2024年度インフラメンテナンス表彰式での記念写真。写真中央は佐々木葉会長 / 引用元:公益社団法人土木学会

2024年度インフラメンテナンス表彰式での記念写真。写真中央は佐々木葉会長 / 引用元:公益社団法人土木学会

【土木学会】2024年度”インフラメンテナンス賞”表彰式を開催。プロジェクト賞は6件、チャレンジ賞は9件

公益社団法人土木学会(佐々木葉会長)は2月27日に、都内の土木学会講堂で「2024年度インフラメンテナンス賞」の表彰式を開催。プロジェクト賞6件、チャレンジ賞9件、エキスパート賞9件、マイスター賞9件、優秀論文賞10編に対して表彰状などが贈られた。

土木学会では、2021年度よりインフラメンテナンス総合委員会で「インフラメンテナンス分野の表彰制度」を創設。インフラメンテナンス表彰小委員会で運用してきた。この表彰制度は、インフラメンテナンス分野に特化し、インフラメンテナンスに関連する優れたプロジェクト(事業)、人・団体(技術者、オペレーター、管理者など)、個別要素技術(点検・診断、施工方法、材料など)や論文(実践的研究)を評価し、共有することでメンテナンス関係者のインセンティブを高めるもの。

2024年度も日本全国から多数の応募が寄せられ、表彰小委員会(伊勢勝巳委員長・JR東日本)により厳正な選考を経て各賞を決めた。今回、インフラメンテナンス表彰式のもようを取材し、プロジェクト賞とチャレンジ賞を紹介する。

インフラメンテに大切なのは「工夫、マインド、情熱」

挨拶する伊勢委員長(JR東日本代表取締役副社長)

表彰式の冒頭、伊勢委員長(JR東日本代表取締役副社長)より次のように挨拶があった。

「インフラメンテナンスの重要性はますます高まっている。日本の人口減少により働く人も集まらない状況が本格化した。とくにインフラメンテナンスは地味ではあるが、とても大事な領域だ。大義もあり、公益のために実施しなければならない。一方、コストや体制の問題もあり、今後とも続けていくためには、赤字で続けていくことは難しい。コストと持続性を両立させていくためには、工夫、マインド、強い気持ち、情熱をもって行うことが肝要だ。

今、インフラメンテナンスは埼玉県八潮市の道路陥没事故で大変注目されているが、別の分野でも心配な領域は多々ある。たとえば、鉄道橋梁でも140年を経てもまだ使用している実例がある。きちんとメンテナンスを施せば、古くても十分利用できる橋梁もある。インフラメンテナンスには修繕、改良、一部見直し、オーバーホールなどの取組みは多々ある。多くの手法について優先順位をつけ、総合的に実施する手法がメンテナンスといえる。とくに今回、授賞された方のマインドをぜひ共有してほしい。

以下、「インフラメンテナンス プロジェクト賞」と「インフラメンテナンス チャレンジ賞」を紹介する。

【インフラメンテナンス プロジェクト賞】(6件)

・カチプール、メグナ並びにグムティ橋第2橋梁建設および既設橋改修工事

カチプール、メグナ並びにグムティ橋第2橋梁建設および既設橋改修工事

(プロジェクト主体)バングラデシュ人民共和国交通橋梁省国道・道路局、オリエンタルコンサルタンツグローバル、日本構造橋梁研究所、大日本ダイヤコンサルタント、片平インターナショナル、大林組、清水建設、JFEエンジニアリング、IHIインフラシステム

(受賞理由)バングラデシュの主要幹線道路に位置するカチプール・メグナ・グムティ橋の新設と改修を実施。全体の車線数を増加することで交通渋滞を解消し、地域経済の発展に寄与するとともに、現地技術者への技術移転と人財育成に貢献した。

