田中賞(作品部門)を受賞した、施工中の「新皆瀬川橋」

田中賞(作品部門)を受賞した、施工中の「新皆瀬川橋」

【土木学会】2025年度「田中賞」決まる!「新皆瀬川橋」など5橋と革新的技術2件を選定

公益社団法人土木学会(池内幸司会長)は5月18日、2025年度の土木学会賞を発表した。今年度は、応募総数252件の中から、功績賞や技術賞、田中賞など19部門において計122件を選定した。土木学会賞は、土木工学の進歩や土木事業の発達に顕著な貢献をした功績を讃えるものであり、最高峰の栄誉として広く認識されている。表彰式は6月12日に、東京都千代田区のホテルメトロポリタンエドモントにて執り行われる予定だ。

最高賞の一つである「功績賞」は、土木工学の進歩や土木事業の発達、ならびに学会活動の運営に多大な貢献を果たした会員に贈られる。今年度は以下の12氏が選出された。

  • 家田 仁 氏(政策研究大学院大学シニアフェロー)
  • 加藤 一正 氏(エコー特別顧問)
  • 木村 定雄 氏(金沢工業大学工学部環境土木工学科教授)
  • 桑原 雅夫 氏(日本大学理工学部交通システム工学科客員教授)
  • 清水 康行 氏(北海学園大学工学部特任教授)
  • 建山 和由 氏(立命館大学総合科学技術研究機構教授)
  • 田中 清剛 氏(都市活力研究所顧問)
  • 田中 仁 氏(東北大学総長特命教授・名誉教授、アルファ水工コンサルタンツ技術顧問)
  • 土田 孝 氏(土田地盤工学研究所代表)
  • 中村 晋 氏(日大工学部上席研究員)
  • 橋本 典明 氏(沿岸技術研究センター参与、九州大学名誉教授)
  • 村上 章 氏(京都大学大学院総合生存学館学館長・教授、京大名誉教授)

各氏の功績は多岐にわたる。家田氏は、交通・都市・国土学を専門とし、確固たる理論構築と多角的な政策提言を通じて、長年にわたり土木工学や土木事業の発展を牽引してきた。

加藤氏は、港湾・海岸工学分野において、長周期波が海浜変形および漂砂現象に及ぼす影響に着目し、現地観測と解析に基づく実証的研究を通じて、海岸侵食や砂州形成に関する学術的理解を大きく前進させた。

桑原氏は、交通工学分野において、渋滞現象を時間軸で捉える動的交通量配分理論を先導し、現代の複雑な交通計画・運用に新たな知見をもたらした。

清水氏は、凍結防止剤散布や積雪寒冷地特有の厳しい気候条件下にある道路舗装の劣化メカニズム解明と、長寿命化に向けた維持管理技術の確立に長年貢献してきた。

また中村氏は、地震工学分野において、地盤震動や地中構造物、斜面を対象とした被害調査や解析を一貫して展開。とりわけ1995年の兵庫県南部地震以降の地中構造物の耐震設計法やフラジリティ評価手法の体系化に尽力し、国内外の耐震基準の高度化を牽引したことが高く評価された。

その他の受賞者らも、交通、地盤、河川、沿岸、構造工学など、それぞれの専門分野において学術の深化と技術の社会実装に大きく貢献しており、我が国のインフラ整備の屋台骨を支え続けてきた。

また、「技術賞」では、Iグループ(土木技術の発展に著しく貢献したプロジェクト)では、「川上ダム建設事業におけるDXの導入(CIMの設計・施工・維持管理への一貫利用)」など15件が受賞した。熟練技術者の減少や働き方改革といった喫緊の課題に対し、設計・施工・維持管理を一貫してデジタル化し、国内ダム工事で初めてCPS(Cyber Physical System)を本格適用するなど、最先端のDX実践事例として高く評価されている。IIグループ(地域の発展に大きく貢献したプロジェクト)では、水深日本一の公共桟橋を建設した「徳山下松港国際物流ターミナル整備事業」など6件が選出された。

このほか、環境賞(Ⅰグループ)3件、環境賞(Ⅱグループ)2件、研究業績賞2件、論⽂賞8件、論⽂奨励賞7件、吉⽥賞(研究業績部⾨)4件、吉⽥賞(論⽂部⾨)3件、技術開発賞10件、出版⽂化賞2件、国際貢献賞6件、国際活動奨励賞18件、技術功労賞10件を選んだ。

