田中賞(作品部門)で最優秀作品賞を受賞した、「高速大師橋更新事業」

田中賞(作品部門)で最優秀作品賞を受賞した、「高速大師橋更新事業」

2023年度「土木学会賞」が決定! 田中賞(作品部門)は”高速大師橋更新事業”など4件

土木学会は、2023年度 土木学会賞を発表した。功労者や先進的な事例など各分野から216件の応募があり、18分野で111件を選定した。表彰式は6月14日に東京都千代田区のホテルメトロポリタンエドモントで執り行う。

田中賞の作品部門での最優秀作品賞は「高速大師橋更新事業」が受賞した。ほかの作品部門は「九頭竜川橋梁・新九頭竜橋」「ブライラ橋」「東名阪自動車道弥富高架橋(下り線)の大規模更新」が選ばれ、例年の田中賞(作品部門)と比較して既設事業が存在感を示し、インフラメンテナンス時代の到来を感じさせた。

また、最高の栄誉であり、土木工学の進歩や土木事業の発達、学会活動の運営に多大な貢献があった会員に贈る功績賞には、井合進氏(京都大学名誉教授、FLIPコンソーシアム理事長)、梅原秀哲氏(中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋テクニカルアドバイザー)、粕谷太郎氏(地下空間利・活用研究所所長)、茅野正恭氏(鹿島常任顧問)、河原能久氏(広島大学防災・減災研究センター学術顧問)、楠見晴重氏(関西大学特命教授・関西大学名誉教授)、佐藤直良氏(雨水貯留浸透技術協会会長)、中島章典氏(HRC研究所技術顧問、宇都宮大学名誉教授)、山縣宣彦氏(港湾空港総合技術センター理事長)、吉田望氏(関東学院大学工学総合研究所所員)の10氏が選ばれた。

ほか、技術賞の個別技術を評価するⅠグループは、北大阪急行電鉄、阪急設計コンサルタント、熊谷組・フジタ・森組JVによる「高層建築直下のシールド掘進と不飽和地盤凍結工法の開発」など11件。画期的なプロジェクトを表彰するⅡグループは、東京地下鉄、都市再生機構、森ビルによる「まちづくりと一体となった地下鉄新駅の整備~日比谷線新駅整備事業と隣接する市街地再開発事業~」など13件が選ばれた。

環境賞は、先進的な土木工学的研究を対象とするⅠグループで鹿島、錦城護謨による「プラスチックボードドレーンを用いた効率的な地盤からの油回収技術」など3件。環境の保全・創造に貢献した画期的なプロジェクトを評価するⅡグループは、鉄道建設・運輸施設整備支援機構による「国内初の環境管理計画策定とラムサール条約登録湿地の環境保全に向けた取り組み~北陸新幹線、中池見湿地付近深山トンネル等工事~」が授賞した。

その他各賞は、研究業績賞2件、論文賞7件、論文奨励賞7件、吉田賞(論文部門)3件、田中賞(業績部門)2人、同(論文部門)2件、技術開発賞9件、出版文化賞3件、国際貢献賞6人、国際活動奨励賞18人、技術功労賞10人だった。

今回も例年に続き、施工技術者に深い関りのある田中賞の作品部門についてリポートする。

田中賞(作品部門)では新設2件、既設2件

国内の技術を海外で展開した作品も選ばれた

「田中賞」の創設の由来となった田中豊氏についての詳細は、以前の土木学会賞の内容に詳しくリポートしているので、そちらを参照してほしい。

関連記事:2021年度「土木学会賞」が決定。131件が受賞、田中賞作品部門は“多摩川スカイブリッジ”など6件

ちなみに、田中賞(作品部門)は、新設や既設の橋梁またはそれに類する構造物で、計画、設計、製作・施工、維持管理、更新、復旧などの面において特色を有する優れた作品を対象とし、規模の大小は問わない。ちなみに極めて高い評価を得た作品には最優秀作品賞を授与する。

2023年度の受賞作品は、新設は「九頭竜川橋梁・新九頭竜橋」「ブライラ橋(ルーマニア)」の2件で、既設は最優秀作品賞を受賞した「高速大師橋更新事業」、また「東名阪自動車道弥富高架橋(下り線)の大規模更新」の2件が選ばれた。まず作品部門(新設)から順を追ってどのような点が評価されたかについて確認したい。

「九頭竜川橋梁・新九頭竜橋」は新幹線初の併用橋

併用橋の「九頭竜川橋梁・新九頭竜橋」

「九頭竜川橋梁・新九頭竜橋」は、橋梁下部工を鉄道と道路が共用する新幹線初の併用橋であり、道路整備と一体となって沿道開発もなされ、鉄道と車道・歩道全ての利用者が風光明媚な景色や車窓を楽しめる新たなランドマークとなっている。

下部工の一体化は建設費の大幅な削減、全体工程を短縮し、近接して単独橋脚の構築による洗掘を防ぐことで河川環境負荷を低減させた。施工時でも河川内工事用道路は流水部を仮橋・仮設構台形式で、桁は張出し架設により瀬替えを不要とし、河川環境保全の配慮をした。

