ちょっと待った!フルハーネス型安全帯の義務化と2丁掛けの盲点

フルハーネス型安全帯の義務化は必要か?

古今東西どこの現場に行っても「安全第一」は普遍のテーマ。

今日も、現場監督・現場監理・職人たちが一丸となって「本日もご安全に!」と朝礼をした現場がほとんどでしょう。職人の安全、近隣の安全、もちろん監督自身の安全も大事です。

しかし、実際問題、安全対策はどこまで必要だと思いますか?過剰になっていませんか?

2019年2月から義務化される「フルハーネス型安全帯の着用」って、ぶっちゃけ、どう思いますか?

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安全帯の2丁掛けって、本当に安全ですか?

少なくとも、鳶には必須と言われている、安全帯の2丁掛け。

本来、安全帯に1つしか付いていないフックが2つ付いており、鳶は腰に巻くタイプではなく、フルハーネス型の安全帯に2丁掛けが今では指定スタイルです。

鳶の場合は、まだ足場が組み上がっていない不安定な場所で力仕事をしなければならないので、一瞬でも安全帯の掛かっていない時間を作ってはならない、という理屈で2丁掛けが必須なのは理解できます。

しかし、この2丁掛けを他の作業員も必須にしよう、という動きがあることはご存知でしょうか。

以前、どこかの講演会で聞いた話ですが、足場からの落下事故をゼロにしようということで、すべての作業員をハーネス兼2丁掛けにしようというのです。

いやいやいや、待て待て待てと。普段現場を巡回程度しか見ていないようなスーツのお偉いさんだけで考えるから、そんなことを思いつくんだと。

「安全帯を常にかけてる=落下しない」という式だけで考えたら確かにそうかもしれませんが、ハーネス兼2丁掛けは現実的に可能なのか、という視点が欠如しているように思います。

フルハーネス型安全帯義務化の肉体的負担

まずコスト面の問題。安全帯はただでさえ、それなりの値段がしますし、それを全員フルハーネス型安全帯にしたら、とてつもなくお金がかかります。

もちろん職人が基本的には用意しますが、ハーネス型をもっていない職人がほとんどなので、フルハーネス型安全帯の着用を必須にしたら、現場に入ることのできる職人が減って、工事にも支障がでます。

それを現場で負担することになれば、大きい現場ほど大きな負担となり、経費で片付けられない金額が必要になります。

次に、職人の負担の問題。

さすがに腰につけるタイプの安全帯は、私も着けてくれと言いますが、フルハーネス型安全帯となれば職人の身体的な負担も変わってきます。

鳶は足場を作っている最中ですので、出来上がった足場の中を通る機会は多くありませんが、その他の職人は狭い足場の中を歩き回るため、常に中腰でいなければいけません。

腰につける安全帯ですら、そこに腰袋を着けたりすれば、そこそこの重さで腰痛の原因になるにもかかわらず、安全帯だけで倍以上の重さになり、さらに腰袋となれば、職人の身体の安全はどこにあるのでしょうか。

ジワジワ痛めつけるのなら、労災じゃないとでも?

フルハーネス型安全帯の着用義務化

そして実際にできるのかどうかという問題があります。

金銭的な実現性もそうですが、常にフルハーネス型安全帯の2丁掛けでの作業が可能かどうかということです。

そもそも2丁掛けは、鳶が組み立てている最中の体制移動の際に、かけなおしの一瞬すら掛かっていない状態がないように、というお話です。

他の職人が移動のたびに掛けなおしていたら、おちおち移動もできず、安全帯を掛ける音でクレームが来るような、意味の分からない事態になります。

さらに作業箇所には、狭くて手を通すのがやっと、といった場所もあります。そんなところでハーネスを着けて作業を行うのは、かなり難しい話ではないでしょうか。

いずれにせよ、法改正によって2019年2月から「フルハーネス型安全帯の着用」は義務化されます。高さ6.75メートル以上(建設業は高さ5メートル以上)で、例外なくフルハーネス型安全帯を着用するように義務づけられます。

2019年7月には、現行構造規格品の安全帯は製造できなくなり、2022年1月には、現行構造規格品の安全帯について、着用も販売も禁止されます。

義務化までにちょっと猶予期間がありますが、現場目線からすると、多少なりの文句がある方も少なくないのではないでしょうか?

