公益社団法人認可を取得した高知県土木施工管理技士会にインタビュー
土木施工管理技士会は、土木施工管理技士の技術力、社会的地位の向上などを目的に設立され、昭和49年に前身となる資料頒布会が創設されたことに始まります。昭和51年、静岡県土木施工管理技士会の設立を皮切りに、都道府県ごとに設立されました。
現在は、全国土木施工管理技士会連合会が、47都道府県の技士会に、橋梁建設、塗装土木、現場技術の3つの専門技士会を加えた50の技士会を束ねています。
土木施工管理技士会ではどのような取り組みをしているのでしょうか?
平成25年に全国唯一の公益社団法人認可を取得した高知県土木施工管理技士会にお話を伺いました。
公共事業減少に伴い会員減少も、総合評価導入により再び増加

公益社団法人高知県土木施工管理技士会代表理事会長/一般社団法人全国中小建設業協会副会長/株式会社田邊建設取締役会長を兼任する田邊聖さん
施工の神様(以下、施工):高知県土木施工管理技士会の歩みなどを教えてください。
石津知己(以下、石津):高知県土木施工管理技士会は、昭和55年に任意団体として設立され、昭和58年に社団法人として許可を受けました。平成25年には、公益社団法人に移行認定されました。全国には、50の土木施工関連の技士会がありますが、社団法人は6団体。そのうち、公益社団法人の認可を受けているのは、高知県土木施工管理技士会のみです。
正会員数は、平成6年に2,000名となり、平成11年に2,200名に達して以降、公共事業量の減少に伴い、平成15〜18年に1,900名前後まで減少しました。その後、総合評価方式の評価項目に技術者の研修が盛り込まれたことをきっかけに、CPDS(継続学習制度)のニーズが高まり、入会のメリットが大きくなったことから、正会員数が再び増加しました。平成28年は2,872名となっています。
田邊聖(以下、田邊):総合評価において、CPDS上の学習単位であるユニット数による加点枠が増えたので、入会者も増えたわけです。平成25年で入会者が一旦頭打ちになったのですが、高知県がユニット数の加点枠を50から80に広げたので、平成26年以降も増え続けているという状況です。
石津:高知県土木施工管理技士会は、土木施工管理技士の有資格者だけの団体でしたが、造園や機械、建築など他の資格保有者から、入会したいという要望を受け、賛助会員として受け入れています。平成28年は298名となっています。
高知県内では、1級土木施工管理技士を要件に監理技術者として登録している数は、平成20年時点で3,830名いましたが、平成28年で3,275名と一貫して減ってきています。つまり、技士の母数は減っていますが、高知県土木施工管理技士会の加入者は増えており、組織率が向上していると言えると思います。

公益社団法人高知県土木施工管理技士会参与の石津知己さん
施工:技士個人ではなく、会社が入会のメリットを感じて、施工管理技士の資格を持つ社員を入会させている?
田邊:そうです。
石津:大部分は、会社のニーズによる入会者です。士業とは言え、独立して商売できる資格ではありませんから。ただ、個人で入会している方もいらっしゃいます。
田邊:今後、新たな入会者の見込みがあるのは、発注者側からの入会者です。国、県、市町村の有資格者の入会をお願いしているところです。現職の公務員の入会者はまだまだ少ないので、技士会としては、発注者側に対しても、われわれは土木技術者の団体であることを、もっとPRしていく必要を感じています。
全国の技士会は、社団法人、公益法人の認可を受けている6団体を除けば、各都道府県の建設業協会の中の土木施工管理技士会なんです。高知県では、設立後の早い段階から、法人化の道を歩んでおり、他の土木施工管理技士会とはちょっと違います。予算など、いろいろな締め付けも厳しいですが、公益的な組織として、技術者の地位向上に努めているところです。
建設業協会に頼らない技士会を目指し、公益社団法人に移行
施工:任意団体としての土木施工管理技士会との違いは?
田邊:CPDSの運営など、やることは同じですが、任意団体としての土木施工管理技士会では、一定の回数CPDSを運用すれば、事足りるわけです。公益社団法人である高知県土木施工管理技士会の場合、公益目的の出資事業と利益を上げるための事業とを分けて行う必要があり、いろいろな企画を提案して、技術者のあり方、地位向上などをアピールすることが求められます。
施工:土木施工管理技士会の公益社団法人化のトレンドはあるのですか?
田邊:職人を含めた土木技術者の地位向上を進めるためには、土木施工管理技士会が建設業協会の中にあると、どうしても建設業協会を頼ってしまいます。われわれとしては、高知県の考え方が、全国に広がって欲しいと考えています。
今は、会社の中の土木施工管理技士でしかありません。一人ひとりの技術者が自分で会費を払えば、将来的には技術者の独立性にもつながると考えています。
施工:公益社団法人化は、先駆的な取り組みと言えるわけですか?
石津:例えば、全国土木施工管理技士連合会が都道府県の土木施工管理技士会に電話をするときに、「はい、○○技士会です」と電話に出る土木施工管理技士会は少数だそうで、「はい、○○建設業協会です」がほとんどということです。そういう土木施工管理技士会の場合、建設業協会の会員でないと、入会できない場合が多いと思いますが、高知県の土木施工管理技士会ではそういう条件はありません。
全国の土木施工管理技士会連合会の会員数は、現在約10万人ですが、CPDS加入者は約16万人です。この6万人の差は何なのかというと、建設業協会の傘下に入っていない会社の技術者がいる、ということです。建設業協会傘下の土木施工管理技士会である限り、その差を埋めることは非常に難しいと思います。
その点、高知県土木施工管理技士会は、建設業協会会員という制約がないので、限りなく実数に近い会員数になることが可能です。これは公益社団法人化の大きなメリットだと考えています。また、賛助会員であれば、県外の企業の方でも、入会することができます。その際、会社の完工高などは関係なく、技術者個人の要件のみで入会できます。県外の賛助会員は、今のところ1社ですが、約80名が入会していらっしゃいます。全国どこからでも入会できます。
施工:技術者の高年齢化、若者の土木入職について、高知県土木施工管理技士会の見方は?
石津:高知県の土木施工管理技士会会員を年齢階層別を見ると、平成22年と27年の比較では、20〜30歳代が大きく減っており、40歳代増、60〜70歳代が大きく増えています。もともと少ない若者がさらに減っている一方、主力だった高齢者が、60歳を過ぎても、辞めるに辞められない状況にあると言えます。
田邊:今の若者は、給料よりも、週休2日と仕事の平準化に対する希望が強いです。高知県の建設業界は、4週6休、日給月給が現状ですが、これを改善すれば、若い人がもっと増えてくると思います。そのためには、われわれ建設業を営むものが力を合わせて努力しなければなりませんが、「ゆとり工期」の実現や労務単価の見直しなど、前提条件が整うことも必要です。若者の土木入職が増えるかどうかは、その辺がどう変わるかによって、はっきりしてくると思っています。
「東京オリンピックまでは仕事がある」では不十分で、東京オリンピック後、最低でも10年間は現状と同じ量の仕事がないと、経営者としては、新たに雇用するのは難しいと考えているところです。

