「工事予定価格を上げろ!」地域建設業を救う道は何か?全国中小建設業協会の副会長に聞いてきた

「工事予定価格を上げろ!」地域建設業を救う道は何か?全国中小建設業協会の副会長に聞いてきた

全国中小建設業協会副会長と横浜建設業協会会長を兼務する土志田領司社長

土志田建設の土志田領司社長は、全国中小建設業協会(全中建)の副会長であるとともに、横浜建設業協会(横建協)の会長もつとめています。

国土交通省の建設産業政策会議に出席した際は、地域建設企業の危機的な状況を訴え、発注者に対して、予定価格の見直しや余裕工期の設定、工期の平準化を行うべきと提案。建設技術者と建設技能者の処遇を改善しなければ、地域建設企業の未来はない、という土志田社長の主張は、地域建設企業から大きな支持を得ています。

そんな土志田社長に、地域建設企業を救う方策や、横浜市役所とのバトル経験、建設業界の氷河期時代の話などをうかがってきました。

ワンコイン大工を容認した建設業界のツケ

――まず国土交通省の建設産業政策会議地域建設業ワーキンググループでは、どのような提案をされましたか?

土志田 地域建設企業の仕事は、地方公共団体からの発注工事が大部分を占めているので、地域建設企業が生き残るためには、公共施設整備に要する予算の確保が必要です。それは若年層の担い手確保・育成問題、地域建設業の後継者不足にも影響します。今後、後継者不足になると、緊急を要する災害時の対応が困難となり、地域住民の安全・安心が守れなくなりますよ、ということを訴えました。

――他の出席者で印象に残った提言はありましたか?

土志田 群馬県建設業協会の会長が示された、地域で最低限必要な「限界工事量」を確保せよ、という考え方は、素晴らしいと思いました。あのような発想がなければ、建設業界は変わっていかないと思います。

――国には今後どういったことを訴えていきたいですか?

土志田 発注者は予定価格の見直し・余裕工期の設定・工期の平準化について、覚悟をもって実施すべきです。

予定価格は「公共工事の品質確保の促進に関する法律」の改正(改正品確法)に則り、担い手の中長期的な育成・確保のための、適正な利潤が確保できるようつとめるべきです。しかし、現実は、地方公共団体も技術者不足のため、適切な積算が組めず落札額が低く抑えられています。受注者は適切な利益を得られていません。

適正な予定価格の積算が出来ないばかりか、今後、技術者不足に陥ると、技術力がない者が施工に当たることも想定され、劣悪な施設が建設される可能性も否定できません。まさに危機的な状態です。

――国の政策に左右されますね?

土志田 建設業界は、まさに国の政策で一喜一憂してきました。国の政策が転換し、公共事業を大幅に減少すれば、また建設業界に氷河期がやってきます。そして多くの地域建設企業が会社を畳むことになります。国には2020年東京オリンピック・パラリンピック後、10年先の公共工事全体の方針についても示して欲しいですね。

新たな共同企業体受注方式の活用を

全国中小建設業協会副会長と横浜建設業協会会長を兼務する土志田建設の土志田領司社長

――地域建設企業が生き残るために、なにか具体的な対策はありますか?

土志田 工事規模の大小にかかわらず、地元建設企業が優先的に受注できる仕組みが必要です。

たとえば地方公共団体は、地元企業で賄える工事について、地元企業技術力結集型JVまたは地元企業同士の技術修得型JVを活用する。地元企業だけでは賄えない特殊技術が必要な工事については、地元以外と地元企業の技術修得型JVを活用する。さらに地元企業の受注機会を確保するためには、国の直轄工事発注でもJV方式の導入についても検討すべきです。

地域建設企業の重要性を鑑みれば、地域の工事は地域で行う仕組みが必要です。

――建設業の利益の問題は、技術者の給与・待遇にも響いてきますね?

土志田 建設業の施工管理技士などの技術者や型枠大工などの技能者の賃金は、明らかに製造業よりも低いです。建設技術者や建設技能者に一定の賃金を支払うためには、予定価格を上げていかなければなりません。

数年前の国土交通省の会議の中で、一時期、「ワンコイン大工」と言われるほど型枠大工の手間賃が下落し、多くの型枠大工が辞めていきましたが、「こうなったのもダンピングを繰り返している元請会社に責任がある」と訴えました。

当時、建設技能労働者の年収は300万円程度でしたので、「賃金をあげないと技能労働者は戻りませんよ」とハッキリと申しました。ワンコイン大工を容認したことは建設業界にとって大きな誤りでした。型枠大工は他の業界に流れ、戻ってきません。今の人手不足の元凶です。

――横浜建設業協会の会長として提言したいことはありますか?