(受賞コメント)「これからも開発途上国に日本の高度な技術支援を実施しつつ、その国の技術力の発展に寄与したい」

・線路データのプラットフォーム構築によるメンテナンス連携

線路データのプラットフォーム構築によるメンテナンス連携

(プロジェクト主体)日本線路技術、小田急電鉄、東急電鉄、東京メトロ、JR東日本

(受賞理由)日本の鉄道事業者で初の取組みで複数の鉄道事業者が共通使用できる保線管理プラットフォームを構築。同一プラットフォーム上でのデータ処理・蓄積や分析アプリなどの開発・相互利用が可能となり、メンテナンス技術の向上と生産性向上を実現した。

(受賞コメント)「今後、このプロジェクトを通じて、さらなるインフラメンテナンスの発展に貢献したい」

・名神高速道路における日本初の集中工事を利用した床版取替リニューアルプロジェクト

名神高速道路における日本初の集中工事を利用した床版取替リニューアルプロジェクト

(プロジェクト主体)中日本高速道路名古屋支社、鹿島

(受賞理由)老朽化などにより損傷が進展している名神高速道路の河内橋において床版取替工事を集中工事期に実施。短期間での工事完了により交通負荷を低減し、新設床版には超高強度繊維補強コンクリートを採用して長期耐久性を向上させた。都市部などの交通量が多い区間での工事で懸念される深刻な交通渋滞を低減する一つの方向性を示した。

(受賞コメント)「2024年度集中工事に河内橋の床版取り換え工事を行った。工事に際しては鹿島や地元の方の協力に深く感謝する」

・ベトナム技能者育成学校

ベトナム技能者育成学校

(プロジェクト主体)日本鋼構造物循環式ブラスト技術協会

(受賞理由)ベトナムに技能者育成学校を設立し、来日前にブラスト・塗装技能を習得させることで即戦力として活躍できる人材を育成。人材育成と人材確保を両立させる観点から、外国人が日本で就労しながらキャリアアップできるシステムの構築で建設業界の人材不足解消と持続的発展に寄与した。

(受賞コメント)「人材不足は深刻な問題だが、ブラストというニッチな分野ではさらに追い打ちをかけて、深刻だ。ベトナムで来日前に一通りの技能を習得出来ることで即戦力となるシステムを構築した。コンセプトでは労働力ではなく働く仲間の確保で、8期まで進み協会の会員企業で活躍している。引き続き進め、この活動をサステナブル化していきたい」

・九州自動車道宝満川橋床版取替工事プロジェクト

九州自動車道宝満川橋床版取替工事プロジェクト

(プロジェクト主体)大林組・大本組JV

(受賞理由)九州自動車道宝満川橋の床版取替工事で、幅員分割取替工法の採用で連続規制期間を最小化し、地域交通の大動脈維持に貢献した。今後床版取替を控える多くの更新工事への参考となることが期待される。

(受賞コメント)「大林組では日本全国のリニューアルで床版取替工事に携わっており、本社から技術支援を得ており、各工事でも各作業員が一体となって進めている」

・中空床版全面打換え工事の品質確保・工程管理に向けた取り組み

中空床版全面打換え工事の品質確保・工程管理に向けた取り組み

(プロジェクト主体)東日本高速道路北海道支社、戸田建設、ネクスコ・メンテナンス北海道

(受賞理由)道央自動車道江別東IC橋の中空床版全面打換え工事で、コリジョンジェット工法や移動式防護柵を活用し、施工期間短縮を実現した。品質確保・工程管理に向けた各種取組みにより、社会的影響の最小化を達成した。この取組みは今後計画されている同種工事に広く適用されることが期待される。

(受賞コメント)「コリジョンジェット工法や移動式防護柵を活用し、品質を確保した工程管理を実現した。こちらの件ではNEXCOグループと受注者の戸田建設が一丸となって受賞できたものと考える。この受賞を励みに、より一層努力し、成果を挙げていきたい」

【インフラメンテナンス チャレンジ賞】(9件)

