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【三重防護事業とはどのような事業なのか?#1】高知港湾監督職員編

いつ起こっても不思議ではない南海トラフ巨大地震に伴う津波への備えとして、国土交通省(高知港湾・空港整備事務所)と高知県が共同で、三重防護事業を進めている。

三重防護事業とは、高知市中心部が面する浦戸湾に押し寄せる津波被害を抑制するため、沖合の第1ライン、湾口の第2ライン、湾内の第3ラインそれぞれに位置する既存防波堤、堤防などの粘り強い化、かさ上げなどの工事を指す。

今回、高知港湾・空港整備事務所のご協力を得て、各ラインの現場などを取材する機会を得た。まずは、同事務所の現場監督職員の3名の方々に対し、同事業の目的や進捗、監督職員としての心がけ、港湾の仕事の魅力などについて、お話を伺ってきた。

矢野 剛さん 国土交通省 四国地方整備局 高知港湾・空港整備事務所 保全課長

松岡 駿さん 国土交通省 四国地方整備局 高知港湾・空港整備事務所 保全課検査係長

芝 清久さん 国土交通省 四国地方整備局 高知港湾・空港整備事務所 先任建設管理官

レベル1津波への備えとしては、高さなどが足りない

三重防護事業イメージ(国土交通省港湾局資料より抜粋)

――三重防護事業とはどのような事業ですか?

矢野さん 高知市中心部に面する浦戸湾の津波対策として整備する第1ライン、第2ライン、第3ラインと呼称する防波堤などの既存施設の増強工事等の総称であり、レベル1津波の侵入を防ぐことを目的に整備しています。

第1ラインとは、東第一防波堤、東第二防波堤、南防波堤、桂浜防波堤から成る沖合にある既存の防波堤を指しますが、三重防護事業として、まず、これら防波堤の内側に基礎捨石を投入し、ブロックの設置などを行い粘り強い構造への補強をします。第2ラインは、浦戸湾の湾口に当たるラインで、既存堤防の増幅や2mほどかさ上げするほか、新たに津波防波堤も整備します。第3ラインは、浦戸湾内の外周にある既存の護岸のかさ上げなどです。

――既存の防波堤、堤防だけでは、津波対策としては不十分だという判断があったわけですね。

松岡さん 既存の堤防は、基本的には台風や高潮への備えとして整備されたものです。当然、いわゆるレベル1の津波への備えとしては、高さなどが足りません。

――南海トラフ巨大地震が発生した場合、浦戸湾にどれぐらいの津波高が来ると想定されているのでしょうか?

矢野さん 高知港の沖合でレベル2津波の場合、約16mと想定されています。

――津波を完全に防ぐのは難しそうですね。

矢野さん なので、防災だけでなく、減災も目的とした事業になります。減災とは、3つのラインで津波の勢いを弱め、侵入を防止・低減させ、浸水するまでの時間を遅らせる、その間に住民に避難してもらって、津波による人的、物的被害をできるだけ減らす、ということです。

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令和13年度の完成に向け、進捗率は約11%

海上から見た第2ラインの整備状況

――事業の進捗はどうなっていますか?

矢野さん 海岸事業として、事業期間は平成28年度~令和13年度を目標に工事を進めています。進捗については、直轄事業の進捗率(延長ベース)が11%(令和4年度末時点)となっています。

――進捗をどのように評価していますか?

矢野さん おおむね予定通りです。進捗率としてはまだそこまで伸びていませんが、種崎(外縁)工区については、すべての工区で工事着手しています。(令和5年度時点)。

松岡さん 限られた予算の中で、どうすればより効果が発現するかを考えて、工夫しながら事業を進めているところです。

――事業費はどうなっていますか?

矢野さん 海岸事業として、全体で約640億円、そのうち直轄が約390億円となっています。

松岡さん 東第二防波堤を除く第1ライン、第2ラインは直轄事業ですが、第3ラインは高知県との共同事業となっています。

――直轄事業と県事業はどのように振り分けたのでしょうか?

松岡さん 規模が大きい工事、または技術力が求められる工事については、直轄で施工するというのが基本的な考え方になっています。

――完成が令和13年度となっていますが、やはり予算の関係上、それだけの期間を要するということなんでしょうか?

芝さん 高知港海岸は施工延長が長く期間を要します。また大部分が既存施設の改良となっています。なにもないところに新たに堤防をつくるなら、もう少し早く完成できるかもしれませんが、周囲に企業や住宅などがあるため、まずは利用されている方への配慮を考える必要があります。

施工方法や作業時間などといった面で、どうしても制約を受けてしまいますので事業が長期に及ぶこともありますが、われわれ発注者としても、1年でも早く完成させたいという思いです。

――近年の物価上昇の影響について、どうお考えですか?

芝さん 資材高騰はハダで感じているところですが、それが原因で進捗が遅れたということは現段階ではありません。

発注者としてレスポンス良く対応する

――今担当している現場数はいくつですか?

