足場架設工事の事故は多い
新築工事でも、改修工事でも、どちらにも言えることですが、もっとも事故が多いのは、足場架設工事など高所からの落下です。
つい最近もニュースで落下事故が報じられたように、死亡事故にもつながりやすいので、足場架設工事では細心の注意が必要です。
しかし足場架設工事は、巨大な鉄のブロックを組み立てるようなものですから、実際の現場では落としたり、ぶつけたり、なんていう事故はしょっちゅう起こります。
今回は、そんな数ある足場架設に関する事故の中でも、私が経験した最も怖かった話を紹介します。
ユニック車の運転手の身に何が?
事故が起こった現場は、そこまで規模は大きくないものの、敷地面積が比較的広かったため、枠足場の組み立てを予定していました。
枠足場はビケと比べると部材自体が重いため、基本的にはユニック車で部材を下ろし、部材を鳶が運んで搬入を行います。当現場では、ユニック車の運転手が現場に到着するのは、朝礼が終わり、鳶が準備を始める頃でした。
しかし、事故当日は違いました。ユニック車が到着したのは昼礼後。到着したユニック車の運転手を見ると、明らかに様子がおかしいではありませんか。
運転席から降りてきた運転手に話を伺うと、どうやら熱中症らしく、ここまで運転してきたこと自体が奇跡だと思えるほど、茫然自失とした表情を浮かべています。
すぐに冷房のきいた部屋で運転手を休ませることにしましたが、さて困ったのは部材の搬入作業です。ブツは到着しましたが、まだユニック車を移動させて操作を行う必要がありました。
鳶が運転するユニック車
現場監督の私には、ろくに搬入の経験はありません。しかも、ユニック車の操作なんて、とてもできません。
どうすべきか職人たちと悩んでいたところ、鳶の一人がユニック車の操作員に名乗りを上げました。
正直、私は心配で、できることならば、この鳶さんには任せたくなかったのですが、そこはまだ若かった私。職人たちの言いなりになってしまい、結局、ユニック車の操作をお願いすることにしました。
颯爽とユニック車に乗り込んだ鳶は、すぐに指定箇所に車をつけましたが、搬入箇所は遊歩道のようになっており、いざアウトリガーを出そうとすると、その遊歩道の構造物に当たってしまいます。何度か試みたものの、どうしてもアウトリガーを出すことができません。
そこで仕方なく、アウトリガーを出さずに、搬入作業をおこなうことになりました。
アウトリガーを出さないユニック車
「アウトリガーを出さない!?」
内心、不安を感じた私は、いったん詰所で休憩中の運転手の様子を見に戻りました。すると、運転手は水分も取れるようになっており、大分回復したようだったのでホットして、ユニック車の運転に戻ってもらおうと考えました。そこへ、別の鳶の一人が、あわてて飛び込んできたのです。
「た、た、たいへんです!」
すぐに現場へ戻ると、ユニック車が横転しており、くろだかりの野次馬を警備員が必死で誘導しています。
まさに現場監督の私にとって、地獄の光景です(職人達にとっても)。
「おわった・・・」
頭が真っ白になった私は「ユニック車の裏側ってこんな感じなんだ」などと自分でも思ってもみないことに感心していました。その間、非常に長い時間に感じましたが、数秒だったでしょう。すぐに我に返った私は、ひとまず怪我人が一人もいないことと、大きな物損事故もないことを確認し、会社に電話で事故対応を依頼しました。
しばらく経つと、クレーン車が現場にやってきて、ユニック車の上部をすくうように起き上がらせました。
「万が1人を救う」足場架設工事のルール遵守
その日、私の携帯電話は、上司たちの説教、同僚たちのからかいで鳴り止まず、地獄の一日でした。
ユニック車の運転手も、熱中症になった末、事故車を運転して帰ったので、地獄の一日だったことでしょう。
ユニック車で資材を運搬する際は、その資材の下を通行人が通らないよう、誘導員が迂回させるのが基本です。もしこのルールがなければ、誰かが倒れたユニック車の下敷きになっていてもおかしくなかったでしょう。一方、ユニックを誘導をしていた職人が無事に済んだのは、ひとえにラッキーだったとしかいえません。
・・・普段から建設関係のルールは厳しすぎると思っていたし、今もそう思っていますが、この事故を経験したことで、「万が1人を救う」と思ってルール遵守の意識が高まったことはいうまでもありません。
ご安全に。