・橋梁実モデルと橋梁メンテナンスVRを活用した橋梁メンテナンスの技術力向上の取組

橋梁実モデルと橋梁メンテナンスVRを活用した橋梁メンテナンスの技術力向上の取組

(プロジェクト主体)九州地方整備局九州技術事務所

(受賞理由)維持管理技術の習得を目的とした体験型土木構造物実習施設「橋梁実モデル」を整備し、さらにVR技術を活用した学習ツール「橋梁メンテナンスVR」を開発した。これらを活用した橋梁メンテナンス研修や施設見学の実施を通じてインフラメンテナンスの理念普及、人材育成、技術力向上に取組む。

(受賞コメント)「九州技術事務所では、実物と同様の構造物『橋梁実モデル』を整備している。一方、VR技術を活用し、あたかも現場にいるかのような体験ができる研修ツールをこのほど開発した。この2つを使いVRならではの技術を広く伝え、県内の職員の方に技術の向上とともに人材の育成を図っているところだ。この賞を励みにさらなる人材育成を行っていく」

・住民主体型橋梁セルフメンテナンスを通じた女性技術者による次世代育成・指導者育成の取り組み

住民主体型橋梁セルフメンテナンスを通じた女性技術者による次世代育成・指導者育成の取り組み

(プロジェクト主体)土木技術者女性の会、茨城県建設業協会建女ひばり会、石岡市道路建設課

(受賞理由)建設産業に携わる女性技術者の団体として、小中学生とその保護者を対象に「橋のセルフメンテナンス」をテーマにしたイベントを開催。点検体験や橋の構造に関する講習を通じてインフラメンテナンスに関するステークホルダーの意識向上に貢献した。

(受賞コメント)「私たちは次世代育成の一環として、地域の子どもたちにインフラメンテナンスの大切さを伝えるとともに、橋の研究も子どもたちと一緒にしている。このような栄えある賞をいただいたことで仲間たちも一層に励みになる」

・AI活用等による主要線路設備全ての劣化状態自動判定の実現

AI活用等による主要線路設備全ての劣化状態自動判定の実現

(プロジェクト主体)JR東日本、日本線路技術

(受賞理由)線路の枕木、締結装置、継目板、継目板ボルト、レールボンド、といった主要線路設備すべてについて、複数のディープラーニングモデルにより構成されるAIを構築し、日本で初めて良否の自動判定を実現した。これにより線路設備の画像から各設備の良否が可能となり、効率的なスクリーニングが実現した。

(受賞コメント)「モニタリング装置から取得した線路の画像から設備状態を自動で判定する取組みだ。まだまだ、モニタリング装置の利活用の余地が残っているため、さらなる業務の促進が図れる。今後ともJR東日本とともに線路メンテナンスに邁進していきたい」

・鉄筋コンクリート内部ひび割れ検出システムによる床版調査の取り組み

鉄筋コンクリート内部ひび割れ検出システムによる床版調査の取り組み

(プロジェクト主体)技建開発

(受賞理由)電磁波レーダで橋梁床版を測定したデータから床版内部のひび割れ、土砂化の損傷を分類する技術を開発。機械学習により分類したデータを色分けし明瞭に表示することで、従来技術と比べて判断精度向上と解析作業の省力化を実現し、地域のインフラメンテナンスの高度化に寄与した。

(受賞コメント)「この技術は電磁波レーダを使い、橋梁床版のひび割れや劣化状況を非破壊で解析する技術。名古屋大学大学院工学研究科土木工学専攻構造・材料工学の中村光教授のご指導の下、開発に至った。今後、橋梁工事の円滑化につとめていきたい」

・ポリカーボネート樹脂製透光板の飛散防止材の開発

ポリカーボネート樹脂製透光板の飛散防止材の開発

(プロジェクト主体)首都高速道路会社

(受賞理由)劣化すると脆化するポリカーボネート樹脂製透光板は、車両接触により割れて破片が落下すると第三者被害を引き起こす恐れがあったが、脆化した透光板を容易に機能回復させる透明な飛散防止材を開発したことで、工事費削減と工期短縮を図りながら安全な沿道環境を提供することが可能となった。

