独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、2025年3月27日に、「スマートビルディング・カンファレンス2025」を開催、スマートビル普及・促進の母体となる「一般社団法人スマートビルディング共創機構」の設立準備が整ったことを発表した。5月下旬から6月上旬をめどに設立総会を開く予定。代表理事には、森ビル株式会社オフィス事業部営業推進部・企画推進部部長の竹田 真二氏が就任する予定だ。
スマートビルディング共創機構は、産学官が連携した公共性・公益性・透明性を持つ組織として、建物に関わる多種多様な知見・機能を持つ会員が業種・分野・国境の垣根を越え、横断的で調和によりデータ共有ができるエコシステムの構築を目指す。そのために、特定の企業や業界に利することのないリーダーシップを発揮し、新たな発想や技術を生み出すためのオープンで活気ある組織を基調とする。
コラボレーションの実現や価値創出を重視し、デジタルを活用したプロセスや組織や機能の自動化・効率化に取組み、自律的な成長を遂げる組織を構築する。3月17日時点でゼネコン、デベロッパーやメーカーのほかスタートアップ企業など115社・団体が参加したが、今後も増える予定だ。
目指すべき姿では、「世界をリードする仕組みつくり」「スマートビルが当たり前の世界」「エコシステムの構築」を掲げ、「インセンティブ・ルールの創出」「スマートビルの標準化・認証」「集合知の構築と共有」「世界に通用する人材育成」「コミュニティの形成」の5点を社会や会員に価値として提供する。
団体理念
発起人会メンバーは、次のとおり。
株式会社Andeco、scheme verge株式会社、セコム株式会社、ソフトバンク株式会社、大成建設株式会社、株式会社竹中工務店、東急建設株式会社、パナソニック株式会社エレクトリックワークス社、株式会社日立製作所、株式会社ビットキー、株式会社ビルポ、森ビル株式会社。
代表理事は森ビルの竹田真二氏が就任予定
概略説明を行った竹田氏
「スマートビルディング・カンファレンス2025」の中で代表理事に就任予定の竹田 真二氏(森ビル)がスマートビルディング共創機構の概略説明を行った。民間主導で新団体を設立していく中で、設立趣意書を作成した。その要旨は次の通りだ。
急速な人口減少下での人手不足、地球温暖化を受けた脱炭素やカーボンニュートラルの必要性など社会課題が顕在化しており、働き方改革やワークスタイルの変化など含め、建物を取り巻く環境は大きく変化し求められる役割も変遷している。モノからコトへ、所有から利用へ、あらゆる製品・サービスがデジタル化する社会変革の潮流は、建物でも決して例外ではなく、データとデジタル技術による協調領域が抽出され、スマートビルという新しい概念が生まれてきた。
今後、建物に関わるあらゆるデータの可視化により、様々なステークホルダーへの新たな価値提供、IoT、AI、クラウドやロボットなどの活用・推進がより一層求められる。スマートビルで蓄積した情報を建物間の連携では街全体や社会全体の生産性向上やウェルビーイングの実現に貢献し、それがスマートシティを実現する構成要素となることが期待できる。
スマートビルに関わる人材の育成や協調領域の整備による技術標準化を推進し、データの利活用とDXを促進する新たな産業を創出・振興する役割を担い、国内に加え、世界をリードする存在を目指すため、スマートビルディング共創機構を設立することになった。ビルに暮らし集い働く人々がより快適で安全安心な人間中心で持続可能な社会実現のために貢献し、サイバーとフィジカルをデジタルでつなぎ、より人々の行動に寄り添った自然なデータ利活用が生まれるスマートビルを普及促進させ、建物の更なる高度化を促し、スマートビルに関わるすべてのステークホルダーに好循環を及ぼすと同時に人々に新たな価値を提供する。
その上で竹田氏は、「インターネットやスマートフォンと同様に、スマートビルディングが当たり前の社会になることが間違えなく訪れる」とし、「多様な人々を巻き込み、エコシステムを構築し、新たな産業を創出していきたい」と強調した。今やスマートビルディングは実装するフェーズに入っており、標準化やインセンティブを展開していくためには、関係する人々の知恵を集め、世界に通用する人材を輩出し、サステナブルな活動としていくスタンスだ。
世界へと発信する日本のスマートビル
様々なステークホルダーに価値を提供する団体として、「知識交流を促すコミュニティ運営」「エコシステムの創造」「ガイドラインやツールの整備」「教育や検定事業による技術者育成」「政府や研究機関への働きかけ」「国際競争力の強化」の6点の役割を示した。そこでガイドライン更新や規制緩和の提言などを実施していく方針だ。
「熱量を持って本当にいい社会をつくる人々が集まり、コラボレーションしていく。決まったことだけがすべてではなく、行動しながら考えて実践していく環境を整備していきたい。そのため、どんな実装がされているかもオープンで持続的な運営をしていく。それが当機構の自律的な成長サイクルやスマートビルの実装につなげる」(竹田氏)
団体概要では、理事会設置の非営利型一般社団法人として設立し、具体的活動は幹事会員会やWGを中心に、エコシステム、情報収集、標準策定、セキュリティ、普及促進、外部連携などの取組みを推進する予定。
スマートビル共創機構のあるべき姿
