「中山石見線道路改築工事」見学会での集合写真

建設用3Dプリンタ、ついに社会実装へ。老舗ゼネコン×気鋭スタートアップが切り拓く施工革命と次世代の現場像

2026年度は、建設用3Dプリンタの普及がより一層加速する年となりそうだ。建設業界が直面する人材不足と熟練工の高齢化は深刻を極めており、人手不足に対する即効性の高い解決策として期待されている。

今回注目するのは、地域ゼネコンである吉村建設工業株式会社(京都府京都市)が施工した「中山石見線道路改築工事」だ。同現場では建設用3DプリンタとCIMなどのICT施工を融合。従来の現場打ち工法等と比較して、作業人数を6割削減、施工日数も7割削減と大幅に短縮するという3Dプリンタ技術を活用することによる施工効果を証明した。

2025年11月には、吉村建設工業と建設用3Dプリンタを開発する株式会社Polyuse(東京都港区)が共同で現場見学会を開催。多くのメディアから高い関心が寄せられたことも記憶に新しい。

一方、業界のルールづくりも着実に進展している。土木学会コンクリート委員会は約1年半の議論を経て、2025年7月に「建設用3Dプリント埋設型枠を用いたコンクリート構造物の技術指針(案)」を発刊。製造から維持管理に至る体系的な取り扱いが整理された。

現場での実績と土木学会による指針策定。これらにより、建設用3Dプリンタは今、まさに「本格的な社会実装ステージ」へと移行したと言えよう。今後は地域ゼネコンを中心に導入が加速し、一般土木のみならず災害復旧での活用も期待される。

今回は吉村建設工業取締役・吉村成一氏と、Polyuse代表取締役・大岡航氏の両名に、建設用3Dプリンタで描くこれからの展望について聞いた。

「作業人員6割減・当該施工日数7割短縮」という驚異の成果

左から、吉村建設工業取締役・吉村成一氏、Polyuse代表取締役・大岡航氏

――中山石見線道路改築工事では、「作業人員6割減・当該施工日数7割短縮」という驚異的な成果を上げました。これほどの大規模工事で実利を生み出した具体的な手法と、そのインパクトについて教えてください。

大岡氏 日本の建設現場において、これほど大規模かつ実戦的に3Dプリンタが活用された事例は注目すべき事例だと思います。とくに特筆すべきは、受注者である吉村建設工業さんが、弊社の建設用3Dプリンタ技術を自社の事業スキームの中に完全に組み込み、自社技術として若手社員チームが主体となって現場を動かしていた点です。

本工事では、現場付近に設置したヤードで約350個の部材を製作する「ニアサイト」方式を採用し、輸送コストの大幅な抑制に成功しました。また、重力式擁壁(116.4m)では、「埋設型枠」の方式を採用し、内部にコンクリートを充填する工法を適用しています。

これほど大幅な数値削減を実現できたことは、施工プロセスそのものを変革する建設DXの大きな到達点の一つといえる成果だと考えています。見学会の際は、擁壁部材を直接設置場所に造形する「オンサイトプリンティング」も公開し、施工のあり方を刷新する新たな可能性を提示しました。今後に向けての実証と情報発信の両面で意義ある成果を示すことができ、建設用3Dプリンタの更なる可能性を構築していく大きな手応えを感じています。

――発注者が「京都市」であるという点も、自治体発注工事におけるDX推進として象徴的ですね。

大岡氏 これは吉村建設工業さんが5年という歳月をかけ、京都市を含めた行政機関の方々と今後の建設業界、実際の現場状況、建設用3Dプリンタ技術の品質や安全性、周辺環境への配慮などを一つ一つ対話を重ね、信頼関係を築いてこられた結果だと感じています。AR技術やCIMデータの活用を含め、地域ゼネコンが「地域の守り手」としての誇りを持ち、最先端技術で土台を支える姿は、他のゼネコンにとっても非常に参考になるモデルケースになるはずです。

現場と行政の「認識のズレ」をなくす土木学会指針

――こうした個別の成功事例を、業界全体が使える技術へと昇華させるのが、2025年7月に発刊された土木学会の「技術指針」かと思います。現場目線から見た、この指針の最大の意義は何でしょうか。