(受賞コメント)「ポリカーボネート樹脂製透光板の飛散が問題になっており、今回その防止の開発を行った。今後は実装を進め、安全・安心な道路の提供をつとめていきたい」

・「福国橋守マイスター会」による道路インフラメンテナンスの取組

「福国橋守マイスター会」による道路インフラメンテナンスの取組

(プロジェクト主体)福岡国道事務所、福国橋守マイスター会

(受賞理由)メンテナンスの経験が豊かな福岡国道事務所の退職者からなるボランティアグループを設立し、メンバーが居住地近隣で橋梁を見守り、不具合があった場合に通報する仕組みを構築することで維持管理の質の向上に寄与した。さらに、基礎知識の講習や点検作業の支援を行う「橋梁の里 親活動」により技術者育成に貢献した。

(受賞コメント)「福岡国道事務所が管理する橋梁は約200橋あるが、現在その約50%が架設から50年以上経過し、高齢化が進んでいるところだ。橋を長く保全するためには、早期の損傷発見が大切。今後ともしっかりボランティアで橋の見守りを継続し、福岡国道事務所の手助けをしていきたい」

・ひび割れ進行評価技術を用いた橋梁維持管理の高度化・効率化を目指す取り組み

ひび割れ進行評価技術を用いた橋梁維持管理の高度化・効率化を目指す取り組み

(プロジェクト主体)多摩市都市整備部道路交通課、八千代エンジニヤリング、ニコン・トリンブル

(受賞理由)点検記録においてひび割れが進行傾向にあるPC橋を対象に、データによる複数年の継続監視を実施し、2時点の高解像度画像に対する画像AIと差分解析技術により、経年的な進行状況を定量的に把握することが可能となった。本技術によりデータに基づいて損傷の進行状況を把握することで、措置のタイミングの適正化、予防保全の推進に寄与した。

(受賞コメント)「現時点で継続監視も5年目に突入した。ただ、データ取得も難しいと日々感じているところだ。この受賞を機により一層の技術進展を行いたい」

・メンテナンスフリーと施工の効率化を目的とした補修工法の開発と導入

メンテナンスフリーと施工の効率化を目的とした補修工法の開発と導入

(プロジェクト主体)JR東日本東京土木設備技術センター、デンカ

(受賞理由)鉄筋コンクリート構造物の塩害に対する新しい補修材と吹付け法を開発し、鉄道営業線内における短い施工時間や狭い空間という制約条件下での補修工事に適用・導入することを実現した。従来の工法と比較して、耐久性を維持しつつ施工性や付着性を向上させることによって、工期の大幅短縮と工事費の縮減を実現した。

(受賞コメント)「鉄筋コンクリートが塩害を受けているところに対する吹付モルタルの開発を行い、現場に導入した。開発から導入まで3年かけたが、今年度も吹付工法で補修も実施した。吹き付けた後は跳ね返りが少なく、早く固まることを目指し、導入に至った」

・道路走行可能な新幹線・在来線両用のレール探傷車の開発と運用

道路走行可能な新幹線・在来線両用のレール探傷車の開発と運用

(プロジェクト主体)JR東日本、JR四国、JR九州、日本線路技術

(受賞理由)日本で唯一の軌陸式レール探傷車を開発。超音波によるレール内部の傷の調査、レール摩耗を標準軌および狭軌の線路幅によらず測定できる日本で初めてのレール探傷車であり、高い機動性と安定した探傷データの提供により、鉄道インフラの維持管理に貢献した。

(受賞コメント)「手軽に測りメンテナンスをするためにできるようにした」

なお、詳細な「2024年度インフラメンテナンス賞」のデータはこちら

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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