インタビューに応じる南都技研の新家遼士氏

インタビューに応じる南都技研の新家遼士氏

売上1.5倍、利益3倍!ITスタートアップと老舗補償コンサルが挑む「PMC(共創型経営創造)」

インフラ整備の「隠れた心臓部」である補償コンサルタント業界が今、深刻な構造的危機に直面している。2040年には建設労働者が2000年比で56%減(287万人)となる一方、建設投資額は9兆円増加する「2040年問題(需給ギャップの崩壊)」が目前に迫る。

極度のアナログ業務、後継者不在、若手不足といった「レガシーの罠」に苦しむ中、補償コンサルタントの株式会社南都技研(本社:宮崎県宮崎市、多田佳充社長)は、現場向け遠隔支援ツール「SynQ Remote(シンクリモート)」を展開するITスタートアップの株式会社クアンド(本社:福岡県北九州市、下岡純一郎代表取締役CEO)との「M&A」という大きな決断を下した。

長年現場を泥臭く支えてきた老舗企業と、最先端のITベンチャー。文化も成り立ちも全く異なる両者だが、この異業種タッグを劇的な成功に導いたのは、一般的なM&A後の統合プロセス(PMI)ではなく、互いの強みを掛け合わせる「PMC(Post Merger Co-creation=共創型経営創造)」という考え方だった。

この「共創」の姿勢を大切にした結果、両者は互いへの深いリスペクトによる良好な関係を築き、南都技研はわずか1年で売上1.5倍、営業利益3倍という成果を上げ、創業50年にして初の新卒採用をも実現した。今回は、IT企業であるクアンドから南都技研へと移籍し、執行役員DX推進室長として自ら現場に入り込んで改革を指揮した新家遼士氏に、DXの実態と地方産業のアップデートに向けた展望を聞いた。

なぜ「共創」を選択したのか。異業種タッグに踏み切った真意

クアンドから南都技研に移籍し、執行役員DX推進室長として活躍

――南都技研は、なぜITスタートアップとの戦略的提携という異例の道を選んだのでしょうか。

新家遼士氏(以下、新家氏) 最大の課題は「後継者不在」でした。オーナーが70代を迎え事業承継が急務となる中、同業他社からの打診もあったと聞いています。しかし、同業同士のM&Aでは相手の企業色が強く反映され、長年培った企業文化が失われる懸念があります。

単なる事業存続ではなく、未知の可能性を秘めた異業種(IT企業)と融合することで、「技術の保存」と「企業の進化」を図る道を選択しました。

――逆に、IT企業であるクアンド側が、南都技研との共創を決断した理由は何だったのでしょうか。

新家氏 ITベンダーとして、より深く現場に入り込む必要性を感じていたためです。単なるツールの提供だけでは、顧客の組織風土や深層の業務プロセスにまで踏み込むことが難しく、本質的な課題解決に向けて、さらに一歩踏み込んだ関わり方が必要だと考えていました。

そこで、効率化のノウハウを持つ私たち自身が実業を持ち、内側から変革を証明すべきだと考えたのです。互いに欠けている「現場力」と「IT力」を補完し合うための戦略的提携でした。

左から、南都技研 代表取締役の多田佳充氏、クアンド 代表取締役の下岡純一郎氏

――補償コンサルタントは公共事業に不可欠な業務ですが、業界が抱える課題について改めて教えてください。

新家氏 私たちの業務は、公共工事の用地買収において土地や建物の調査、事業損失などを算定し、「妥当な補償額」を導き出すものです。公共事業費の15〜20%を占め、補償コンサルタントがいなければインフラ整備は着工できません。

しかし、現地調査はいまだに手書きの野帳からCADへ起こすアナログ手法が主流です。当社の平均年齢も50代後半と高齢化が進んでおり、数年後にベテランが一斉退職すれば貴重な技術が失われてしまうという強い危機感がありました。


現場へのリスペクトと「先行ベースアップ」が生んだ信頼

――クアンドから「DXの旗振り役」として新家様が現場に入られた際、ベテラン技術者からの反発はありませんでしたか?

