「建設ディレクター」という新しい職種が建設業界を変える?

「建設ディレクター」という新しい職種が建設業界を変える?

「建設ディレクター」という新しい職種が、建設業界を変える?

「建設ディレクターで建設業を変えたい」京都サンダー株式会社

京都サンダー株式会社(京都市上京区)は、多忙な現場代理人に代わって積算や書類作成などの業務を手がける「建設ディレクター」という、新たな職域を提唱しています。

建設ディレクターとはどのような存在なのか?地域建設業の生産性向上にどう貢献するのか?

京都サンダー株式会社の新井恭子社長と田辺直子さんに、お話を聞きました。

建設業への関わりは土木積算ソフト開発から

――まずは、京都サンダー株式会社の紹介を。

新井 京都サンダー株式会社は、父親が創業した42年目の会社です。もともとは事務機器の販売をしていました。25年ほど前からソフトウェアの開発を手がけてきましたが、ある建設業の方から、土木積算ソフトの開発のご依頼を受けたことがきっかけで、建設業の方々と深く関わるようになりました。

――新井社長はずっと京都サンダー株式会社に?

新井 以前は建設業とはまったく違う業界にいましたが、20年ほど前に入社しました。経理、総務などの仕事のほか、ソフトのテストや、お客様のサポートを担当していました。多くの建設業の方々と関わるうちに「建設業は面白い」と感じるようになり、営業も担当するようになりました。

――社長になられて何年?

新井 6年目です。

積算業務は「女性が活躍できる」

――建設分野への進出のきっかけは?

新井 土木積算ソフトの開発とICT導入の支援です。電子入札や電子納品が始まった15年ほど前は、徹夜で作業をされるケースもありました。「ITの他にも、建設業のお客様に向けて、サポートできることがあるのではないか」と考え、教育セミナーを企画・運営する「ナレッジボックス株式会社」を新たに立ち上げました。

――建設業サポートのためのセミナーとは?

新井 最初はCPDSセミナーや、京都サンダー株式会社が開発した積算、電子納品、書類作成などのソフトを使いこなしていただくためのサポートセミナーが中心でした。

しかし、お客様にお話をうかがう中で、現場監督の長時間労働という現状が見えてきました。また、建設会社の社長の奥様やお嬢さんが電子入札や書類作成等のサポートをしたいが、なかなかコミュニケーションをとる時間が取れないというお話も聞くうちに、事務所内で働く女性がITを活用して、リアルタイムで現場をサポートする「建設ディレクター」という構想が生まれました。

ちょうどその頃に、京都府と京都府建設業協会の委託事業として、建設業の入職支援、定着支援が行われたのですが、女性にも視点を当てたプログラムを実施したところ、予想以上に多くの女性の方々にご参加いただきました。そこで私たちが出来ることとして、現場と事務所内をつなぐ「建設ディレクター育成講座」の開催準備を本格的にはじめ、昨年1月に第1期がスタートしました。

建設ディレクター育成講座の様子

――「建設ディレクター」という名称は新井社長がお考えに?

新井 私と企画担当の社員と一緒に考えました。

建設ディレクターの育成講座は、10回講座、60時間カリキュラムで設定していますが、受講後のフォローアップも重要と考え、受講された企業様のシステムやサポート体制づくりにも力を入れています。

――具体的には?

新井 滋賀県のある建設会社さんの事例を紹介します。

以前は現場を担当されていた女性が、出産、育児を機に積算担当になられたのですが、3人のお子様がいらっしゃると、どうしても急なお休みも発生します。その時に、もう一人積算が出来る人がほしいということで、請求業務をされていた女性に、平成29年1月開講の第1期をご受講いただきました。受講後、「建設ディレクター」として、積算業務も担当されるようになりました。

――その会社から相談があったのですか?

新井 社内でも慎重に話し合いをされたそうです。その方がこれまで担当されていた業務をどうするか、誰に引き継ぐかといったといったことはもちろん、当事者である女性事務員の方へのサポートをどうするかといったことのご相談をいただきました。

この会社のように、職務転換で仕事がまったく変わる場合もあれば、従来業務への職務の追加や、業務の引継ぎなど、建設ディレクターの導入は、いろいろなケースが発生すると思います。その部分をサポートしていくのが、今後の課題です。


書類作成の負担を軽減する建設ディレクター

――「建設ディレクター」として、女性事務員にフォーカスした理由は?

