もはや施工の神様誌上、一番の常連さんと言える国土交通省の見坂茂範さんが2024年5月、国土交通省(最後は近畿地方整備局長)を退官、翌月、参議院選挙に全国比例代表として立候補すると表明した。
見坂さんに関しては、6年ほど前の福岡県庁出向中に取材して以来、職場が変わるたびに、取材し、記事にしてきたわけだが、今回ばかりは、「どうしたものか」としばらく様子見に徹していた。
2024年秋が終わるころ、意を決して取材を申し込んだ。すると、「今は多忙を極めているけど、相対取材ならOK」という趣旨の返事が返ってきた。ということで、自由民主党参議院比例区支部長(建設産業)という聞き慣れないお立場となった見坂さんに、国政転身の理由や主な政策などについて聞いてきた。
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「見坂くんに跡を継いでほしい」
――いきなり本題ですが、国政に打って出た理由はなんだったのですか?
見坂さん もともと「国会議員になろう」という意思があったわけではありません。佐藤信秋先生という、参議院議員を3期18年務められた大先輩から、「見坂くんに跡を継いでほしい」と後継指名を受けたからです。
最初は非常に迷いました。佐藤先生とは21歳の歳の差がありますし、「若輩の私になにができるのかな」と思いました。2024年6月に、佐藤先生から「建設業のことを熟知しているのは見坂くんだ」ということで、建設産業代表としての後継指名を受けました。
それならば、建設産業界のために今後の人生を賭けてみようと決心したのが、参議院比例区の立候補予定者として活動していく覚悟を決めた理由です。
私がリーダシップをとって、「防災・減災・国土強靭化」を進める
――見坂さんが掲げる主な政策があるわけですが、「防災・減災・国土強靭化」、「経済成長につながるインフラ整備(景気の好循環)」、「持続可能な建設産業へ」の3本ですね。これら政策について、説明していただけますか。
見坂さん まず「防災・減災・国土強靭化」についてですが、2024年は、正月に能登半島地震がありましたし、夏には全国各地で豪雨災害がありました。これだけの災害が全国あちこちで頻発していることを考えると、建設行政、国土交通行政としては、やはり防災・減災・国土強靭化をもっとしっかり進めなければなりません。これについては、これまで佐藤先生がやってこられたように、私がしっかりリーダシップをとってやらないといけないと思っています。
インフラ投資すれば必ず経済成長する
見坂さん 次に、「経済成長につながるインフラ整備(景気の好循環)」ですが、しっかりインフラ投資することによって、経済成長にもつながると思っています。
例を挙げると、大阪は今、非常に景気がいいんですよね。その理由は、2025年4月から始まる大阪・関西万博に向けたインフラ投資を盛んにやっているからなんです。この投資によって、いろいろな民間開発や企業の立地などが誘発された結果、好景気になっているわけです。
こういった景気の好循環を全国津々浦々でつくっていきたいと思っています。
「失われた30年」と言われますが、日本政府として、この30年間、十分なインフラ投資をしてこなかったので、GDPが伸びなかったというデータもあります。その是非は別としても、「インフラ投資をすれば必ず経済成長する」と私は考えていますので、これを全国各地で実現したいと思っています。
若い人たちに「建設業って給料良いんだね」と思ってもらう
見坂さん 最後の「持続可能な建設産業へ」についてですが、さきにご説明した2本の政策を進めていくためには、その担い手である建設産業に関わるすべてのみなさん方にとって、建設産業界が持続可能な業界である必要があります。
地域の守り手である地域建設業の皆さんにとって、ふだんから仕事が安定的にあって、会社経営が安定し、万が一災害が発生したときにはいつでも対応できる、そういう建設産業であり続けるため、私自身しっかり取り組んでいきたいと思っています。
私は今、全国いろいろな地域の建設会社の方々とお話する機会がありますが、どの地域でも人手不足が深刻化しています。この点、私としては、建設業界はこれからいろいろな工夫をしていかないといけないと感じています。
