内田研究室の皆さん(写真:内田研究室提供)

内田研究室の皆さん(写真:内田研究室提供)

筑波大学の学生が砂防研究室(内田研究室)にハマるワケ

前回、筑波大学で砂防を教えている内田太郎教授の記事を出したところだが、内田研究室の学生さん5名にもお話を聞いていた。

内田研究室(砂防)のメンバーは、総勢約30人と大所帯な上に、アジアや南米からの留学生も在籍しており、バラエティに富んだ構成となっている。

なぜ砂防の研究室を選んだのか、どのような研究をしているのか、研究室の雰囲気はどうかなどについて、お話を聞いてみた。

  • 筑波大学流域管理研究室(砂防)メンバー
    ・佐原 拓海さん(M2)
    ・中村 美結さん(M2)
    ・工藤 優葵さん(M2)
    ・エミリア・タナアミさん(M1)
    ・南原 二良さん(B4)
  • オブザーバー
    ・内田太郎先生

佐原 拓海さん(M2)(写真:内田研究室提供)

中村 美結さん(M2)(写真:内田研究室提供)

工藤 優葵さん(M2)(写真:内田研究室提供)

エミリア・タナアミさん(M1)(写真:内田研究室提供)

南原 二良さん(B4)(写真:内田研究室提供)

内田太郎先生(写真:内田研究室提供)

研究の中身で選ぶか、指導教員の人品骨柄で選ぶか

――なぜ砂防の研究を選んだのですか?

佐原さん 私は筑波大学に入ってから旅先でのドローン空撮にハマりまして、ドローンを使った研究ができる研究室を探していました。土木系か農業機械系の研究室のどちらにするかで悩みましたが、最後は内田先生の優しいお人柄で決めさせていただきました。

中村さん 私は、高校生のときに東日本大震災の被災地である南三陸町を訪れ、人間の共助の強さと自然の脅威を感じた経験から、防災について学びたいと思っていました。それで、幅広く勉強できそうな筑波大学の生物資源学類に入学し、研究室を選ぶ際に、「防災に一番貢献できそう」と思ったのが、内田先生の砂防の研究室でした。それと、森の中で動いてみたいと言うか、森林の多面的な機能にも興味があったので、ここがドンピシャでした。

工藤さん 筑波大学3年生のとき、内田先生の授業で、点群データの技術に関するお話をお聞かせいただいたのが、きっかけです。砂防について興味があったわけではなかったのですが、自然物をドットだけで表現できることに、スゴい感動しました。それで、砂防の研究室を選びました。

エミリアさん 私は、土砂災害に興味があったので、ブラジルの大学の環境工学の自然災害研究室で地質学を学んでいました。その研究室の指導教授が日本人の方で、内田先生を含む何人かの日本の大学の先生にブラジルの大学に来ていただく機会もありました。「日本の大学院で勉強したいです」とお願いしたら、「内田先生の砂防研究室が良いんじゃない」という話になりました。それで、6ヶ月ほど前に留学生として内田先生のところに来ました。

――日本語がお上手ですね。

エミリアさん 内田先生のところに来る前の1年間、日本語を学ぶために留学していました。

南原さん 筑波大学3年生になって、研究室を決めるときに、それまでの授業を振り返って、砂防の授業が一番おもしろかったので、選びました。内田先生は1、2年生のときのクラス担任でもあったので、それもありました。

――内田先生、女子が多い印象ですが、たまたまなんですか?

内田先生 生物資源学類は農学部系なので、女性が半分ぐらいを占めます。ちゃんと調べたわけではないですが、他の大学の砂防研究室にも女性はそれなりにいるような気がします。

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あくまで学生の希望を尊重し、研究テーマを決めるスタイル

研究中の佐原さん(写真:内田研究室提供)

――佐原さん、どのような研究をしていますか?

佐原さん UAV(=ドローン)を用いた研究ということで、「UAV空撮による崩壊地の地下構造情報の把握可能性の検討」というテーマで研究をしています。従来は、地下を掘ったり、地上から測定した値から推定したりすることでしか得られなかった土層構造や土層の厚さといった情報を、ドローンを飛ばして写真を撮り、それをSfM(Structure from Motion)解析ソフトを使って点群モデルを作成することで、そのモデルから連続的かつ可視的に取得する、ということを試みています。

――点群データの精度はどの程度ですか?

