マンション建設、絶対反対

マンション建設反対運動で”建設側が敗訴”したレア判決3選

反対運動は住民側敗訴がほとんど

高層マンションが建つ場合、近隣住民にとっては周辺環境の変化が懸念され、反対運動が起こる場合があります。

「景色が変わる」「日照がさえぎられる」「ビル風が吹く」「街並みの統一感が崩れる」「できる建物が壁のようになり圧迫感が生まれる」というように建物そのものが与える影響のほか、「人通りや車通りが変わる」「ファミリー住戸が多いエリアにワンルームマンションはそぐわない」などのように、マンション住民により発生する影響を懸念した反対運動などもあります。しかし裁判になった場合、計画中止や大幅な見直しになるケースはほとんど見られません。

グーグルの検索窓に「建設反対」と入力すると、予測入力候補として「のぼり」「横断幕」「運動」と出てきました。「のぼり」で検索すると既製品の「建設反対」ののぼりの通販商品がたくさん表示されます。

すでに印刷済みののぼりが1,000円程度で販売されており、翌日到着なので、建設反対運動は明日からでも開始できそうです。

オリジナルののぼりの文言としては「太陽を奪うな」「産廃反対!1,224枚のハガキ」「住民激怒地帯」という秀逸なキャッチコピーがありました。しかし、反対運動のための横断幕に書かれている文言が過激で名誉棄損に当たるなどとして、裁判で撤去を命じられたケースもあります。

判決① 垂れ幕は名誉棄損?

建設会社Xと不動産会社Yは9階建てマンションの建設を計画。この建設計画について、用地の隣に立つ7階建てマンションの管理組合Zが反対運動を開始しました。XとYは当初、「新婚ないし単身者向けの賃貸マンション」だと説明していましたが、実際には民泊も視野に入れており、その点をウェブサイトで公表していました。

この説明の食い違いを管理組合Zは指摘し、これを撤回することと日照被害が出る住戸への補償を要求しましたが、拒否されました。管理組合Zは7階建てマンションの1室のベランダに垂れ幕と横断幕を掲げました。

建設会社X、不動産会社Yは、民泊用マンションを隠ぺい
建設会社X、不動産会社Yは、東側ベランダを圧迫、日照・プライバシーを侵害

建設会社Xと不動産会社Yは、この管理組合Zを相手取り、名誉毀損を理由として、不法行為責任に基づく慰謝料550万円の支払い、垂れ幕や横断幕の撤去を求め、大阪地方裁判所に提訴しました。

反対運動の横断幕や垂れ幕は、表現の自由として日本国憲法第21条で保障されています。また、名誉棄損が不法行為となるためには3つの要件があります。

  1. 名誉棄損行為がある
  2. 違法である
  3. 加害者に故意・過失がある。

本件では「1.名誉棄損行為」は認定されました。「民泊用マンションを隠ぺい」が社会的評価をおとしめることにあたります。しかし、「2.違法である」「3.加害者に故意・過失」がないために不法行為は成立しないと却下しました。

XとYは控訴しました。しかし、高裁も「明らかに虚偽と判る事実の適示や社会的相当性を逸脱する表現はない」と控訴を棄却する2審判決を下しました。(大阪高裁 令和2年9月10日判決)

判決② インターネット掲示板での批判は名誉棄損?

横浜においてマンション建設に反対する周辺住民が、インターネット掲示板に次のような書き込みをしました。

A:『○○地区○丁目は建築協定地域であり、建築協定に沿った建物を建てて欲しい。地上7階 地下3階の集合住宅などもっての外です』
B:『こんな所に○○世帯が入居し○○台の車が出入りしたら交通渋滞・交通事故の続発する名物道路(!?)の誕生。私たちは事故の被害者・加害者になる可能性が!!』
C:『説明会を行ったところ、強引に計画を進めている割には顔ぶれがお粗末、説明会の体をなさないのです』
D:『それ以外ろくな回答も無く、我々がもっとも問題にしている交通問題・地盤の危険性についてなんら納得のいく説明をできないのです』

この書き込みに対してマンション業者は、名誉や信用が毀損されたとして、周辺住民に対して損害の賠償を求めました。裁判所の見解は次のようなものでした。

  • A、B、Cの書き込みについては、マンション建設に反対する趣旨の意見の表明の範囲内にとどまるものであり、名誉毀損とはならない。
  • Dについては、「意見の表明の範囲を超える、原告の企業としての経営姿勢等に関する具体的な事実の摘示を伴う意見表明として、マンション業者の社会的評価を低下させるものと認められないでもない」。

「認められないでもない」という限りなく否定に近い肯定です。しかし、Dの書き込みは結局、公益を図る目的でされたものであり、かつ、重要部分は真実である、として、結局、「真実性の抗弁」を認めて、名誉毀損の成立を否定しました。裁判所は、マンション業者の請求をすべて棄却しました(横浜地裁 平成15年9月24日)。

判決③ 「建築確認処分取消」という初の判例

東京都A区の住宅跡地への3階建て30戸のマンション建築を巡り、反対する周辺住民がA区を相手に建築確認取消しを求めた訴訟を提起しました。

東京都建築安全条例では、延べ床面積が2,000㎡超3,000㎡以下の建物の敷地は、路地状部分の幅員は8mに達していなければならないと規定されていますが、本件マンションの延べ床面積は2,820㎡にもかかわらず8mに達していませんでした。

しかし、A区は空地の状況等から見て安全上支障がないとして、特例で安全認定し、建築確認を出しました。周辺住民は「建築確認処分取消等請求」の訴えを提起しました。

A区は、公道からの緊急車両の出入り道が規定の半分4mであるにも関わらず、消防車が1台だけ入れる消防空地と、貯水槽および避難ハシゴを設ければ避難も延焼も問題ないと主張しました。そもそも路地の幅員が8m必要なのは、緊急車両がすれ違えるスペースの確保のためですが、4mでは消防車や救急車はすれ違うことができません。

東京地裁では周辺住民の「建築確認処分取消等請求」の訴えを棄却しましたが、二審の東京高裁は「特例を認めた区長の判断は違法。認定を前提とした確認処分は取り消す」という判決を下し、その後上告され、最高裁判決でこれが確定しました。建築確認の取消を巡る訴訟で、最高裁が判断を示したのは今回の訴訟が初めてでした。

最高裁の「建築確認取消判決」により、建築確認は後から取り消される可能性があることが判明したことになります。これは、建設も9割がたできているのに取り壊し命令を受けたシビアな判例です。(最高裁判所 平成21年12月17日)


大きな建物が立つことに対し、環境の変化を懸念するのはもっともです。問題がある計画に対しては、横断幕や垂れ幕での意思表明が保障されています。

同時に、より良い方向で町が変化することを考えることも大切かと思われます。多くの自治体で、住民が減少しているようです。地域行政としては、新しいマンションができてその地域の住民が増え、地域の活性化に繋がればと願っていると思われます。

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関西をベースに広告コピー、取材記事、農家レポートなどさまざまな原稿を執筆しています。ギターはスケールに挑戦中です。
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