たとえば、より少ない人員でも工事ができるような生産性の向上、外国人の技能者の採用といったことは、すでに実施されています。もちろん、そういう道もあるとは思います。
ただ、私が考えているのは、若い人たちに、他の産業でなく、建設産業に入りたいと思ってもらうために、やはり給料、賃金を上げていかないといけないということです。最近の若い人たちは、給料よりも自分の時間を大事にするという話もありますが、とは言え、結婚して、子どもが産まれて、家族を養っていくことを考えると、やはりいくら給料をもらえるか、が大事になってくると思うんです。
若い人たちに「建設業って給料良いんだね」と思ってもらうことで、他の産業ではなく、建設業を選んでもらう、人手不足を食い止める、そういった流れをつくっていきたいと思います。
若い人たちを含む建設産業に携わる方々の給料を上げるためには、その会社がしっかり稼がなければなりません。しっかり稼ぐためには、一定の仕事の量がないといけません。仕事がないと、給料を上げるどころか、会社が倒産してしまいます。つまり、若い方々の給料を上げるためには、建設産業全体の仕事の量、全国各地域の仕事量をしっかり増やしていく必要があるわけです。
私としては、この「仕事を増やす」ということに、しっかり取り組んでいきたいと思っています。仕事には、公共工事、民間工事いろいろあるわけですが、公共工事で言えば、しっかり予算を確保して、工事の発注量を増やしていくということです。公共工事が増えれば、それに誘発されて、民間工事も増えていくと思います。
持続可能な建設産業のため、そういう良い流れをつくっていきたいと思っています。
週休2日が基本だが、地域の状況などに応じ柔軟に捉えることも大事
――給料のお話が出ましたが、建設産業における働き方改革については、どうお考えですか?
見坂さん 働き方改革に関しては、国土交通省が今進めている土日閉所、いわゆる完全週休2日というものが、まず基本になると思っています。当然、地方公共団体にもこの動きに歩調を合わせていただく必要がありますし、いずれは、民間の建築工事を発注する事業主の方々にも同様に合わせていただく必要があると思っています。建設産業を完全週休2日が基本の産業にしていくべきだと考えています。
ただ、私は「なにがなんでも完全週休2日にこだわっている」というわけではありません。たとえば、北海道や東北の日本海側では、冬場は雪が降って工事ができません。そんな地域で夏場に土日休んでいたら、年間の働ける日数がスゴく減ってしまいます。なので、私は週休2日というものを、地域のいろいろな状況を考慮しながら、もっと柔軟に捉えることが大事だと思っています。
あとは、職人さんをはじめ、「休暇よりも賃金が大事」というご意見も依然としてありますので、そういうご意見を尊重するということも大事だと思っています。
理想を言えば、休暇もしっかり取れて、給料もしっかりもらえる産業にするということです。それが最終的なゴールですが、今は過渡期、移行期というのが、私の見方です。
すべての都道府県に私の声を届けるという活動
講演中の見坂さん(けんざか茂範後援会提供)
――国土交通省退官後は、どのような活動をしていますか?
見坂さん 全国各地を回って、建設産業に携わるさまざまな方々と意見交換をしています。元請け会社をはじめ、専門工事業、建設コンサルタント、測量会社など、全国各地を回りながら、できるだけ多くの方々に直接私の話を聞いていただく、という活動を今やっています。
私は全国比例区の候補予定者ですので、北海道から沖縄まですべての都道府県の方々に私の声を届ける必要があります。私の生の声を聞いていただき、「見坂に任せて大丈夫なのか」、ご判断いただくための活動を行っています。
7月ぐらいから全国を回り始めて、10月中旬ごろまでに47都道府県の県庁所在地はすべて回りました。今は、2巡目ということで、全国の県庁所在地以外の地域を回っています。たとえば、先日は、静岡県内を3日間かけてくまなく回りました。
私の政策にご賛同いただくための活動ですが、それぞれの地域の方々のご意見を伺うための活動でもあります。
市町村の発注工事は歩掛かりが合っていない
行脚中の見坂さん(けんざか茂範後援会提供)
――どういう意見がありましたか?