大岡氏 本指針は、建設現場の深刻な人手不足、工期の長期化、環境負荷といった諸課題に対応すべく発刊されました。策定にあたってPolyuseとしては、今後意思決定において関わる度合いの大きい建設業界従事者全体の建設用3Dプリンタに対しての「認識差」を埋めるプロセスを最重視しつつ構築を行いました。そのためには第一に徹底した意見交換からスタートしています。特に業界の持続可能性として今後の業界全体の施工能力は、推進される公共工事や国土強靱化、老朽化インフラの維持管理といった膨大な需要を安全に支えきれるのかという懸念点がありました。

内容面では、国土交通省が推進する「i-Construction2.0」も背景に建設用3Dプリンタ技術の強みである「省人化」「工期短縮」「災害復旧の迅速化」「安全性の確保」という目的意識を委員会全体で共有しました。また、技術評価が個々の主観に依存しないよう、ベースラインを揃えることに重要性があると考えました。具体的には、建設用3Dプリンタの定義から、構造物の検査手法、品質管理基準、安全運用規定に至るまで、多角的な項目を体系的に整理しました。

同指針の最大の成果は、関係各位との「目線合わせ」が可能になった点にあると考えます。これまで生じがちだった定義や解釈の齟齬が整理され、共通の「物差し」が示されたことで、発注者や建設コンサルタントとの協議においても大きな効果を発揮しています。今後は、発注者、建設コンサルタント、施工者、メーカーといった各主体が、この共通の「土台」に立ち、足並みを揃えて技術実装を進めていくことが重要になります。2026年度以降は、本指針に準拠した工事発注が実運用として広がることを期待しています。立場の違いを超えて共通の技術認識を持つことで、建設業界全体として目指しています国土強靱化に資する迅速かつ効率的な施工体制の構築が可能になると信じています。

今後、継続して実際の公共工事で得られた施工効果や実績データを蓄積し、本指針へ反映していくことが重要です。発注者、設計者、施工者など、あらゆる立場の関係者が安心して仕様に取り入れられるよう、具体的な活用イメージを示す継続的なアップデートが求められます。Polyuseとしても、現場で得られた知見や実績データを整理・提示し、委員会での議論や運営にも積極的に関与しながら、更なる実装に向けた取り組みを一層強化していきます。

吉村氏 当社も委員として参画し、現場で培ってきた知見を活かしながら基準づくりに関わりました。本指針の大きな特徴の一つは、現場発の技術革新が大手ゼネコン主導ではなく、当社のような地域ゼネコンという「草の根」から生まれた点にあります。日本の公共工事の多くは中規模以下であり、地域ゼネコンが日常的に運用できる技術として確立されたことには、大きな意義があると考えています。

現在、Polyuseさんをハブとして地域ゼネコン同士がアメーバ状に連携し、活発な情報交換が生まれている点は非常に興味深い現象です。これまで横のつながりが必ずしも強くなかった地域ゼネコン同士が、この技術を核として共創する動きが広がれば、業界全体のDXはさらに加速していくと考えます。

現行の指針はオフサイト(工場製作)を主眼としていますが、今回の現場ではニアサイトで300以上の部材を製作し、さらに見学会ではオンサイト(現地直接印刷)の実演も行いました。こうした取り組みを踏まえ、次回の改定では現場近傍や現地での施工に関する規定が拡充されることが望まれます。これらが制度として整理されれば、建設用3Dプリンタはより実装性の高い、未来の施工を体現する技術として一層進化していくはずです。

参考:コンクリートライブラリー168 建設用3Dプリント埋設型枠を用いたコンクリート構造物の技術指針(案)  / 土木学会

「石工」の伝統と最新ICTの融合

――「石工」を原点とし、鉄道土木や寺社仏閣関連など伝統ある実績を持つ御社が、なぜいち早く3DプリンタやCIMといった施工DXへと大きく舵を切れたのでしょうか。

吉村氏 おっしゃる通り、当社のルーツは京都の北白川で興った「石工」事業に遡ります。ここで切り出された石材が当時の諸官庁へ納入されたことを契機に、京都市電をはじめとする鉄道工事へと事業が広がり、その後、現在の土木・建築を柱とする総合建設業へと発展していきました。現在の売上構成比は、土木4割、建築4割、維持管理2割というバランスで推移しています。

石材事業を端緒として、京都に路線のある電鉄各社とは明治時代からお取引を頂いており、鉄道土木および建築は今なお当社の大きな軸となっています。建築部門では、私や大岡代表の母校でもある同志社大学をはじめ、教育施設の建設に強みを有しています。民間・公共の別を問わず公共性の高いプロジェクトを主軸としており、京都という土地柄、寺社仏閣に関連する特殊な工事を任される機会も多くあります。

