記者会見を行う(一社)マルチアングル工法協会 鉞勇貴会長

記者会見を行う(一社)マルチアングル工法協会 鉞勇貴会長

「追いついていないのは唯一、価格のみ」――それでもマルチアングル工法が”法面の未来”である理由

マルチアングル工法協会(鉞勇貴会長・株式会社鉞組社長)は、一般社団法人化に伴う設立会見を開催。同協会は、法面作業構台分野での合理化や技術・技能の進歩改善を通じて、安全作業の推進と労働災害の撲滅を目指しつつ、普及促進活用を通じ、建設業界や法面防災分野の持続的な発展の寄与を目的とする。

具体的な活動として、①マルチアングル工法普及のための発注元への営業活動、②組立・解体に関する技術協力、③安全施工に関する研究や指導、④工法に関する情報・資料の収集や提供、⑤技術者・技能者の育成、⑥会員事業者間の協力体制構築、⑦その他目的達成に必要な事業の7点を掲げ、法面防災分野の基盤整備に取り組む。

法面防災工事に使用する足場は、自然地形に設置するという特性上、足場工事の中でも特に難易度が高く、これまでも単管在来工法による属人的な技能に依存してきた。この熟練技能者の育成まで長い年月がかかる一方、身体的負担の大きさから離脱者も多く、担い手不足が慢性化し、結果、災害復旧や防災工事に対し、迅速に対応できないという構造的な課題が存在してきた。

長年の実務経験を通じてこうした状況に強い危機感を抱いてきた鉞会長は、仮設機材メーカーの日綜産業と共同で、急傾斜地や山間部の法面(斜面)で使用する高耐荷重なユニット式作業構台「マルチアングル工法」を開発。安全性を備えた工法として進化を重ねてきた。

一方、「正しく使われ、一定の品質で普及する仕組みが不可欠」との考えから、施工品質の基準、人材育成、情報共有、災害時の対応体制を担う組織として2023年に同協会を設立。社会的責任と透明性を明確化するため、このほど一般社団法人化した。今回は、鉞会長の会見をもとに、今後のマルチアングル工法協会の動向を追う。

一般社団法人化で挑むインフラ防衛の新局面

会見のもよう(左:加藤隆大・日綜産業 法面事業部 執行取締役事業部長、右:鉞勇貴会長)

鉞勇貴会長は、協会が担うべき3つの社会的価値を提示した。

第一の柱は「災害対応力の向上」だ。施工品質や安全基準を全国規模で統一し、技術者ネットワークを強固に整備することで、有事の際にも迅速かつ安定した対応が可能な体制を構築する。

第二に「安全性と持続可能性の向上」を掲げる。再現性の高い施工の実現によって事故リスクを徹底して低減。さらに、若手や次世代の人材が意欲を持って参入できる環境を維持・発展させていく構えだ。

そして第三が「技術の標準化と信頼性の確立」である。これまで個別の企業や現場に埋もれていたノウハウを協会として規準化・可視化し、発注者や行政に対し、揺るぎない「信頼できる選択肢」を提示していく。

設立当初は17社だった加盟社数も、現在は19社へと拡大。その門戸は決して安易に開かれているわけではない。入会には、確かな施工実績と厳格な安全管理体制、そして協会の根幹をなす理念「共存共栄共利」への深い賛同が不可欠だ。申請から確認、講習というステップを経て、初めて正式な一員として迎え入れられる。

質疑応答の場において、鉞会長は設立時より見据えてきた一般社団法人化の意義について改めて言及。「今後、各省庁と協定を結ぶ際や情報発信を行う上で、透明性を重視した組織運営の実績(エビデンス)が不可欠。あえて2年の歳月を費やしたのは、形だけの法人化ではなく、意義ある活動の積み重ねによって協会の必要性を高めてから移行すべきだと考えたためだ」と振り返る。組織としての透明性と信頼性を武器に、マルチアングル工法協会は今、新たなステージへと踏み出した。

有事の際に、全国19社のネットワークで国土を守る

この2年間、マルチアングル工法協会が注力してきたのは「徹底した現場目線での標準化」だ。本来、工法は現場ごとに無数のカスタマイズが可能だが、それが時に「オーバースペック」や「不適切な適用」を招く懸念もあった。そこで協会は、誰が扱っても高い再現性を確保できるよう、工法の適正供給に向けた勉強会から着手。さらに積算基準の策定により属人性を排除し、価格や提案内容の透明性を高める体制を整えた。