見坂さん 地域によって、事業内容も異なるので、地域によって抱える課題も異なります。やはり、それぞれの地域に応じた対応をやっていかなければならないと改めて感じているところです。
私が気になっているのは、国土交通省発注の直轄工事や都道府県発注工事はそうではないけども、市町村発注の工事において、いわゆる利益率が低い、ほぼ赤字だ、でも発注者とのお付き合いがあるから不調にはできない、といった声です。こういった声は、国土交通省にいたころから聞いていました。
ちょっとマニアックな話になりますが、私なりに調べたところ、「市町村の発注工事は歩掛かりが合っていない」と考えています。歩掛かりとは、1日当たり、どういう工程でやってどれぐらい仕事量ができるのかという、工事発注の積算をするときに使う作業効率の基準のことです。
たとえば、標準歩掛かりは、数億円規模の工事を念頭に置いた歩掛かりですが、これを数千万円規模の工事に適用した場合、当然のことですが、同じような効率性で作業できないので、実際の工事の条件などと歩掛かりが合わなくなるわけです。
市町村の中でも、とくに規模の小さな自治体は、技術系の職員が少ない、いないと聞いているので、発注者としての能力が不足しているのかもしれません。
いずれにせよ、市町村工事がきちんとした歩掛かりをもとに発注されているか、ちゃんと見ていかなければならないと思っています。その結果、改善すべき点があれば、改善していかなければならないと思っています。
建設産業の大半は、市町村発注の工事で経営、生活されている方々です。私としては、この辺りをしっかり手当てしていかなければならないと思っています。
歩掛りの見直し、とくに夏場の歩掛りを見直したい
見坂さん 具体的に言えば、歩掛かりの見直しです。現在の歩掛かりは、数億円規模の工事を対象にしており、数千万円規模の工事には合っていません。数千万円規模の工事に合わせるためには、たとえば、歩掛かりそのものを見直すとか、補正係数をかけるといったことが必要だと考えています。そうすれば、工事の予定価格がちゃんと上がるので、しっかり利益が出せるようになります。
あと考えているのは、夏場の歩掛かりの見直しです。これは、市町村に限らず、すべての公共工事発注に関わることです。
私が国土交通省の技術調査課長だったときに、工期設定する際に、暑さ指数を考慮して、工期を設定する、つまり、猛暑日などの暑い日を考慮して工期をあらかじめ伸ばしておく、という仕組みを新たにつくりました。
今考えているのは、工期を伸ばすだけではなく、夏場は作業効率が落ちるので、夏場の歩掛かりそのものを見直すいうことです。作業効率が落ちると、工事にかかるコストは上がり、利益率は下がります。そういう歩掛かりは見直して、受注した会社がちゃんと利益が出せるようにするということです。
こういったマニアックなところについても、しっかり取り組んでいきたいと思っています。
とにかく、規模の小さな工事で経営、生活されている建設会社の方々が将来にわたって生き残れるようにしないと、いざ災害が発生したとき、対応できる建設会社がいなくなってしまいます。つまり、歩掛かりの見直しは、地域防災力の維持にもつながると考えています。
――自治体の首長とも今後しっかり意見交換するということですか。
見坂さん そうですね。現場をわかっている人間、専門知識を持った人間が建設産業を代表してしっかり発言することは、大事なことだと思いますし、私の役割だと考えています。「予算確保を頑張ります」だけじゃなくて、建設業の最前線の課題解決のためにはどうすべきか、どの法律のどの部分を変えるべきかといった、専門的な分野でも、私なりにチカラを発揮したいと思っています。
余談ですが、地方を回っている中で、「見坂さんは歩掛かりなど現場の実務に非常に詳しいですが、なぜですか」と聞かれたことがありましたが、「だって、その担当課長でしたから。詳しくて当たり前です」と答えました(笑)。
北海道と本州の間にトンネル道路をつくるべきだ
――見坂さんには以前、ご盟友である京都大学の藤井聡先生らと鼎談をしていただきましたが、その際、「国家プロジェクトとなる土木のビッグプロジェクトが必要だ」という趣旨のお話をされていた覚えがあります。当時、見坂さんは福岡県庁出向中で、下関北九州道路の推進に深く関わっていましたね。ビッグプロジェクトについて、今どうお考えですか?
