「建築現場で働く女性へのアンケート」を実施 日本建築仕上学会 女性ネットワークの会
日本建築仕上学会 女性ネットワークの会は、2015年に第1回目の「建築現場で働く女性へのアンケート」を実施し、2017年に2回目のアンケートを実施した。
アンケートの対象は建築現場で6ヶ月以上勤務したことがある女性とし、主に各社ゼネコン、専門施工業者、住宅メーカー等を中心に実施。2017年は171名の回答が得られ、2015年の回答数148名を上回った。
近年、政府主導で推進されている「すべての女性が輝く社会づくり」に見られるように、女性の社会進出が大きな注目を集めている。建築業界においても(一社)日本建設業連合会が推める「女性技能労働者活用のためのアクションプラン」として、「女性技能労働者数について5年以内に倍増を目指す」という目標を掲げている。
女性を取り巻く環境を整備するためには現状を把握することが必須であるが、建築現場で働く女性の就労状況の情報は今でも少ないという現実がある。そこで、日本建築仕上学会 女性ネットワークの会では、建築現場で就労経験のある女性に対し、就労状況についてのアンケートを実施し、その結果を公表することで建築業界における女性を取り巻く環境の把握を促したいと考えた。
アンケートの配布と回収は、「①日本建築仕上学会事務局から建築業界の各団体に対し、各団体の関係各所への周知を依頼する方法」および「②日本建築仕上学会の関係各所へ周知する方法」により実施した。アンケートの実施項目は2015年度に実施した内容とあえてほぼ同様とし、2年間でどのように変化があるか考察した。
アンケートに回答した「建築現場で働く女性」の属性
アンケートに回答した女性の属性は、2015年と2017年を比べると、「10年以上の現場経験がある女性」が増加したことがわかる。また、職種はゼネコン以外の専門業者からも回答数が増加。「住まい方の形態」では、子供や夫と住んでいるという回答が2015年より増え、年齢層は40歳代、30歳代の回答数が増加した。
回答者は無作為であるが、現場でベテランの方が増え、子育てをしながら現場で働いている女性が増えていると思われる。
アンケートに回答した建築女性の「現場で働いた経験期間」
アンケートに回答した建築女性の年齢層
アンケートに回答した建築女性の職種
アンケートに回答した建築女性の「住まい方の形態」
作業服について建築業界の女性が気になる点は?
作業服のデザインと、作業服の気になる点について、女性にアンケートを行った。
作業服は女性用への改良が進み、女性用のサイズの設置などが増えている。そのため前回のアンケートよりも、「デザインは男女とも同じであるがサイズが女性サイズである」という回答が大幅に増え、「男女一緒である」という回答が大幅に減ってきた。
また男女別のデザインであるという回答も増え、女性の作業服の改良は進んでいることがわかる。
作業服のデザインについて
作業服の気になる点については、回答者が各項目から2つまで選択できる回答とした。2015年は1位であったサイズに対する不満はやや低減したがいまだに指摘は多い。1位は「汗じみ」であった。男性であればあまり気にならないと思われるが、女性は普段着でも汗しみが気になる人は多い。サイズだけでなく素材の検討も今後は必要であることがわかる。
作業服の気になる点
建築現場では男女別のトイレが増えていない
2015年と2017年では、男女別のトイレの比率は変化していない。
小さな建築現場では、まだ男女別のトイレが設置されていない現状もある。
建築現場のトイレ・男女別
建築現場のトイレで気になる点については、気になる点を3つまで選択できる回答方式とした。2015年度と同様、2017年度も清潔さや臭気などが気になるという回答が多かったが、その一方で、「汚物入れが置けない」「男性のトイレが見える」という回答が2015年度より減り、一部ではあるが女性への配慮が感じられた。
建築現場のトイレ・気になる点
建築女子の現場での休憩方法とは?
