(公社)土木学会(佐々木葉会長)は5月19日、2024年度の土木学会賞を発表し、功績賞、技術賞、環境賞、研究業績賞、吉田賞、田中賞など20部門で計117件を選定した。
功績賞は、土木工学の進歩、土木事業の発達、土木学会の運営に顕著な貢献をなしたと認められた会員に授与するもので、島谷幸宏・熊本県立大学特別教授、田中茂義・大成建設代表取締役会長、西村和夫・東京都立大学名誉教授、細川恭史・海域環境研究機構技術顧問、山本修司・沿岸技術研究センター参与の5氏が選ばれた。
島谷氏は、全国の河川の防災・環境に関する問題に取り組み、とくに多自然川づくりや流域治水に関する研究成果を基に、インフラ整備に大きく貢献。研究分野では、土木工学、河川工学を基軸としつつ、農学、理学、人文・社会学等の様々な学問分野を俯瞰し、河川や水環境における分野横断した学問体系の確立に尽力した。田中氏は、総合建設会社の土木技術者としてキャリアをスタートし、その後専門とした橋梁、とくにプレストレストコンクリート(PC)橋の技術分野では日本を代表する技術者として設計・施工に従事し、その際には海外の新技術の積極的導入を試み、PC橋梁技術の新展開の礎を築く。なお、2023年度には第111代会長をつとめている。
西村氏は、トンネル工学分野で、トンネル支保構造や耐震性などに関する各種研究やトンネルの建設・維持管理の両面で経験的手法が主であった各種設計等に対して、数値的評価手法を取り入れる完成度の高い研究を行い、土木工学分野の学術の深化に貢献した。
細川氏は、浚渫土砂の有効活用による干潟生態系の再生と、その生態系機能に関する研究に取り組み、干潟生物による栄養塩除去機能や二枚貝の除濁機能の解明と定量化、生物の水質浄化メカニズムの生態系モデルによる評価など、沿岸での自然共生型土木工学という新たな土木工学の分野を切り開いた。山本氏は、港湾分野の大型プロジェクトでの新技術や新設計法を導入。技術基準の性能規定化・国際化に係る調査研究や学会活動、性能規定化に沿った港湾整備に係る基準作成・指導助言、設計技術者の指導育成の取組みで、土木工学の進歩に大きく貢献した。
技術賞は画期的な個別技術などを評価するⅠグループでは、「大阪・関西万博に向けた埋立て地盤での開削トンネルと泥土圧シールドの施工」(大阪港湾局、大阪市高速電気軌道、大林・熊谷・東急・東洋JV)など16件、社会の発展に寄与したと認められるプロジェクトをたたえるⅡグループは、「女川原子力発電所 防潮堤かさ上げ工事(東日本大震災の知見を活かした国内最高レベルの防潮堤の設置)」(東北電力、鹿島)など13件。環境賞は、先進的な土木工学的研究を対象とするⅠグループでは、「炭素除去に貢献するバイオ炭を用いた環境配慮型コンクリートの開発」(清水建設)など3件、環境の保全・改善・創造に貢献した画期的なプロジェクトを対象とするⅡグループでは、「十日町三ケ村地区における棚田再生」(鹿島、農事組合法人ふれあいファーム三ケ村)など2件であった。
そのほかの各賞は、研究業績賞3件、論文賞7件、論文奨励賞7件、吉田賞(研究業績部門)1件、同(論文部門)ゼロ、田中賞(業績部門)4件、同(論文部門)2件、同賞(作品部門)新設3件、同賞(作品部門)既設2件、同(技術部門)2件、技術開発9件、出版文化賞1件、国際貢献賞7件、国際活動奨励賞20件、技術功労10件が選ばれた。表彰式は6月13日に東京都千代田区のホテルメトロポリタンエドモントで開催する。
今回も例年に続き、施工技術者に深い関りのある田中賞の作品部門と技術部門についてリポートするが、受賞者の一覧をご覧になりたい方は、ぜひ土木学会のホームページを参照されたい。
なお、昨年度の土木学会賞の田中賞(作品部門)は次のとおり。
田中賞(作品部門)は新設では”ジャイン・コーカレー橋”など3件
「田中賞」の創設の由来となった田中豊氏についての詳細は、以前の土木学会賞の内容に詳しくリポートしているので、そちらを参照してほしい。
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ちなみに、田中賞(作品部門)は、新設や既設の橋梁またはそれに類する構造物で、計画、設計、製作・施工、維持管理、更新、復旧などの面において特色を有する優れた作品を対象とし、規模の大小は問わない。ちなみに極めて高い評価を得た作品には最優秀作品賞を授与する。
まず、田中賞(作品部門)新設から紹介したい。ミャンマーのジャイン・コーカレー橋は、上下線一体構造の主橋とその起終点の上下線一体構造のアプローチ橋からなる全7径間の橋梁。主橋は中央径間長180mで、一面吊りの斜材は橋面からの眺望を確保するとともに、現地のランドマークとしての役割を果たす。主橋部の主桁は2室箱桁断面とし、上下線一体構造となる広幅員の上床版に対応するため、外ウェブ下端から張出し床版先端を支持するRC 構造の外ストラットを配置する。
斜材からの鉛直せん断力を中ウェブから外ウェブに分配する構造とするため、斜材定着部近傍にPC 構造の内ストラットを配置。波形鋼板ウェブの採用により上部構造の軽量化で、中央支間長の長大化を実現し、耐候性鋼材の使用で塗装の塗替作業を不要とした。斜材ケーブルには、3重防食仕様の現場製作型マルチストランドを採用し、高耐久化と将来の維持管理性に配慮した。主桁の張出し施工には最長8mの大型ブロックを採用し、超大型移動作業車での施工で工期短縮を実現した。

