アフリカ ガーナでの施工管理の実態
ガーナと言えば、チョコレートと野口英世しか知らなかった私が、ガーナで施工管理を担当するよう派遣されたのは、ちょうど1年間。JICAが公共工事として統括し、コンサルが常駐する一般的な海外ODAの仕事だった。
日本の土木主体のゼネコンが請負い、海外沿岸での港湾やその付随施設の複数の工事をワンセットで施工するものだ。
ガーナは頭蓋骨のような形をしたアフリカ大陸のちょうど後頭部の付け根にあり、南側が大西洋(ギニア湾)に面している。私が赴任したのは、そのギニア湾に面した漁港だった。
港湾工事の土木がメインの仕事で、建築は湾に付随する幾つかの建物の新築増築改修工事、具体的にはRC造2階建ての管理棟の新築と旧管理棟の改修工事、漁港に面した製氷棟の増築工事、地域全体のための給水棟新設の工事だった。
土木の会社に建築工事が出来るのか?
この現場に向かう際、一番疑問だったのは、「土木の会社に建築工事が出来るのか?」という点だった。
私は過去に何度か、土木の橋梁工事と高速道路工事に付属する建築工事に関わった事がある。その時に土木の工事の進め方を見たが、基礎工事など基本的な部分は大きく変わらないが、建具や木工部分となると全くの門外漢という感はぬぐえなかった。
そんな記憶があるので現地に行くまで「土木の会社に建築工事が出来るのか?」と疑問に思っていた。
しかし土木主体のゼネコンとはいえ、建築の工事を請け負い、JICAも発注したのだから、建築の人間もそれなりにいるだろうとガーナに向かった。
ガーナ到着すると、空港からガタガタ道を6時間、そのまま現場に直行した。現場事務所は現場港湾の目の前。土木工事が先行しており、建築は捨てコンまで終っているが、作業員の姿はない。
よく見ると、捨てコンの上には何回も引き直された墨だし線が見て取れたので、嫌な予感がした。
全部建築仕様に書き換えろ
現場事務所で全員に簡単な挨拶を済ませた後、私は同じ建物の角部屋にいるコンサルタントに会いに行った。
コンサルタントは開口一番、「やっと 建築の人が来ましたか!」と喜んだ。
「え?建築の人間はすでにいるのでは?」と問うと、「ここにいるのは土木の人間だけで、建築の人間は一人もいません」と言う。
「今、捨てコンの段階で止まってるのは、鉄筋のカブリが全て土木仕様になってるからです。それを全部建築仕様に書き換えるように指示を出してから、もう2ヶ月も経っています。加工を考えると時間がありません。
その他にも建築関連の図面と書類が全く提出されてません。困ったもんです。あなたはそのためにガーナまで来たんでしょ?」
私に割り当てられた机に戻ると、ドサッと構造図面が置かれていた。
高慢なゼネコンのOB
日本のゼネコン本社にも、ガーナでの実態は伝わってるが、現地に派遣しようとする人間にその情報をすべて話すのは極めて稀だ。
意識的に隠しているのではないと思いたいが、それはどこの国、どのゼネコンでもあることである。私もそれ位の覚悟は出来ているし、実際、行く前と話が全然違っていた海外の現場を幾つも経験している。
しかし、海外に行ってしまったら、もうどうにもならない。待遇面、金銭負担、労働時間等が大幅に違う場合は困るが、仕事に関する内容であれば、その中でベストを尽くすのが技術者だ。
さて、この現場で最大の問題は、ゼネコンのOBで実質的に現場所長も頭が上がらない人間の存在だった。会った瞬間、直感的に「問題はこの人だな!」と感じたが、私の直感は正しかった。
会社でどれほどの功績を上げた人物なのか知らないが、その傲慢な命令口調は非常に不快だった。言っていることが全然心に響いて来ないし、恫喝して脅して人を動かそうとするのだ。
「貴方のやり方は間違っている!」と言い返したかったが、口先ではなく実際に行動で示すしかない。
私はまず鉄筋加工の確認を最優先に着手した。救いだったのは、所長が高飛車な性格でなく、正直な人間だったことだった。
(つづく)
この連載期待している。