新家氏 当初はやはり「実務経験のない若造に何が分かるのだろうか」という空気はありました。技術者の皆さんには長年インフラを支えてきた自負があり、外部からの変化の提案はどうしても「過去の否定」に聞こえがちになります。

そこで私は一度PCを置き、現場に出ました。改善を提案する前に徹底して現場を「理解」し、同じ景色を見て、手順や道具の理由、困りごとから彼らの誇りまでを知り抜く。「現場を分かっている人間」として認識してもらうための関係性構築を最優先しました。

――DXの成果が出る前に、「全社員の賃上げ」を断行されたそうですね。

新家氏 会社全体の生産性が向上しても、自身の給与に反映されなければ、従業員が苦労して新しいツールを習得する動機になりません。明確な「リターン」を示すため、M&A直後に全社員のベースアップを実施しました。業務改善によって生まれた成果が、従業員一人ひとりにもきちんと還元されていく。そのことをまず実感してもらいたかったんです。

「立ち会わない立ち会い」で現場の調査体制を40%削減

――その後、調査体制を5名から3名へと削減できたと伺いました。どのように現場のハードルを越えたのでしょうか。

新家氏 これまで現場での補償調査は、不測の事態に備えて5名などの大人数で向かうのが常でした。しかし、遠隔支援ツール「SynQ Remote(シンクリモート)」を導入したことで、事務所にいるベテラン技術者がリアルタイムで現場の若手をサポートする体制「立ち会わない立ち会い」が可能になりました。現場とオフィスをリアルタイムでつなぎ、移動時間と認識のズレを排除した結果、調査体制を40%削減することに成功したのです。

――自らの技術や判断をデジタルに委ねることへの、現場の心理的ハードルはどうクリアしましたか?

新家氏 すべてをデジタルに任せるべきではない、と私自身も考えています。重要なのは、「機械的に任せる部分」と「人が判断・計測する部分」の『すみ分け』です。

この線引きができれば、機械的な作業は圧倒的に効率化され、現場の人間が誇りを持っているコア業務には、引き続き人がしっかりと向き合うことができます。効率化一辺倒にならず、現場の技術へのリスペクトを保つことが、新しい仕組みを受け入れてもらう上で非常に重要でした。

RPAと生成AIが実現した、オフィス業務における「属人業務の見える化」

――オフィスでのDX化、いわゆる「標準化」として属人業務の見える化も大きく進展されたとのことですが。

新家氏 補償コンサルタントは書類作成が多く、デスクワークの効率化は重要テーマでした。そこでRPAと生成AIを活用したことで、報告書作成にかかる時間は2日から0.5日へと、実に75%削減されました。

RPAで総務・経理の作業を効率化し、技術者が抱えていた非技術的な業務を代行する体制を整備したことで、技術者は図面作成や調査といった本来の業務により多くの時間を割けるようになりました。結果として、入札による案件の継続的な受注にもつながっています。

――効率化で浮いたリソースは、どのように活用しているのでしょうか。

新家氏 大きく2つの軸があります。一つは「本業における価値提供の拡大」。業界全体でリソース不足が深刻化する中、生み出した余力をもって他社様へリソースを提供し、本業の売上を伸ばしています。

二つ目は、「技術者の資格や経験値を活かした新領域への展開」です。補償コンサルタントの技術者は「建築士」の資格保有者が非常に多い。そこで、DXで空いたリソースを活かし、「住宅検査」の領域へと業務を広げる取り組みを始めました。これはクアンドが遠隔支援ツールを通じて検査機関の方々と対話する中で生まれたシナジーであり、今年度から本格的に稼働しています。


