膜構造デザイン賞を受賞した「ホワイトライノⅡ~テンセグリティの構造システムを用いたサスペンション膜構造建築~」 / 撮影:東京大学生産技術研究所 川口研究室

膜構造デザイン賞を受賞した「ホワイトライノⅡ~テンセグリティの構造システムを用いたサスペンション膜構造建築~」 / 撮影:東京大学生産技術研究所 川口研究室

【膜構造協会】膜構造デザイン賞に「ホワイトライノⅡ」など3件、技術賞と環境貢献賞ともに1件

(一社)日本膜構造協会(川口健一会長・東京大学生産技術研究所教授)はこのほど、第1回の「膜構造デザイン賞」「技術賞」「環境貢献賞」を決定した。

膜構造の新たな方向性を示す優れたデザインや美しく意匠性に優れたデザインなどにより膜構造の発展・普及に貢献し、実際に建設したものを対象とする「膜構造デザイン賞」には「Building of Music(神田宮地ビル)」「ホワイトライノⅡ~テンセグリティの構造システムを用いたサスペンション膜構造建築~」「国内初のETFEクッション構造膜による新しい『空』のデザイン~安全・安心×開放感×伝統継承への挑戦~」の3作品が選ばれた。

膜構造、膜材料の技術で発展・普及に貢献する「技術賞」は「進化し続ける光触媒膜材料の開発」、膜材料の生産、膜構造の設計、施工、維持管理、リサイクルやリユースなどの分野で環境に配慮し、低炭素社会へ貢献する取り組みを対象とする「環境貢献賞」は「遮熱性能により膜外装の可能性を拡げる環境デザイン~人々の笑顔を生みだす星野リゾートでの環境デザイン~」に決定した。

日本膜構造協会は今回、表彰制度を創設し、膜材料や膜構造の特性を活かし、特徴のあるデザインの実現や技術や環境への貢献を評価し、昨年から募集を行い、応募があった作品から「膜構造デザイン賞」「技術賞」「環境貢献賞」の3つの区分で選考を進め、今回決定した。

同協会は6月18日に東京・文京区の東京ガーデンパレスで通常総会を開催、終了後に各賞の表彰式を開催する。

スピーカーに見立てたメッシュ膜

Building of Music (神田宮地ビル)

膜構造デザイン賞の1件目は、楽器店の本社ビルである「Building of Music (神田宮地ビル)」。スピーカーに見立てたこのメッシュ膜は、楽器店にふさわしい外観だ。メッシュ膜による圧迫感は全くない。また日射をさえぎる効果と通風の効果があるため、やわらかい光と風が窓から入り、夜間は逆に内部の光が外に漏れ、行灯(あんどん)のような効果を発揮し、メッシュ膜の視認性に対する特性を十分に発揮した。メッシュ膜を張るためのフレームは窓枠や照明と合わせて配置した。

工事段階でもメッシュ膜を足場なしで外部から施工できたことで工期短縮に貢献したという。このような建築は、海外では見かけるが国内ではあまり事例もなく、今後国内での一層の普及につながることも期待できる。表彰対象者は相坂研介氏(相坂研介設計アトリエ)

超軽量構造「テンセグリティ」を活用

ホワイトライノⅡ~テンセグリティの構造システムを用いたサスペンション膜構造建築~ / 撮影:東京大学生産技術研究所 川口研究室

2件目の「ホワイトライノⅡ~テンセグリティの構造システムを用いたサスペンション膜構造建築~」は、東京大学柏キャンパスに建設した。柏キャンパスは東京大学の21世紀における新たな学問の発展に向けた構想に基づき、本郷キャンパスや駒場キャンパスに続く3番目の主要キャンパス。建物の外周には高さ約1.0mの土塁を計画し、RC壁の立ち上がり部分を目立たせずに、サスペンション膜構造を引き立たせるように配慮した。内部空間にはタワー型テンセグリティマストと五角錐型テンセグリティマストがそれぞれ山の中央部分に配置。各マストの頂部にはトップライトを設置し、内部空間を明るく照らしている。

膜屋根はサスペンション膜構造で計画し、ダイナミックな特性を活かした構造となり、建築設計者が細心の注意を払い、定着部を見えなくする工夫も施した結果、通常の膜構造とは異なる、すっきりとしたデザインが実現した。表彰対象者は、今井公太郎氏(東京大学生産技術研究所)、川口健一氏(同)、櫻井雄大氏(同)、藤原淳氏(元・太陽工業、現・防災科学技術研究所)、水谷圭佑氏(元・東京大学大学院 川口研究室、現・日建設計)。

