山岳トンネル工事の切羽の監視は非効率
山岳トンネル工事では、24時間連続して掘削作業をする。そのため、作業班を昼夜に分けて工事を進めていくのが一般的だ。
作業交代時には、トンネルの切羽(掘削面)の状態を継続的に監視できるよう、切羽地盤の硬軟や不安定性に関する情報を切羽監視責任者を選任するなどして次の班に引き継ぐ必要がある。
しかし、切羽は安全確保のため吹付けコンクリートで覆ってあるため、地盤の硬軟など具体的な位置を直接目視で確認することができない。しかも、詳細な位置を把握するには、切羽と図面等を照合しながら作業する必要があり、トンネル工事では時間と手間を要するのが課題となっていた。
こうした課題を解決するため、大手ゼネコンの大成建設は、株式会社富士テクニカルリサーチ、マック株式会社、古河ロックドリル株式会社と共同で、山岳トンネル工事における切羽(掘削面)をスクリーンにして、地盤情報を投影できる画期的な装置「切羽プロジェクションマッピング」を開発した。
トンネル工事の切羽に映すから地盤情報が一目でわかる
切羽プロジェクションマッピングでは、切羽をスクリーンにして、実物大写真や地盤の硬軟等がわかるコンター図を投影する。各作業員と地盤情報が視覚的に共有できるようになり、山岳トンネル工事における安全性や効率性の向上が可能となっている。
切羽プロジェクションマッピングの投影イメージ図。危険箇所が色分けされる/大成建設
また、スケッチ図や施工計画図など任意の詳細な情報も投影できるため、切羽付近でのスプレーによるマーキング等の位置出し作業を減らすことにもつながる。
切羽に施工図などの手書きのスケッチも投影できる/大成建設
切羽プロジェクションマッピングのプロジェクターは安価
この切羽プロジェクションマッピングのプロジェクターは、ジャンボ(油圧削岩機)上部に設置してあり、ジャンボが持っている位置情報を活用する。
装置と切羽面との位置関係を計算して画像を適切な大きさ・角度・傾き等の調整・加工を行い、一つのボタンを押すだけで投影することができ、操作も簡単だ。
プロジェクションマッピングで、切羽の実物大写真も投影/大成建設
また、切羽に投影された写真は坑内の無線LANを介して、自動的に外部のクラウドサーバーにアップロードされ、切羽プロジェクションマッピングの電源を入れるとクラウドサーバーから最新の画像ファイルがダウンロードされるようになっている。
しかも、この切羽プロジェクションマッピングで使用するプロジェクターは、一般に購入できる低価格な汎用品を使用している。これで1台で10,000ルーメン(一般的な照明用100W形電球の約7倍に相当)以上の十分な高輝度を発揮しながらも、導入時のコストを圧倒的に低減している点は注目だ。
山岳トンネル工事は生産性の向上進むも、事故も多い
トンネル工事は、この50年の間に約10倍も労働生産性が向上したと言われている。
しかし、山岳トンネル工事で切羽の肌落ちによる災害は年に数回発生。そのうち6%が死亡、42%が休業1カ月以上となっており、重大な事故につながる可能性も高い。
厚生労働省は今年1月に『山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン』を改正するなど、切羽の性状監視の重要性を改めてうったえている。
今後、大成建設では、切羽プロジェクションマッピングにより山岳トンネル工事の作業の安全確保と、より効率的な施工を推進していくほか、その他の様々なプロジェクトにも活用していく方針だ。