CFS 建築による医療法人社団 新虎の門会酒々井虎の門クリニックの健診棟増築工事(2023年秋)

CFS 建築による医療法人社団 新虎の門会酒々井虎の門クリニックの健診棟増築工事(2023年秋)

【野原G】医療施設の現場でCFS建築とBIMを活用。工期短縮や省力化に成功

BIM設計-製造-施工支援プラットフォーム「BuildApp(ビルドアップ)」で建設DXに取り組む野原グループ株式会社(東京都新宿区)のリノベーションカンパニーは、医療法人社団新虎の門会酒々井虎の門クリニック(千葉県印旛郡酒々井町)を発注者とする「健診棟増築工事」で、株式会社古谷野工務店(東京都板橋区)、一般社団法人日本CFS建築協会(東京都豊島区)とともに、「モジュール建築」の一つである「CFS建築」を採用した。これにより建設現場の省人化・省施工が進み、在来工法と比べ約2か月の工期短縮を実現する見込みで、廃材やCO2排出の削減など環境配慮も同時に実現した。

野原グループは「建設DXで、社会を変えていく」という新方針のもと、デジタル技術や先進建築手法を取り入れ、建設DX推進事業「BuildApp」に注力しているが、リノベーションカンパニーではBuildAppによる維持管理のプロセス変革に挑戦している。これまでオフィス、メディカルクリニックやマンションと様々な用途の総合リノベーションを行い、多数の実績とノウハウに加え、3Dツールによるプラン提案してきたが、今回の現場での導入を皮切りに、今後も革新的な技術と関係者の協力のもと、医療従事者・地域住民・医療施設の利用者にとって利点のある医療環境を実現するため、建設DXで医療建設プロセスのアップデートを目指していく。

今回の工事では、CFS建築という新たな工法やデジタル技術で人手不足を補い工期短縮に成功したが、このポイントはどこにあったのか。野原グループ BuildApp事業統括本部 リノベーションカンパニー リノベーション部部長の熊澤智信氏に話を聞いた。

病院建築で工期短縮と省人化に手ごたえ

野原グループBuildApp事業統括本部リノベーションカンパニーリノベーション部部長の熊澤智信氏

――まず“CFS建築”について教えてください。

熊澤智信氏(以下、熊澤部長) CFS(Cold-Formed Steelの略)といわれる板厚約0.8~6.0mmの冷間成形薄板形鋼を構造部材として使用する新しい建築工法で、モジュール建築の一つです。工期と品質の両立を実現しやすい先進建築手法で、建設現場の省人化・省施工が進み、環境配慮も同時に実現することができます。

また、工事現場での造作が限りなく少ないため、作業員による仕上がりのバラツキがなくなり、壁内結露を原因とする木材の腐朽やカビの発生とこれによる室内環境の汚染の心配が少ない効果もあります。

――海外で進むモジュール建築の手法とCFS建築はどのように違うのでしょうか。

熊澤部長 海外のモジュール建築では「なるべく大きく造り、多く運ぶ」という形式が採用されています。建築の工業化という観点では、工場の段階で大きく造ったほうが望ましいかたちではあるのですが、日本は海外と比べて道が狭いなどの弊害があります。

そこで今回は、CFS建築を採用し、壁のブロックを運び吊りあげて組立てています。最初のプロジェクトの構想では部屋単位でブロックを形成することも考えていましたが、制約があったため変えました。

CFS建築の建て方現場 / (一社)日本CFS建築協会

――今回、CFS工法を導入された背景は。

熊澤部長 施主様は早期の竣工を望んでいました。オープン予定は2024年のゴールデンウイーク期間なのですが、在来工法ではとても間に合わない想定でした。また。大きな視点でも、建設産業の就業者数の激減や人材の高齢化、建設の2024年問題があり、建設の品質と生産性の両立に向けた建設産業の生産性向上とサプライチェーンの変革が急務です。とくに医療施設は医療提供の場として地域の健康を支える拠点として重要であり、新設・改修・建替えのどの段階においても質とスピードが求められます。

現在、在来工法とCFS建築の比較をして効果を検証していますが、間違いなく工期短縮と省力化に効果を発揮しています。工期はまだ明らかにできませんが、かなりの手ごたえを得ており、作業員の省力化の効果も効果を見込んでいます。今回は当社にとって初のCFS建築でしたが、工事に参加された方々とともに今後さらにブラッシュアップする考えです。

――日本CFS建築協会とのかかわりはどこで生まれたのでしょうか。

熊澤部長 旧・野原ホールディングス株式会社の傘下には、日本CFS建築協会の会員ビルダーに対して戸建住宅用の壁・天井パネルの資材を工場等に供給している野原住環境株式会社(現 野原グループ株式会社 住環境カンパニー)が存在しており、当時から同協会に加盟していました。

CM的役割で存在感示す

――施工についてはいかがでしたか?