佐原さん かなり頑張って高い精度で取ろうとしています。と言うのも、一つの土層の厚さは、だいたい50cm~100cmぐらいなので、少なくとも誤差10cm未満の精度がないと、構造を把握できたと言えないからです。作成したモデルからの土層測定値の誤差が数cm未満になることを目指しているところです。

――研究で苦労したことや工夫したことなどはありますか?

佐原さん 一番難しいのは、点群モデルの処理に時間がかかることです。非常に膨大なファイルサイズのデータを扱うので、時間との闘い、ガマンとの闘いみたいなところがあります。なので、パソコンのスペックが重要です。ドローンのスペックも必要ですが、今は一般的なドローンを使っていて、飛ばし方を工夫しながら、やっています。

現地観測作業中の中村さん(写真:内田研究室提供)

――中村さんはどのような研究をしていますか?

中村さん 私は「大起伏山地における連続水文観測に基づく降雨流出特性の把握」というタイトルで研究しています。大井川水系上流に位置する筑波大学の井川演習林内の急峻な7つの流域を対象として、代表地点一箇所に雨量計を設置するほか、7流域ごとに水位計と電気伝導率(EC)計を設置し、それぞれ1分間隔と5分間隔で連続観測しています。

雨水はECが小さいのに対し、岩盤を通った水はECが高いという特性を利用して、流域にもたらされた雨水がどこに貯留され、どういう経路や深さから、どのタイミングで流出しているかといったことの把握を試みています。

――ある程度把握できるようになっていますか?

中村さん そうですね。対象流域の地層がほぼ一様である流域間の比較においても、流出の応答の仕方が流域によって異なる傾向がわかってきています。このほか、雨量が多くなると、流出源が地下深くの層から浅い層に移動していることや、平水時と出水時とで卓越する流出経路が異なっている可能性がわかってきています。

――研究は楽しいですか?

中村さん 井川での現地観測は、非日常的で楽しいですが、同時にその難しさも感じています(笑)。まず現地へのアクセスが悪いですし、土砂生産が多いので、取り付けた機器が流されたり、壊れたりするトラブルがあるからです。そんな中でも、アドバイスをいただきつつ、どこにどう機器を置くか、現場作業をどう進めるかなど工夫しながら、しっかり研究を進めてこれたことは、自分なりに「成長できているな」という感じがあって、嬉しく感じています。

研究中の工藤さん(写真:内田研究室提供)

――工藤さんはどのような研究をしていますか?

工藤さん 自分は、DEM(デジタルエレベーションモデル)という標高データ、航空測量データを用いた斜面崩壊の判読および差分解析の研究を行っています。斜面崩壊の判読については、降雨を原因とするものに限定しています。元となるデータは、新潟県の登川流域、宮城県丸森町五福谷の内川新川流域、栃木県の芹沢入山沢流域の3箇所の斜面崩壊時のものを使用しています。

――希望した研究テーマですか?

工藤さん 基本的にはそうですね。DEMの活用についてはあまり知識がなかったのですが、内田先生に空撮写真で斜面崩壊地を見るのが魅力的だという話をしたら、「今は写真よりDEM判読が主流だよ」と教えていただいたので、DEMを使うことにしました。

――成果としてはそのような感じですか?

工藤さん 3つの流域を判読した結果、だいたい900の崩壊地が見つかっています。今は、これらの崩壊地をどう解析していくかという段階にあります。

この研究を通じて、どういう場所で土砂生産が活発に行われるか、どういう条件でどれだけの規模の土砂災害が起きるかといったことについて、ある程度予測できるようになって、対策計画づくりに役立てられれば良いなと思っています。

――研究は楽しいですか?

工藤さん 崩壊地を探すときは、パソコンとにらめっこしながら淡々とやっているので、楽しいとは思ったことはないです(笑)。ただ、自分が立てた仮説とか予想、たとえば「傾斜角度が効いているんじゃないか」といったことが、合っていることがわかると、「あー、やったじゃん」と楽しくなることはあります。

エミリアさん(写真:内田研究室提供)

――エミリアさん、どのような研究をしていますか?

エミリアさん 私の研究テーマは、まだ100%決まったわけではありませんが、表層崩壊が起きたときに土壌の特性がどれぐらい影響しているかを把握することを目的とした研究をする予定です。私の希望としては、雨量と地下水などのデータを解析した上で、土壌のサンプルを取って、雨水の浸透実験をやりたいと思っています。実験フィールドは、過去に表層崩壊が起きた和歌山県の那智川流域です。

どうしてこのような研究をしたいかと言うと、表層崩壊は、ブラジルで頻繁に起きている災害だからです。将来的には、現地の地理的な特性に関する情報を把握し、予測や警戒などの方法の確立に役立てたいと思っています。まずは、基礎的な土壌の特性から表層崩壊に関する理解を深めようと考えているところです。

――内田先生、エミリアさんの研究について、どのようなアドバイスをしていますか?

