中堅ゼネコンの技術社員が「会長」を歴任する、岡山県土木施工管理技士会の現状と課題とは?

中堅ゼネコンの技術社員が「会長」を歴任する、岡山県土木施工管理技士会の現状と課題とは?

中堅ゼネコンの技術社員が「会長」を歴任する、岡山県土木施工管理技士会の現状と課題とは?

1人で奮闘する土木経験のない女性事務局長

各都道府県毎に土木施工管理技士会が組織されている。土木施工管理技士会は、土木施工管理技士が技術などに関する情報共有するための重要なプラットフォームだが、組織力、資金力の弱さから、各建設業協会の下部組織的な位置づけに甘んじ続け、主体的な運営が困難な技士会もある。

岡山県土木施工管理技士会(岡山市北区)も厳しい運営を続けている技士会の一つだ。岡山県土木施工管理技士会は、岡山県に本社を置く株式会社大本組、アイサワ工業株式会社に在籍する技術者が歴代会長を務める全国でも珍しい技士会。さらにレアなのは、事務局長は土木実務経験のない女性、しかも1人だという点だ。

山崎博美・岡山県土木施工管理技士会 事務局長

岡山県土木施工管理技士会は今年3月、国土交通省が実施する「中小・中堅建設企業等の建設リカレント教育等支援事業」について、「中堅技術者向け講習の実施」で公募、支援対象として採択された。4月以降、「品質・原価・工程・安全管理等の生産性向上の土 台となる知識習得」のための講習を継続的に実施していく。

岡山県土木施工管理技士会では、閉塞感漂う技士会運営をなんとかしようと、1人事務局を中心とした奮闘が繰り広げられている。技士会の役割とは何なのか?技士会が本来の役割を果たすためには、どのような組織体制がふさわしいのか?岡山県土木施工管理技士会が抱える課題と対応について、レポートする。


全国で唯一、中堅ゼネコンの技術社員が会長を歴任する技士会

岡山県土木施工管理技士会は平成3年に発足。当初は岡山県の外郭団体である建設技術センター内に事務局が置かれていた。

当初は、会長、副会長のポストは、中堅ゼネコンである株式会社大本組、アイサワ工業株式会社などの経営層が歴任していたが、「技術者が運営する方が良いだろう」という理由で、平成20年以降、役員会社の技術社員が就任するようになる。

平成25年に同センターが公益団体へ移行するのに伴い、岡山県土木施工管理技士会の事務局は岡山県建設業協会に移転。当時、同センター臨時職員だった山崎博美氏が事務局員として配属された。岡山県土木施工管理技士会の事務局長は、岡山県建設業協会の事務局長と兼務という形だった。

「この事務局体制では運営が困難だろう」という理由から、岡山県土木施工管理技士会の役員企業4社は、企画委員として技術社員4名を派遣。事務局のサポートに乗り出す。「全国の中堅ゼネコンが会長。企画委員という組織は珍しい」(山崎事務局長)と言う。

CPDSの理解不足で、会員数が伸び悩む

岡山県土木施工管理技士会の会員数は、平成11年がピークで1656名。その後、同25年1123名、平成30年1147名と減少傾向にある。岡山県内の建設業者数が6972社であることを考えれば、物足りない数字だ。「中国四国の各県技士会の中では、会員数は最も少ない」(山崎事務局長)と指摘する。

草地三陽・岡山県土木施工管理技士会長(アイサワ工業株式会社 専務取締役 土木本部 副本部長)

会員数が少ない理由の一つは、県内のCPDSに対する理解が低いこと。国土交通省中国地方整備局や岡山県では、入札参加施策審査時にCPDSは加点対象となるが、岡山市では、CPDSを取得していても、未だ加点されない現状がある。「現状ではCPDSのメリットで会員数を増やすことはできない。CPDS以外のメリットを見つけることが大きな課題だ」(草地会長)。

県内業者6972社のうち、4800社が中小零細企業。仮に岡山市がCPDSを導入した場合、新しいモノに対応できない企業も少なくない。親族経営の零細企業の中には「面倒なので、CPDSはやりたくない」と言う経営者もあると言う。政令市にしては、意外な出遅れ感は否めない。

技士会の講習には、全国組織である一般社団法人全国土木施工管理技士連合会(東京都千代田区、谷口博昭会長)が開催する講習もある。全国組織の講習だが、一部には「受講料が高い」などと不満の声が上がる。「必ずしも会員が求めている内容ではなく、なかなか響かないところがある」(山崎事務局長)ためだ。


お金をかけられないなら、講習の質を上げていくしかない

一方で、技士会を必要とする声もある。「中小企業の場合、新しい技術の勉強や新人の育成になかなか手が回らない」(奥野社長)現状があるからだ。中小零細企業では、技術者同士の交流の機会も限られ、刺激を受ける機会も少ない。「研修などを通して、他の技術者から刺激を受けられる場をもっと広げていって欲しい」(石田常務)と期待を寄せる。

福本健治・岡山県土木施工管理技士会副会長(株式会社大本組土木本部執行役員副本部長・土木部長)

この他にも、技士会に対して、会員からは「意見交換会を開いて欲しい」など、様々な要望が寄せられている。しかし、先立つものが限られている以上、次の展開への一歩を踏み出せないジレンマがある。

「お金をかけられないなら、講習そのものの質を上げていくしかない」(山崎事務局長)ということで、技士会は平成30年2月、国土交通省の「中小・中堅建設企業等の建設リカレント教育等支援事業」に応募。中堅技術者向け講座の提案が採択された。これにより、年間60万円の支援が得られる。

応募を巡っては、技士会内で少々紛糾した。山崎事務局長が「応募しても良いですか?」と聞いたところ、「じゃあ、イチかバチか」という気持ちで応募したところ、見事採択に至った。平成30年から、技士資格のない準会員枠を設ける。施工管理技士を目指す人の取り込みを狙った措置だ。高校生を対象にした受験対策講習も実施している。「技士試験に通ったら、会員になってね」という思いがある。

どこの技士会も経営的に厳しい、手探り状態

前列左から、草地三陽・岡山県土木施工管理技士会長(アイサワ工業株式会社専務取締役土木本部副本部長)、山崎博美・同事務局長、福本健治・同副会長(株式会社大本組土木本部執行役員副本部長・土木部長)、後列左から、中塚孝二・同企画運営委員(アイサワ工業株式会社土木本部購買部長)、石田篤史・株式会社イシダ工務店常務取締役、奥田一三・株式会社奥田組代表取締役社長、浜田利彦・岡山県土木施工管理技士会企画運営委員(株式会社大本組土木本部土木企画部長)※平成30年3月時点

「岡山に限らず、どこの技士会も経営的には厳しいところばかりだと思う。みんな手探りの状態。何か仕掛けなければ、何も変わらないという思いで、日々の仕事に取り組んでいる」(山崎事務局長)と心情を明かす。

「私は、いつも男性の中に1人。出張に出て、夜飲みに行くのも1人。以前は、どうしようと悩むこともあったが、やっているうちに、どんどん強くなっちゃった(笑)。今ではこうしたいと思ったことは、ドンドン行動させてもらっている」(山崎事務局長)。

ただ、事務局長一人のチカラでは限界がある。そのためにはまず、「技士会がなにをするか」ではなく、「一人ひとりの会員が技士会のためになにができるか」という意識変化が必要だ。

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