東京初の「ICT土工体験講座(東京ブロック)」
建設技能労働者110万人の「大量離職時代」を控えている建設業界。建設業界は生産性向上を目指し、全国の都道府県でICT講座を開催している。ICT土工を適用できる現場が少ないことが課題だった東京都でも、ついにICT土工が本格的にスタートした。
国土交通省関東地方整備局荒川下流河川事務所と、一般社団法人東京建設業協会は5月11日、株式会社ナカノフドー建設が担当している「H28扇二丁目河岸再生工事現場」にて、東京都初となる「ICT土工体験講座(東京ブロック)」を開催した。国土交通省関東地方整備局が推進する「“地域インフラ”サポートプラン関東2016」の一環として、ICT土工に意欲のある建設業者向けに、関東地方整備局のICT活用施工の現場を提供。建設会社や発注者など約90名が参加した。
今回は写真を中心に、同講座の内容を紹介する。

「ICT土工体験講座(東京ブロック)」の座学会場
まず、座学に先立ち、中須賀淳氏(国土交通省関東地方整備局荒川下流河川事務所 事務所長)と、松村博氏(一般社団法人東京建設業協会 専務理事)が挨拶した。
関東地方整備局荒川下流河川事務所事務所長の挨拶

国土交通省関東地方整備局荒川下流河川事務所 事務所長 中須賀淳氏
中須賀淳氏「今後、建設業界は少子高齢化により、3分の1にあたる110万人が離職すると推計されています。若手入職者の減少により、建設業の生産性向上が喫緊の課題です。こうした現状を踏まえ、国交省は昨年度からi-Constructionの取組みをさらに推進するため、ICT土工の発注を行っています。
関東地方整備局は2016年2月に「i-Construction推進本部」を設置。今回、さらにこの取組みを強化し、建設業界に広域的に広げるために、一般社団東京建設業協会が中心となり、ICT土工体験講座を開催する運びとなりました。百聞は一見にしかずです。ICT土工の現場を見て、感じていただき、i-ConstructionとICT土工を推進していただければ幸いです」
東京建設業協会専務理事の挨拶

一般社団法人 東京建設業協会 専務理事 松村博氏
松村博氏「東京都でも4月からICT活用工事事例要領を作成し、国においてもICT土工に加え、ICT舗装工など様々な動きが活発になっています。公共工事においては、ますますICT土工の活用が推進されると思われます。
国土交通省では建設現場の生産性向上をはかり、魅力ある建設現場の実現を目指すため、i-Constructionを推進しているところですが、これを受け東京建設業協会も、昨年度からICT建機などのセミナーを開催し、今回は荒川下流河川事務所と連携して、ICT土工講座を開催する運びとなりました。
都内では地方と比べてICT土工に適した現場は少ないのが現実で、本日は実際に受注した現場で講座を開催することは有意義なことです。引き続き、関東地方整備局や東京都と連携し、このような機会を設けたいと考えております」
今村東洋治氏(ナカノフドー建設)と吉田勇介氏(コマツ)による座学講座

ナカノフドー建設 現場代理人兼監理技術者 今村東洋治氏
講習では、まず今村東洋治氏(株式会社ナカノフドー建設 現場代理人兼監理技術者)が「H28扇二丁目河岸再生工事現場」の工事目的や概要、工程表を簡単に説明。ICT技術を全面的に活用した効果や、3次元起工測量の流れや現場で稼働しているICT建設機械、施工完了時の出来形測量などについて講演した。
その後、吉田勇介氏(コマツレンタルスマートコンストラクション推進室)が、ICT建設機械の必要性、優位性、ICT建設機械の施工法などについて詳しく語った。

コマツレンタルスマートコンストラクション推進室 吉田勇介氏
難しいIT用語も多い反面、建設技術者たちは、これからの生産性向上に関する新技術について真剣に聞き入っていた。
受講した準大手ゼネコン技術者は「生産性向上のため、我々のようなゼネコンはいち早く取り入れなければならない」と話した。
そして座学終了後、バスで現場に移動し、3班に分かれ実技研修を行った。
「H28扇二丁目河岸再生工事」現場で実技研修

H28扇二丁目河岸再生工事の現場
H28扇二丁目河岸再生工事は、高水敷を切り下げることで、水際部のヨシ原や干潟の保全再生を図る。
工事概要は、河川土工掘削約5,900㎥(掘削土量約11,300㎥、法面整形工約1,930㎡)、法覆護岸(かごマット工約3,430㎡)、付帯道路(管理用通路約600㎡)、構造物撤去、仮設各一式。
UAV(ドローン)測量体験

「ICT土工体験講座(東京ブロック)」実技講座の風景
最初、ドローンの操作について説明した。ドローンを活用した写真測量により、短時間で面的(高密度)な3次元測量が可能となる。

実技講座で使用したドローン

ドローンのコントローラー

空に舞い上がるドローン
ICT建設機械の試乗体験
続いては、ICT建設機械の試乗体験が行われた。

ICT建設機械にスカートで試乗する女性
試乗した道路会社の女性技術者は、「ある程度、ベテランでないと操作は難しいと感じました。私は現場を4年経験していますが、画面を見ながら操作するのは戸惑いました。乗り慣れないと操作できないかも知れません」という感想。
同じくICT建機に試乗した準大手ゼネコンの技術者は、「掘削はオペレーターさんの技量により、多少の誤差はありますが、仕上がりの精度は高く、管理する側としてはいい機械です。こういう建設機械は普及して欲しいですね」と語った。
建設専門紙の女性記者からは「女性でも扱えると思います。最初のうちの操作は難しいですが、慣れれば意外と操作ができるのではないかと思います」という力強い言葉を聞いた。
GNNS移動局(ローバー)見学
最後に、GNNS移動局(ローバー)を見学した。
GNNS移動局(ローバー)は、GNNS衛星を利用する測量機器。施工現場の基準点を測量することで、基準点座標をデータとして取り込み、ICT建設機械を稼働させるための領域データを作成する。重機の位置情報の補正も行い、位置情報の精度を高める。
どうすれば「ICT土工技術」を向上できるの?
東京都で初の「ICT土工体験講座」は、生産性向上で各ゼネコンもしのぎを削っている中での開催となった。
「これをキッカケに、当社でもICT土工をはじめとするi-Constructionの取組みに本腰を入れたい」と言うゼネコン技術者もいた。民間のゼネコン技術者だけではなく、関東地方整備局、地方公共団体の技術職員も参加し、注目を浴びた講座であった。

質疑応答に答えるナカノフドー建設の今村氏
今後、国土交通省は、i-Constructionを進める上で、各地方整備局ともICT土工の現場を増やすと意欲を持っている。しかし、東京には、1,000㎥の土量を超える土工現場も少ないなどの課題もある。
都内のある地域建設企業は、「うちは東京しか現場がないので、どうやってICT土工の技術を向上すればいいか分からない。そういう意味でも当社にとって勉強になった良い講座だった」と感想を述べた。
大手・準大手ゼネコンは全国各地に現場があり、ICT土工技術の吸収には問題がないかもしれない。しかし東京都内の地域建設企業の技術習得には課題が残る。それをどう乗り越えていくかが今後の課題となった講座でもあった。