矢野さん 8現場です。松岡を中心に、私ともう一人の係員の3名で監督しています。

――現場を監督する上で心がけていることはありますか?

矢野さん 受注者さんとの信頼関係が大事かなと思います。双方が施工現場を効率よく進めていく上でも必要かと思っています。あとは、工期内完成や無事故・無災害での工事完了です。

松岡さん まずは、適切かつ十分な工期を確保して工事発注することを大事にしています。既設構造物の改良を行う現場ではとくに、現状不一致など、想定し得ない事象が発生することがあります。そういう場合、受注者としっかり連携しながら、発注者としてレスポンス良く対応する必要があります。

芝さん 発注者と受注者が協力してモノをつくっていくのが一番大事だと思っています。そのためには、密な打ち合わせをしながら、発注者としても、工期内に収めるためには、どういう工程管理をすれば良いか、しっかり考える必要があると思っています。

――2023年度からBIM/CIM原則適用になっていますが、現場の対応はどうなっていますか?

松岡さん 適用以前からの継続工事は除きますが、新規工事については、原則適用ということでやっています。

芝さん BIM/CIMを適用することで、しっかり効果が出る工事を選んで適用しています。規模や重要性、難易度といったところを考慮するようにしています。

――BIM/CIMによる効果について、どう感じていますか?

芝さん 受注者に聞いた話では、工事説明や安全教育を行う際、CIMデータが役に立ったと聞いています。

松岡さん CIMデータをもとに作成したVRを使って、安全教育をしており、施工確認や安全教育にて、一定の効果が出ていると感じております。

港湾工事で一番多い事故は「溺れ」

――安全管理という点で、港湾ならではの気をつけるポイントがあれば、教えてください。

矢野さん たとえば、潜水士さんに関する安全管理があります。潜る時間や休憩時間をしっかり管理する必要があります。受注者さんによっては、専用のシステムなどを使ってしっかり管理されているようです。

芝さん 港湾工事の事故で一番多いのは、溺れ、つまり海中への転落です。ここは常に気をつけなければいけないポイントです。あとは、波浪条件です。たとえば、作業の途中で急に海がシケた場合、すぐに工事を止めることはできないので、事故のリスクが高まります。そうならないためには、天気の変化を読んで、午後に海が荒れそうなら、午前中で切り上げる、または中止するといった対応が必要になります。

――現場周辺を航行する船舶への対応はどうですか?

矢野さん 高知港周辺では、漁船やプレジャーボート、クルーズ船も航行しています。これら漁業・海事関係者の方々に対しては、事前に工事説明会を行なっています。工事中も必要に応じて協議を行なっております。

松岡さん ケーソンの仮置き場の工事に着手しているのですが、この場所が船舶航路に近接しています。このため、着手に先立って、安全連絡協議会を設置して、必要に応じて協議連絡しながら、安全確保に努めているところです。

重要な場所で、大きな構造物を扱うのが魅力

――話は変わりますが、港湾の仕事は楽しいですか?

矢野さん 楽しいというしかありません(笑)。

――港湾の仕事の思い出はありますか?

矢野さん もう忘れかけていますが(笑)、宿毛湾港での防波堤工事での最初1函目のケーソンを設置したときです。すでにケーソンがあれば、そうでもなかったと思いますが、なにもない海上での1函目のケーソンだったので、神経を使いました。

――港湾の仕事の魅力はなんでしょうか?

芝さん よく言われていることですが、港湾は物流の拠点として、国民の日常生活に密接に関わっています。そういう重要な場所で仕事をしていることに魅力を感じています。あとは、比較的大きな構造物を扱うことが多いのですが、自治体ではあまり経験できないことだと思っていますし、海の上をはじめ、ふだん見ることができない場所で仕事ができるのも、港湾ならではの仕事だと思っています。

松岡さん 私はまだ仕事の経験が浅いので、多くを語れませんが、港湾の仕事を選んだ理由としては、仕事のスケールの大きさに惹かれたというのがありました。たとえば、ケーソンを据え付ける際には、高さ約130mの大型起重機船がやってきて作業を行います。そういう仕事に関わりたいというのがありました。

どの現場も無事故無災害を前提に、事業に携わっていく

――三重防護事業への意気込みをお願いします。

矢野さん 津波から地域の安心安全を守るために、三重防護の効果が発揮できるよう1日も早い完成を目指して取り組んでいきたいと思います。

松岡さん 私自身高知出身なので、県民の安心安全のために、1日でも早い完成に向けて日々頑張っていきます。発注者としては、今後いろいろな現場がスタートしていく中で、難しい現場も出てくると思いますが、どの現場でも無事故・無災害を大前提に据えて、この事業に携わっていきたいと思います。

芝さん 三重防護のような大規模事業に携われるのは貴重な経験だと思っています。無事故・無災害で早期の完成を目指し取り組んでいきたいと思っています。

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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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