そうした歩みの中で、当社は京都府内でもいち早くICT施工の導入を進めてきました。従来の点的な手作業による測量から脱却し、UAV(ドローン)や地上型レーザースキャナーを活用して現場を面的な「点群データ」として取得しています。これにより、現況地形を短時間かつ高精度に把握することが可能となり、施工計画の高度化や現場管理の効率化につながっています。

さらに、AR(拡張現実)などの先端技術も現場に導入しています。タブレット端末やARグラスを用い、設計図から構築した3次元モデル(CIMモデル)を実際の現場風景に重ね合わせることで、構造物の配置や高さの整合性を施工現場で直感的に確認できる体制を整えています。こうした建設DXの取り組みと建設用3Dプリンタを融合させた今回のプロジェクトは、次世代の施工の在り方を示す先進的な事例として高く評価されており、大きな意義を持つものだと考えています。

入社2年目が建設用3Dプリンタを主導。「平均年齢24歳」チームの底力

――今工事では、平均年齢24歳の若手チームが最前線を担ったと伺いました。ベテランの経験則が重宝される土木現場において、若手がこれほどのポテンシャルを発揮できたマネジメントの秘訣はどこにあるのでしょうか。

吉村氏 2025年1月下旬から約半年間、現場の最前線で建設用3Dプリンタの運用を担ったのは、平均年齢24歳の4人の若手チームでした。最年長かつ工事責任者でも34歳と若く、CIMデータの作成からプリンタの運用までを主導したのは、入社2年目の20歳の技術者です。

若手技術者がこれほどの力を発揮できた背景には、「失敗を許容し、まずは任せる」という姿勢があります。もちろん、本社には経験豊富な技術者が控えており、バックアップ体制も万全に整えていました。施工全体のマネジメントにおいてはベテランの知見が大きな支えとなりますが、局所的なデジタル技術の習得に関しては世代間のギャップはほとんどありません。

建設現場では一般に、経験に裏打ちされたベテランの存在感は大きいものです。しかし、建設用3Dプリンタのような新技術の領域では、誰もが同じスタートラインに立ちます。むしろ先入観のない若手だからこそ、現場での臨機応変な対応力を発揮し、例えばニアサイト製作では気象条件に応じた養生管理などにも柔軟に適応してくれました。入社間もない社員が中心となってプロジェクトを完遂し、目に見える成果を上げたことは、彼らにとって大きな自信につながったと感じています。

施工チームの若手技術者たち

――今回の成功を受け、今後の技術習得や人材育成についてはどのようにお考えですか?

吉村氏 当社では今後、土木技術者の「多能工化」を軸とした人材育成を進めていきます。建設用3Dプリンタを一部の専門職だけの技術にとどめるのではなく、汎用的なスキルとして社内に蓄積していくことが重要だと考えています。次の現場では、また別の若手社員を専任として配置する予定です。こうした取り組みを積み重ねながら技術の裾野を広げていくことで、建設用3Dプリンタは現場に根付いた実践的な技術として定着し、建設業の新たな可能性を切り拓いていくと考えています。

建設DXが切り拓く「障壁なき」ものづくりの未来

――2026年度以降の建設用3Dプリンタの普及はどのようなフェーズに突入するとお考えですか。

吉村氏 我々の挑戦は、2020年7月に実施した日本初の建設用3Dプリンタによる集水桝の導入から始まりました。2021年9月には法面工事における穴あきブロック工を完遂しました。さらに2022年7月には、国道24号の歩車道境界ブロック整備において国内初となる「現場直打ち(オンサイト・プリンティング)」を実施しています。これにより通行規制期間の大幅な短縮を実現し、社会インフラ整備における実効性を示すことができたと考えています。その後もさまざまな現場で実証や施工を重ねており、引き続き公共工事および自社私有地整備工事でも活用を計画しています。今回の中山石見線道路改築工事で実施したオンサイト・プリンティングの経験自体はこれまでも積み重ねてきましたが、これほど大規模な公共工事で擁壁部材を造形する取り組みは、当社にとっても極めて大きな挑戦でした。

当社は2020年からPolyuseさんと伴走しながら、建設用3Dプリンタを活用した施工DXを推進してきました。現在では当社にとどまらず、同じ志を持って3Dプリンタ活用に挑む地域ゼネコンが着実に増えています。今年から来年にかけては、業界全体が「試験導入」の段階から「実用化」へと大きく舵を切る、重要な転換点になると考えています。