施工中のジャイン・コーカレー橋
出島(いずしま)大橋は、宮城県女川町の離島である出島と本土を結ぶ橋長364mの鋼中路式アーチ橋。主径間長は306mであり、東日本最大だ。同橋の構想は約半世紀前に遡るが、東日本大震災により、島民が長期間孤立し、同橋の「命の橋」としての必要性が再認識され、2015年に事業化。設計施工一括方式を採用し、品質向上とコスト縮減を実現し、耐久性向上や維持管理性向上に配慮した設計を実施した。
耐久性向上に関しては、外面塗装に金属溶射+重防食塗装、現場溶接による遮塩効果の向上、アルミ付属物などを採用した。維持管理性の向上では、部材数の削減、点検性に配慮した構造高や部材配置の設定、点検設備の最適に配置した。災害に強い橋にするため、津波漂流物が衝突しないように、アーチリブ下端は津波計画高以上の高さで設定。架設地点は船舶往来が多く、地域への影響を最小限にするために、海上ベントを設置し、側径間の架設後、約2,800tの主径間部をFC により大ブロック一括架設を行った。地組ヤードから架設地点は曳航距離が約7km あるうえ、気象・海象条件の影響を受けやすい外洋での架設であったが、安全に架設を完了した。

「命の橋」としての必要性が再認識され、建設された出島大橋
双海橋(Ⅱ期線)は、急峻な谷間に架かる橋長232.3mのPC4 径間連続バランスドアーチ橋。補剛桁の剛性がアーチリブの剛性よりも大きい逆ランガー形式であり、景観と周辺環境への配慮から、供用線(Ⅰ期線)と同様の上路式曲線アーチ橋を基本形式とした。また、足谷川を跨ぐ主径間の下部工位置を踏まえた構造性、経済性や施工性を考慮して、P2橋脚部は両側張出し、P3 橋脚部は片側張出しとする変則的なバランスドアーチ橋とした。上部工の構築は、トラス張出し架設工法を採用。工法では、アーチリブ外周足場の配置が可能となる移動作業車を新規開発した。アーチリブよりも補剛桁を先行するこれまでに前例のない工法の適用で、最大傾斜46°を持つ急傾斜アーチリブの施工の安全性と施工性を確保した。
トラス張出し架設工法の工程上のボトルネックとなる鉛直材の構築は、鉄骨でトラスを形成して張出施工を進め、後からコンクリートを巻き立てる工法(SRC 構造)の採用で、工程短縮を実現。施工では、4D-CIM(工事工程に連動する3D モデルの時間軸に沿った描写)によるデジタル空間上での仮想竣工を用いたデジタルツインにより、施工上の問題点把握と事前解決による工程促進を図った。

急峻な谷間に架かる双海橋(Ⅱ期線)
既設は”東名多摩川橋”など2件
次に、既設での受賞作品の2件を紹介したい。
東名多摩川橋は、東名高速道路の起点付近に位置し、断面交通量が約10万台/日に及ぶ最重要路線上の橋梁。床版取替工事では、渋滞の回避による社会的影響の最小化が求められたが、車線数維持のために通常行う路肩の拡幅は、近隣の用地制約により困難であった。そこで、次の5点の新技術の活用で難題を克服し、拡幅なしで幅員方向5分割の床版取替えを適用、車線数を維持しながら短期間で床版を更新した。
- 橋軸および橋軸直角方向に超高強度繊維補強コンクリート(以下、UFC)による床版接合構造を適用して、現場施工の省力化および工程短縮を図った。
- 夜間施工、昼間交通開放が求められる車線に位置する床版接合部には、プレキャスト(以下、PCa)製のUFC板による接合構造の採用で即日の交通開放を実現した。
- コンクリート上面に緻密性に優れたUFCを打ち重ねたPCa製のUFC 複合床版を適用し、現場防水工を不要とすることで工程を短縮した。
- 自走可能な床版架設機は、1 車線規制帯内での設置組立てと床版の撤去架設が可能であり、作業時間を短縮した。
- 仮想空間での施工シミュレータの導入により作業員、機械、手順を最適化し、現場での省人化と作業時間の短縮を可能にした。
この主に5点の先進的な技術を活用した橋梁の床版取替の設計・急速施工に関する優れた取組みにより、今後の橋梁更新・修繕の発展に貢献した。