新井 建設業界で働く女性の割合は、約2割ですが、そのうち8割を一般事務が占めています。「できれば、書類づくりを事務の方にやって欲しい」と現場担当者が思っても、業務を伝える時間もなかなか取れない中で、現場のことを知らない事務の方になかなか頼みにくいと感じ、結局、現場が終わった午後6時以降に自分で書類を作成されているケースが非常に多いのです。

一方、事務職の方の目線で見れば、書類づくりを手伝いたいと思っても、現場のことがわからない、使っている用語も知らないということで、現場と内務のコミュニケーション作りが難しいという面もあります。

建設業の方々からは、現場担当者の業務内訳は、現場業務が50%、書類業務が50%と聞いています。つまり、業務全体の半分もの時間を書類作成に費やしているわけです。書類に求められる品質も年々高まっているので、時間がかかる傾向にあります。そこで、この50%の一部を社内の女性にリアルタイムでおこなっていただくことができれば、現場の方の労働時間の短縮につながるのではないかと考えました。

建設業の業務は書類業務が多い。その一部を社内の女性が担当することで、労働時間を短縮できるのではないか。

先ほど例に出した積算業務は、建設に関するさまざまな業務の一部ですが、業務遂行には、建設業法とか用語に関する理解が必要なので、一足とびに習得できるものではありません。事務職の方が「助けたい」と思っても、助けられない状況が長く続いていたように思います。

共通の知識や用語を増やすことで、互いのコミュニケーションも活発になり、会社にとっても良い効果が期待できると思います。人手不足を新たな人で補うことだけに頼るのではなく、配置転換やワークシェアリングという方法もあることを知っていただきたいのです。また、現場担当者が現場に専念できる環境を作ることで、建設業全体の労働生産性の向上につなげることができると捉えています。

――建設業の構造に起因する部分にニーズを見出したわけですね?

新井 そうですね。新たな「職域づくり」ということを提唱しています。業務によっては、外注するケースもあるわけですが、同じ会社の中で解決できるのであれば、そちらのほうが良いですよ、という提案です。現場と事務のコミュニケーションを深めるためにも、事務の方が、現場はどういう流れで動いているのか、何で困っているのかなどについて、体系立てて理解することのメリットは大きいと思います。

――対象となる顧客は中小零細企業?

新井 建設ディレクター育成講座は、1期生、2期生合わせて33名の方に受講していただきましたが、土木、建築、電気、内装業などさまざまな業種、規模の会社からご参加いただきました。

建設ディレクター育成講座は、入札情報の確認や積算についての基礎知識を知るところからスタートします。

建設ディレクター育成講座で仲間意識も芽生える

――顧客は関西が中心ですか?

新井 今までは京都のお客様が中心でしたが、建設ディレクターに関しては、関西以外からもお問い合わせをいただいています。今後、京都以外でもセミナーを開催する機会に向けて、準備を進めています。

――建設ディレクターをどの程度まで広げたいですか?

新井 2期生には、新潟県の方がいらっしゃいました。今後、遠方からの参加者も見込まれています。東京都をはじめ、京都サンダーと協力体制にある会社さんが5つほどあるので、全国で活動を展開していきたいと考えています。

今は対面形式でセミナールームでの講義を実施していますが、今後は、遠方のお客様に対してどのようなフォロー体制を整えていくかが課題になります。クラウド型カスタマーサービスプラットフォームの仕組みが必須となり、ウェビナー、ライブトレーニングなど遠隔地からでも受講できるコミュニティーを開設し、必要なサポートを受けられる体制の準備を進めているところです。

建設ディレクター育成講座を通して、印象に残ったことは、個々の受講者の単なる知識、技術アップだけではなく、受講者同士の横のつながりができたことに喜びを感じていただいたことです。事務所内で少人数、もしくは一人で仕事をする環境にいる事務の方は、なかなか大勢でコミュニケーションをとることが少ないので、受講生同士ゆるやかな仲間意識が芽生えたようです。受講後も、SNSを通じて交流を続けていると聞いていますので、地域や年齢、性別を超えたつながりが生まれています。このような建設ディレクター同士のコミュニティーは大切にしていきたいと考えています。

建設ディレクターで建設業の「負のイメージ」を払拭

――セミナーを運営しての印象などを?