現在は、現場条件に応じた「工法選定フロー」の活用や、施工事例の共有、類似工法との比較表を通じた客観的な特性把握を推進。定期的な現場視察会やパトロールを通じて実施工の理解を深める一方、製品管理項目の作成や3Dソフトの開発による施工計画の精度向上にも乗り出している。将来的な展望として、同会は法面防災の仮設足場分野において、行政・発注者から不可欠なパートナーとして認知されることを目指している。鉞会長は、自然災害への対応について強い意欲を示す。

「地すべり等の災害発生時、仮設工事は真っ先に必要となるだろう。国土交通省や地方自治体からの直接要請に対し、全国ネットワークで迅速に対応することこそが最大の社会貢献だ。対応可能なメンバーのリスト化を進め、有事の際の協定締結を急ぎたい」

マルチアングル工法

全国仮設安全事業協同組合(アクセス)の理事も兼務する鉞会長は、同組合との連携も視野に入れている。

「11月の総会までに、国交省、NEXCO、防衛省などに対して何らかの形で協定締結のアクションを起こしたい。その際、アクセスと連携し、協定実現を進めたい」と、価値提供の大きな方向性を表明した。会員企業が全国に点在する強みを活かし、将来的には地方自治体との連携も深化させていく方針だ。さらに、傾斜地での法面足場の高強度の積算基準は存在しない。そこで国に対して積算基準を提案していく。

技術の研鑽と組織の強化を両輪に、マルチアングル工法協会は社会インフラを守る「最後の砦」としての地位を確立しようとしている。


重機不要、ハンマー1本で工期を4割短縮する「新生」の威力

鉞会長の協会活動の解説後、加藤隆大同協会事務局(日綜産業 法面事業部 執行取締役事業部長)が工法について詳解した。

マルチアングル工法は、仮設資材を用いて法面上に安全な作業構台を構築する独自工法だ。クサビ緊結式システム足場兼支保工「ニッソー3Sシステム」を応用し、斜面・法面での作業床を安全で、迅速に設置するクサビ緊結式のシステム構台工法で、仮設資材で様々な傾斜の法面に柔軟に対応可能になっている。

最大の特徴は、重機が不要で、ハンマー1本で簡単に組立・解体ができる点だ。重機の据え付けが難しい法面に人力での施工が可能な一方で、単管足場などの従来工法と比べて大幅な時間短縮が可能となる。協会会社は、1,000空m3モデルを用いた比較で、単管パイプ、クランプや番線などを用いた従来の足場と比較し、組立・解体工数を37.78%、コストを21.34%削減できると試算した。狭小地や山間部、急傾斜地、災害時の応急復旧に最適だ。

マルチアングル工法を解説する加藤隆大氏

技術開発は当初、日綜産業で進めてきたが、その後、実施工を担う鉞組の知見が融合。開発当初のマルチアングル工法では、足場の鳶職人が使いにくい部分もあったものの、新たなパーツを付け加え、施工手順の変更、部材の変更などを鉞組から日綜産業へ提案。最終的に共同開発し、新たに新生のマルチアングル工法が誕生し、現在に至る。

鉞組ではマルチアングル工法の導入を重ね、工夫を施してきた経緯もあり、こうした情報が会員内で共有されている点も協会の大きなメリットだ。鉞組での活動が他の会員に良い刺激となり、各会員もマルチアングル工法の様々な施工方法をテストする。それをさらに会員同士が共有することで施工精度は格段に上がってきた。

支柱の最大許容荷重は7.1t。単管と比較して3倍以上の許容支持力があり、単管構台では実現できない70t未満程度の積載が可能のため、50tのラフタークレーンなどの重機の積載に対応する。また、JIS規格A8972(法面工事用仮設設備)に基づき、根拠の明確な強度計算が行えることも大きなメリットだ。再利用が想定されているリース品のため、土嚢袋などの廃材削減になり、SDGsにも貢献する。

2025年4月には、国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)で「準推奨技術」に選定された。この選定でその信頼性と有効性が国に認められた。準推奨技術は、国土交通省による審査・評価を経て認められる。マルチアングル工法は公共事業で優先的な採用が推奨される技術の一つとなった。今後、国や地方自治体の工事案件で採用される際には、施工業者の評価加点などのインセンティブも期待されることから、現場での活用が一層促進される見込みだ。

