ビル商品企画部長の吉田聡氏

可動窓・FIX窓の外観フレームデザインを統一し、バランスが取れ、すっきりとした軽快なデザインを実現。耐風圧性は高さ60m相当の中層建築物に対応する3,000Pa、水密性1,500Paを確保するほか、防火設備にも対応する。都心部では隣接する建物との距離が近いことも多いため、隣地寄りの部分では防火設備の対応が多く必要であり、この面でも対応できる。延焼の恐れのある部分として、隣地境界線、道路中心線から1階で3m以下、2階以上では5m以下の距離にある建築物の部分では、大臣認定防火設備が必要になる。

「SYSTEMA 81u」の採用の見込みのある建築物に対しても隣地境界線と近接する建物が多く、防火設備を必須の仕様とした。具体的には網入りガラス仕様とクリアな眺望性の高い耐熱強化ガラスの仕様を設定している。高さ2,700mmのフルハイトに対応し、大開口での換気窓の設置が可能で、換気時の開口幅を約100mmに制限することで高い安全性を持つ。

最大サイズは、幅(W)1,800mm×高さ(H)4,200mm。参考価格は、FIX 窓ユニット幅(W)1,200mm×高さ(H)4,200mmの場合、50万3,000円。受注目標は、2024年度は10億円、2030年度は40億円を目指す。

中高層建築対応のアルミ樹脂複合窓も発売

次に、中⾼層建築物にも対応するアルミ樹脂複合窓「EXIMA 55」は、断熱性と防露性に優れ、さらにJIS 基準を超える耐⾵圧性や⽔密性を確保、低層から中⾼層までの集合住宅や施設などへ⾼断熱窓の普及・浸透を図りながら、快適で健康的な空間を提供する商品。「EXIMA 55」の解説は、YKK AP執行役員商品開発本部ビル商品開発部長の合林勝則氏が担当した。

「EXIMA 55」施工イメージ(集合住宅)

集合住宅の高断熱化動向では、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、建築物の省エネ性能確保を目的とし、各基準を強化している。そこで集合住宅での省エネ化は加速する一方、居住者の住まいの悩みは省エネ化だけでは解消できない課題もある。YKK APのWEBアンケート「窓と結露に関する意識調査」によると、「冬の時期での住居での悩み」を聞いたところ、「光熱費がかさむ」(冬の寒さに起因)、「窓に発生する結露」(結露に起因)、「室内が寒い」などの回答が上位であった。そこで室温と「健康リスク」に着目し、WHO(世界保健機関)でも冬季の最低室温は18度以上を強く勧告しているように、脳卒中、肺炎、心筋梗塞など「部屋の寒さ」はさまざまな健康リスクの要因と捉えている。近畿大学建築学部長の岩前篤教授の大規模アンケート調査によると、住居の断熱化により身体諸症状に改善があることが分かった。

そこでアルミ樹脂複合窓の効果をシミュレーション解析してみた。外部温度0℃、室内初期温度25℃、空調停止後30分経過時の条件で、アルミ窓(一般複層ガラス)では18℃以下の低温領域が居室容積の47%を占めたが、アルミ樹脂複合窓(Low-E複層ガラス)では18℃以下の低温領域は居室容積のわずか0.5%まで抑え、空調停止後も室温の低下を大幅に抑制する効果があった。

次に、結露によるリスクにも着目。結露はカビやダニの発生減で、アレルギーなど健康に悪影響を及ぼすため、結露抑制は大きな課題だ。そこで結露量比較を検証。室外温度0℃、室内温度20℃、室内相対湿度50%、露点温度9.2℃の条件で、2時間経過後のアルミ窓とアルミ樹脂複合窓で比較したところ、アルミ樹脂複合窓の方がアルミ窓よりも結露量を約9割も低減できる効果があることが分かった。「今回の新商品は、窓の高断熱化で『部屋の寒さ』と『結露』という居住者の悩みを解決する」(合林部長)

YKK AP執行役員商品開発本部ビル商品開発部長の合林勝則氏

集合住宅のほか、医療福祉、教育施設などを見据えた非住宅建築も対象になる窓の種類をラインアップしていく。引違い窓、たてすべり出し窓、片引き窓、片開きドアなど居住系はもちろん、非居住系にも対応できるようFIX窓や突き出し窓をラインアップし充実していく。さらに延焼の恐れるある部分でも使用できるよう、大臣認定防火設備(個別認定)の取得も予定している。省エネでの配慮の観点では、アルミと樹脂の複合構造とし、高性能ガラスの採用で高い断熱性能を確保。

このアルミと樹脂の複合構造のフレームとLow-E 複層ガラスを組み合せることで断熱性と防露性を両⽴し、快適な住空間を実現した。耐風圧性では4,500Pa、水密性では1,000Paと設定し、JISのグレードを越え、台風の多い地域や湾岸エリアなど気象条件の厳しい条件でも安心して採用できる。「各種性能は他社社様と比較しても1~2ランク上だ。たとえぱ、耐風圧性能で優位であり、4,500Paは当社だけの商品です。また、水密性でも1,000Paという点も優位性を持っていると思う」(合林部長)。2025年度の受注目標金額は50億円を目指す。

瀬口本部長は今後の戦略として、2024年度内にビル用・住宅用それぞれに木製窓も発売予定であることを明らかにした。2025年度以降に、オフィス向けにスリムでデザイン性も向上し、設計事務所から好まれる、アルミとアルミの中に樹脂を注入する「アルミ型材断熱窓」を発売し、これら商品ラインアップを核として、2030年度に向けた高断熱化率の達成を図っていく。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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