現在、オンライン説明会などで参加を呼び掛けている。竹田氏は、「もっといい社会をつくりたいという気持ちやマインドセットを持っている企業には参加をしていただきたい。その意味では柔軟な思考をお持ちの方や様々な技術を保有されている方も歓迎したい。また、スマートビルディングはいろんなテーマを含んでいるため、企業の規模、領域は関係ない。過去に建設・不動産業界ではスマートビルディングの取組みをされてきたが、大きなポイントは領域を横断し、多くのセクターが集まることに価値がある。だからこそ多くの領域の方の参加を望みたい」と語った。
12人の理事の抱負
記者会見では理事就任予定者から挨拶があった。
竹田 真二氏(森ビル株式会社 部長)
「当社は、『都市を創り、都市を育む』を理念とし、都市開発・街づくりを通じて、都市の課題を解決し、新しい可能性を引き出してきた。我が国は多くの方々が集まり協力する文化が古来よりあるが、今回、多くのステークホルダーが集まった。日本らしいスマートシティ・スマートビルへつながるような取組みをしていこう。私は代表理事をつとめることになったが、ここに参集されている方々はプロフェッショナル人材。私は皆さんをサポートし、実現できる社会をつくっていきたい」
早川 慶朗氏(株式会社Andeco 代表取締役)
「当社はスマートビルの案件を裏方で担当してきた。今、東京中心の大規模ビルではスマートビルを実施しているが、地方までは進んでいない。私はスマートビルの技術を民主化し、地方や公共建物でもスマート化できるような設計・積算基準を作成していきたいという想いがある」
嶂南 達貴氏(scheme verge株式会社 代表取締役)
「当社は東京大学のAIの松尾研究室と都市工学双方のスピンアウトとしてスタートした。スマートシティを社会全体に広げるには、スマートビルを規格化し、新旧ビルにも導入し、なおかつビルをまたいでのデータ活用が肝要だ。そこで当機構を通じて諸問題を解決していくきっかけとしたい」
早坂 琢磨氏(セコム株式会社 担当部長)
「サイバーセキュリティやフィジカルセキュリティーのサービスを提供する。サイバーセキュリティはネット上の資産を、フィジカルセキュリティーは物理的な資産を守っていく。準備をするだけではなくその後の監視やオペレーションしていくことがメインとなる。当社のオペレーションのノウハウや知見を当機構にお役に立てる思いで参画した」
西村 賢一氏(ソフトバンク株式会社 室長)
「当社はここ数年、構想・実装しているがまだ課題も多い。課題解決のためには、デベロッパー・メーカー・ゼネコンなど多くのステークホルダーと連携することが重要だ。当社としてはスマートビルに対して使用者側で意見を述べたい。よりよいスマートビルを実現する立ち位置で参画した」
野村 淳氏(大成建設株式会社 部長)
「当社のグループ理念では『人がいきいきとする環境を創造する』を掲げている。スマートビルは人がいきいきとする環境の要素の一つ。ゼネコンだけでは建物を建設することはできない。多くのステークホルダーとの協力があって完成する。スマートビルは多様な企業、人材、才能がなければ到底成し遂げられない。共に創り、次世代へつなげていきたい」
政井 竜太氏(株式会社竹中工務店 本部長)
「ビルは数十年使用するもの。日本は人口減少していく中で、スクラップアンドビルドの時代ではなく、今ある建物を長く使用する時代に入る。豊かな生活を送るには建物のアップデートが肝要。そのためにはクラウドにつなぎ、機能をアップデートしていくスマートビルがこれから必ず必要になる。当社は2009年から世に先駆けてスマートビルに取組んでいる。この16年間で十数棟を建設してきたが、当社だけでは広がらない。オープンなアーキテクチャのもとに、多様な産業界が集まり、スマートビル産業へと発展させていかなければならない」
林 征弥氏(東急建設株式会社 技術統括部長)
「当社のVISION2030では、『0へ挑み、0から挑み、環境と感動を未来へ建て続ける』を理念としている。当社はBIMのデータは相当蓄積されてきたが、これをもっと飛び越えて、本日、お集まりの方々とどのように共有するか。最終的にはウェルビーイングやBtoCへとつなげ、一人一人の幸せに発展していくなどのビルをつくっていくことが、スマートビルと言語化したい。ともにアプリケーションを標準化しながら、ハッピーな世界とし、日本がますます発展していく世界をつくりたい」
秋田 剛志氏(パナソニック株式会社 統括部長)
「パナソニックのエレクトリックワークス社は、元々松下電工が母体となった社内分社であり、『いい今日と、いい未来を電気設備から』スローガンとし、電設資材を中心とした建設事業を生業(なりわい)としてきた。当社は2年前から社会課題の解決としたビジネスへも展開し、今回、当機構に参画することは、共創する絶好の機会だ」
小菅 佳克氏(株式会社日立製作所 本部長)
「当社は一昨年、スマートビルディング本部を立ち上げ、事業展開を開始した。スマートビルにはさまざまなデータを集約し、分析するビルOSをさまざまなソリューションへと展開していく。様々なステークホルダーと一緒に連携しないと前に進まないということを感じているため、協調領域を強化していきたい」
稲垣 太一氏(株式会社ビルポ 代表取締役)
「当社はサービスロボットを設計、導入、管理、運営まで行う『サビロボ』というサービスにより、全国で約2,000台のロボットの運用管理を実施している。ビル管理の業界は人口減少の影響を受け、労働集約型で展開していくことは今後難しい。今、デベロッパー、ゼネコンなどとともにサービスロボットを運営・管理しているが、スマートビルが一般化できるよう、平準化の部分についてともに作成していきたい」