見坂さん 下関北九州道路は今、環境アセスメントを実施中であり、都市計画決定の手続きも進んでおり、事業化に向けて着々と進んでいます。私が福岡県庁に出向していた3年間に、国に代わって、県庁職員であった私がかなり動かしたプロジェクトなんです。最初は福岡県が調査していたものを国の直轄調査に格上げし、事業化に向けた計画段階評価を実施しました。現時点では、下関北九州道路の事業化については、最終的には国土交通省が判断すべきものとなっています。
長大橋に限らず、日本のどこかで大きなプロジェクトが常に進められているような状況をつくるべきと、私は今でもそう思っています。近畿地方整備局長のときも、和歌山と淡路島を結ぶ紀淡海峡プロジェクトは将来やるべきプロジェクトだと言っていました。
もう一つ言うと、北海道と本州は道路でも結ぶべきだと考えています。現在は、北海道と青森の間に青函トンネルがありますが、これは鉄道のトンネルなので、道路はないんですよ。クルマで本州から北海道には渡れないわけですが、本当にそれで良いのかということなんです。安全保障、国土防衛の観点からも、道路トンネルは必要だと言うのが、私の考えです。
かつてはクルマの排気ガスの問題があったので、道路トンネルは難しいという判断になりましたが、最近は、ハイブリッドやEVといった排気ガスをあまり出さないクルマが普及しているので、ふたたび道路トンネルについて真剣に検討すべきじゃないかと、私は思っています。
ビッグプロジェクトは、若い人たちに夢を与えるものです。私も大学生のころ、当時建設中だった明石海峡の建設現場に行ったことがあるのですが、高さ300mの主塔にゴンドラで上げてもらったことがあります。非常に感激して、それで建設の仕事に就きたいと考えました。今の若い人たちにも、そういう大きな夢のあるプロジェクトに触れてもらいたい、そういう社会を目指したい、という思いがあります。
藤井聡くんは生涯の友
盟友藤井先生(中央右)とともに、ときの声を上げる見坂さん(中央左、けんざか茂範後援会提供)
――政策集団について、どうお考えですか?
見坂さん 個人的には政策集団は必要だと思っています。やはり個人だと、動ける範囲、実行できる範囲は限られてくるからです。いろいろな政治家が知恵を出し合って、闊達に議論をして、いろいろな意見を聞きながら、政策を出すことは大事だと思います。
――ご盟友の藤井先生はいろいろなアイデアをお持ちですね。
見坂さん 藤井くんとは、大学生のころからずっと議論してきた仲で、今でも頻繁に意見交換しています。彼は学者で、私は行政マンという立場でしたが、お互いの意見をぶつけ合って議論するのですが、お互いの意見を尊重し、より良い政策につなげるという共通の認識がありました。藤井くんとは、これからも長く議論していくと思います。私にとっては、生涯の友ですね。おそらく彼もそう思っていると思います。
「ももいろインフラーZ」の仕掛け人は、実は私
見坂さんと藤井先生(けんざか茂範後援会提供)
――藤井先生は、「ももいろインフラーZ」というTV番組に出演するなど、土木のPRにも熱心に取り組んでいますね。
見坂さん あの番組は、実は私が仕掛け人なんですよ。
――ええ!そうだったですか。
見坂さん 藤井くんが「ケンちゃん、こういう番組やりたいんだけど、どう思う?」と相談してきたので、私が「おもしろい企画だし、土木広報にもなるから、ぜひやろう」と言って、国土交通省や土木業界とやりとりして、ウラで話をつけたんです。知っている人は知っている話ですが、あの番組は、藤井くんと私が組んで、実現させた企画なんです。
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
見坂さん 「施工の神様」というWEBメディアの記事を、たくさんの若い人たちに読んでもらいたいと思っています。私も一読者としてずっと読ませていただいています。施工の神様のインタビューには、建設産業に携わる熱い思いを持った方々が登場されていますので、若い人たちにはぜひ、施工の神様の読者になってほしいと思っています。こんなもんで良いですか(笑)。
――私の意図とは違いましたが、宣伝ありがとうございました(笑)。