賃金も建設業の魅力。週休二日にするなら、労務単価を引き上げろ!

老舗の建設会社・福井組に聞いた、土木業界の課題とは?

株式会社福井組(徳島県鳴門市)は、昭和17年に創業した老舗。四国地方整備局や土木学会などからの表彰歴を持つ地域建設会社です。

今回、お話を伺ったのは、福井孝典社長と笠岡義明常務。お二人とも現場上がりの土木屋さんということで、現場での苦労話、最近の若者像などについて語っていただきました。

土木技術者に関する格言や、発注者にとっては耳の痛い内容もチラホラ。

福井孝典 / 株式会社福井組 代表取締役社長

自分が関わった現場は、全部思い出に残っている

――福井社長は、社長になって何年目ですか?

福井 12年目です。「一番危ない」と言われる三代目です(笑)。社長に就く5年ほど前から社長代行のようなことはやっていましたが、「初心忘れるべからず」を座右の銘にして、なんとかやってきました。

――もともと家業を継ぐつもりだった?

福井 私が大学を出た28年前は、ちょうどバブルの絶頂期で、いろいろ仕事はあったんですが、父親に就職を反対されて、家業に引き戻されました。子供のころから「継ぐんだろうなあ」という気持ちで育ってきたので、すんなり受け入れました。

――土木の勉強はされてた?

福井 地元の阿南高専で土木を学んでいました。高専を卒業する際、これも父親に「大学に行け」と言われて、編入で広島の福山大学の土木に行きました。当時は2年で4年分の単位を取る必要がありましたが、どうにか卒業できました。

土木は実際の現場と学校の勉強は全然違う

――福井組に入社して、最初は現場仕事?

福井 そうです。初めて担当した現場は銀行の新築工事で、私は現場監督見習いでした。作業員と一緒に型枠を組んだりしていました。当時はバブルで人手が少なく、いくつもの現場を抱えていた電気や内装などの職人さんは、夜中に現場に来て、仕事をしていました。夜でもできる作業は夜に行う、そういう時代でした。

――実務にはすんなり入れましたか?

福井 実際の現場と学校の勉強とは全然違っていたので、最初はショックでしたね。今でも同じだと思いますが。周りは「土木を出とるけん、大丈夫やろ」と思っていたかもしれませんが、本人にしてみれば、決してそんなことはありませんでした。

――思い出に残る現場は?

福井 私が現場に入ったのは10年間ぐらいですが、自分が関わった現場は、全部思い出に残っています。図面の数字を読み間違えて、一度つくったものを壊してやり直したり、ずいぶん失敗もしましたけど、失敗も含めて、全部良い思い出ですね。

――社長が考える良い建設技術者とは?

福井 仕事ができるできないは、個人差があると思いますが、「人に相談できるヤツ」は良い技術者だと思いますね。わからないことを教えてもらうことができる人間です。それも本人の努力なのでね。


経験不足の発注者を「説得する技術」も土木技術者には必要

笠岡義明 / 株式会社福井組 常務取締役

――笠岡常務は、良い技術者について、どうお考えですか?

笠岡 顧客である発注者に言われたことを迅速に対応するとか、地道なことの積み重ねができる人間だと考えています。問題がない現場というものは、絶対ありません。どんな現場でも、大なり小なり問題は出てきます。そういうものに迅速に対応できるかどうか、というのが一つのポイントになると思っています。

――不条理な発注者もいるでしょう?

笠岡 難しいところです。発注者も人ですから、話がわかる人もいれば、分からない人もいます。それも含めて対応できるかがポイントですよね。ただ、発注者の職員も不足しており、経験不足の方もおいでです。机上の図面だけで判断し、職員が現場への指示を出すわけです。われわれ受注者には、そういう職員を説得する能力をはじめ、今まで以上の知識、労力が必要になります。難しいところです。

――職員を説得する能力とは?

笠岡 職員から「これをやれ」と指示があった場合に、理由をつけて「それはできません」と説明しても、理解してもらえないわけです。経験不足の職員をどう説得するかという能力は、今後一層、土木技術者にとって必要になると思っています。

資格経験アリを中途採用したら、全然ダメだったことも

――技術者確保の苦労は?

福井 苦労しています。土木施工管理技士の資格も持っていて、最近まで現場に出ていた人を中途で採用したら、全然ダメだったということもよくあります。書類上の経験はあるけども、「他の人がカバーしていたんだろうな」という人が。

――若者の育成は?