土志田 横浜建設業協会の会員企業数は305社ですが、横浜市でも企業間格差という問題があります。横浜市では毎年、総合評価方式が増加傾向にありますが、総合評価方式というのは実績をもった地域建設企業が繰り返し受注できるシステムなので、考え直していただきたいと思っています。

総合評価方式は、多くの技術者を抱えている体力に余裕のある会社が必ず受注できるシステムになっています。それに書類が膨大であり、不慣れな会社には厳しい面もあります。体力のない会社は受注できず、これが企業間格差を生む原因になっており、この企業間格差は全国的な傾向です。ただ横浜市は都市部なので、まだ危機感は薄いほうだと思います。

公共工事の週休2日は必ずやりとげる!

――休日の少なさも、建設業の担い手確保で問題になりますね?

土志田 いますぐは無理にしても、将来的には必ず公共工事は週休2日を確保しなればなりません。残業をなくすためには、工期に余裕を持たせ、工事も平準化する必要があります。

いつまでも明治時代に制定された会計法にとらわれて、工事の平準化ができないのであれば、週休2日制は夢のまた夢です。発注者は平準化については「やります」と言っていますが、それに伴う作業も増えるので、今こそ発注者の本気度が試されているときだと思います。これからの地方公共団体は、国から指導を得て、平準化を図る必要があります。

――しかし現実的には「週休2日は不可能」という声も多いのでは?

土志田 私も最近までそう考えていました。知り合いの経営者たちも「できっこないよ」と言っていましたが、今はやらなきゃダメだと確信しています。

弊社でも過去に「給料は今のままでいいけど、休みが少なすぎる。こんな休みが少ない業界だったら、業界自体から足を洗いたい」と言ってきた施工管理技士の社員がいました。

それはそれはきつい言葉でした。私はすごくショックで、「会社を辞めるのは仕方がないにしても、建設業界から足を洗うなんて悲しいことを言わないでくれ」とお願いしました。

――土志田建設の社長という立場で、休日を増やす取り組みは?

土志田 弊社の休みは年間100日から110日に増やしました。これでも他業界に比べれば少ないので、さらに増やすため現在進行形で努力中です。日建連は4週8閉所を5年目標に実施しようとしていますが、この流れに先んじて実施したいと考えています。

―― 社員の採用・育成は順調ですか?

土志田 新卒の若い人たちを育成することに力を注いでいますが、10年間経験を積んで監理技術者になる頃に、辞めてしまうケースもあります。社会人になって10年もたつと、他産業では「これだけ休みがもらえて、給料はこのくらい」という様々な情報が入ってきて辞めてしまう。

年長者サイドから見ると、「今はちょうど忙しい時期だから、この時期を我慢して欲しい。時期が過ぎれば休めるから」と助言しますが、若い人は我慢できずに退職してしまう。今の新卒の子は生まれてから学生時代はずっと週休2日で過ごしてきたので、社会人になってから、土曜日に現場に出ること自体、ライフスタイルに合っていません。これは当社だけの問題ではないと思います。

施工管理技士を採用するために紹介会社に頼っている面もありますが、この経費もバカになりません。別の業界からは「辞めさせないで囲っておけば良かったではないか」と言われたこともありますが、建設業は氷河期時代があってそれができませんでした。

――氷河期時代に会社を畳んだ有力建設企業もありましたが、土志田建設ではいかがでしたか?

土志田 私も会社を維持するために必死でした。弊社は無借金経営だったので、バブル崩壊後も耐えられましたが、東日本大震災までの約15年間で1度だけ会社を畳もうかと悩みました。 私は2代目なのです。もし自分が初代であれば会社を畳んでいたと思います。

先代の社長から「明日からお前が社長だ」と言われたときも、私は「こんな景気が悪い時に社長なんてやりたくない」と断ったのですが、「景気が悪いからやらせるんだ」と押し切られてしまいました。それでも優良申告法人として5年毎に税務署から表敬され、今では緑税務署の協力団体「緑優良申告法人会」の会長もつとめるようになりました。

公共投資の必要性を堂々と訴える時がきた!

――建設業の人手不足は、急に出てきた問題ではないですよね?

