左から、福岡市道路下水道局建設部中部下水道課の白水(しろうず)千穂さん、同管理部下水道管理課下水道係の田知行(たちゆき)さなえさん、同総務部下水道経営企画課の植田文子さん

全国でGJ(下水道女子)の輪が拡大中。女性技術者から見た下水道の魅力とは?

下水道に魅せられた女性が集うGJリンク

「GJリンク」というプロジェクトがある。「GJ」とは「下水道女子」の略で、全国の自治体の下水道セクション、下水道関連企業などで働く女性を指す。

GJリンクでは、全国のGJ同士をつなぐことを目的に、ワークショップ開催のほか、広報誌発刊などの活動を行なっている。女性同士の交流ということで、ふだんの職場では話しづらい悩みや相談事などもできる貴重な機会となっているようだ。

福岡市道路下水道局で働くGJ3名、白水(しろうず)千穂さん、 田知行(たちゆき)さなえさん、 植田文子さんに、公務員土木技術者の魅力や、下水道の仕事のやりがい、今後のキャリアアップなどについて、話を聞いてきた。

結婚、出産、育児…将来を考えやすい公務員技術者

大石(施工の神様ライター)

土木の仕事の中で、福岡市役所(公務員)を選んだ理由は?

田知行さん(福岡市道路下水道局管理部下水道管理課下水道係)

私は工業高校で土木を学びました。土木科を選んだのは、道路や橋を作る建設業に興味があったからです。

就職先を選択するときに、男性に比べ、選択肢が少ないところがありました。

その中で、公務員を選んだのは、将来的な結婚、出産を考えたときに、休みを取りやすそうだったからです。市役所に入って7年になります。

白水さん(福岡市道路下水道局建設部中部下水道課)

私は大学では土木系の学科で学びました。土木を選んだのは、実家の近くの河川で親水事業の工事があり、気になっていたからです。

就職先に公務員を選んだのは、公務員になった先輩から、公務員は地域に貢献できる仕事だというお話を聞いて、いいなと思ったからです。入庁6年目です。

大石

植田さんは?

植田さん(福岡市道路下水道局総務部下水道経営企画課)

私は大学で岩盤力学を専攻していました。卒業後は、東京にあるシステム開発などをする民間企業に就職しました。夫が転職して、地元の福岡に帰ることになったので、その会社を退職し、一緒に福岡に引っ越しました。

福岡で再就職先を探したのですが、子供がいたので、市役所を選びました。市役所に入って10年目になります。

大石

現在のご担当は?

田知行さん

現在、下水道管理課に所属しており、下水道管きょについて、管内の調査、清掃や、補修に関する各区役所との調整などを担当しています。

白水さん

私は中部下水道課というところで、下水道管きょ工事の設計を行っています。浸水対策・合流改善事業として実施している「レインボープラン博多」に関連する工事発注などを担当しています。

積み上げた数値をもとに積算業務中の白水さん

植田さん

下水道経営企画課では、下水道技術の国際展開、下水道PR施設のリニューアル検討などを担当しています。ミャンマーのヤンゴン市等への技術協力、研修員の受け入れなどを行っています。

ヤンゴン市で技術支援業務に従事する田知行さん(左端)

下水道は「縁の下の力持ち」

大石

下水道の魅力は何ですか?

植田さん

道路や橋などと違って、下水道は目には見えないですが、実際に下水道の仕事に携わってみて、実は「人に近しいインフラ」で、人のくらしを支えているというところに魅力を感じます。


大石

田知行さんにとって、下水道の魅力は何ですか?

田知行さん

目に見えないところで、人々の暮らしや環境を守っているところが、縁の下の力持ちのような魅力があると思います。

白水さん

下水道には色々な活用方法がある点が魅力だと思います。

例えば、福岡市では、下水処理水の一部を再生水利用しており、トイレの洗浄用水などで利用しています。また、汚泥処理過程で発生するガスでは消化ガス発電が可能で、水素ガスも作ることもできます。

そのほかにもさまざまな活用方法があり、ただ汚いものというわけではなく、人がいる限り、なくなることのない資源だと思います。

大石

仕事のモチベーションは?

田知行さん

最初の配属先は、区役所で道路をつくるセクションでした。

地元の要望を踏まえながら、道路工事を進め、最終的に目に見えるカタチでものができあがると達成感があり、仕事が楽しかったです。「次も道路をやりたい」と思っていましたが、異動先は下水道でした。

大石

下水道に移ってみてどうでした?