田辺 事務の女性の多くは、昼間は事務所に一人でいることも多く、なかなか横のつながりを持つことが難しいです。なので、セミナーで週1回京都サンダー株式会社に集まる受講者の方々は、「普段はどんな仕事をしているの?」とか「「今どんなことで困っているの?」などの会話を通して得られた共感を大切にし、コミュニティーを作ろうとされていた姿が印象的でした。

私自身は、京都サンダー株式会社で建設業に関わって、建設業に対するイメージはガラリと良い方に変わりました。今では、建設業は「命綱」だと思っています。ただ、多くの一般女性にとっては、「コワイ」「いかつい」「ガラが悪い」というイメージが強いのも事実です。本当の姿を知ったら、おそらく印象は変わると思います。どれだけ重要な仕事かわかってもらえると思います。

女性がハローワークに仕事を探しに行って、建設業の中で仕事を探すことは稀だと思います。まずは、メーカーでの事務職か医療関係でしょう。建設業は、おそらく最初に候補から外されると思います。女性の仕事があるという認識がないからです。

現状の建設業のイメージは「建設業=現場」ですが、事務所と現場をつなぐ存在である建設ディレクターによって、建設業のイメージが変わると期待しています。建設ディレクターは、専門スキルを身につけるので、女性特有のライフイベントが起こっても、そのスキルが次の道を拓いてくれると思いますし、建設業は、女性がまだまだ活躍できる余地がある世界だと思っています。

――建設業の事務職の方はベテランが多いのですか?

新井 私達がお付き合いしている女性の事務員さんは、長く勤めている方々が多いです。

田辺 建設業の事務の求人は、比較的年齢を問われないので、長く仕事を続けたい人にとっては、やりがいのある世界だと思います。

新井 一人でも事務所を切り盛りできる方ということでしょう。

田辺 「俺らは外で頑張るから、中のことはよろしくね」と、信頼されていることが感じられることもあるのかなと思います。

――女性特有の難しさについてどうお考えですか?

新井 私達が目指しているのは、専門知識を学んだことがない、一般的な女性が活躍できる建設業です。たしかに、一つの職場に女性が増えると、いろいろな変化が出てくると思います。京都サンダーも8名の社員のうち6名が女性です。しっかりコミュニケーションがとれるなど環境づくりには気を遣っています。

田辺 会社としては、定着してほしい、という思いでいろいろとやったことが、力の入れ具合が偏っていると受け取られ、当事者同士にはトラブルはないのに、二人の距離が開いてしまうということもあります。

建設業は「縁の下の力持ち」に徹し過ぎている

――建設業へのメッセージなどあれば。

田辺 建設業は社会で大きな役割を担っているのに、あまりPRしない、非常に奥ゆかしい面が強いと思います。災害が起きたら、地元の建設会社さんが、一番に現場に入って道を拓いたり、最後まで残って後片付けしたりしているにもかかわらず、一般の方は知らないという状況です。「縁の下の力持ち」に徹し過ぎていると感じるので、もう少し発信してもいいのでは?と思います。

――地域建設業には、ホームページすらない建設会社が、まだけっこうありますね。

田辺 工事現場もずっと幕が張られていて、何もわからないままに2〜3年経つと、いつの間にか出来上がっているという感じです。安全面で難しい部分があるでしょうが、モノができあがる過程が見られたら、工事現場の理解も得やすいと思います。

――地元京都の建設業に対しては?

新井 私達は、建設業では第三者的な立場です。私達の情報発信によって、なにかが少しでも変わることがあればという思いで、活動しています。私達は建設業の果たす役割を大切にしたいと考えます。建設業が抱える課題を解決したいという思いから、建設ディレクターのプロジェクトを始めました。建設業に貢献しながら、ビジネス展開できれば、こんな嬉しいことはありません。そういう思いを持ち続けながら、全国の建設業のお力になれるよう、一生懸命取り組んでいきます。

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