内田先生 最初のアイデアはエミリアさんのもので、彼女と相談しながら、やっています。もちろん、できることとできないことがあるので、修士の2年間でどこまでやるかを考えながら、いろいろアドバイスしています。

南原さん(写真:内田研究室提供)

――南原さん、研究のほうはどんな感じですか?

南原さん 私は4年生なので、まだ研究は始まっていませんが、内田先生には「斜面崩壊に関する実験を行いたい」ということでご相談していて、現地調査ではなく実験をやるということは、とりあえず決まっています。今は、研究に入る前の準備として、論文を読んだり、砂防の勉強をしている段階です。

――本格的な研究は大学院に進んでから取り組むお考えですか?

南原さん そうですね。大学院に行ったら、また別の研究をするかもしれませんが、とりあえず4年生のうちは斜面崩壊の実験をすることにしています。

学生を引き寄せる内田先生の魅力(魔力)

佐原さん(写真:内田研究室提供)

――内田研究室の雰囲気はどうですか?

佐原さん けっこう明るい雰囲気です。男女比もほぼ1:1ですし、留学生も多いので、飲み会も盛り上がります。留学生が自国の料理を振る舞ってくれるなど、他国の文化に触れる機会も多いので、楽しいです。

内田先生自身、めちゃくちゃ優しい人です(笑)。とにかく相談に乗っていただけるので、いつも助かっています。

中村さん(写真:内田研究室提供)

中村さん 社会人ドクターの方や留学生の方をはじめ、さまざまなバックグラウンドを持った方々が集まっていて、お互いのことを受け入れる幅が広く居心地の良い研究室だと思っています。

私が大学院進学を決めたのは、内田先生のお言葉があったからです。特に印象に残っているのは、「修士で研究をするという、小さくても一つの山を登り切ることで、他の人への適切なリスペクトができるようになるよ」というものです。

これをはじめ内田先生のお言葉を通して、「大学院で研究をやってみよう」と思うようになりました。研究のこと以外にも、いろいろとアドバイスをいただいており、内田先生と出会えて幸せだなと常々思っています。

――内田先生、お言葉の意図を教えてください。

内田先生 世の中のいろいろな専門を持っている人々は、いろいろなスキルや経験を積んた結果、高い専門性を身につけているわけですが、スキルや経験の浅い若い人がそういう人を見ると、過大に尊敬しすぎてしまうことがあると思っています。逆の場合もあるかもしれません。

本人がスキルや経験を積んでおけば、そういうことはなくなり、お互いの専門性について分かり合える、どういう努力をしてきたか想像できるようになる、ということです。この能力は、誰かと一緒に仕事をしていく上で、大事なことの一つなので、大学院に進めば、それが身につくよ、という意味です。

――女子が多いことが、研究室に影響を与えているということはありますか?

中村さん 私たちの代で女子が3人ほど増えたので、雰囲気が変わったと事務の方がおっしゃっていました。

工藤さん(写真:内田研究室提供)

――工藤さん、内田研究室の雰囲気はどうですか?

工藤さん 私自身も、明るくて風通しの良い雰囲気があると思っています。研究室メンバーは年齢も国籍もバラバラなので、そういうことがけっこう良い刺激になっています。研究の合間におしゃべりしたりしながら、楽しくやっています。

メンバーの中には、釣りに行ったり、登山したり、プライベートでも一緒に活動している人もいるので、本当に仲の良い研究室だなと思っています。

内田先生は砂防の先生としてスゴい方であると同時に、私にとってはとても親しみやすい方です。なんでも相談に乗ってくれる頼れる先生です。心からそう思っています(笑)。

――さきほども聞きましたが、砂防の研究室にはけっこう女子が多いのですか?

工藤さん 砂防の研究室だからと言うより、この研究室だから女子多いのだと思います。私が知る限り、他大学の砂防研究室で、女性をお見かけする機会はあまりありません。

――エミリアさん、内田研究室の雰囲気はどうですか?

