国土交通省は「令和6年能登半島地震」による道路構造物の被災状況調査を受け技術基準の改定などに着手すると、2月21日に開催した「社会資本整備審議会道路分科会道路技術小委員会」(委員長・二羽淳一郎東京工業大学名誉教授)の会合で明らかにした。次回3月に開催予定の同小委員会で道路橋(修繕)の技術基準や舗装構造技術基準の改定に向け検討する。
また今回、国土技術政策総合研究所や土木研究所の道路構造物の被災に対する専門調査結果(中間報告)も公表し、道路構造物の被災に対する中間総括を行った。さらに国土交通省北陸地方整備局が2月20日に立ち上げた「令和6年能登半島地震道路復旧技術検討委員会」(委員長・川村國夫金沢工業大学教授)の会合の内容も一部公開された。
道路構造物の被災で中間総括
中間総括では、今回の被災状況では、2020年での沿岸部の大規模な斜面崩落、地すべりや地山の変位が推測されるトンネル覆工コンクリートの崩落など構造物だけでは被害を防ぐことが困難な箇所も見受けられた。そこで各道路構造物の基準関連の妥当性の確認を必要とした。そのため、路線設計の段階では安全で信頼性の高い道路計画となるよう配慮し、道路の機能に及ぼす影響を軽減化する対策、道路リスク評価の情報も活用しながら道路ネットワークの強靱化を図るなどハード・ソフトの両面からの対策がポイントになる。
また、道路ネットワークでの路線の位置づけなどを踏まえ、道路が地震で被災した後の機能の回復の容易さ(レジリエンス)の観点も含め、道路に求められる様々な性能を発揮するための道路構造物の技術基準の性能規定化も方策の一つとした。そこで橋梁、土工、トンネルなどの各道路構造物について総括した。
まず橋梁では、阪神淡路大震災以降の技術基準の改定や耐震補強施策の推進の効果が見られた一方で、耐震対策が未実施の古い橋梁では大きな被害が生じた橋もあることから、耐震補強対策のより一層の推進が求められるとした。次に土工は、通行機能が途絶えた要因を洗い出し、そのリスクを軽減する対策を検討する。トンネルは、地山の大規模変位に対して構造物により内空保持の確保には限界があるため、路線計画段階では地山の大規模変位が懸念される箇所を避けるべきと提起した。さらには、避けられない場合や施工中に判明した場合には、覆工コンクリートに破壊が生じても道路利用者に被害をもたらさない、地震後の緊急点検や緊急復旧の活動の妨げにできるだけならないように覆工コンクリートの崩落を生じにくくする、配筋などの対策も提案した。
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盛土の締固め基準改定に効果
次に国土技術政策総合研究所や土木研究所の専門調査による被災結果では、道路橋、土工、トンネルに分けてリポートした。道路橋では、橋台背面が小規模な段差は多数発生したものの速やかに緊急復旧した。1996年の道路橋示方書で踏掛版の設置が望ましいとし、2012年の道路橋示方書で橋台背面アプローチ部の構造を規定しており、その効果が現れた一方、液状化により1.5m地盤が沈下した橋梁もあった。今後の技術施策課題では、落橋防止構造のように、外力が想定できない事象でも有効性が期待できる設計項目・内容を充実する。次に、復旧の仕方まで考えた「壊し方」とするための設計項目・内容も提案した。さらに、橋の構造に応じた検査路の設置、診断に活用する構造物へのアクセス性の改善、BIM/CIMの活用など、迅速で的確な診断が可能な照査方法を構築するとした。
道路土工の被災調査結果は、国道249号沿岸部では斜面崩壊や地すべりにより道路の交通機能が断絶した区間が多数発生。崩土の背後斜面が不安定化している恐れがあり、地形や地質など詳細な調査を行った上で対応を検討する必要があるとした。また、大谷地区ループ部切土のり面(烏川大橋取り付け部)で地すべりが発生。能越自動車道では沢埋め高盛土を中心に多くの盛土の被災を確認。のと里山海道では、2007年の能登半島地震で大規模崩壊してその後排水対策を施した本復旧箇所では多くのケースで被災が軽微にとどまり、4車線の区間では、交通機能が喪失するような崩壊はなかった。盛土の締固め基準が引き上げられた2013年以降に供用された輪島道路(2023年供用)は崩壊に至る盛土の被災がないなど、それ以前に供用された穴水道路(2006年供用)に比べて被災が軽微だった。
トンネルでは覆工コンクリートが崩落
道路トンネルの被災調査結果では、地山の大規模な変形で確保したトンネルの内空に変形が生じ、これに伴って覆工コンクリートの崩落が発生し、道路交通機能が断絶し、道路啓開(緊急復旧)の活動も困難だった。大谷トンネルは、地すべり地帯に位置し、施工当時から対策をしていたが、地震による地山の大規模な変形の影響もあった。中屋トンネルは、地質の変化が大きい区間や地山が膨張性を示す区間があり、施工当時から対策をしたが、地震による地山の大規模な変形の影響があった。今後、現場の地山の変形状況、地形、地質を調査し、被災メカニズムの分析を踏まえたうえで、復旧への検討を提起した。
調査では、2007年能登半島震災復旧で実施した路線計画の見直しが効果を発揮したことが分かった。被災した旧八世乃洞門の復旧では、不安定な岩塊が広い範囲に存在していたことから路線計画から見直し、その付け替えとして新たに「八世乃洞門新トンネル」を2009年1月に開通し、八世乃洞門新トンネルは、地震では坑口付近で落石や崩土は生じたものの、トンネル自体には大きな損傷なかった。調査は、実施日は1月2日~28日間、実施回数28回、人数延べ151人。
復旧検討委では調査優先度を提起
同小委員会では北陸地方整備局が設置した「令和6 年能登半島地震道路復旧技術検討委員会」の2月20日での会合内容も公表された。今後の進め方としては、地盤崩落や海岸隆起などで地形が大きく変化しており、応急復旧検討に向けた詳細な測量や地質調査はもとより、応急復旧工事の検討、応急復旧作業時や緊急車両の通行時の安全確保のために、斜面の計測・監視を不可欠とした。
能越自動車道は、盛土の大規模被崩壊箇所の細部測量、地質調査を先行して行っている。二次調査では追加ボーリング、応急復旧工事の検討や交通開放後の安全確保、二次災害防止に向けた計測・監視を実施する予定だ。国道249号沿岸部は、現状で航空レーザ測量(一部UAV測量)を実施。二次調査は、応急復旧検討や通行時の安全確保に必要な測量、地質調査、計測・監視する予定。背面盛土区間の沈下、崩落の影響で大きな損傷を受けた橋台は、土工部の復旧にあわせて橋台基礎部の状態の調査も提案した。調査の優先度は、①大規模被災箇所や応急復旧により早期交通開放を行う箇所、②進行性の変状が想定される箇所、③第三者被害の恐れがある箇所から順次実施する。
会合の結論では、道路ネットワーク全体の中での道路機能の役割、修復性、代替性、最低限の通行機能確保などの観点も含め、復旧方法の検討を進め、構造物については、損傷したもの、損傷しなかったもののメカニズムを分析し、復旧にも反映すべきとした。