鉞会長は、「類似工法と比較しても、マルチアングル工法は手組でできる最高強度だ。ただし高価であったりオーバースペックとなってもよくないことから、強度に応じてスペックの上下が可能になるよう70種類以上のカスタマイズができるため、対応の幅も広い」と胸を張る。

「法面版・次世代足場」へのパラダイムシフト

市場を見渡せば、法面補修や防災対策、そして有事の緊急復旧。そこには巨大な需要が眠る。だが現場はいまだ、単管とクランプが主役を張る「旧態依然」の世界だ。エビデンスこそ乏しいが、体感では実に市場の7割を在来工法が占めているという。「優れているのは承知だが、最後は価格で従来工法が選ばれる。それがこの業界のリアル」。鉞会長は、施工難易度の高さと、そこに潜む危機感を鋭く指摘する。

極限の現場で単管を操る技能は、まさに属人化の極致。しかし、その高技能者が高齢化し、次々と現場を去っている今、伝統への固執はリスクでしかない。システム化による工期の圧縮、ヒューマンエラーを排除する構造の絶対的安全、揺るがない高精度による高品質の3点の優位性を示しつつも、「追いついていないのは唯一、価格のみ」(鉞会長)。

かつて高層建築の足場が単管から「次世代足場」へ塗り替えられたように、法面現場の世界にも変革の足音は聞こえている。鉞会長が描く未来図は、単なる工法の普及にとどまらない。その核となるのが、協会員による徹底した「技能の研鑽」だ。協会員の中には技能センターを設置し、マルチアングル工法の実習し、研鑽を行う。たとえば、鉞組が運営する「飛騨高山技能講習センター」では、資格取得のサポートからマルチアングル工法の実技教育まで、地域インフラを支える人材をフルパッケージで育成している。多くの鳶職人がマルチアングル工法を習得し、法面現場を劇的にアップデートする日は、すぐそこまで来ている。

法面足場の革命!「10年修行」の常識を打ち破る

法面足場を極めるには、10年の歳月を要する――。

これまで、この業界ではそれが「当たり前」の代償とされてきた。しかし、その過酷な習得期間の中で、多くの若手が挫折し、ベテランは腰や膝を痛めて現場を去っていく。この「技術の継承」と「身体の酷使」のジレンマは、日本のインフラを守る上で、決して無視できない由々しき事態といえる。現在、日本列島では地滑りや土砂災害が頻発。一刻を争う復旧工事において、現場が求めているのは、もはや職人の「根性」や「経験値」だけに頼った施工ではない。

これらを実現するシステム足場の普及促進は、時代の要請そのものといえる。こうした状況下で、全国の仮設工事会社やメーカーが結集しマルチアングル工法協会が設立され、一般社団化した意義は、計り知れないほど大きい。

「より簡単に。より安全に。」

このスローガンを具現化するマルチアングル工法の普及は、まさに現場の救世主。複雑な斜面でもシステム化した機材が鳶職人の技術を強力にサポートし、高品質な施工を実現、身体への負担を減らし、熟練の技をシステムで補完する。マルチアングル工法の台頭により、鳶職人にとって「より簡単で、より安全な施工」が現実のものとなる時代が、今、到来した。

日本の斜面を、そして鳶職人の身体を守るこの工法が、全国の現場へ広がっていくことを切に願うばかりだ。

一般社団法人マルチアングル工法協会の会員名簿(2026年2月現在)

  • 株式会社鋼管ビルド(北海道))
  • 佐々総業株式会社(岩手県)
  • 株式会社有賀組(山形県)
  • 株式会社秋田中央機工(秋田県)
  • 株式会社森下興業(宮城県)
  • 株式会社真越機工(新潟県)
  • 株式会社新成(群馬県)
  • 株式会社OGISHI(埼玉県)
  • 有限会社若狭工業(埼玉県)
  • 荻野工業株式会社(山梨県)
  • 株式会社ANT(静岡県)
  • 株式会社e-works(静岡県)
  • 株式会社鉞組(岐阜県)
  • 株式会社鳶真(奈良県)
  • 株式会社山成工業(和歌山県)
  • 株式会社エイチ(岡山県)
  • 株式会社長浜機設(愛媛県)
  • 福冨建設株式会社(福岡県)
  • 日綜産業株式会社(東京都)
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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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