エミリアさん 私もみなさんと同じく、「いろいろな国籍の人がいて、スゴくいいね」と思っています(笑)。自分は外国人なので、同じような境遇の人がいるのは、居心地の良さがあります。雰囲気が良いことは、研究のためにも良いことなんじゃないかと思っています。

内田先生については、これもみなさんが言っていましたが、本当に優しい方だと思っています。なんでも許容する優しさではなく、私がやりたい研究をちゃんとできるよう指導してくれる優しさです。

驚いたことは、内田先生は毎日研究室に来て、学生がなにをしているかを見て、話をしていることです。日本とブラジルの先生の違いかもしれませんが、私にとっては本当に珍しいことです。そういう意味でも、内田先生には感謝しています。

左から、エミリアさん、スリランカ、モンゴルからの留学生(写真:内田研究室提供)

――研究室メンバーとはふだん、日本語で会話しているのですか?

エミリアさん 日本人のメンバーとは日本語で話しています。留学生のメンバーとは英語で話しています。

――言語で苦労することはありますか?

エミリアさん あります(笑)。日本語や英語だと伝わらないこともありますが、丁寧に説明して、聞いてもらって、なんとか伝わっているのかなと思っています。

――南原さん、研究室の雰囲気はどうですか?

南原さん 研究室のみなさんは、本当に素晴らしい方々ばかりです。僕は昨年、新参者として研究室に入ってきたわけですが、不自由を感じたことがありません。わからないことがあったら先輩方が助けてくれるし、質問したら答えてくれるからです。お酒の場でも楽しませてくれます。本当にこの研究室を選んで良かったなと思っています。

――お酒の場でどうやって楽しませてくれるんですか?

南原さん ボクが一人になっていると、話しかけてくれるとか、盛り上げてくれるとか、そういうことです。孤独を感じません。

――内田先生に関してはどうですか?

南原さん みなさんもおっしゃっていますが、優しさとかお人柄とか、人を吸い寄せる魅力に満ちた方だと思っています。研究についても、ボクがやりたいことを尊重して、一緒に考えていただけるので、ありがたいと思っています。お酒の席でも、気さくに話しかけてくださって、お酒もたくさん注いでいただけます。距離感が近くて、研究以外のことも含め、なんでも質問できると感じさせてくれる方です。

――内田先生、学生に酒を注いで回る意図はなんですか?

内田先生 意図は別にないです(笑)。強いて言えば、学生と話したいということですが、たとえば、視察でお世話になった国交省の職員の方々と飲んで話すときと基本的には変わりません。

――筑波大学の研究室は、メンバーの選抜や定員があるのですか?

内田先生 筑波大学の中でも、われわれが所属する生物資源学類は、上限はありますが、一人の教員に学生がスゴく集中しない限り、選抜はありません。もっと言えば、大学院の学生に関しては、制限はありません。その教員次第です。

砂防の研究者になるか、砂防の技術者になるか

――将来こういう自分になりたいというのはありますか?

佐原さん 私は今、ちょうど就活中ですが、建設系または測量系のコンサルタント会社を目指しています。

研究を通じて、ドローンを飛ばす技術、ドローンで取った点群データの解析技術に自信を持っているので、これを活かせる仕事に就きたいと考えています。これらのコンサルタント会社の中には、砂防に特化した部署を持っている会社もあるので、そういう場所で働きたいと考えています。

中村さん 砂防が好きなのでいろいろ悩みましたが、今は鉄道会社に就職しようと思っています。鉄道土木の仕事は、思っていたより自然相手の仕事で、自分が今までやってきたこととつながっていると感じました。また、鉄道も防災という観点が必要不可欠なので、「防災になにかしらのカタチで貢献したい」という自分の思いも、変わらず実現できるんじゃないかなと思っています。

あわよくば、いつか鉄道と砂防をつなげるような仕事ができたらいいなと思っています。

工藤さん 私は大学卒業後も研究を続けていきたいと考えているので、就職先としては、研究機関か行政機関が良いのかなと考えています。

私は今年の夏からイタリアの大学に砂防を勉強するため留学するので、卒業が半年ほど遅れる予定ですが、留学中に新しい発見があれば、その道を進むのも良いのかなと思っているところです。なので、今は、将来のことをあまり決めすぎないようにしています。

エミリアさん とりあえず博士課程までいきたいです。将来のことは、博士になったら考えようかなと思っています(笑)。研究でもビジネスなんでも良いので、国際的に貢献できる仕事をしたいと思っています。

南原さん ボクは正直、将来のことをまだ考えきれていません。少しでも砂防に関わる仕事をしたいなという漠然としたものしかありません。とりあえず研究を頑張って、大学院に進んで、そこで自分がやりたいことが決まるかな、と期待しているところです。

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