熊澤部長 今回は戸建て住宅に強い古谷野工務店が施工されました。工務店業界にはまだまだBIMは普及していませんが、CFS建築とBIMの両輪を使えば、工務店でも同規模の医療建築の施工は可能であることが今回の案件をとおして証明できました。

今、ゼネコン各社は同規模の工事にリソースを割けない実情もある中で、当社にご相談があったのですが、当社としてもスキームをコーディネートして、材料を供給し、工務店をアテンドして、発注者との合意形成まで担当しました。今回に関しては建材価格の均一化を切り口にし、施主と工務店の間に入り、案件をまとめましたが、野原グループのように横つなぎの会社が存在したほうが施工も円滑に進むと考えています。

――コンストラクション・マネジメント(CM)方式のようですね。

熊澤部長 野原グループとしても、CMの立ち位置を目指していきたいと考えています。一般的に総工事費10~20億円規模の工事であればゼネコンが着手するかもしれませんが、今回の規模では野原グループが発注者と施工者の間に入り、交通整理の役割を果たすことができました。

――古谷野工務店からどのような感想がありましたか?

熊澤部長 木造やS造では、多少ではありますがのちの変更が可能です。ですが、今回の現場は壁構造のため、最初の合意形成が重要になります。レイアウトを正確に決めて工事を進められたこと、そして建て方が早かったことについてはポジティブに捉えていただきました。

CFS建築とBIMは好相性

――構造的にはいかがでしたか。

熊澤部長 見た目には2×4工法で木造のように映りますが、構造はS造です。音の問題や耐震性について質問されることも多いのですが、耐震性は構造計算するのでクリアできますが、静音性についてはRC造並みに引き上げていくことが課題としてあります。ただし。予算が厳しい施主にとって魅力的な金額でできあがり、工期短縮と人員削減に効果がある点もほぼ実証できたため、RC造ではコストが合わない建設物に対して提案していく考えです。

また、今回は2階建てのため、CFS建築でもおさまりの不具合はなく、3階建てでも問題ないと考えています。しかし、現状では4階建てになるとおさまりに問題が出てくると予想しています。階を積み上げていくときのジョイント部分のおさまりが今後のポイントになるのではないと考えています。医療系建築では、特に都心部では敷地もなく3階建てでは対応しきれないと思われます。高層化が求められるので、構造面での検討は今後も進めていく考えです。

――今回はBIMも活用されましたね。

熊澤部長 CFS建築はBIMと非常に相性がいいと考えています。今、新築ではBIMで図面を作成する事例も増えていますが、今回の規模の物件へのBIM導入はまだまだ普及していません。この規模の工事でも建築の工業化とともにBIMを採用することができた良い事例でした。とくに、今回の健診棟増築工事のように、ホテルや病院にあるような同じ部屋が並ぶような物件に適していると感じました。設計もBIMを使えばコスト試算がしやすいので、CFS建築とBIMとともに進めたいと考えています。

――BIMにより合意形成も早かったのではないでしょうか。

熊澤部長 健診棟の完成イメージの合意には、仮想竣工したBIMモデルを活用しました。BIM モデルは3D で立体的に目視確認できるので、関係者全員で外観や内装、動線を含む完成イメージを共有・確認しやすい利点があります。医療関係者の方にもBIMで描いた空間の中に入っていただきましたが、医療関係者と建設関係者間のギャップを埋め、合意形成を容易にした点は大きいと思います。

従来、医療関係者は図面の見方に慣れていないため、現地に行かないと分からないことも多いですし、あるいはある方はこれでいいとOKを出しても、別の方はNGを出す場合もあるので、関係者全員が現場に行って合意形成を取らないとなかなか決まらないということもあります。

しかし、今回の案件では、定例の企画会議で次回に繰り越されることはほぼなく、迅速な合意形成と企画内容の確定が実現し、着工までのプロセスを円滑に進められました。

――今後の展開としては。

熊澤部長 医療業界や介護業界にアピールしていきます。建築費が上昇している課題は介護施設でも同様ですから、CFS建築で施工した際の金額も含めて提案しているところです。施工でCMの役割を果たし、BIMで構造体の製造を展開できれば、野原グループの強みを活かせます。さらに工務店業界へもBIM展開が出来れば望ましいですね。

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