福井 これも苦労しています。若い子はなかなか続かないので。若い技術者には、小さな現場でも、なるべく全部任せてみることにしています。全部任せられると「喜び」を感じますし、達成感も得られます。新卒で入社して、仕事を覚えてもらうのが理想ですが、なかなか定着してくれないのが頭の痛いところです。

「生産性向上」とは手を抜くことではない

――今の若者が続かない理由は?

福井 やはり「教育」だと思います。辛抱を経験してきていないのが影響していると思いますね。「辛抱強さ」が昔より落ちてきています。ただ、今の若い子は、土日は完全に休みという環境で育ってきているので、かつてのような「雨の日が休みで、祭日も辛抱して仕事をする」という労働環境は通用しません。

笠岡 「責任感をもってやる」という教育が不足しているのではないかと感じています。例えば、「この仕事を責任持っていつまでにやれ」と言っても、できない、やらない子がいるわけです。「生産性の効率化」と言われていますが、効率化とは、手を抜くことではありませんからね。効率化にとらわれて、「ものづくり」の基本が忘れられていると感じています。その問題は、建設業界に限った話ではないでしょうけど。

福井 われわれが若いころも、上の人に「最近の若いモンは」と言われていたので、同じことの繰り返しだとは思います。それでも、今の子には「辛抱して、上の人間を見返したろ」という気持ちが乏しいと感じています。学校と会社の違いを理解できない子もいますね。

ただ、会社としても、発注者の制度等ばかりに頼ってばかりではいけません。徐々にですか、改善していく努力も必要と考えています。

笠岡 会社で一緒にやっていく上では、仕事だけではなく、プライベートも含めた付き合いが必要です。われわれの世代は、ハタチぐらいの子とはなかなかコミュニケーションとれない難しさがあります。


建設業の人手不足は「労務単価」を上げないと続く

――「いずれ職人がいなくなる」という話も聞きます。

福井 労務単価の問題もあると思います。現場仕事は、「暑いときは暑い、寒いときは寒い」仕事なので、今の若者は普通、やりたがりませんよね。労務単価を上げないと、人手不足は続いていくと思っています。

――週休二日についてどうお考えですか?

福井 週休二日にするのなら、作業員の賃金引き上げが必要だと考えています。建設業の魅力の一つは、賃金ですから。ちょっとずつ上がってきてはいますが、まだ足りないと思っています。

――福井組の新卒採用は、地元の高校から?

福井 そうですね。この辺では、土木建築を学ぶのは徳島科学技術高校しかありません。ただ、学校の勉強は実務では役に立たないので、普通科にも求人を出しています。

私が一番心配なのは、高齢化です。福井組もそうですが、技術者の年齢構成を見ると、「失われた10年」によって、40才台より下の世代がスポッと抜けているんです。

前の会社が倒産、建設業界はどうかいな?

――笠岡常務は福井組では長いんですか?

笠岡 福井組に来て9年目です。その前は、別の建設会社で現場仕事をしていました。20年ぐらい勤めていましたが、その会社が倒産したんです。縁があって、福井社長に声をかけていただいて、福井組のお世話になることにしたわけです。

――スカウトされた?

笠岡 今でも覚えていますが、前の会社の倒産が公表された日の昼に、「いけるか?」とお電話をいただきました。

電話中の福井社長

――狙っていた?

福井 良い技術者だとは思っていました。そのときの電話は「この先どうするのか」という確認程度でしたが、「縁があったら、ウチに来て欲しい」という思いはありました。

――会社が倒産したときの心境は?

笠岡 会社が倒産したときは「この業界はどうかいな」と思いましたが、すぐに「やっぱりこの業界しかない」と思い直しました。大変なこともあるけど、やりがいがあるし、この「仕事が好き」だったからです。

――「やりがい」と言うと?

笠岡 やっぱり「ものづくり」ですよね。土木の現場はどの現場も大変ですが、大変だったら大変だった分、終わったときの喜びは大きいです。「ものづくり」という意味では、そもそも自然相手の仕事なので、特殊だと言える現場はそんなにありません。地元住民が特殊ということはありますが。

――失敗したことは?

笠岡 失敗は毎回です。今になってつくづく思うのは、土木の仕事は「失敗の積み重ね」で成り立っていますね。失敗しないと、なかなか仕事を覚えられません。

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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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