水道法15条の「正当の理由」と認めたレアな給水「拒否」容認判決
水道の給水拒否裁判については、多くの場合「給水してあげなさい」という判決が出ます。ところが、水道事業者であるY町が水道水の需要の増加を抑制するためにマンション分譲業者Xとの給水契約の締結を拒否したことについて、水道法15条1項にいう「正当の理由」があるとされためずらしい判例があります。
では、なぜこの裁判では給水拒否が「正当の理由」と認められたのでしょうか。まずは、流れを時系列で確認します。
- 不動産の売買等を目的とする会社であるXが、Y町の水道事業の給水区域内にマンションの建設を計画し、平成2年5月31日、建築予定戸数420戸分の給水申込みをした。
- Y町は全国有数の人口過密都市であり、今後も人口の集積が見込まれ、認可を受けた水源のみでは現在必要とされる給水量を賄うことができず、認可外の水源から取水して給水量を補い、多額の財政的負担をしている。漫然と新規の給水申込みに応じていると近い将来需要に応じきれなくなり深刻な水不足を生ずることが予測される。
- Y町では新たに給水の申込みをする者に対して「開発行為又は建築で20戸(20世帯)を超えるもの」又は「共同住宅等で20戸(20世帯)を超えて建築する場合は全戸」に給水しないと規定していることを根拠に、Y町は給水契約の締結を拒否した。
- Xは、給水契約拒否は水道法15条1項に違反するとして、給水申込みの承諾等を求めて訴訟を提起した。
水道法第15条(給水義務)
水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない。
認可水源だけでは水不足、Y町の深刻な水事情
Y町における認可水源からの取水量と給水量とを比較してみると、どの年度においても認可水源からの取水量のみによっては給水量には足りず、この不足分を下記の認可外水源によって補っていました。
- S町から受水、しかし停止に
Y町は、S町から浄水を受水していたが、平成3年4月8日以降停止された。
- 水道企業団から受水、しかし不安定
Y町は、水道企業団からの浄水受水として、平成元年12月以降、毎年7月ないし9月は1日当たり2,000立方メートル、その他の月は1日当たり1,940立方メートルの浄水を受水している。水道企業団は、その原水をT川の表流水から取水しているが、これも昨今の水量不足によって、平成4年度は受水を一部カットされたりした。このように水道企業団からの受水はまったく不安定である。
- U川の表流水からの取水は「ヤミ転用」(?)
Y町は、昭和50年から今日まで、町内を貫流するU川に水利権を有している農業水利権者との間で取水契約を締結し、U川の表流水を取水したうえ、これを農業水利権者の管理する井堰から農業用水路を経由して送水して、原水として使用している。ところで、このような方法による原水の取水は、河川法上疑義があるもので、その実態はいわゆる「ヤミ転用」といわれる売水であると評価し得るが、認可水源の取水能力に鑑み、止むなくとっている手段である。
判決で給水拒否を容認
市町村は、水道事業を経営するに当たり、可能な限り水道水の需要を賄うことができるように、中長期的視点に立って適正かつ合理的な水の供給を実施しなければならないと法定されています。給水契約の申込みに対して応ずべき義務があり、みだりにこれを拒否することは許されません。
しかし、Y町の事例では判決は契約拒否を容認しました。判決は以下です。
判決
「水が限られた資源であることを考慮すれば、市町村が正常な企業努力を尽くしてもなお水の供給に一定の限界があり得ることも否定することはできないのであって、給水義務は絶対的なものということはできず、給水契約の申込みが右のような適正かつ合理的な供給計画によっては対応することができないものである場合には、法15条1項にいう『正当の理由』があるものとして、これを拒むことが許されると解すべきである」(平成7年7月19日 福岡高裁)
米を主食とする日本の農家の水への思い
稲作を左右する4つの要素は気温、日照時間(光合成量)、水、肥料です。このうち人間がコントロールできるのは水と肥料です。
水は稲の生育に必要なのはもちろん、田植え直後の苗を寒さから守り、逆に盛夏には水を抜いて干しあげる中干しによって田んぼの土に亀裂を生じさせて土中に酸素を供給するなど、さまざまに管理します。水は、農家にとってはかけがえのない資源です。
農業水利権者から水を得るのは「ヤミ転用」と呼ばれても仕方がないにもかかわらず、やむを得ないとされているのがY町の現状でした。水道事業者としての責務を果たすためのものでしょう。給水拒否ならマンション建設計画もストップしますので、一定戸数以上の住居計画を立てる場合は、水事情の確認も必要なようです。
Y町のホームページを拝見しましたら、川の水位を監視するライブカメラが3か所設置されていました。水不足解消への努力は、変わらずに継続なさっているようでした。