空いたリソースで九州全域へ。家屋調査DXと新領域への展開

――新たな挑戦として「家屋調査DX」による九州全域でのサービス提供も開始されました。

新家氏 これまでの家屋調査は業者への「一任型」が一般的でしたが、近年は調査の精度やスピード、柔軟な対応が求められています。そこで我々は遠隔支援ツールを活用し、発注者が現場と直接つながって状況をリアルタイムで把握できる「対話型の家屋調査」の提供を開始しました。現地でタブレットやスマートフォンを使って調査映像を共有し、遠隔にいる依頼主が指示を行えるため、判断の即時性や記録の正確性が大きく向上します。

――対応エリアを「九州全域」へ拡大できたのも、DXの効果ですか?

新家氏 はい。以前のように5名で現場に向かう体制では、交通費や滞在費が重く、必然的に宮崎県内のみが対応エリアとなっていました。しかし調査体制をスリム化できたことで、九州全域へ業務範囲を広げてもしっかりと利益を出せる体制へと変化しました。公共事業だけでなく、ゼネコンや民間デベロッパーなど多様な発注者からの広域案件にも対応できるようになったのは大きな手応えです。

売上1.5倍・利益3倍。教育コスト減がもたらした「初の新卒採用」

――共創から1年で売上高1.5倍、営業利益3倍。そして創業50年にして初の新卒採用と、驚くべきスピードで変化が起きています。

新家氏 DXによって「技術者がやらなくてもよい業務」を切り分けられたことが、売上と利益の増加に直結しました。実は今年(2026年)4月にも、もう一段階、基本給を引き上げることができています。

生産性を高めて売上を伸ばし、社員へ還元する。あるいは設備投資に回してさらに生産性を上げる。この「好循環のモデル」が実現できつつあります。退職者ゼロを維持できているのも、この循環が機能している証拠でしょう。

――新卒採用に成功された要因はどう分析されていますか?

新家氏 最大の理由は、業務の標準化によって「若手を受け入れる側の教育コスト」が劇的に下がったことです。従来は一人前になるまでに1年以上はかかっていましたが、今では新卒社員でもすぐに現場の力になれる領域を切り出しました。

たとえば、着工前の建物の状態を記録する「事業損失部門」の業務です。高度な図面作成はベテランが担い、新卒社員はタブレットを使って傷や隙間を正確に記録・撮影する業務を専任で担当しています。これにより、新卒社員でも2ヶ月で戦力として活躍できる仕組みが整い、実質的な教育コストが6分の1になりました。

また、建設業界の中でも積極的にDXを取り入れる姿勢そのものが、学生への大きな訴求力に繋がったと確信しています。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

新家氏 私たちが実践したこの「PMC(共創型経営創造)」のモデルを、日本のインフラを支える全国の地方企業に広く普及させていきたいと考えています。現場の技術を尊重し、ITの力で労働環境を改善し、高い報酬を実現して新たな人材の循環を生み出す。このアプローチは、デジタル化に課題を抱える地方産業が、技術を次の世代へつなぎ、持続可能性を高めていくための実践知です。

まずは南都技研で確固たる成果を出しつつ、新たな共創のモデルも構築し、インフラを支える全国の同業他社のロールモデルとなるべく歩みを進めていきます。


「2040年問題」という深刻な構造的崖がインフラ業界全体に影を落とす中、クアンドと南都技研が提示した「PMC(共創型経営創造)」という解は、極めて示唆に富んでいる。それは単なるITツールの導入事例にとどまらず、現場が長年培ってきた技術や誇りをテクノロジーの力で次世代へ継承し、企業そのものを進化させるための実践的な羅針盤だ。

「現場への敬意」と「最先端のIT」が融合したこの異例の挑戦は、人手不足や高齢化にあえぐ全国の建設・土木企業にとって、業界の負のスパイラルを断ち切る確かな希望の光となるだろう。変革を恐れず、自ら「地域産業のアップデート」を主導する南都技研の姿こそが、これからの建設業界が目指すべき未来のスタンダードといえよう。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。