建設会社の経営者、高知県土木施工管理技士会の会長、それぞれの視点から、田舎の建設業のあり方を力説する田邊さん
賃金を日給1万9,500円まで戻すべきだ
施工:田舎の建設業では週休2日はムリでは?
田邊:現場では、上から下へいくほど週休2日は難しくなります。現場の所長さんは週休2日で大丈夫でしょうが、下請けの職人は週休2日になると、実入りが減ってしまいます。下請けとの契約制度がある以上、相当に労務単価が上がらないと、すべての人間の週休2日はできません。建設業での社会保険の未加入の問題が指摘されていますが、小さな現場では、社会保険より、1日の賃金が増える方が良い、と考える人間がいるのが現状です。
建設の現場は、過酷な環境なので、他産業に比べて賃金が良くないと、人は増えません。普通作業員の賃金は一時(平成24年4月)、日給1万2,200円程度まで下がっていましたが、今1万6,000円(平成29年4月単価)ぐらいです。日給が上がったと言っていますが、そうではありません。平成11年4月には1万9,500円あったのですから、そこに戻っている途中なんです。じわじわ賃金をあげるのではなく、とにかく1万9,500円に戻して、それから、国がいろいろな対策を考えていく必要があると考えています。
今の日本の労働環境は、いろいろな制約を受けるようになっています。このままいくと、建設業で利益を上げられなくなります。そうならないために、国にはしっかりした施策を講じて欲しいという思いがあります。担い手3法ができて、国もわれわれ建設業の意見を聞いてくれるようにはなりました。ただ、東京でいろいろな会議をやっていますが、田舎のことは、なかなかわからないと思います。国が考える地方は、高知県ならせいぜい高知市どまり。高知県のさらに田舎のことは考えにありません。建設業から他の産業に行った人は、建設業になかなか帰ってきてくれません。これほど辛いことはないです。
実地経験がなくても、CPDSでICT技術を習得できる
施工:「i-Construction」は若者に受けが良いそうですが。
田邊:生産性の向上が主眼なので、若者は関係ないと思います。ドローンなどの設備投資をするにしても、相当受注が安定していないと、できません。リースなどの専門業者がいるわけですから、建設会社が全面的にやる必要はありません。ただ、ITを使ったとしても、田舎ではそれほど効果は上がらないと思います。さらに新しい技術が出て、梯子を外されるリスクもあります。
施工:IT系の技術は、陳腐化が早いですからね。
田邊:i-Constructionを進めたいというのは、むしろ、メーカーの考えではないでしょうか。ただ、技士会としては、会員に対するドローンなどを使ったi-Construction関係の講習は、しっかりやっていきます。ICTの仕事を取った大手だけでなく、継続学習した技術者も同じように工事に参加できるようにして欲しい、という働きかけをしているところです。
施工:では最後に、高知県土木施工管理技士会のPRを。
田邊:建設業では、仕事がなければ経験を積めません。全国のすべての土木施工管理技士会では、仕事がなくても、それぞれの技術者がCPDSなどを通じて、様々なノウハウを頭に入れ、スキルアップするためのお手伝いをしています。中でも、高知県土木施工管理技士会は、公益社団法人として、独自の研修メニューを企画することなどを通じて、より多くのデータを会員に提供することができます。これから土木技術者としてのキャリアアップを考えている人は、高知県土木施工管理技士会に入りましょう(笑)
土木施工管理技士会は、全国組織が束ねる都道府県ごとの集まりなので、全国一律だろうと考えていました。
高知県土木施工管理技士会のように、数は少ないながら、社団法人、公益社団法人として独自の活動をしている技士会があることを知り、土木の世界は、地域ごとに個性がある奥深いものなんだな、と感じました。
全国で初めて公益社団法人化に踏み切った高知県土木施工管理技士会。運営上のリスクもあるようですが、今後の頑張りに期待したいところです。
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