例年と同様、日本の橋梁・鋼構造工学での最高峰の栄誉である「田中賞」の作品部門や技術部門に焦点を当ててリポートする。その他の受賞案件の詳細については、土木学会の特設サイト等を参照されたい。

※参考サイト:土木学会の2025年度「土木学会賞受賞一覧」

※2024年度の土木学会賞の田中賞(作品部門、技術部門)

2024年度の「土木学会賞」が決定!田中賞(作品部門)は”出島大橋”など5件

※田中賞の創設の由来となった田中豊氏について

2021年度「土木学会賞」が決定。131件が受賞、田中賞作品部門は”多摩川スカイブリッジ”など6件

橋梁・鋼構造工学の最高峰の栄誉「田中賞」

故・田中豊博士の偉大な功績を記念して創設された田中賞は、我が国の橋梁工学と土木技術の進化を象徴する賞として、関係者の間で極めて高い評価と権威を誇っている。

業績部⾨は5件、論文部門は2件、作品部門では、新設橋梁から2件、既設橋梁から3件の計5橋が選定された。また、近年急増する老朽化インフラの維持管理や更新事業に直結する画期的な新技術を称えるため、2022年度に新設された「技術部門」では、2件の先進的技術が栄誉に輝いた。

各プロジェクトがいかにして厳しい制約条件を克服し、高度な技術的ブレイクスルーを成し遂げたのか、その詳細な軌跡を紐解いていく。

都市空間との高度な融合「TORANOMONHILLS 横断歩道橋」

「TORANOMONHILLS 横断歩道橋」

都市部におけるインフラ整備の設計思想の転換を提示したのが、国土交通省関東地方整備局などが事業主体となった「TORANOMONHILLS 横断歩道橋」。桜田通り(国道1号)の直上に架設された幅員約20m、橋長約35mの歩道橋だ。

最大の技術的難所は、地下に日比谷線虎ノ門ヒルズ駅が近接し、両端において全く異なる振動特性を持つ超高層建築物と低層建築物に支持される特異な構造的制約にあった。

同橋は、折板形状を構造として活かした単純箱桁橋で、ステーションタワー(高層建築)とグラスロック(低層建築)という振動特性の異なる建築躯体の上に橋脚が載るため、不静定次数を低くすることで地震時の建築躯体への依存を最小限にした設計を行う。建築物と橋梁では適用基準が違い大地震時を想定した設計思想が異なるため、橋脚は塑性化を考慮する設計方針とした。

主桁形状は、建物側の天井デザインとデッキが連続するイメージと、折による幾何剛性の向上、単純梁曲げモーメント図などから決定した。メンテナンスへの配慮(主構造の目視点検、塗り替えのしやすさ)や道路上へのパネルの落下などのリスクを避けるため、構造自体を意匠とする方針とした。桁下空間は大きく確保でき光が差し込み明るく開放的である。高欄ガラスは直接主構造に支持され、ボルトや目地がないためメンテナンス上も有利だ。

波形鋼板ウェブを架設材とした新工法を採用した「新皆瀬川橋」

新皆瀬川橋の張出し架設部

NEXCO中日本東京支社が事業主体となり、三井住友建設などのJVが施工を担った「新皆瀬川橋」(上りPC5径間連続、下りPC6径間連続の波形鋼板ウェブ箱桁橋)は、近隣の大型工事との同時期施工や複数工種とのインクラインの使用競合による生コンクリートの安定的な調達懸念に伴う工程遅延、急峻かつ脆弱な地盤での固定支保工構築に伴う大規模な地形改変の発生が懸念についてのアンサーというべき橋梁だ。

そこで、「波形鋼板ウェブを架設材とした新架設工法」や「自立した波形鋼板ウェブ上でのブロック施工」、「プレキャスト部材の多用」などの新技術を導入した。これにより現場施工の劇的な省力化を図るとともに、CO2排出量削減に寄与するコンクリートを採用するなど、環境負荷の低減にも取り組んでいる。