耐久性・維持管理性の面では、鉄道桁は道路への凍結防止剤散布による塩害対策、PC グラウト充填性を検証して耐久性を確保し、新幹線軌道の維持管理性を確保するため、桁遊間は250mm以下で汎用締結装置を適用した。異なる事業が連携してコスト縮減、工程短縮、環境に配慮した設計・施工により、耐震性や維持管理性が確保された橋梁の実現は、今後の橋梁建設の推進に貢献すると認められた。

国内長大橋技術を海外で展開した「ブライラ橋」

ルーマニア東部のドナウ川に架かる「ブライラ橋」

「ブライラ橋」は、ルーマニア東部のドナウ川に架かる中央径間長1,120m、橋長1,974mの鋼3径間連続吊橋。構造形式を3径間連続橋とし、主塔部の鉛直支承や桁直下の主塔水平梁を省略した。主ケーブルの架設にエアスピニング工法を採用し、ストランドの数を減らし、アンカレッジ躯体をコンパクトとし上下部一式のデザインビルドにより経済性のある構造とした。

施工では、主塔RCコンクリートのスリップフォーム工法の採用、塔頂水平梁のプレキャスト化などの工期短縮が図られ、下部工着手から約4.5年の短期間で開通した。国内で培われた長大橋の技術を進化させて海外に展開する取組みは、今後の長大橋建設への貢献に期待がかかる。

施工の省力化と急速施工を実現した「東名阪自動車道弥富高架橋(下り線)の大規模更新」

床版取替を短期間で実施した「東名阪自動車道弥富高架橋(下り線)の大規模更新」

次の2件は既設事業だ。まず「東名阪自動車道弥富高架橋(下り線)の大規模更新」を紹介する。

実績の少ない幅員方向分割方式(半断面施工)を採用、渋滞発生等の社会的影響を最小限にしながら約1.6km にわたる床版取替を短期間で実施、同時に道路幅員の拡幅もした。

施工では通行止めをせず1車線ずつ床版を取替える半断面施工を適用、下り線施工時と将来の上り線施工時の通行帯確保のために同時に幅員拡幅をした。拡幅では橋脚梁をPC外ケーブルと炭素繊維シートで補強して橋脚増設や基礎補強を不要とし、一般道への影響も回避した。S字曲線の道路線形であり、半断面のプレキャストPC 床版の接合精度を確保しつつ、施工の省力化と急速施工を実現するため、橋軸・橋直2方向の床版接合に微調整が可能な常温硬化型の超高強度繊維補強コンクリート(UFC)を用いた床版接合構造を新たに適用した。

床版の搬出入は、渋滞や一般車との接触事故の防止のため、高速道路を介さずに行った。側道に揚重設備を3基配置し、橋面上に設置した軌条設備を利用して自走式台車で施工箇所まで床版を運搬する施工技術を開発、高速本線での工事車両流出入を回避した床版取替を実現した。高速道路の交通への影響を最小限にし、施工の省力化と急速施工を実現した点が大きな評価となった。

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架け替えを短期間で実施した「高速大師橋更新事業」

「高速大師橋更新事業」での水上運搬

「高速大師橋更新事業」は、首都高速1号羽田線の多摩川渡河部に位置し、1968年に供用を開始した橋梁。橋長は292m、上部工形式は鋼3径間連続鋼床版箱桁で鋼床版には閉断面リブ(Y型リブ)を採用。Y型リブを使用した床版は上部工の軽量化に寄与したが、たわみやすい構造だ。1日に約8万台という交通量の多さもあり、橋梁全体に多数の疲労き裂を確認した。都度補修を実施したが、新たな疲労き裂の発生が後を絶たなかったことから橋梁を架け替える大規模更新工事を実施した。

新設橋の上部工形式は、既設橋と同じ鋼3径間連続鋼床版箱桁とし、車道部の鋼床版リブには疲労耐久性を踏まえて開断面リブを採用。河川内の橋脚は既設T形橋脚の撤去に支障とならないよう、門型ラーメン形式とした。柱をコンクリート製、梁を鋼製の複合構造とし、コンクリート部には遮塩性に優れる高耐久性埋設型枠を採用した。

架け替え工事は、首都圏全体の社会的影響(交通影響)や河川、近隣住居への影響を最小限に抑えるため、既設橋の下流側に新設橋を架設し、壁高欄・基層舗装を施工した後、既設橋と新設橋を上流側にスライドさせる横取り一括架設工法を採用、重さ約4,500t の橋梁を2週間の通行止め期間で一挙に架け替えて供用した。橋梁の架け替えを短期間で実施した大規模更新であり、今後増大する大規模更新の技術発展に寄与できる作品だ。

今回の田中賞(作品部門)は、新設と既設とも2件という結果となった。異なる事業の連携、日本の長大橋技術の海外展開、施工の省力化や急速施工、1968年供用の橋梁の大規模更新とさまざまな事業が評価された。橋梁の施工も多様な技術が求められていることが改めて明らかになった。また、田中賞は2022年度から技術部門が作品部門から独立しているが、今回は授賞がなかった。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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