土志田 約12年前、私が横浜建設業協会の副会長だった頃、まだ今のように「担い手確保・育成」という言葉が生まれる前でしたが、私は横浜市に対して「現場を見てください。高齢者しかいません。稼げず、利益も出せず、赤字が続けば会社は成り立ちません。大雪が降ったときの除雪や、台風の災害被害があった際に横浜市民の安全安心を守るのは、横浜建設業協会会員です」と訴え、当時からダンピングの排除と安定受注を強く主張してきました。

この時期、国の考えは業者数が多過ぎる、政策として地域建設企業を淘汰させようとしていました。横浜市役所の職員から面と向かって「横浜市の建設業者数が多すぎる。不良不適格業者を排除する」と言われたこともあります。反社会的勢力に関係する企業であれば、排除するのは当然ですが、何をもって不良不適格業者とするのかという定義は曖昧で、本音は前段の「業者数が多すぎる」ということにあり、建設企業を減らしたいという思惑がありました。

私は横建協の仲間と、横浜市に対して「とんでもない発言だ。そんな発言をする発注者と一緒になっていい仕事はできない」と抗議しました。

――役所の考え方が変わったのはやはり、2011年3月11日の東日本大震災だったのでしょうか?

土志田 そうです。実は、1995年の阪神淡路大震災の時も、横浜から応援に行きましたが、あの時は地域建設企業はクローズアップされませんでした。

東日本大震災の時は、国土交通省東北地方整備局が「くしの歯作戦」という道路復旧作戦を行い、その実行部隊を地域建設企業が担いました。そうした活動によって地域防災の要は、地域建設企業であることに目が向けられるようになってきました。

全中建の仲間たちは、自分の家や会社が被災しても、自分の事は後回しにして被災者を救うため、地域を守るために道路啓開を行い、緊急車両が通るための道を確保し、その後、自衛隊、警察、消防、米軍が救助に向かいました。

しかし、東日本大震災から約1年後に行われた、震災で活躍した団体はどこかというアンケートでは、建設業は自衛隊、警察、消防、消防団、米軍の次で、ある地域ではランキング外だったところもあります。建設業以外の5団体には広報部隊がいて、どこでどう活動したかをいち早くマスコミに流していることから、活動も周知されていましたが、私たち建設業には広報部隊が存在しませんでした。

――広報活動による建設業のイメージアップも必要?

土志田 そうです。一般的には、建設業界は談合をやって税金をかすめ取る悪い奴らの集まりというイメージがあります。これを払拭していく努力が必要です。建設業全体が良くならなければ、自分の会社も良くなりません。自分の会社さえ良ければそれでいいとする会社もありますが、それは大きな心得違いです。そのために私は全国中小建設業協会の副会長、横浜建設業協会の会長をお引受けしているわけです。

地域建設企業は一致団結して公共投資の必要性を堂々と訴える時に来ています。地域建設企業は、地域住民の生命・財産の守り手として、地域の防災減災に地方公共団体と一体となって取り組んでいます。地方になくてはならない主要産業として、地域への社会貢献や地域経済の活性化、若者の雇用確保などの役割も担っていることも訴えなければなりません。イメージの変革は急務です。

――横浜建設業協会としての広報活動は?

土志田 横浜建設業協会では、横浜市の災害時に地域建設企業が活躍したことを横浜市に報告し、場合によっては記者発表も実施していますが、建設業界紙しか取材に来てくれないのが実態です。なので、もっと広報に力を入れていこうとしているところです。

また、担い手確保の観点からも、子どもたちに建設業はこんなに素晴らしい業界だと、ものづくりの達成感などをアピールすることも大切ですので、工事現場見学会などももっと積極的に開催していこうと考えています。

――イメージの変革という点では最近、けんせつ小町が話題ですね?

土志田 弊社でも女性建設技術者が2人活躍しています。横浜市が発注した「深谷俣野地域ケアプラザ新築工事」に現場代理人の所長と、監理技術者に女性を配置し、業界新聞にも取り上げていただきました。

――生産性向上について、全中建としての取り組みはいかがですか?

土志田 中小建設企業が生産性向上のために新たな機器を使用する場合は、新規機器の購入、オペレーターの確保、技能習得の研修などが必要です。問題は、新技術導入による工事量が継続して確保できるかです。

私は、協会の会員企業に対して、「i-Construction」は、パソコンやFAXが普及したように、一気に普及すると伝えています。まだ首都圏の会員はあまり興味を示していないようですが、地方会員企業の関心は高く、勉強会や研修会などを行っているところです。

――最後に、これを読んでいる現場の施工管理技士、建設技術者・建設技能者たちにエールをお願いします。

土志田 私は田中角栄先生が卒業した中央工学校出身の土木屋ですが、土木に限らず、建築や水道工事も素晴らしい仕事だと思います。誇りを持って技術者として生きて欲しい、それが私の一番の願いです。

公共物は必ず残り、自分がつくったものを子孫にも見せたい。そのためには、自慢できる良いものをつくるのが、技術者としての務めであり誇りであります。

――ありがとうございました。

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この記事を書いた人

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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