2025年11月に開催した、「中山石見線道路改築工事」の現場見学会

大岡氏 吉村取締役がおっしゃるように、フェーズは確実に変わりつつあります。近年は建設コストの高騰や担い手不足を背景に、標準労務費や積算体系のあり方についても見直しの議論が進んでおり、従来の仕組みのままでは業界の持続性が揺らぎかねないという危機感が広がっています。こうした中、国土交通省の「i-Construction 2.0」でも、省人化と生産性向上の徹底が最優先課題として掲げられています。

当社はこうした大きな潮流に沿い、建設用3Dプリンタ「Polyuse One」の社会実装を進めています。すでに約30台が現場へ導入されており、今後1年ほどで約100台規模の全国稼働体制を構築する方針です。世界的に見ても同一国内でこれほどの規模で建設用3Dプリンタの実装と生産体制を同時に構築している例はほかになく、その取り組みには大きな意義があると考えています。

日本は公共事業を通しての業界課題解決に向け、建設用3Dプリンタの導入において世界をリードするスタートを切ったと実感しています。これまでは当社が主導して活用の土壌を耕してきましたが、これからは全国の地域ゼネコンやPC(プレキャスト)メーカーが、自社の事業スキームの中で「Polyuse One」を自律的に運用していくフェーズに入ります。そして、急速的に施工DXの成功事例が各地で蓄積・共有され、建設用3Dプリンタへの需要も着実に広がっていくと考えています。

――技術が標準化・実用化された先で、建設業界の「参入障壁」や「ものづくりのあり方」はどう変わっていくのでしょうか?

大岡氏 現在、建設用3Dプリンタの採用事例は加速度的に増加していますが、ルールなき普及は混乱を招きかねません。こうした状況を踏まえ、土木学会による指針が策定されました。ただし、この指針は一度の策定で完結するものではなく、技術の進展に合わせて動的にアップデートしていくことが重要です。

市場への参入プレイヤーが増えたことでコスト低減は着実に進み、実装への障壁はすでに大きく下がり始めています。次に求められるのは、建設業の従来型の経営スタイルのみに固執するだけでなく、ICT施工との高度な融合を実現する先駆者の存在です。重要なのは単なる設備導入ではなく、「変革を主導する人間」です。吉村取締役のような次世代のリーダーが経営の中枢に参画することで、意思決定の速度と精度は飛躍的に高まります。将来の建設業の絵姿を構想する際、新設・維持管理を問わず、現状に甘んじることなく建設用3Dプリンタの活用に可能性を感じている方々と手を取り合い、この技術を昇華させていきたいと考えています。

特筆すべきは、この技術が建設業の参入構造そのものを変えていく力を持っている点です。従来の建設業は、長年の経験や専門資格を前提とした産業でした。しかし建設用3Dプリンタは、その前提を大きく書き換えます。適切なトレーニングを受ければ誰もが高度なオペレーションに携わることができ、これまで建設業と縁のなかった人材にも新たな挑戦の機会を開きます。 将来は、業界未経験の人材が建設用3Dプリンタを活用した製造・運用ビジネスを立ち上げ、地域のインフラ整備に参画する。そんな新しいプレイヤーが次々と生まれ、建設業界に新しい風を吹き込んでいく。私はその未来を本気で見据えています。

吉村氏 行政側も「土木の自動化」に対して極めて前向きな姿勢を示しており、就労環境の改善を含め、時代の流れは確実に良い方向へ進んでいます。一方で建築分野に目を向けると、公共・民間の制度や運用の違い、さらには工期の逼迫といった事情もあり、BIMの浸透についてはまだ道半ばだと感じる場面も少なくありません。

現在、建設用3Dプリンタはその希少性ゆえに単体の技術として注目されがちですが、本来の価値はDXという大きな文脈の中でこそ発揮されます。建設用3Dプリンタは単なる設備ではなく、デジタルとリアルをつなぐ新しい施工基盤の一部なのです。例えば今回の工事のように、CIMの実装プロセスと建設用3Dプリンタを融合させていくことで、設計・施工・管理がシームレスにつながる次世代のものづくりが実現します。私は、こうした統合的なデジタル施工こそが、これからの建設業が進むべき「正道」になると考えています。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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