空港ターミナルで膜構造の特性活かす

国内初のETFEクッション構造膜による新しい「空」のデザイン ~安全・安心×開放感×伝統継承への挑戦~

3件目の「国内初のETFEクッション構造膜による新しい『空』のデザイン~安全・安心×開放感×伝統継承への挑戦~」は、空港ターミナルビルという特殊な条件下で膜構造の特徴を最大限活かし、開放的な大空間を作り上げた。空港の既存建屋の増築という制限された条件下で、軽量化、遮音、遮熱、遮光、安全性をうまく担保した建築で、ETFE膜材とPTFEの三重構造を開発し、三次元曲面を持ったサークルトラスと組み合わせた。

膜材三重構造で、クッション膜の特徴である断熱性を活かし、ETFE膜材にプリントを施し遮光性を持たせ、これにサークルトラスの下にパンチングメタルと吸音材の配置で遮音性を担保し、さらにはETFEとPTFEの三重構造で耐火条件も満たした。明るさと快適性には特質すべきで大空間がのびやかで静かな場所となった。表彰対象者は、井上龍之介氏(梓設計)、薄井麻織氏(同)、井戸川達哉氏(元・梓設計、現・東北三興設計事務所)。

技術賞は「進化し続ける光触媒膜材料の開発」

進化し続ける光触媒膜材料の開発

技術賞は「進化し続ける光触媒膜材料の開発」が対象になった。膜構造を形成する膜材料は構造材であり、仕上げ材として屋外の過酷な環境に暴露され続けるため、耐候性と防汚性は建築用膜材料にとって大きな課題だ。

光触媒膜材料は一般的な膜材料を基材とし、その表面に二酸化チタン光触媒をコーティングし加工したもの。1998年に塩ビ系コーティング膜材料(B、C種)、2003年にフッ素系コーティング種膜材料(A種)に導入し、第1期の開発を達成した。しかし、B、C種膜材料は、光触媒の光酸化分解反応により基材に使用される塩ビ樹脂の分解を懸念し、2層構造とすることで第2期の開発を達成した。さらに時代の要請にこたえるため、光触媒層の微視的形態を改良し窒素酸化物の除去による環境配慮型性能を加えた材料を開発し、第3期として2017年に完了した。

現在は、防藻・防カビ性能の向上を目指した第4期の開発に突入している。表彰対象者は、藤嶋昭氏(東京理科大学)、橋本和仁氏(科学技術振興機構)、斉藤徳良氏、大西伸夫(日東電工(当時))、塩澤優樹氏(太陽工業)、阿部和広氏(同)、梅田正隆氏(平岡織染)、山口雄斗氏(中興化成工業)。

環境貢献賞は星野リゾートの物件

遮熱性能により膜外装の可能性を拡げる環境デザイン~人々の笑顔を生みだす星野リゾートでの環境デザイン~

環境貢献賞は「遮熱性能により膜外装の可能性を拡げる環境デザイン~人々の笑顔を生みだす星野リゾートでの環境デザイン~」であった。受賞作はJR大阪環状線の新今宮駅前に位置する地上14階建てのホテル。アルミフレームに取付けられた膜材料により外壁全体が覆われている。

外壁の四周を取囲む外装膜は日射低減効果を期待でき、受賞者の試算によると日射低減効果は最大で45%。シミュレーションで外装膜の無い場合と比べて外装面からの夜間の放熱が小さいことからヒートアイランド現象の緩和効果を想定する。開業から約2年が経過し、空調負荷の低減効果が表れ、膜材料によるダブルスキン外壁の環境負荷低減効果の技術資料の蓄積を期待できる。膜材料には光触媒膜が用いられ、ダブルスキンにより覆われた外壁仕上げの経年変化が軽減されることから維持管理上も有利であり、ライフサイクル全体での環境負荷低減も期待できる。膜材料による環境負荷低減は今後の低炭素社会の実現も望まれる。表彰対象者は、中村友樹氏(星野リゾート)、松尾和生氏(日本設計)、足立真吾氏(同)、大矢賢史氏(太陽工業)、津島立哉氏(不二サッシ)。

表彰委員⾧の河端昌也氏(横浜国立大学教授)は、「デザイン賞に11作品、技術賞に5件、環境貢献賞に3件の応募があった。選考は学識経験者3名を含めた11名の委員で実施した。各賞の受賞作品は、いずれも膜構造の多様性と適用範囲の広さ、今後の発展性を示す優れた内容であった。膜構造は明るく、軽快で、自由な曲面や大きな空間を効率良く安全につくることができる。この賞を通じて、膜構造によるデザイン、低炭素社会実現のための環境貢献、膜構造や膜材料を用いた技術のさらなる普及が望まれる」との総評を行った。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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