夜間床版を設置するなどさまざまな技術が投入された東名多摩川橋
阪神高速14号松原線の喜連瓜破橋は、長期耐久性確保・維持管理性向上のため、PC3 径間連続有ヒンジラーメン箱桁橋から鋼3 径間連続鋼床版箱桁橋へと架替を行った。工事では、高速道路の一部区間を2 年半にわたり通行止めにした上で、都市部重交通交差点直上で、市民生活への影響を最小限にする工法でPC 箱桁橋撤去と新たな鋼箱桁橋を架設。PC 箱桁橋の撤去は、新たに開発した空中完結型の撤去技術を適用し、通行止め開始から約21 ヶ月で約6,500tのコンクリート構造物撤去を完了した。この工法の採用で直下交差点の交通を殆ど妨げない撤去が可能になった。
新たな鋼箱桁橋の架設は、隣接桁上や工事ヤードを最大限に活用し、多軸台車等を駆使した重交通交差点への影響を最小限に抑えた施工方法で延べ4 夜間、直下交差点で全面的に通行止めを行い、橋梁撤去完了から約9 ヶ月で舗装等の橋面工まで完了。新たな鋼箱桁橋は鋼床版箱桁橋であり、縦リブと横リブの交差部をすみ肉溶接で全周溶接する構造である「取替用高性能鋼床版パネル」の構造ディテールの採用で鋼床版の高耐久性の確保で、橋面上の添接部には皿型高力ボルトを用いることで舗装の維持管理性や走行性を向上させた。

阪神高速14号松原線の喜連瓜破橋
なお、第31回土木学会映画コンクール受賞作品で 『【喜連瓜破 橋梁架け替え工事】二年半の軌跡 ~100年先を見据えて~ 工事担当者の想いに迫る!』で最優秀賞をダブル受賞した。都市高速を長期間に渡って通行止めにするという前代未聞の工事の上、工事区間の直下には大阪市内でも有数の重交通を担う交差点があり、かつ周辺地域は密集市街地となっている。制約条件の多い中、既設コンクリート橋桁の撤去や鋼製橋桁の架設までを無事完了させ、2024年12月7日に約2年半ぶりに通行を再開した。動画は、工事着手前から通行再開までの事業の記録映像だ。

第31回土木学会映画コンクール受賞作品でも最優秀賞でもダブル受賞
技術部門は「BP支承の耐震補強技術」など2件
次に、田中賞(技術部門)の2件についても紹介したい。「BP支承の耐震補強技術」では、BP支承の両側に設けられているサイドブロックそれぞれに新たに開発した補強ブロックを高強度ボルトで取り付け、補強ブロック同士を鋼棒で連結するもの。BP支承は、一方向の水平力に対して片側のサイドブロックのみで抵抗するが、この技術により、両側のサイドブロックが連動して抵抗するため、耐力が大幅に向上する。補強ブロックを取り付けるだけで作業が完了することから、施工時間もコストも支承交換に比べて大幅に削減される。巨大地震が切迫するなか、同技術は、全国の橋梁で広く採用されているBP支承の耐震性向上促進に大きく貢献する。

BP支承の耐震補強技術
「後方回転・自走式手延機解体装置」は、送出し架設に用いる手延機上に設置され、手延機の最終到達地点で手延機先端の撤去ブロックを切り離し、180°後転させて自走式台車設備に搭載し、送出し開始方向に搬出する装置だ。河川上や跨線部における鋼橋上部工の架設では、送出し架設工法が採用される場合が多いが、近年は、施工に際して自然環境への影響の低減を求められることも多く、送出し最終到達地点での手延機の解体で仮桟橋や台船などの設備を必要としない同装置は、自然環境保護の観点から有益な架設装置だ。
同装置は既存の機材である自走台車、レールクランプジャッキ、メインジャッキ、サブジャッキ、ウインチと、製作材のタワーで構成。撤去ブロック分を送り出したのち、同装置により後転・解体するサイクルとすることで、解体作業が常に橋脚上での専用作業床上で完結するため、施工時の安全性も大幅に向上する。同装置の開発で、自然環境保護の観点に加え、都市部や河川内など、送出し最終到達地点で解体ヤードが確保できない条件での送出し架設が可能となる。また、大規模更新工事における狭あいな施工環境下での桁取替にも活用が期待される。

「後方回転・自走式手延機解体装置」の開発
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