歴史的遺産の再生と継承「中橋架替事業」

中橋架替事業

「歴史的価値を保存しつつ新たな用途を与えて再生する」という持続可能なインフラ管理の好例を示したのが、栃木県安足土木事務所による「中橋架替事業」である。足利市で渡良瀬川を渡る1936年開通の3連の下路式ブレースドリブタイドアーチ形式の橋であり、この形式の多連アーチ橋は全国に3橋しか現存しない希少な橋梁だ。

河川堤防の嵩上げにより治水上のボトルネックとなっていたため架替えが決定したが、市民の要望を受け、現橋を下流側に移設し「人道橋」として再生保存する画期的な判断が下された。移設工事は河川管理の条件から「1渇水期」の間に全て完了させる必要があった。

架設工法は、工期、施工の確実性および経済性から750tクローラークレーン2台による相吊り移設を選定。新設する床版はプレキャストRC床版を採用し、PC鋼より線で縦締めして間詰めコンクリートを省略することで工程短縮を図った。アーチ桁の移設では、吊上げ反力、相吊りクレーンのブーム先端の間隔、アーチ桁の上昇高さや水平度をリアルタイムで監視しながら、安全に短時間で移設した。時間との戦いを制し、インフラ更新事業において「保存と再生」という新たな選択肢を示した歴史的業績である。

最先端計測で難局を突破「サザンゲートブリッジ吊材取替え工事」

サザンゲートブリッジ

過酷な自然環境下の長寿命化修繕で、緻密な現場管理を実現したのが内閣府沖縄総合事務局と石垣市によるサザンゲートブリッジ吊材取替え工事だ。石垣市の市街地と人工島を結ぶ唯一の鋼単純ローゼ桁橋であり、台風と塩害の環境下で約30年供用され、吊材上端部に深刻な腐食や疲労き裂が進展していたため、全吊材の取替えを供用下・夜間施工で実施した。

新設吊材は、より剛性が高く、塩分や水分が滞留しにくいH形断面に変更し、断面急変部の解消と発生応力の低減を図った。吊材の製作においては、3Dスキャナによる出来形計測値を製作寸法に反映した。吊材の取替施工時は、光ストランドセンサーによるリアルタイムモニタリングを用いることで、定量的な軸力管理が可能となり、新設吊材の軸力導入は、既設吊材の撤去時に計測された実測軸力の±2%の管理値以内の高い精度で施工した。

また、高力ボルト撤去、部材切断、現場孔明け等を多能工による連続作業により現場作業の効率化を図り、1本あたりの吊材撤去および設置を各々6時間以内の短時間夜間通行止めで安全に施工した。

重交通下の超急速施工「荒牧高架橋の大規模更新」

荒牧高架橋の大規模更新

 

荒牧高架橋は1970年に供用開始した橋梁であり、橋梁の劣化が進行していたため、RC中空床版橋からプレキャストPC床版を有する鋼連続非合成4主鈑桁橋へ大規模更新工事を実施した。中国自動車道は断面交通量約7万台/日で、市街地を通過する上下線6車線の重交通路線だ。NEXCO西日本関西支社が推進した同工事は、重交通路線での大規模架替え工事の「究極の形」を示した。

社会的影響を最小限にとどめるため、上下線終日車線規制を行い、上下4車線の通行帯を確保可能な3分割施工を採用した。交通混雑期に6車線供用するため、撤去、架替え、車線開放までを最短3か月での急速施工を求められた。架替えにあたっては、供用中に先行して桁下で既設3柱式RC橋脚にコンクリート横梁を構築し、鋼橋を支持する構造を採用した。これにより、既設橋撤去後速やかに新設桁の架設が可能となり、限られた交通規制期間内での更新工事を実現した。また、既設橋脚が過年度に耐震補強されている中で、鋼橋へ架替えることにより、上部工死荷重を3割低減し、耐震性が向上した。

前人未到の解体技術「PC箱桁橋の空中撤去技術」

PC箱桁橋の空中撤去技術

近年、老朽化橋梁の架替えや耐震補強工事が急増する中、安全性向上や工期短縮に直結する

新技術の開発は至上命題である。田中賞の技術部門では、橋梁マネジメントを一変させる2つの技術が受賞した。

第1の技術は、鹿島が開発した「PC箱桁橋の空中撤去技術」。カンチレバー工法で施工されたPC箱桁橋を、施工時と逆の手順により架設桁を用いて空中で安全に解体する国内外に前例のない新技術だ。対象橋梁は、供用後40年が経過し、主桁内部のPC鋼材に腐食劣化が確認され、桁の変形進行が継続的に認められていたため、新橋への架け替えを行った。主桁撤去は、橋面上に設置した架設桁から先端セグメントを吊り下げ、セグメント目地を断面方向にワイヤーソーで切断・分離する方法により実施した。

