お金を盗んだヤツは逮捕以上!建設現場で執行された「最凶の処罰」

建設現場で縮み上がったトラブル

どんな職業の職場でもトラブルは起きますが、建設現場は知らないもの同士が一定期間、同じ職場でローテーションしていくため、特にトラブルが生じやすいと言えます。

建設現場でのトラブルは、工種の違う職人同士のいさかいが多いですが、そんなトラブルの中でも、私が縮み上がった事件の一つをご紹介します。

殺気立つ防水職人たちと青ざめた塗装職人

当時、私が現場監督として従事した現場は、100世帯程度のマンション新築物件で、その日は20~30人の職人が入っていました。

昼前のことです。現場事務所で作業をしていた私のところに、防水屋の職長がやってきて、「監督さん、ちょっと」と詰所へ呼ばれました。

いつもは明るい防水屋の職長ですが、その曇った表情がただ事ではないことを物語っています。内心ヒヤヒヤしながら詰所へ到着すると、その日現場に来ていた防水屋の全員と、1人の塗装屋が集まっていました。

塗装職人は尋常でないほど青ざめて震えています。そして、防水職人たちは全員、殺気立っていることに、私は言葉を失いました。

塗装職人Xの窃盗疑惑

彼らの話によると、防水屋の財布から最近、不自然にお金が消えるというのです。そして、お金が消えるのは、私のこの現場に限るとのことでした。

そこで、一人の防水屋がこっそり見張っていると、今日、この塗装職人Xが来て、財布からお金を抜いたので、そこを引っ捕らえたというのです。

普段から優しく良識のある防水屋の職人たちでなければ、拳の一発や二発では済まなかったかも知れません。私は現場監督として、なによりも被害者の職人たちが手を出さず、けが人がでなかったことに安心しました。

塗装職人Xに暴力を振るってしまえば、被害者である防水職人たちにも非が及ぶだけでなく、この建設現場の運営自体も厄介なことになりかねないからです。


怒鳴り散らす塗装屋のA社長

その後、現場監督たる私は、すぐに上司と連絡をとり、塗装屋のA社長と防水屋のB社長にもそれぞれ連絡をしました。事態の重大さを把握した両者の社長と、私の上司は2時間も経たぬうちに駆けつけて来て、塗装職人Xを交えた形で話し合いが始まりました。

塗装屋のA社長の話によると、Xは塗装屋になったばかりの新人で、まだ入る現場も2現場ほどだったとのこと。その後、Xに対して、どのくらいの金額をどれくらいの頻度で盗んだのか、なぜ防水屋のお金を狙ったのかなどを「尋問」しました。しかし塗装職人Xは、一言も発しないで、床を見つめるばかりでした。

防水屋のB社長は被害者側であるにも関わらず、いつも通り腰が低く落ち着いていました。それが輪をかけて、加害者側である塗装屋のA社長を精神的に追い込んだのでしょう。ついにA社長はXを張り飛ばし、怒鳴り散らし始めました。A社長からしたら、自分の会社の職人が他社の職人に迷惑をかけた上、本人が反省の色すら見せていなかったことが許せなかったのでしょう。その怒号は止むことなく、数十分にも及びました。

塗装屋Xへの生き地獄のような処罰方法

A社長の怒号がおさまっても、相変わらずXは黙りこくっており、床に座ったまま相変わらず床を眺めていました。このままでは埒が明かないため、今後について社長たちと話し合いを始めたのですが、「Xはクビにして、二度と現場に出入りさせない」というA社長の判断に、B社長が穏やかに待ったをかけたのです。

B社長いわく、盗んだお金は本人が働いたお金で返してほしい(A社長からのお金は受け取らない)、そのために十分な対策をとりつつも、この現場が終わるまでの間はXを働かせてほしい、それができるのであれば被害届は出さなくて構わないという話でした。

結局、塗装屋Xはこの現場が終わり次第クビになる、今後現場をサボったりするようなことがあれば被害届をだす、という結論にいたりました。本人からしたら、まるで拷問、生き地獄のような結論です。

今となって考えると、たとえ塗装屋をクビになったとしても、どういう風にでも生きていけますが、泥棒、窃盗犯のレッテルを貼られた状態で、この現場で働くほうがよほど罰になる、身に染みると考えたのだと思います。

話し合いの場では、最初から最後まで一言も発しなかった塗装屋Xでしたが、最後にはA社長に連れられて現場を後にしました。

塗装屋Xのその後

その後、塗装屋Xは現場で働き続けました。もともと無口な性格でしたが、それが輪をかけて無口になり、ただ黙々と作業をするロボットのようになりました。その様子を見るこちらとしても、複雑な気持ちになり、同情の気待ちも芽生えてきます。

現場での対策としては、Xは必ず2人以上での行動が義務付けられ、職長と作業を共にするようになりました。

この事件は、Xが犯人だったことはもちろん、予想外の処罰方法に、私のほうが戸惑いっぱなしでした。

私はこの事件の後から、現場に貴重品を持ち込まないこと、財布などは必ず持ち歩くことをルールとして徹底しています。

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大学卒業後、改修工事現場にて現場代理人となる。安全と作業効率の両立が永遠の課題。 寒がり暑がりが年々悪化しているため、登山ウェアを作業着に取り入れている。 現場周辺のおいしいお店を見つけては食べに行くのが趣味のひとつだが、揚げ物が最近辛くなってきたことが悩み。
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