現場へのリスペクトと「先行ベースアップ」が生んだ信頼
――クアンドから「DXの旗振り役」として新家様が現場に入られた際、ベテラン技術者からの反発はありませんでしたか?
新家氏 当初はやはり「実務経験のない若造に何が分かるのだろうか」という空気はありました。技術者の皆さんには長年インフラを支えてきた自負があり、外部からの変化の提案はどうしても「過去の否定」に聞こえがちになります。
そこで私は一度PCを置き、現場に出ました。改善を提案する前に徹底して現場を「理解」し、同じ景色を見て、手順や道具の理由、困りごとから彼らの誇りまでを知り抜く。「現場を分かっている人間」として認識してもらうための関係性構築を最優先しました。
――DXの成果が出る前に、「全社員の賃上げ」を断行されたそうですね。
新家氏 会社全体の生産性が向上しても、自身の給与に反映されなければ、従業員が苦労して新しいツールを習得する動機になりません。明確な「リターン」を示すため、M&A直後に全社員のベースアップを実施しました。業務改善によって生まれた成果が、従業員一人ひとりにもきちんと還元されていく。そのことをまず実感してもらいたかったんです。
「立ち会わない立ち会い」で現場の調査体制を40%削減
――その後、調査体制を5名から3名へと削減できたと伺いました。どのように現場のハードルを越えたのでしょうか。
新家氏 これまで現場での補償調査は、不測の事態に備えて5名などの大人数で向かうのが常でした。しかし、遠隔支援ツール「SynQ Remote(シンクリモート)」を導入したことで、事務所にいるベテラン技術者がリアルタイムで現場の若手をサポートする体制「立ち会わない立ち会い」が可能になりました。現場とオフィスをリアルタイムでつなぎ、移動時間と認識のズレを排除した結果、調査体制を40%削減することに成功したのです。
――自らの技術や判断をデジタルに委ねることへの、現場の心理的ハードルはどうクリアしましたか?
新家氏 すべてをデジタルに任せるべきではない、と私自身も考えています。重要なのは、「機械的に任せる部分」と「人が判断・計測する部分」の『すみ分け』です。
この線引きができれば、機械的な作業は圧倒的に効率化され、現場の人間が誇りを持っているコア業務には、引き続き人がしっかりと向き合うことができます。効率化一辺倒にならず、現場の技術へのリスペクトを保つことが、新しい仕組みを受け入れてもらう上で非常に重要でした。
RPAと生成AIが実現した、オフィス業務における「属人業務の見える化」
――オフィスでのDX化、いわゆる「標準化」として属人業務の見える化も大きく進展されたとのことですが。
新家氏 補償コンサルタントは書類作成が多く、デスクワークの効率化は重要テーマでした。そこでRPAと生成AIを活用したことで、報告書作成にかかる時間は2日から0.5日へと、実に75%削減されました。
RPAで総務・経理の作業を効率化し、技術者が抱えていた非技術的な業務を代行する体制を整備したことで、技術者は図面作成や調査といった本来の業務により多くの時間を割けるようになりました。結果として、入札による案件の継続的な受注にもつながっています。
――効率化で浮いたリソースは、どのように活用しているのでしょうか。
新家氏 大きく2つの軸があります。一つは「本業における価値提供の拡大」。業界全体でリソース不足が深刻化する中、生み出した余力をもって他社様へリソースを提供し、本業の売上を伸ばしています。
二つ目は、「技術者の資格や経験値を活かした新領域への展開」です。補償コンサルタントの技術者は「建築士」の資格保有者が非常に多い。そこで、DXで空いたリソースを活かし、「住宅検査」の領域へと業務を広げる取り組みを始めました。これはクアンドが遠隔支援ツールを通じて検査機関の方々と対話する中で生まれたシナジーであり、今年度から本格的に稼働しています。