事前調査によりPC鋼材の一部に破断が確認されていたことから、主桁の残存プレストレスの把握を行うとともに、撤去時の構造安全性を確保する目的で、橋面上に補強外ケーブルを配置した。撤去中はセグメント間に鉄筋が施されていないことを踏まえ、各セグメント目地における応力状態を全断面リアルタイム計測し、引張応力が発生しないことを確認しながら作業を進め、上部工の撤去を完了している。

PC箱桁橋をカンチレバーで空中撤去するにあたり、同技術で整理された撤去設計のコンセプトや補強構造は、今後の同種事例に対して重要な先行事例として大きな意義を持つ。これまでに建設された多くのPC橋で、劣化損傷の進行や利用環境の変化等を背景に架け替えが必要となる事例の増加が予想され、本技術は橋梁の維持管理および架け替え検討に幅広く活用されるものと期待される。

耐震補強の急所を克服「あと施工アンカーを用いないブラケット設置技術」

高速川口線PC3径間連続箱桁区間全景

第2の技術は、首都高速道路、川田建設、ピーエス・コンストラクションの3社が共同開発した「あと施工アンカーを用いないブラケット設置技術」。PCケーブルによる緊張力を用いてRC橋脚に鋼製ブラケットを固定する技術として確立した。あと施工アンカーを用いないブラケットの設置技術は、既設構造物の品質低下や工程遅延のリスクを排除したうえで、耐震補強部材の性能確保、工事の生産性向上に大きく寄与する。

同技術ではRC橋脚部材を鋼製ブラケットとPCケーブルで挟み込み、PCケーブルの緊張力により固定することで、削孔作業を完全に排除したうえで、レベル2地震動で生じる水平荷重を確実に下部構造へと伝達することを可能とした。

補強部材を既設RC橋脚に設置する際には、あと施工アンカーの採用が一般的だ。耐震補強工事では、設置される鋼製ブラケットには大きな荷重が作用することから、アンカーボルトは太径化し、多段多列配置となる傾向にある。鉄筋が密に配置された箇所では、高度な探査技術を用いてもアンカー孔と鉄筋の干渉を完全に回避することは困難なことから、再削孔を繰り返すこととなり、既設構造物の品質低下や、作業の増加やアンカーボルトの位置変更に伴う修正設計により工程遅延を招くことが大きな課題だった。

新時代のインフラマネジメントへ、試される現場力

2025年度の土木学会賞の田中賞に選定された作品部門や技術部門の選ばれたプロジェクトや新技術の数々は、単なる技術的なマイルストーンにとどまらない。激甚化する気象災害への備え、急ピッチで進むインフラの老朽化、そして待ったなしの「担い手不足」と「働き方改革」という、現代の建設業界が直面する重い課題に対する強力な解答だ。

とくに受賞案件に共通して見られるのは、熟練技術者の減少や厳しい時間的・空間的制約を言い訳にせず、DXやプレキャスト化、高度な構造解析を駆使することで「現場の生産性を劇的に向上させる」という強い意志だ。新設橋梁での徹底した省力化へのアプローチ、既設インフラの機能を維持したまま完遂する超急速施工や夜間修繕、そしてこれまでの常識を覆す空中解体技術や削孔不要の耐震補強技術は、これからのインフラマネジメントのあり方を一変させる可能性を秘めている。

過去の偉大なインフラ遺産に畏敬の念を払いながら再生を施し、同時に次世代へと繋ぐ強靭な国土を構築していく――。2025年度の田中賞が示した最先端の知見は、全国の建設現場で日々の施工や維持管理に挑む技術者たちにとって、大いなる道標となるはずだ。

 

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!

関連記事はありません

建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
  • 施工の神様
  • 技術を知る
  • 【土木学会】2025年度「田中賞」決まる!「新皆瀬川橋」など5橋と革新的技術2件を選定