フルハーネス型安全帯義務化のポイント

※編集部注:労働安全衛生法の改正により、2018年2月1日からフルハーネス型安全帯の着用が原則義務化されました。この法改正とともに、厚労省は「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」を策定しています。今回の法改正のポイントを以下にまとめました。

安全帯に関する法令改正のスケジュール / 厚労省

1.「安全帯」から「墜落制止用器具」に名称変更

「安全帯」の名称が、「墜落制止用器具」に変わります。

従来、安全帯には、胴ベルト型安全帯(一本つり、U字つり)とフルハーネス型安全帯の3種類がありました。このうちワークポジショニング用器具であるU字つりの胴ベルト型安全帯には墜落を制止する機能がないため、改正後は「一本つり胴ベルト型安全帯」と「フルハーネス型安全帯」のみ、「墜落制止用器具」として認められることになります。

ただし、「墜落制止用器具」はあくまで法令用語のため、従来通り「安全帯」「胴ベルト型安全帯」「フルハーネス型安全帯」といった用語は一般的に使用されます。

2.高所作業での「フルハーネス型安全帯」の着用が原則義務化

6.75mを超える高さ(建設業では5.0m超)における作業で、作業床を設けることが困難なとき、もしくは作業床はあっても囲い・手すり等を設けることが著しく困難なときは、フルハーネス型安全帯を着用しなければなりません。

ただし、フルハーネス型安全帯の着用者が墜落時に地面に到達するおそれのある場合(高さが6.75m以下、建設業では5.0m以下)では、今後も胴ベルト型安全帯(一本つり)を使用できます(また、経過措置により、2019 年8月1日以前に製造された旧規格の胴ベルト型安全帯については、2022 年1月1日までの間、高さに関わらず使用できます)。

3.「フルハーネス型安全帯」着用者に対する「特別教育」の義務化

フルハーネス型安全帯を着用していても、正しく使用しないことで事故につながる例があります。さらに、フルハーネス型安全帯を着用しながら長時間宙づりになると、腿ベルトが大体静脈を圧迫し、血流が止まり脳と心臓に大きな損傷を与える危険性も高まります。

こうした理由から、高さ2m以上のフルハーネス型安全帯を使用する作業者は、「安全衛生特別教育」(学科4.5時間、実技1.5時間)を受講しなければなりません(ただし、フルハーネス型安全帯に関する十分な知識及び経験を有すると認められる者については、学科・実技の一部の科目を省略することが可能です)。

特別教育の内容は、以下の通りです。

【特別教育の内容】

学科科目 範 囲 時間
Ⅰ 作業に関する知識 ①作業に用いる設備の種類、構造及び取扱い方法 1時間
②作業に用いる設備の点検及び整備の方法
③作業の方法
Ⅱ 墜落制止用器具(フルハーネス 型のものに限る。以下同じ。)に関する知識 ①墜落制止用器具のフルハーネス及びランヤードの種類及び構造 2時間
②墜落制止用器具のフルハーネスの装着の方法
③墜落制止用器具のランヤードの取付け設備等への取付け方法及び選定方法
④墜落制止用器具の点検及び整備の方法
⑤墜落制止用器具の関連器具の使用方法
Ⅲ 労働災害の防止に関する知識 ①墜落による労働災害の防止のための措置 1時間
②落下物による危険防止のための措置
③感電防止のための措置
④保護帽の使用方法及び保守点検の方法
⑤事故発生時の措置
⑥その他作業に伴う災害及びその防止方法
Ⅳ 関係法令 安衛法、安衛令及び安衛則中の関係条項 0.5時間
実技科目 範 囲 時間
Ⅴ 墜落制止用器具の使用方法等 ①墜落制止用器具のフルハーネスの装着の方法 1.5時間
②墜落制止用器具のランヤードの取付け設備等への取付け方法
③墜落による労働災害防止のための措置
④墜落制止用器具の点検及び整備の方法

※特別教育が必要な作業者に教育を実施していない場合や無資格の作業者に就業させた場合、罰則(6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金)が適用される場合があります。特別教育には猶予期間が設けられていないため、注意が必要です。

【投票】フルハーネス型安全帯の義務化問題

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ピックアップコメント

多くの方の誤解や問題点は、高いところでの作業=安全帯の着用の義務となっているところではないでしょうか本来、完成している足場などでは安全帯は不要です(安全帯は手すりなどが不十分な場所に義務が伴います)それなのに、企業側が自主規制的に高所=安全帯とするから無理が生じます法令から読み解けば、事業者は手すり等をきちんと用意し、安全帯のいらない作業ができる作業床を造るべきで、安全帯の推奨はその次の話のはずなんですけどね不要なところには求めない勇気がいろいろな問題を解決するのかなと思います

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現場所長です。いろいろな業者を利用しています。 世の中には多種多様な人たちがいますが、少なくとも建設業界で働こうとする人を育てたいという気持ちがあります。多少のことは目をつむっても自分の現場で開花させたい。それが出来なければ自分は所長を名乗る価値がない、そう思っています。
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