昼休みの休憩方法や、現場作業で疲れた時の対処法については、実際に昼休みに行っている休憩方法を17項目から2項目選択するとともに、今後はやってみたいことを1項目選択することにした。2017年と2015年の結果はほぼ同様で、「自席で寝る」「スマホを見る」という回答が多かった。今後やってみたい休憩方法は「自席以外の場所で寝る」が多い。建築現場の一部では女性の休憩場所を設置している事例もあるが、昼休み休憩場所の対応等はまだ進んでいないことがわかる。
建築現場での昼休みの過ごし方
建築女子の疲れた時の対処法
疲労した時に実際にやっていることを17項目から2項目選択し、今後やってみたい対処法を1項目選択する回答方式にした。2017年の結果は、2015年と同様の結果となった。「早く帰る」が1位で、またやってみたいことでも1位となっている。2位以下で実際にやっていることでは、「スイーツを食べる」「好きなご飯を食べる」が上位を占め、2015年と傾向が変わっていない。
足や肩を癒すシート材の使用、ストレッチやたいそうなどもやってみたいこととしての回答も多く、短時間で疲労を回復したいという要求が多いことがわかる。
疲れた時の対処法
「男女差を感じる」70%超える
働く意識として男女差を感じるか、今後建築業界で働き続けるために必要なことは何か、などの実際に感じることについてアンケートを実施した。男女格差を感じるかという質問に対しては、2015年は「ない」「ある」がほぼ半数であったが、今回「ある」と答えた回答者が大きく増えた。
「ある」と答えた人については、その理由についても択一式でアンケートを実施した。一番多い回答は「優しく接せられる(怒られない)」としたものであった。回りがまだ女性の扱いに戸惑いもあり、男性がよりやさしく接してしまう傾向もみられる。まだ回りの男性が、女性が現場の仕事に就くことに関してなれていない傾向が見られた。
待遇面で男女格差を感じるか
男女差が感じる時があると答えた人の理由
女性が建築現場で働き続ける上で必要なことは何か?
女性が現場で働き続けるために必要なことについて、一人3項目まで選択できる回答方式とした。2015年度と同様、2017年度もフレックスタイムの導入の希望が多い。さらには在宅勤務、完全週休二日制も多い。時間の制約を少なくできる方法について、要求が高いことが分かる。建築現場で働くことに関して、働き方の意識を変えていくことが、今後必要ではと思われる。これは女性だけではなく、男性にも言えることではと思う。
女性が建築現場で働き続けるために必要なこと
建築女子が「上司にしたい有名人」は女性が急増
上司にしたい有名人についてもアンケートを実施した。2015年度に実施した際には、有名人の名前を直接記載してもらったが、2017年度に実施した際には2015年のデータをもとに男女5名づつ10名の有名人の名前を挙げ、その中から選択する形とした。
2015年は、男性のお笑い系の名前を書く方が多かった。その理由としては、「現場が明るくなる」「楽しそう」と記載する人が多かった。2017年度は女性の有名人の名前を記載する人が多かった。有名人としては、女性の管理職を演じている女優、もしくはオリンピックのメダリストなど、リーダーシップにあふれる人物ばかりであった。2017年年度の結果は、自分の目指すべき姿を選択していたように思われる。
※有名人の具体名は差し控えさせていただくが、どうしても気になる方は「施工の神様」編集部までお問い合わせください。
建築女子が上司にしたい有名人の男女別比率
建築女子アンケートの結果まとめ
トイレや作業服、休憩方法などの身近な問題から、働き方の意識までアンケートを実施した。その結果以下の傾向がみられた。
- 作業服やトイレなどでは、女性に対する配慮が一部で見られるようになった。しかし、まだ不十分な点も多く、便利で清潔なトイレやサイズのあった作業服を求めている意見も多い。
- 休憩方法、疲れた時の対処法については、22017年の結果は2015年のデータとほぼ一致しており、現場での配慮や改善がほとんどなされていないこともうかがえた。
- 意識については、2015年より女性が男女差を感じるとした回答が増えた。今回の回答は40歳以上の回答者も多くベテランが多いこともあり、自分がやさしく接せられていると感じた回答者も多いようである。女性の部下を教育していくうえで、男女を同じように教育していくことが今後の課題と思われる。
- 女性が現場で長く働き続けるためには、フレックスタイムの導入や完全週休2日制、在宅勤務など、現場での作業時間を短くできる対策が今後必要とされていることが必要である。
- 上司にしたい有名人に関するアンケートでは、2017年度は女性を選択する回答者が増えた。オリンピックメダリストや管理職を演じたことのある女優など、自分の目指すべき姿ととらえている傾向が見られた。
このアンケートでは、現場で働く女性171名に対して32項目にわたるアンケートを実施しており、今回の報告はその1/3程度である。いずれ順次報告を行う予定である。アンケートの実施が2017年5~6月であったため、現場での熱中症対策、夏場対応に関する回答項目もあり、これらも2年間の推移を経て傾向に変化が見られるので、データを紹介できたらと考えている。