田知行さん

最初は、下水道のことは何もわからなくて、いろいろ大変でした。下水道には管きょ以外にも、処理場などの施設があって、勉強することがたくさんあるという印象を持っています。

新たにものをつくる部署ではないので、仕事の魅力を言葉にしづらいところがありますが、毎日新たな経験を積み重ねることが、自分の力になっている実感があるので、それが楽しく、モチベーションになっています。

市役所では、人事異動は数年ごとにあるので、次もまったく違う分野の仕事を担当する可能性はあるわけですが、土木の技術職員として、道路や上下水道、港湾など様々な分野の仕事に携われるので、それが公務員の魅力だと思っています。

白水さん

私の場合、技術職員として、専門性を持ってある分野に特化するよりは、いろいろな分野で経験を積みたいという思いがあります。この点、田知行さんと同じです。

今のところ下水道以外の部署は経験がありませんが、市役所にはいろいろな分野の仕事があるので、それがモチベーションになっています。

植田さん

私はもともと、一つのことに特化して、その道を極めたいという思いがありました。

市役所の場合、3〜4年で異動になってしまうのは、正直に言って、「志半ばで仕事を離れる」という残念な気持ちがあります(笑)。自分には「市役所は向いていないのでは?」と考えたこともありました。

でも、異動したらしたで、興味深い仕事はたくさんあるし、どんな気持ちで仕事に向かうかが大事だと思えるようになりました。最近では、同じ人が同じ部署で一つの仕事ばかりしていると、考え方が囚われてしまって良くないと考えるようになっています。

研修員受入れにより、海外GJと交流する植田さん

大石

今の担当は土木職ですらないですよね?

植田さん

市役所には土木職で入りましたが、地盤工学という土木の一分野を勉強しただけなので、「土木じゃなきゃ」というこだわりはありません。

最初の頃は「土木」=「ものをつくる」というイメージがあったわけですが、下水道の前は道路維持などの仕事をしていたこともあって、「『土木』=『まちを守る』だ!」と今では思っています。

「土木」と一言で言っても、いろんな分野の仕事があり、様々な違った視点があり、でもどれもきっと、みんなのくらしを支えていると考えています。



福岡は技術者にとってチャンスの街

大石

福岡市役所の魅力は?

田知行さん

私は鹿児島の出身ですが、福岡市役所に就職したのは、土木の仕事をやりたかったこともありますが、福岡のまち自体にも魅力を感じたこともあります。都会だけど、山や海などの自然があって、住んでみたいという思いがありました。

市役所のインフラ整備を見ても、浸水対策や地下鉄建設など大規模な事業を進めている一方、市道の整備など地域に根ざした仕事もあって、仕事の幅の広さも魅力的でした。

白水さん

福岡市役所では、今後もいろいろな大きなプロジェクトが控えており、技術者として、計画づくりなどに携わるチャンスがあります。

福岡市は、今でも人口も増えているし、他都市に比べ、活力のあるまちなので、仕事をしていても、ワクワク感があります。インフラの維持管理の仕事もあるので、その辺りのノウハウを学べるのも仕事の楽しみの一つです。

植田さん

公務員技術者の魅力は、あるインフラについて、計画に始まり、設計、施工、維持管理に至るすべてに関与し、長い視点でインフラと付き合っていけるところにあると思います。

私の今の職場では、下水道技術の国際展開ということで、海外での技術協力や海外研修員の受け入れなどを行っていて、各国の技術者とつながることができました。

自分の人生で、そんなつながりができたり、世界に目を向けた仕事をする日が来るとは思いもしませんでした。そのほか、GJリンクのつながりもあるので、他のGJの方々といろいろと意見交換などができて、面白いです。

GJリンクは公私の相談ができる貴重な場

大石

最後に、GJリンクに参加して良かったことは?

植田さん

GJリンクのワークショップは、開催側としてこれまで2回参加しました。福岡市はGJも少なくないですが、ほかの自治体によっては、本当に女性が一人しかいないというところもあります。

「GJリンクのワークショップに来てよかった」とか「もっとこういう場があるといい。また来たい」という声もたくさん寄せられ、開催してよかったとつくづく思いました。

田知行さん

女性だけの集まりなので、ふだんの悩みや困っていることなどを気軽に話し合えることです。

個人的に仲良くなれるので、仕事上の問題などについて、アドバイスをもらうこともあって、助かっています。公私を含め、いろいろな情報を共有できるのは、楽しいです。

白水さん

GJリンクには、自治体以外にも、コンサルや日本下水道事業団などの方々も参加されていて、中には、30年ぐらい下水道に携わっているベテランの方もいらっしゃいます。

そういう方の仕事の仕方などのお話を聞くと、非常に参考になります。

GJリンクのホームページはこちら → http://www.gk-p.jp/activity/gjlink/

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