建設現場はトラブルが発生しやすい
些細なことが大きなトラブルにつながるのは、どの業種でも同じでしょう。
しかし、数十人から数百人、ときには数千人が同時に動いている建設現場では、特にトラブルがおきやすい職場といえます。
ちょっとの連絡ミスで手配していたはず職人が来なかったり、職長からの伝達ミスで作業箇所ではないところを塗ってしまったり、些細なことでも、とてつもなく重大な問題に発展してしまうのが建設現場です。現場監督の精神的プレッシャーたるや、想像に難くないでしょう。
今回は、私が社会人になって初めて現場監督を担当した工事でのトラブル案件について紹介します。
初めて現場監督になった現場でトラブル
トラブルが起こった現場は、中規模の塗装案件でした。
元請の所長がしょっちゅう現場の様子を見に来るため、新人監督の私にとっては、気が抜けないピリピリした現場でした。
初めての書類作業に精神を尖らせ、騒音や臭気に関するチラシを近隣住民に配布したり、クレーム対応に追われたり、毎日必死に現場を回っていたのを覚えています。
ちょうどその日は、洗浄作業と塗装作業を平行して進めており、10人弱の洗浄屋と塗装屋が現場に入っていました。洗浄作業は事故やトラブルが起きやすく、足場架設と同じくらい注意を払わなければいけない工種です。
その日のうちに洗浄作業を終わらせたかった私は、洗浄に備えてブルーシートで養生を行い、人通りが多い場所には、水がかかる可能性のある旨の張り紙をして、クレームにならないよう細心の注意を払いました。
午前中はなんとか順調に洗浄作業が進み、特にクレームもなかったため、今日中に作業を終わらせることができそうだと私は安堵して昼休憩に入りました。
ところが・・・。
現場一帯に鳴り響く塗装屋の怒号
昼休憩後、現場を巡回していると、なにやら遠くから現場全体に響き渡るくらいの怒鳴り声が聞こえてきました。
まさか住民のクレームか!?と思い、その場へ向かうと、塗装屋が噛みつかんばかりに、洗浄屋に対して怒鳴っているのです。
慌てて駆け寄って塗装屋をなだめつつ事情を聞くと、洗浄屋が洗浄していた先に塗装屋の荷物がまとめておいてあったため、塗装屋の道具類が水びたしになったというのです。
洗浄の作業箇所は周知していたつもりだったし、人が通るような場所ではなかったので、そこに荷物を置いている塗装屋にも問題はあるのですが、そんな理路整然とした話など聞いてくれるような状況ではありませんでした。
塗装屋は真冬に大事な道具を濡らされ、激昂してなにも聞こうとしません。私の指示どおりに作業を行っていた洗浄屋にとっては、とんだ災難です。
このままケンカが続けば、塗装も洗浄も進まないうえ、お客さんにこの見苦しい状況を見られたら、クレームにもつながりかねません。現場の外にも怒号が漏れれば、建設業のさらなるイメージ悪化にもつながりかねません。
そこで私は「私が養生していなかったのが悪かったんです、すみませんでした」とひたすら謝り倒し、塗装屋の怒りの矛先を私に向けるしか方法がありませんでした。
最終的には胸ぐらをつかまれて、ようやくその場は収まったのですが、普段はひょうきんに笑って済ませてくれる塗装屋の人たちが鬼の形相に変わったあの現場は、未だに忘れることができません。
建設現場で働く男たちの、恐ろしい本性を垣間見た一瞬でした。できればもうあんな場面には遭遇したくない、と心から思いました。
職人同士が生業を支えあう建設業
この事件以降、私は荷物の置き方に関するルールや、洗浄時の養生を徹底しています。しかし、このトラブルで一番の問題点は、職人どうしがお互いの作業を理解していなかったことだと解釈しています。
私が養生をもっとしっかりしていればよかったわけですが、塗装屋が洗浄箇所をしっかり理解していれば、養生がない場所に荷物を置かなかったでしょう。あるいは、洗浄屋が洗浄箇所の周辺をちゃんと確認して、塗装道具の存在に気が付いていれば、濡らす前に荷物をどかしていたはずです。
つまり、作業内容や注意事項を周知徹底していれば、簡単に防げたトラブルでした。
職人どうしがお互いの生業を支えあい、協力し合って初めて、ひとつの現場が完成するのが建設業です。その架け橋となるのも現場監督の役割であると痛感したトラブルでした。